葵が笑う世界で ー王と提督は、ただ1人を守る為にー 作:戌威
海軍中央管制棟。
分厚い防音扉が閉じる音は、
まるで外界との遮断音のようだった。
会議室の空気は冷たい。
スクリーンには戦闘映像が静止している。
黒い影。
赤い眼。
制圧部隊の崩壊。
誰も先に口を開かない。
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榊原が言った。
「繰り返す必要はないな」
「見た通りだ」
久我が腕を組む。
「“制御対象”のはずだった」
別の参謀が言う。
「現実は“災害級戦力”だ」
「評価を改めるべきだ」
榊原が即答する。
「いや」
「評価は変えない」
室内の数名が眉を動かす。
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「危険度は上がった」
「だが価値も上がった」
「だから確保する」
言い切る。
ためらいがない。
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現場出身の将校が口を開く。
「一つ聞きたい」
榊原「許可する」
「なぜ“確保”にこだわる」
「排除ではなく」
榊原は迷わない。
「唯一だからだ」
「再現不能」
「代替不能」
「戦略価値が桁違いだ」
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久我が言う。
「兵器扱いか」
「戦略資源だ」
「人型だがな」
誰も笑わない。
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技術主任が咳払いする。
「対策装備について説明します」
画面が切り替わる。
大型火器の設計図。
拘束装備。
多段徹甲弾。
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若い参謀が言う。
「名前は」
「生体異常個体対策装備」
沈黙。
誰かが言う。
「長い」
別の誰か。
「ダサい」
技術主任がむっとする。
「実用重視です」
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久我が言う。
「効果は」
「徹甲弾です」
「高出力」
「深海棲艦装甲を貫通可能」
榊原が頷く。
「十分だ」
現場将校が即座に言う。
「十分ではない」
全員が見る。
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「赫子は装甲ではない」
「性質が違う」
「再生する」
「変形する」
「硬化する」
技術主任が言い返す。
「硬いなら抜けばいい」
現場将校が言う。
「その発想で前回の部隊が消えた」
空気が止まる。
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拘束装備の説明に移る。
「多点アンカー弾」
「電磁ワイヤー」
「爆縮ネット」
若い参謀が言う。
「SFみたいだな」
技術主任が言う。
「現実です」
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久我が聞く。
「拘束時間は」
「最長八秒」
沈黙。
三秒。
誰かが言う。
「短い」
別の誰か。
「短すぎる」
榊原が言う。
「八秒あれば撃てる」
現場将校が言う。
「撃てればな」
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別の参謀が言う。
「問題は数だ」
映像が再生される。
黒い影の群れ。
同時進撃。
同時停止。
統率行動。
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分析官が言う。
「群体戦力です」
「しかも階層指揮構造あり」
久我が言う。
「王がいる」
榊原が頷く。
「だから王を奪う」
「群れは崩れる」
現場将校が言う。
「理論上はな」
⸻
若い士官が恐る恐る言う。
「質問」
「発言許可」
「もし奪取失敗した場合」
沈黙。
榊原が答える。
「失敗しない」
「次」
現場将校がため息をつく。
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別の席。
情報部が発言する。
「拠点側の動き」
「安定しています」
「共同訓練を開始」
「戦術統合の兆候」
久我が言う。
「早いな」
「予想以上です」
榊原が言う。
「だから早く潰す」
⸻
資料が配られる。
作戦案。
侵攻ではない。
分断
内部崩壊。
心理操作。
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「正面戦力ではなく」
「関係性を壊す」
誰かが言う。
「汚い」
榊原が言う。
「戦略だ」
⸻
情報部が続ける。
「協力者候補あり」
数名が顔を上げる。
「拠点内部か」
「周辺」
「軍属関係者」
久我が言う。
「確度は」
「七割」
榊原が笑う。
「十分だ」
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誰も笑わない。
冷たい会議だった。