霧に包まれた森の境界線。
辺りは、しっとりとした重い空気に包まれている。
うっそうと茂る木々の間を、白く細い霧が蛇のように這い回り、視界を遮っていた。
木の葉の隙間からは、わずかに夕暮れ時の淡い光が差し込んでいるが、それも地面に届く頃には、ぼんやりとした輪郭を失っていた。
カサッ、と乾いた音が響く。
その影が一歩踏み出すたびに、湿り気を帯びた枯れ葉がブーツの底で小さく声を上げた。
「ふぅ……。ちょっと霧が深くなってきちゃいましたね。」
影は立ち止まり、腰に携えた大きな手錠のような形の金具を軽く叩いて位置を直した。
その横で、お気に入りのクマのぬいぐるみ—— ロジャーが、動きに合わせてゆらりと揺れる。十字架があしらわれた青と白を基調としたパーカーの裾を軽く整え、ふう、と小さく息を吐いた。吐き出した息は、冷たい空気の中で白く濁ってすぐに消えていく。
手元にある相棒のヨーヨーにそっと指をかけ、その冷たい金属の感触を確かめたようだ。
いつでも動けるように準備はしているが、今のところ辺りに他に動く影はなく、聞こえるのは遠くで鳴く鳥の声と、木々が風に揺れるざわめきだけだった。
影は少しだけ首を傾げ、後ろを振り返り、穏やかに微笑んだ。
美しい金の髪が風になびく。
「……急ぐ旅でもありませんし、少し様子を見ましょうか。アナタは、どうしたいですか?」
✳ 説明しよう!我らが誇るブリジットくんちゃんである!
詳しい経緯は割愛するが、現在、彼のぺニスとアナルには大量の興奮剤と
媚薬が塗りたくられているッ!細かいことはいいんだよ。
「あ、えへへ……そんなに見つめられると、ちょっと照れちゃいますね」
ブリジットは同行者の男の視線を受け、少しはにかむように頬を緩めた。
だが、その笑顔はどこか、いつもの快活なものとは違っていた。
ブリジットが言葉を発するたびに、喉の奥が妙に熱く焼けるような感覚がある。
森の冷たい空気を吸い込んでいるはずなのに、肺に届く空気はひどく熱を帯びて感じられ、知らず知らずのうちに呼吸が浅くなっていくのが自分でもわかったようだ。
(……あれ? なんだか、体が変です……)
一歩、踏み出そうとした瞬間。
太ももの内側が衣装の布地と擦れ、そこから火がつくような、痺れるような刺激が全身を駆け抜けた。
「っ……あ……」
思わず口から漏れたのは、言葉にならない小さな吐息。
反射的に、腰に下げた大きな手錠の金具をぎゅっと掴んで、自分の体を支えるように立ち尽くした。
下腹部の奥の方から、ドクドクと脈打つような衝動がせり上がってくる。
粘り気のある熱が、逃げ場を失って体の中に溜まっていくような感覚。特に、デリケートな部分に塗られた薬剤が、皮膚を通してじわじわと意識を侵食していくのがわかる。
「はぁ、はぁ……っ。……すみません、なんだか急に……のぼせたみたいで……」
ブリジットは視線を泳がせ、足元の湿った土を見つめた。
視界が少しずつ、熱のせいで霞んでいく。
霧の白さと、自分の内側からくる熱の白濁した感覚が混ざり合い、立っているのがやっとの状態だ。
その細い指先は、震えを隠すように修道服の白い布地を強く握りしめている。
ロジャーも、主人の異変を感じ取ったのか、心なしかぐったりと横で揺れているように見えた。
冷たい森の風が吹くたび、火照った肌にはそれが心地よいはずなのに、今はその刺激さえも、全身の神経を過敏に逆なでしていく。
ブリジットは潤んだ瞳をゆっくりと上げ、同行者の男の姿を捉えようとした。
「……ねぇ、なんだか、ウチ……すごく……変なんです。体が、自分じゃないみたいで……」
声はかすれ、湿り気を帯びていた。
苦しそうなブリジットを介抱するために、男は近くに座らせる
「あ……ありがとうございます……っ。すみません、情けないところを見せちゃって……」
ブリジットは男の差し出した手に、縋るように自分の手を重ねた。
触れ合った瞬間に伝わる男の肌の温度が、今のブリジットには驚くほど熱く、そしてひどく鮮烈な刺激となって脳に響く。
指先がわずかに震え、自分でも制御できないほど力が入らなかった。
男は、霧に濡れて黒ずんだ大きな倒木を見つけ、ブリジットをそこへ誘導する。
ふらつく足取りで一歩ずつ進み、ようやくその丸太の表面に腰を下ろた。
「っ……ふあ、ぁ……」
座る動作によって、股間の敏感な部分が、修道服の厚手の布地を介して倒木の硬い感触と擦れ合った。
塗り込まれた薬剤が、その摩擦をきっかけに激しく発火したかのような熱を撒き散らす。
ブリジットは背筋をビクンと跳ねさせ、思わず膝をきつく閉じた。
太ももの内側を擦り合わせるようにして、こみ上げる疼きを必死に抑え込もうとする。だが、そうすればするほど、お尻の奥の方から突き上げるような、痺れるような興奮が、全身の血管を駆け巡っていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ。……冷たいはず、なのに……っ、どうして、こんなに……」
ブリジットは力なくうなだれ、自分の膝の上に置いた両手に顔を埋めた。
