※この作品はR-18です。

葵が笑う世界で ー王と提督は、ただ1人を守る為にー   作:戌威

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第68話 代償の執行

 

中央軍事管制棟の正面玄関は、無傷だった。

 

砲撃も爆破も受けていない。

ガラスも割れていない。

灯りも点いている。

 

だが——

中にいる人間の顔色だけが、崩壊していた。

 

監視モニターの一つに、入口の映像が映っている。

 

そこに、王が立っている。

 

一人ではない。

 

左右に部隊。

後方に盾。

整列ではない。

 

配置されている。

 

戦闘陣形で。

 

⸻

 

守衛の手が震えている。

 

銃口が定まらない。

 

「止まれ!」

 

声が裏返る。

 

ハヤトは止まらない。

 

歩幅も変えない。

 

深赫が一歩前に出る。

 

それだけで、守衛の足が下がった。

 

本能が拒否した。

 

「どけ」

 

深赫の声は低い。

 

威圧ではない。

 

事実の通知だ。

 

道が開く。

 

⸻

 

会議室。

 

誰も座っていない。

 

全員立っている。

 

逃げる準備をしている者。

端末を抱えている者。

電話を握ったまま固まっている者。

 

榊原が怒鳴る。

 

「防衛は何をしている!」

 

通信士が答える。

 

「動けません!」

 

「誰も近づけない!」

 

それが現実だった。

 

⸻

 

足音が廊下に響く。

 

ゆっくり。

 

一定。

 

止まらない。

 

その音だけで、何人かの膝が震えた。

 

久我が小さく笑う。

 

「来たな」

 

榊原が睨む。

 

「笑うな!」

 

久我は肩をすくめる。

 

「笑うしかないだろ」

 

「理解した瞬間ってのは、そういうもんだ」

 

⸻

 

扉の前で足音が止まる。

 

ノックはない。

 

許可も取らない。

 

扉が開く。

 

静かに。

 

壊さず。

 

押して。

 

それが逆に怖い。

 

⸻

 

最初に入ったのは深赫。

 

腕を組んでいる。

 

室内を一瞥する。

 

脅威の有無ではない。

 

“価値”を測っている目だ。

 

次に炎慈。

 

口元に笑み。

 

だが目は冷たい。

 

龍牙。

狂禍。

黒滅。

紅牙。

 

空気が変わる。

 

酸素が薄く感じる。

 

⸻

 

最後に王が入った。

 

会議室の温度が上がる。

 

誰も言葉を出せない。

 

出したら、終わると分かるからだ。

 

⸻

 

ハヤトは机の中央まで歩く。

 

止まる。

 

誰も座っていない議長席を見る。

 

それから、榊原を見る。

 

「お前だな」

 

確認だった。

 

問いではない。

 

榊原の喉が鳴る。

 

「私は——」

 

言い訳が始まる前に、狂禍が言う。

 

「命令署名者」

 

端末を掲げる。

 

証拠。

 

逃げ道が消える。

 

⸻

 

榊原が叫ぶ。

 

「国家のためだ!」

 

「管理が必要だった!」

 

「兵器として——」

 

炎慈が笑う。

 

「兵器?」

 

一歩出る。

 

榊原の声が止まる。

 

「王を?」

 

言葉が続かない。

 

⸻

 

ハヤトが言う。

 

「葵を標的にした」

 

静かに。

 

事実だけ。

 

榊原が震える。

 

「必要だった!」

 

「錨を押さえれば——」

 

言い切れない。

 

目が合ったからだ。

 

王と。

 

⸻

 

ハヤトが言う。

 

「代償だ」

 

それで終わりだった。

 

⸻

 

一人が逃げようとする。

 

ドアに向かう。

 

黒滅がそこにいた。

 

笑っている。

 

首を振る。

 

「遅い」

 

戻される。

 

優しく。

 

だが確実に。

 

⸻

 

久我が手を上げる。

 

「質問いいか」

 

全員が凍る。

 

だが王は見る。

 

許可したわけではない。

 

だが止めない。

 

久我が言う。

 

「どこまでやる」

 

ハヤトが答える。

 

「根まで」

 

久我が笑う。

 

「徹底だ」

 

⸻

 

通信カメラが回っている。

 

中央回線。

 

各基地へ中継されている。

 

意図的だ。

 

狂禍が切らない。

 

見せるためだ。

 

⸻

 

ハヤトがカメラを見る。

 

言葉を落とす。

 

「見ろ」

 

それだけ。

 

全国の軍拠点に届く。

 

誰も瞬きできない。

 

⸻

 

「葵を標的にした」

 

間。

 

「結果だ」

 

その後の執行は、速かった。

 

叫びは長くなかった。

 

抵抗も意味を持たなかった。

 

深赫が動く。

 

炎慈が動く。

 

親衛が動く。

 

無駄がない。

 

処理ではない。

 

裁断だった。

 

⸻

 

カメラは止めない。

 

誰も止められない。

 

それが見せしめだ。

 

言葉より確実な。

 

⸻

 

最後に残った一人が泣いて言う。

 

「助けてくれ……」

 

ハヤトは答えた。

 

「葵は、そう言えなかった」

 

沈黙。

 

それで終わった。

 

⸻

 

カメラの前に、王が立つ。

 

言う。

 

「安全な場所など無い」

 

一拍。

 

「俺達はどこにでも行ける」

 

通信が落ちる。

 

⸻

 

恐怖ではない。

 

理解が残った。

 

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