葵が笑う世界で ー王と提督は、ただ1人を守る為にー 作:戌威
会議室は珍しく満員だった。
長机。
資料。
図解板。
そして――音羽。
夕張が小声で言う。
「なんか講義始まりそう」
明石が頷く。
「始まるねこれ」
瑞鶴が言う。
「授業嫌い」
曙が言う。
「帰れ」
⸻
白瀬が腕を組む。
「頼む」
音羽が軽く会釈する。
「了解」
声は落ち着いている。
戦闘時とは違う。
「まず――赫子は武器ではありません」
夕張が即反応。
「え、違うの!?」
明石がメモを取る。
「武器じゃない」
音羽が続ける。
「正確には“器官”です」
長門が頷く。
「身体機能か」
「はい」
⸻
ホワイトボードに簡単な図。
人型。
背部。
赫胞。
「ここに“赫胞”があります」
「ここで生成されます」
加賀が言う。
「弾薬工場ですね」
「近いです」
瑞鶴が言う。
「もう弾薬じゃん」
⸻
音羽が続ける。
「使用=消耗です」
「使えば減ります」
白瀬が言う。
「補給は」
一瞬の間。
音羽がはっきり言う。
「捕食のみ」
室内が静かになる。
吹雪が小さく言う。
「……やっぱり」
赤城が静かに息を吐く。
「理解はしています」
⸻
明石が聞く。
「通常個体の消耗ペースは?」
音羽が答える。
「戦闘規模次第ですが」
「中〜大規模戦闘で枯渇します」
長門が言う。
「艦隊砲戦一回分か」
「近いです」
⸻
夕張が身を乗り出す。
「でもハヤトは消耗早かった!」
「連射したら止まった!」
音羽が頷く。
「はい」
「理由は明確です」
全員が見る。
「人間を捕食していないからです」
曙が言う。
「断食状態ってこと?」
「はい」
「それでも動けているのが異常です」
⸻
白瀬が聞く。
「本来はどうなる」
音羽は少し考えてから言う。
「例えるなら」
「ガソリン満載の大型タンクを複数持っている状態です」
瑞鶴が言う。
「例え分かりやすっ」
夕張が言う。
「しかもハイオク」
明石が言う。
「しかも無限給油可能」
「それは言い過ぎです」
⸻
長門が言う。
「つまり」
「今のハヤトは」
「タンク空に近い状態で戦っている」
「はい」
加賀が言う。
「それであの貫通力」
赤城が静かに言う。
「規格外ですね」
⸻
吹雪が恐る恐る聞く。
「満タンだとどうなるんですか」
音羽が即答する。
「赫子使用量を気にしません」
瑞鶴「怖」
曙「それは怖い」
満潮「それはダメ」
⸻
明石が聞く。
「回復に代替手段は?」
音羽は首を振る。
「現状なし」
夕張が言う。
「開発したい!!」
加賀が言う。
「やめなさい」
⸻
炎慈が壁にもたれて聞いている。
「だから俺らは短期決戦型だ」
龍牙が言う。
「長期戦は嫌いだ」
狂禍が笑う。
「腹減るしな」
曙が言う。
「理由が生々しい」
⸻
白瀬が静かに言う。
「運用ルールを作る」
全員が見る。
「無駄撃ち禁止」
「長期戦禁止」
「補給不能前提運用」
長門が頷く。
「同意」
加賀も。
「妥当です」
⸻
葵が小さく言う。
「それでも戦えるよ」
「ハヤトは」
音羽が頷く。
「はい」
「だから王です」
炎慈が笑う。
「今さら説明するな」
⸻
会議室の空気は重い。
だが、理解は進んだ。
力の強さも。
代償の重さも。
両方を知った。