※この作品はR-18です。

葵が笑う世界で ー王と提督は、ただ1人を守る為にー   作:戌威

43 / 71
第43話 名を取り戻す者達、そして再会

 

黒い渦は消えた。

 

空も戻った。

 

だが――

影が、まだ残っていた。

 

完全に消えたはずの黒い輪郭が、

正門の周囲にいくつも立っている。

 

動かない。

消えない。

揺れている。

 

曙が小声で言う。

 

「……まだいる」

 

満潮が目を細める。

 

「うん」

 

「消えきってない」

 

吹雪が不安そうに言う。

 

「残留……ですか?」

 

長門が低く答える。

 

「分からん」

 

「だが攻撃姿勢ではない」

 

⸻

 

ハヤトも見ていた。

 

葵も見ていた。

 

言葉はない。

 

ただ、視線が止まる。

 

葵が小さく呟く。

 

「……まさか」

 

確信ではない。

 

願いに近い。

 

⸻

 

その時だった。

 

一つの影が動く。

 

音もなく近づく。

 

ハヤトの真横まで来て――

 

肩に、肘を置くような動き。

 

もたれかかる、あの癖のある距離感。

 

影なのに分かる。

 

仕草が同じ。

 

曙が目を見開く。

 

「え」

 

満潮も息を止める。

 

「今の動き……」

 

⸻

 

ハヤトの口元が、わずかに上がった。

 

小さく笑う。

 

「……相変わらず、熱苦しい」

 

次の瞬間。

 

声がした。

 

低くて、少し笑っている声。

 

「久しぶりに会えたのに、お前も相変わらず素直じゃねえな!」

 

葵の目が見開く。

 

涙が一気に滲む。

 

「……炎慈?」

 

影が肩をすくめる動き。

 

「他に誰がいるよ」

 

⸻

 

空気が変わった。

 

一気に。

 

緊張ではない。

 

再会の空気。

 

深赫と思わしき影が言う。

 

「声、届いたか」

 

別の影。

 

「やっと帰れた」

 

「長かった」

 

「ほんとにな」

 

会話が始まる。

 

自然に。

 

当たり前のように。

 

⸻

 

外殻が崩れ始める。

 

影の表面が剥がれる。

 

黒が落ちる。

 

中から姿が現れる。

 

炎慈の顔がはっきり見える。

 

深赫も。

龍牙も。

狂禍も。

黒滅も。

紅牙も。

音羽も。

紫羽も。

 

さらに周囲に残っていた影たちも次々と実体を取り戻す。

 

呼吸。

体温。

鼓動。

 

生きている。

 

吹雪が震える。

 

「……戻ってる」

 

長門が低く言う。

 

「帰還だ」

 

⸻

 

葵が走った。

 

もう抑えない。

 

「炎慈!!」

 

抱きつく。

 

強く。

 

泣きながら。

 

「遅いよ……!!」

 

「どれだけ待ったと思ってるの……!!」

 

炎慈が受け止める。

 

腕で抱き返す。

 

泣きながら笑う。

 

「悪かった」

 

「道、迷った」

 

深赫が横で言う。

 

「迷いすぎだ」

 

声が震えている。

 

⸻

 

音羽と紫羽も葵を囲む。

 

「無事でよかった」

 

「ほんとに」

 

葵が泣きながら言う。

 

「守れなくてごめん」

 

音羽が首を振る。

 

「逆」

 

紫羽が続ける。

 

「あなたがいたから帰れた」

 

⸻

 

周囲の喰種たちが声を上げる。

 

「王がいる!!」

 

「再会完了!!」

 

「帰還確認!!」

 

歓喜の咆哮が空へ上がる。

 

重い。

だが喜びに満ちた声。

 

瑞鶴が耳を押さえる。

 

「うるさっ!!」

 

でも笑っている。

 

⸻

 

龍牙がハヤトの前に立つ。

 

「ただいま」

 

狂禍。

 

「戻ったぞ」

 

黒滅。

 

「遅れた」

 

紅牙。

 

「だが帰った」

 

ハヤトが答える。

 

「見れば分かる」

 

それだけ。

 

全員、目が濡れている。

 

⸻

 

炎慈が周囲を見る。

 

艦娘たちを観察する目。

 

「ハヤト」

 

「後ろにいる奴等はなんだ?」

 

「軍属だ」

 

「ふ〜ん……軍属ねえ……」

 

白瀬を見る。

 

距離を測る。

 

「おい、お前」

 

「お前がその軍属の王か?」

 

瑞鶴が即反応する。

 

「誰が王よ!」

 

長門が言う。

 

「概念としては近い」

 

⸻

 

葵が振り向く。

 

涙を拭きながら言う。

 

「紹介するね」

 

一人ずつ指す。

 

「炎慈」

 

「深赫」

 

「龍牙」

 

「狂禍」

 

「黒滅」

 

「紅牙」

 

「音羽」

 

「紫羽」

 

それだけ。

 

説明はない。

 

でも十分だった。

 

⸻

 

葵がもう一度言う。

 

「おかえり」

 

全員が答える。

 

「ただいま」

 

帰還の声だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。