※この作品はR-18です。

葵が笑う世界で ー王と提督は、ただ1人を守る為にー   作:戌威

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第62話 守ると決めた男

 

警報は、止まっていなかった。

 

さっきの戦闘が終わったあとも、

増援接近のアラートが低く鳴り続けている。

 

単発ではない。

波状。

 

数が来る。

 

拠点全体がそれを理解していた。

 

廊下の空気が重い。

誰も大声を出さない。

無線の声も、必要最低限しか流れない。

 

——嵐の前の配置時間。

 

⸻

 

提督室。

 

白瀬は立ったままだった。

 

椅子には座らない。

座れば迷いが出る。

 

机の上には配置図。

侵入予測ルート。

増援規模の概算。

 

長門が言う。

 

「規模が違う」

 

加賀が言う。

 

「制圧前提の数です」

 

白瀬は頷いた。

 

「分かってる」

 

声は落ち着いている。

 

だが拳は強く握られている。

 

⸻

 

無線から、炎慈の声が入る。

 

「提督」

 

「今回は、俺たちがやる」

 

龍牙の声が続く。

 

「艦娘は下がせ」

 

短い。

 

命令口調ではない。

 

だが拒否の線が引かれている。

 

そして——

 

ハヤトの声。

 

低い。

 

揺れない。

 

「来るな」

 

それだけ。

 

通信が切れる。

 

提督室の空気が止まる。

 

長門が白瀬を見る。

 

「……拒否されたな」

 

白瀬は、ゆっくり息を吐いた。

 

「そうだな」

 

加賀が言う。

 

「従いますか」

 

数秒の沈黙。

 

その沈黙の中で、白瀬の中の何かが決まった。

 

⸻

 

白瀬は無線を取った。

 

全体回線。

 

指がスイッチを押す音がやけに大きく響いた。

 

「——全員、聞け」

 

艦娘も、整備班も、管制も、

喰種側の受信機にも入る回線。

 

「俺は」

 

一拍。

 

言葉を選ばない。

 

覚悟で言う。

 

「最初に、あの2人を保護すると決めたのは俺だ」

 

提督室の空気が変わる。

 

長門の目が細くなる。

 

加賀が息を止める。

 

「この鎮守府で守ると決めたのも俺だ」

 

声が低くなる。

 

重くなる。

 

「そもそも、この鎮守府の責任者は誰だ」

 

自分で答える。

 

「提督である——俺だ」

 

無線の向こうで、誰かが息を呑む音がした。

 

⸻

 

桟橋。

 

炎慈が無線を聞いて、口元を上げた。

 

「……言うねえ」

 

深赫が静かに言う。

 

「男だ」

 

ハヤトは黙って聞いている。

 

止めない。

 

切らない。

 

それが答えだった。

 

⸻

 

白瀬は続けた。

 

「王に拒否されたから何もしない?」

 

短く笑う。

 

「違う」

 

言い切る。

 

「決めたのなら、誰に何を言われても守る」

 

拳が机に落ちる。

 

鈍い音。

 

「それが日本男児だ」

 

声が一段強くなる。

 

「それが俺だ」

 

提督室の空気が震える。

 

長門の口元がわずかに緩んだ。

 

加賀の目が静かに熱を帯びる。

 

⸻

 

白瀬は最後に言った。

 

「ここは——」

 

間。

 

「俺が誰よりも守るべき地だ!」

 

そして、命令を落とす。

 

「これより鎮守府防衛を行う!」

 

「全艦娘!」

 

「対人戦闘装備で展開!」

 

「喰種たちと共同戦線を張る!」

 

無線が一瞬、無音になった。

 

次の瞬間。

 

返答が重なった。

 

⸻

 

「長門、了解」

 

「加賀、了解」

 

「吹雪、了解!」

 

「満潮、了解」

 

「曙、了解」

 

声の震えが消えている。

 

迷いが消えている。

 

代わりに、芯が入っている。

 

⸻

 

装備庫。

 

シャッターが上がる。

 

普段は使わない装備棚が開く。

 

対艦ではない。

対人装備。

 

マシンガン。

実体弾。

防弾盾。

近接用警棒。

 

艦娘たちが手早く取る。

 

動きに無駄がない。

 

訓練している。

 

使う想定ではなかっただけだ。

 

吹雪がマシンガンを持つ。

 

重い。

 

だが下げない。

 

「……変な感じ」

 

満潮が盾を持つ。

 

「でも撃てる」

 

曙が装填を確認する。

 

カチ、と音がする。

 

「やるしかないでしょ」

 

⸻

 

整備班が急ぐ。

 

「弾薬搬送!」

 

「盾ロック確認!」

 

「回線同期!」

 

鳳翔が水筒を配る。

 

間宮が言う。

 

「無理はしないで」

 

誰も「はい」とは言わない。

 

でも全員、頷く。

 

⸻

 

桟橋。

 

炎慈が笑う。

 

「共同戦線だってよ」

 

龍牙が言う。

 

「嫌いじゃない」

 

深赫がハヤトを見る。

 

「止めないのか」

 

ハヤトは短く答える。

 

「責任だ」

 

それだけ。

 

深赫が頷く。

 

それで十分だった。

 

⸻

 

医療区画。

 

音羽が葵を見る。

 

「動く」

 

葵が頷く。

 

「うん」

 

怖い。

 

でも逃げない。

 

守られるだけの位置にはいないと、もう決めている。

 

⸻

 

正門側。

 

配置につく艦娘たち。

 

盾を前に。

銃を構え。

呼吸を合わせる。

 

吹雪が小さく言う。

 

「……一緒に戦うんだ」

 

満潮が答える。

 

「うん」

 

曙が前を見る。

 

「今度は、本当に」

 

⸻

 

遠くで、車両音が響き始めた。

 

重い。

 

多い。

 

止まらない。

 

増援だ。

 

大規模投入。

 

戦場がもう一度、動き出す。

 

⸻

 

桟橋で、王が立っている。

 

盾が隣に立つ。

 

牙が散っている。

 

そして今——

 

艦隊が加わる。

 

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