知らずに"神待ち"なんてしてしまった私と、それに目を付けた悪いお姉さんの関係。 作:如月 悠
『××駅、××駅、お出口は右側です。』
そんなアナウンスが聞こえてきて、椅子に座っていた私は、ぼんやりと頭を上げる。
なんだか体調の悪い日の寝起きのように、どろり、と濁った意識のまま、私は、ゆっくりと左右を見渡して。
そうして、自分が電車の中にいることに、ようやく気付く。
そのころにはもう、すっかりと乗客の乗り降りは落ち着き始めていて。
さらには、××という駅は、自分の家の最寄り駅で。
おうちに、かえらなきゃ……。
そんなことを人ごとのように考えていれば、はっと、意識がクリアになる。
「あ……。お、降りますっ!」
私は慌てて座席から立ち上がって、ほかの乗客にぶつからないようにしながら、慌てて電車を降りる。
駅のホームに降り立てば、直後に発車を告げるベルが鳴り響いて。
そうして私の背後で、ぷすん、という音とともに、車両のドアが閉じていく。
どうやら、乗り過ごしてしまう直前、間一髪のタイミングだったらしい。
けれど、なんで、こんな時間に電車に乗っていたんだろう……。
まるで夢を見ていたみたいに、電車に乗っていた間のことがあいまいで。
なぜだか、ぼぉっとする頭をしゃっきりさせようと、ぷるぷると首を振ってみる。
「あ、あれ? そうだ、ライブ……。 あ、え……?」
ぷつり、ぷつり、と途切れ途切れの記憶をたどるように、自分の行動をひとつずつ、思い出していく。
そう、私は、推しのアーティストのクリスマスライブに行くために、電車に乗って。
セトリにちょっとだけ不満はあったけれど、初めての遠征を思いっきり楽しんで。
そうして、帰りの電車に乗って……、それで……、その後は?
私は、なぜだか少し焦りながら、その後のことを思い出そうとして。
そうして、なぜだか思い出した、冬の夜の寒さと恐怖に、ひぐ、と息を詰まらせてしまう。
さらにはお腹と腰が、ずくり、ずくり、と疼くようにずっしりと痛くて。
「あ、れ……? あはは……。 あれぇ……?」
何故だか、かくかく、と笑いそうな膝に鞭を打って、よろよろ、と近くのベンチにたどり着く。
崩れるように椅子に座り込んだ私は、バッグの中からスマホを取り出そうとして。
そうして、視界に入った手の甲に、赤い色が微かにこびりついているのに、気が付いてしまう。
それを見た途端に口の中に蘇る、甘くて、少し苦い、舌にへばりついて残るようなあの、味。
ぱち、ぱち、とフラッシュのように瞬く記憶の中にこびり付いた、女の人の歪んだ笑顔。
何故か、うぐ、と込み上げそうになる吐き気をこらえながら、私は、ひう、と必死に息を吸って。
「う、ううぅぅ……っ。」
多分、私の頭は、これ以上思い出したらいけないって、警告を出していて。
気づけば、頭痛が、づきづきと、酷い。
きっと、たぶん、頭がふらつくのも、ずくずくと痛むのも、あのお薬の所為で。
……お薬って、何?
「あ……。」
気づいてはいけないことに気づいてしまいそうになったところで、バッグから半ば引き出していたスマホが、ぶるり、と震える。
恐る恐る、画面を付けて確認をしてみれば、知らない人からメッセージが届いたという通知で。
すごく、すごく、嫌な予感がしながらも、私は、それを、開いてしまっていた。
「っ……!?」
届いていたのは、一枚の写真。
その被写体は、見覚えのある人と言うか、まさに自分で。
ただ、そこに写っていた自分は、なぜだか服を着ていなかった。
写真の中の自分は、明らかにべそべそと泣きじゃくりながら、顔を隠そうとしていて。
そうして私がスマホの画面を見て固まっている間に、また、ぶるり、とスマホが震える。
どうやら、既読になったことに気づいたのか、相手は次々と、写真を追加していく。
先ほどの続きなのか、顔を隠そうとしていた手を掴まれて、しっかりと表情まで写された写真。
脅されでもしたのか、泣き顔のまま、指の伸び切っていないピースサインをしている写真。
おおきな、おちんちんが、私のあそこに、ねじ込まれてる、写真。
明らかにおかしくなった私が、目の焦点の合わないままに、へらへらと笑っている写真。
とろり、と蕩けた顔の自分が、うっとりとおちんちんを受け入れている写真。
そんな写真が、何枚も、何枚も、一気に送られてくる。
そうして写真のネタが尽きたのか、さらにはいくつもの動画も。
ひぅ、ひぅ、と引きつるような掠れた音を聞きながら、私は、沢山の、流出したら人生が終わってしまう個人情報がが流れていくのを、ただ茫然と、見送ってしまっていた。
『楽しかったよ、紗季ちゃん。』
『誰かに話したら……、分かるよね?』
『住所も、学校も、全部分かってるから。』
『今度は、お姉さんの方から遊びに行くね?』
やっと、スマホの通知が止まって、最後に、そんなメッセージで締めくくられて。
その時にはもう、頭痛が酷くて、吐き気がして、視界がぐるぐると、回るようで。
さっきから聞こえていた、引きつるような掠れた音が、自分の呼吸の音だと分かった瞬間。
私は、全部、全部、思い出して。
ホームにいた人たちが、ざわざわと騒ぐ中、私は意識を手放していた。
少し前に書いていたお話を少し改稿したものです。
サブタイトルと投稿時間で遊びたかっただけだったりします。