深い霧が窓の隙間から入り込み、小屋の空気が冷え切った頃。
ブリジットの指先が、ぴくりと力なく動いた。
「……ん、……ぁ……っ」
重い瞼を押し上げると、視界に入ってきたのは煤けた小屋の天井だった。
頭の中は、まるでひどい熱病にうなされた後のようにぼんやりとしていて、自分の名前さえ一瞬思い出せないほどの空白が広がっている。
「ウチ、……どうして、ここで……っ」
体を起こそうとして、ブリジットは息をのんだ。
腰から下、いや、全身の関節という関節が、経験したことのない重だるさと鈍い痛みに支配されている。
そして何より、股間のあたりに感じる、ぬるりとした、不快でいて、どこか恐ろしいほど官能的な感触。
「……っ!? なに、これ……っ」
震える手で毛布をめくったブリジットは、絶句した。
自分の細い脚の間には、乾きかけの白濁した液体がべっとりとこびり付き、そこからは見たこともないほど赤く腫れ上がり、だらしなく口を開けたままの「後ろ」が覗いている。
動くたびに、内側に溜まっていた熱い残滓が、重力に従ってドロリと溢れ出した。
「あ、ぁ……っ。うそ、……だれかに、……っ……」
断片的な記憶が、濁流のように脳内に流れ込んでくる。
霧の中で出会った、優しかったはずの男。
そして、自分を蹂躙した、あの巨大な岩のような黒い男。
ブリジットは自分の股間を、そして溢れ出す粘液を、汚いものを見るような、それでいて離れがたい執着を感じるような瞳で見つめた。
「ウチは、……男、……なのに……っ」
村のために、ずっと女の子として育てられてきた自分。
本当の性別を隠し、立派な賞金稼ぎになって、村の迷信を打破しようと旅を続けてきた。
自分は、男として認められるために、この衣装を纏っているはずだった。
けれど、今のこの体はどうだろうか。
黒人によって無理やり広げられ、別の男によって弄ばれ、快楽のあまり白目を剥いて、中まで白く汚されたこの姿。
(あんなに……お腹の奥が、熱くなって……っ。あんなに、気持ちよかったなんて……っ)
男性の象徴であるペニスを、まるで女のようにいじくられ、後ろの窄まりを本物の「器」のように扱われた記憶。
それが、ブリジットのプライドをズタズタに切り裂くと同時に、否定できない強烈な「女」としての自覚を、毒のように全身に回していく。
「ウチは、……男の子、なのに……っ、ぁ……っ、ん、ぅ……っ」
指で中のモノをかきだそうともがく。
黒人のこびりついた残滓は、ブリジットの中から出てくるのを拒んでいるように思えた。
汚れたシーツをぎゅっと握りしめ、体を丸めて震える。
溢れる涙は、悔しさからくるものなのか、それとも、去っていった男たちの熱が恋しくて流れるものなのか。ブリジット自身にも分からない。
ブリジットは震える脚でなんとか立ち上がると、散乱した自分の服を拾い集めた。
ロジャーを抱き寄せるが、その無機質なぬいぐるみの瞳さえ、今は自分を蔑んでいるように感じられて、顔を伏せる。
✳ ロジャーは確かに、霧の森に置き去りにされたハズ……
しかしジッサイ彼はここにいるのだ!コワイ!
ブリジットは、自分が「男」として立派に生きていこうとした過去の自分に、もう戻れないことを悟っていた。
体の中に残された、黒人の男の種と、自分を貪り尽くした男の口内の感触。
「……また、……会わなきゃ……っ」
ふらつく足取りで小屋の扉を開けた。
外はまだ深い霧に包まれている。
ブリジットは、自分を壊した者たちの行方を追うように、重い腰を抱えながら、ゆっくりと、這いずるように霧の奥へと足を踏み出した。
今度は、拒絶するためではなく。
自分の「男としての尊厳」を完全に奪い去り、「雌」として完成させてしまったあの熱を、もう一度だけ確かめるために。
数ヶ月の月日が流れ、あの日の霧深い森から遠く離れた活気ある街。
夕暮れ時の喧騒の中、その男は石畳の通りを歩いていた。
行き交う馬車の音や、露店の主たちの威勢の良い声。平和な日常の光景を切り裂くように、ふと、背筋を撫で上げるような「視線」に気づく。
路地裏の暗い影から、一人の人影が音もなく現れた。
「……やっと、見つけましたよ」
聞き覚えのある、けれど以前よりもどこか低く、湿り気を帯びた声。
そこに立っていたのは、あの日の修道服を纏ったブリジットだった。
一見すると、かつてと変わらぬ愛らしい姿だ。
しかし、近づいてきたブリジットの歩き方は、どこか腰を庇うように、わずかに足首を内側に入れて摺るような、ひどく艶めかしいものへと変わっていた。
帽子の下から覗く瞳は、かつての快活な輝きを失い、代わりに深い情欲の泥に沈んだような、とろりと潤んだ色を湛えている。
「あの時から、ずっと、ずっと探していたんです。あなたたちがウチの体に教え込んだ『熱』が、どうしても消えなくて……っ」
ブリジットは男の目の前まで来ると、躊躇うことなく自分の胸元を掴み、あなたにだけ見えるように衣装の襟を少しだけ広げました。
そこには、数ヶ月経ってもなお、誰かによって執拗に付けられたような赤黒い痕が、彼の白い肌を汚すように残っている。
「あれから、普通の男の子として生きようとしたんです。でも、ダメでした……。後ろが、……あなたが口で愛してくれたあそこが、うずいて、うずいて……っ。……今はもう、誰かに貫かれていないと、息をするのも苦しいんです」
ブリジットは震える指先で、男のコートの袖をぎゅっと掴んだ。
以前のような、助けを求める弱々しい掴み方ではない。
それは、自分を地獄へ引きずり込んだ張本人を、二度と逃さないという執着の力。
「責任、取ってくれますよね……? ウチを、あんな風に壊したんですから」
ブリジットは周囲の目を気にする様子もなく、男の顔を覗き込んだ。
その口角は歪に吊り上がり、恍惚とした凄絶な笑みを浮かべている。
その体からは、あの時、男の種を受け入れ続けたことで染み付いたような、甘く重い、発情した獣のような匂いが漂ってきていた。
そして、ブリジットは――
くぅ疲