※この作品はR-18です。

葵が笑う世界で ー王と提督は、ただ1人を守る為にー   作:戌威

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第64話 王、出陣

 

最初の連携は、偶然ではなかった。

 

それは“合わせた”のではなく、

噛み合ったのだ。

 

⸻

 

正門防衛ライン。

 

盾列の後ろから艦娘が制圧射撃を行い、

その弾幕の隙間を縫って喰種が突っ込む。

 

声で合わせていない。

カウントもない。

 

だが呼吸が揃っている。

 

吹雪が三点バーストで敵の前列の足を止める。

 

「止めた!」

 

次の瞬間には炎慈がその間を割って入る。

 

「十分だ!」

 

盾を掴み、横に叩き折る。

 

金剛が叫ぶ。

 

「今デース!」

 

榛名と同時射撃。

 

後列を制圧。

 

龍牙が言う。

 

「前、開いた」

 

麻耶が滑り込む。

 

「任せな!」

 

近距離制圧。

 

那珂が叫ぶ。

 

「右側抑えた!」

 

狂禍が低く言う。

 

「左、指揮官いる」

 

次の瞬間、その指揮官は無線を落とした。

 

喉を押さえられて。

 

音もなく。

 

⸻

 

兵士の無線が混乱する。

 

「連携してる!?」

 

「艦娘と喰種が!?」

 

「想定外だ!」

 

その“想定外”が致命傷になる。

 

⸻

 

長門が前線を見て呟く。

 

「息が合っている」

 

加賀が答える。

 

「理屈ではありません」

 

「空気です」

 

白瀬が小さく言う。

 

「覚悟だ」

 

⸻

 

だが——

 

戦場は一面ではない。

 

側面。

 

裏門。

 

整備搬入口。

 

そこに、別働制圧部隊が突入した。

 

重機でフェンスを破壊。

 

爆薬で扉を飛ばす。

 

「裏から入る!」

 

「突破口確保!」

 

一気に流れ込む。

 

数が多い。

 

装備が重い。

 

ここは艦娘ラインが薄い。

 

吹雪が無線で叫ぶ。

 

「裏門、突破されます!」

 

白瀬が歯を食いしばる。

 

「回せる部隊は——」

 

言い切る前に、別の声が入った。

 

低い。

 

笑っている。

 

喰種の声だ。

 

⸻

 

「そこは俺らの場所だ」

 

裏門通路。

 

照明が割れている。

 

火花が散る。

 

煙が流れる。

 

その中で——

 

赤い光がいくつも開いた。

 

赫眼。

 

一つではない。

 

十ではない。

 

無数。

 

兵士が止まる。

 

本能が拒否する。

 

「何だ……」

 

影が動く。

 

牙が覗く。

 

前傾姿勢。

 

狩りの姿勢。

 

喰種が言う。

 

「艦娘だけじゃ無理な場所は」

 

もう一人が笑う。

 

「俺達が動く」

 

次の瞬間、裏門は戦場になった。

 

⸻

 

狭所戦闘。

 

距離ゼロ。

 

盾が意味を持たない。

 

銃が振れない。

 

喰種の間合い。

 

骨が鳴る音。

金属が落ちる音。

悲鳴は短い。

 

速いのではない。

 

容赦がない。

 

⸻

 

裏門制圧部隊の無線が崩壊する。

 

「裏門応答しろ!」

 

「裏門!?」

 

「……返事がない!」

 

指揮系統が乱れる。

 

狂禍が小さく笑う。

 

「折れた」

 

⸻

 

正門側戦線。

 

敵の圧力がさらに増す。

 

数で押してくる。

 

盾の壁。

 

弾幕。

 

金剛が叫ぶ。

 

「多いネー!」

 

山城が吐き捨てる。

 

「うんざりする数!」

 

扶桑が言う。

 

「でも——」

 

長門が続ける。

 

「守る」

 

それで十分だった。

 

⸻

 

その時。

 

全回線にノイズが走った。

 

短い。

 

だが全員の耳に刺さる。

 

そして一言。

 

「王、出陣」

 

静か。

 

感情なし。

 

だが戦場の温度が変わる。

 

吹雪の背筋が震える。

 

「……来る」

 

炎慈が笑う。

 

「遅えぞ王」

 

深赫が口元を上げる。

 

「間に合ってる」

 

⸻

 

正門へ続く中央通路。

 

煙の奥。

 

足音が響く。

 

重くない。

 

だが止まらない足音。

 

ハヤトだった。

 

第一形態完全解放。

 

赫眼。

 

赫子展開。

 

圧が空気を押している。

 

兵士が振り向く。

 

足が止まる。

 

本能が理解する。

 

“頂点”。

 

⸻

 

左右に部隊が展開する。

 

黒滅が左を率いる。

 

紅牙が右を率いる。

 

統制された喰種部隊。

 

乱戦ではない。

 

軍勢。

 

後方。

 

深赫。

 

黒牙。

 

親衛隊。

 

精鋭。

 

沈黙の圧力。

 

⸻

 

兵士の一人が呟く。

 

「……王」

 

誰も教えていないのに分かる。

 

格で。

 

空気で。

 

存在で。

 

⸻

 

ハヤトは歩く。

 

走らない。

 

急がない。

 

戦場の中央を、ただ進む。

 

その間に敵の射撃が止まる。

 

止まってしまう。

 

恐怖で。

 

理解不能で。

 

⸻

 

ハヤトが言う。

 

「どけ」

 

小さい声。

 

だが届く。

 

前列が割れた。

 

意志ではない。

 

本能で。

 

⸻

 

深赫が後ろで笑う。

 

「道ができるな」

 

炎慈が答える。

 

「王だぞ」

 

⸻

 

白瀬提督はモニターを見ていた。

 

小さく呟く。

 

「……出たか」

 

長門が言う。

 

「戦場が変わる」

 

加賀が言う。

 

「いえ」

 

「終わります」

 

⸻

 

王が歩く。

 

軍勢が続く。

 

鎮守府の戦場が、塗り替わる。

 

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