青い帽子の隙間から覗くうなじは、うっすらとピンク色に染まり、細かい汗の粒が霧を吸って真珠のように光っている。
森の静寂が、ブリジットの荒い呼吸音だけを際立たせていた。 ヒュウ、という風の音に混じって、口から漏れる、熱に浮かされたような吐息。
顔を半分だけ上げ、潤んだ瞳で男を見上げる。
視界の端では、倒木のそばに置かれたロジャーが、どこか心配そうにブリジットを見つめているように見える。
「……アナタの顔も……なんだか、ぼやけて見えます……。ねぇ、ウチ……どうなっちゃったんでしょうか……?」
震える手で、自分の胸元をぎゅっと掴んだ。
高鳴る鼓動が、手のひらを通して痛いほど伝わってきた。
呼吸を整えさせるために、男は優しく背中をさすってやる。
大丈夫か大丈夫かと心配し、どこかゆっくり休める場所を探そうと提案する。
「……はい、……ありがとうございます。……すみません、少しだけ……っ、こうさせてください……」
ブリジットの背中に、男の手のひらの温もりがそっと置かれた。
優しく、円を描くように動くその手の動きは、本来なら安心させてくれるはずのものだった。
だが、今のブリジットにとって、それはあまりにも……あまりにも強烈な『刺激』だ。
背中をさすられるたびに、皮膚の表面からゾクゾクとする電撃のような感覚が走り、それが背骨を伝って、熱の溜まった下腹部へと流れ込んでいく。
塗られた薬が、男の優しさに呼応するかのように、いっそう激しくその効能を主張し始めた。
「くっ、……ふぅ、……あ、っ……」
呼吸を整えようとするたび、喉の奥から熱い吐息がこぼれる。
ブリジットは倒木に座ったまま、男の手の動きに合わせて、わずかに体を震わせた。
お尻の奥の、一番熱い部分。そこに塗りたくられた薬剤が、座っていることによる圧迫と、男の手の動きによって、ドロドロと溶け出すような感覚を与えてくる。
ブリジットは膝をぎゅっと閉じ、足の指先をブーツの中で丸めた。
太ももの隙間に、どうしようもない疼きが溜まっていく。
「……どこか、休める場所……。そうですね……この先に、小さな……っ、猟師小屋があったはず……です……」
ブリジットは途切れ途切れに答えながら、視線を彷徨わせた。
濃くなっていく霧の向こう、目を凝らせば、かすかに人工的な影が見えるような気がした。
ブリジットは、背中をさすってくれる男の腕に、そっと自分の手を重ねた。
震える指先が、男の袖をきつく握りしめる。
「……でも……一人じゃ、……もう歩けないかも、しれなくてぇ……っ。……はぁ、はぁ……っ、……ごめんなさい、……もう少しだけ、支えていて……もらえますか……?」
上目遣いに男を見つめるブリジットの瞳は、霧のせいか、それとも内側から溢れる熱のせいか、とろりと潤んで、情欲とも苦痛ともつかない色が混ざり合っていた。
✳ やったぜ!
あまりに辛そうなブリジットの様子を見て、男は抱きかかえて運ぼうとする。
「え……っ、あ……あのお……っ!?」
男がブリジットの細い背中と膝の裏に腕を回し、ふわりと地面から浮かかせた瞬間、ブリジットの口から驚きと、それ以上に熱い吐息がこぼれた。
いわゆる『お姫様抱っこ』の形になって、ブリジットの体は男の胸元にぴったりと預けられる。
だが、持ち上げられた拍子に、衣装の布地が、薬剤の塗られた場所をグイッと強く圧迫した。
「ひゃぅ、っ……あ、あぁっ……!」
背中を反らせ、ブリジットは思わず男の首筋に両腕を回してしがみついた。
持ち上げられたことで、一番敏感になっている部分に自重がかかり、塗りたくられた媚薬と興奮剤が、暴力的なまでの快楽となって脳髄を突き刺す。
お尻の奥がキュウッと締め付けられ、熱い何かがトクトクと脈打つのを感じた。
男の胸板から伝わる鼓動と体温。それが、今のブリジットには猛毒のように甘く、全身の力を奪っていく。
「はぁ、はぁ、……っ。すみませ、ん……重い、ですよね……っ。でも、……っ、あ……」
ブリジットの吐息は、男の耳元で熱く、湿った響きを帯びていた。
男の肩に顔を埋めると、そこから香る男の匂いが、さらにブリジットの興奮を煽る。鼻をくすぐる清潔な匂いさえも、今のブリジットには最高に扇情的な香料に感じられてしまうのだ。
霧はさらに深まり、ブリジットたちの周囲を白く塗りつぶしていく。
ブリジットは男の腕の中で、ぐったりと体を預けながら、時折襲いかかる疼きに耐えるように、シーツを掴むような手つきで男の服をぎゅっと握りしめた。
「……あ、……あそこに、……っ。霧の向こうに、……小屋の、屋根が……見えます……」
ブリジットは震える指先で、ぼんやりと浮かび上がる古い小屋の影を指差した。
太ももをそわそわと擦り合わせる動きは、もはや自分の意思では止められないようだ。
「……お願い、します……。早く、……どこか、横になれるところに……っ、はぁ……っ……」
ブリジットの声は、もはや賞金稼ぎとしての凛々しさを失い、ただ熱に浮かされた一人の少年……少女……?のものとして、霧の中に溶けていった。
次回、ブリジットくんちゃんの運命は——
ロジャーは置き去りにされました。