※この作品はR-18です。

葵が笑う世界で ー王と提督は、ただ1人を守る為にー   作:戌威

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第63話 呉鎮守府、総員戦闘配置

 

夜の海に、重い振動が走っていた。

 

まだ視界には見えない。

だが分かる。

 

数が来る。

 

車両。

装甲。

制圧部隊。

 

波ではない。

圧力だ。

 

呉鎮守府の空気が変わる。

 

守りの空気から——

迎え撃つ空気へ。

 

⸻

 

正門側広場。

 

白線で引かれた臨時防衛ライン。

 

そこに、艦娘たちが整列していた。

 

対人戦闘装備。

 

艤装ではない。

 

砲でも艦載機でもない。

 

マシンガン。

防弾盾。

予備弾倉。

 

異様な光景だった。

 

だが誰も笑わない。

 

金剛が肩を回す。

 

「陸の戦いデースか」

 

口調は軽い。

 

だが目は笑っていない。

 

榛名が静かに言う。

 

「榛名、問題ありません」

 

扶桑が空を見上げる。

 

「……嫌な夜ね」

 

山城が吐き捨てる。

 

「いつも通り不運だわ」

 

陸奥が笑う。

 

「でも、燃えるでしょ?」

 

長門が一歩前に出る。

 

その一歩で、空気が締まる。

 

「ここは戦場だ」

 

「海ではない」

 

「だが戦場だ」

 

短い。

 

だが全員の背筋が伸びる。

 

⸻

 

空母組は後方支援ライン。

 

赤城が弾薬配置を確認する。

 

「弾数は」

 

整備員が答える。

 

「十分です」

 

加賀が言う。

 

「十分ではない」

 

「足りなくなる前提で動く」

 

蒼龍が小さく息を吐く。

 

「陸戦って、距離が近いね」

 

飛龍が頷く。

 

「誤魔化せない」

 

翔鶴が盾の角度を確認する。

 

瑞鶴が笑う。

 

「なら、誤魔化さなきゃいい!」

 

鳳翔が言う。

 

「無理はしないで」

 

間宮が水筒を配る。

 

「戻ってきてね」

 

全員が頷く。

 

誰も軽く返事をしない。

 

⸻

 

軽巡ライン。

 

川内が笑う。

 

「夜戦じゃないのが残念だなー」

 

神通が言う。

 

「静かに」

 

那珂が小声で言う。

 

「アイドル、撃ちます!」

 

誰も突っ込まない。

 

緊張で、笑いの余裕がない。

 

⸻

 

駆逐ライン。

 

夕立が牙を見せるように笑う。

 

「暴れていいっぽい?」

 

潮が緊張で手が震えている。

 

吹雪が気づく。

 

「潮、大丈夫」

 

潮が小さく頷く。

 

「うん……守る」

 

曙が言う。

 

「背中は見てる」

 

満潮が付け足す。

 

「撃つ時は躊躇うな」

 

⸻

 

重巡ライン。

 

麻耶が肩で盾を叩く。

 

「こういうのは任せな」

 

鳥海が言う。

 

「視界、私が取る」

 

二人とも目が鋭い。

 

⸻

 

その防衛線の“前”。

 

さらに前。

 

喰種たちが散っていた。

 

配置ではない。

 

狩場取りだ。

 

炎慈が言う。

 

「撃つ前に減らす」

 

龍牙が言う。

 

「盾を割る」

 

狂禍が言う。

 

「指揮系統を折る」

 

深赫は言わない。

 

ただ前を見る。

 

王の盾は、退かない。

 

⸻

 

桟橋。

 

ハヤトは立っている。

 

動かない。

 

だが、空気が彼を中心に回っている。

 

提督の言葉を、全部聞いていた。

 

拒否しない。

 

止めない。

 

深赫が言った。

 

「いい指揮官だ」

 

ハヤトは短く答える。

 

「ああ」

 

それだけだった。

 

⸻

 

振動が近づく。

 

ヘッドライトの列が見える。

 

装甲車両。

輸送車。

兵員輸送。

 

数が違う。

 

前回の比ではない。

 

吹雪の喉が乾く。

 

「……多い」

 

長門が言う。

 

「数は関係ない」

 

金剛が笑う。

 

「言うネー」

 

長門が静かに続ける。

 

「守ると決めた」

 

それで十分だった。

 

⸻

 

無線が鳴る。

 

白瀬の声。

 

「全員」

 

「ここが境界線だ」

 

「越えさせるな」

 

短い。

 

だが重い。

 

誰も軽く返事をしない。

 

全員が理解している。

 

ここが境目だと。

 

⸻

 

対喰種制圧大隊が展開を始める。

 

盾列。

拘束銃。

制圧弾。

 

指揮官が叫ぶ。

 

「前進!」

 

その瞬間。

 

影が動いた。

 

喰種たちが、先に突っ込んだ。

 

撃つ前に、距離を消す。

 

兵が叫ぶ。

 

「早い!」

 

炎慈が笑う。

 

「遅い」

 

龍牙が盾を叩き割る。

 

狂禍が無線兵を落とす。

 

深赫が中央を止める。

 

そして——

 

艦娘たちが撃った。

 

実弾。

 

連射。

 

制圧。

 

混成戦線が、噛み合った。

 

⸻

 

提督室。

 

白瀬はそれを見て、静かに言った。

 

「これが」

 

「共同戦線だ」

 

長門が頷く。

 

加賀が言う。

 

「形になっています」

 

白瀬の胸は重い。

 

だが誇りもあった。

 

守ると決めた。

 

そして——

 

守っている。

 

⸻

 

桟橋で、王が静かに呟いた。

 

「まだ足りない」

 

次は——

 

王が動く。

 

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