※この作品はR-18です。

救済の鎖 ―Property of Nao― ~レズの魔の手に堕ちる王子様~   作:嫌われた勘のいいガキ

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後日談 真の支配者

 数日後、静香達が使っていたマンションの一室。 そこには「お披露目会」の中止、ましてや警察の介入といった騒動など微塵も存在しなかった。

 

 リビングの床には首輪一本で繋がれた全裸の女たちが、言葉を失った肉塊のように這いつくばっている。彼女たちはかつてこのネットワークの主に逆らった者、あるいは自ら快楽の深淵に身を投げさせられ、壊された「公共の玩具」たちだ。

 

 その中央、豪奢なソファに深く腰掛け、女の一人を足蹴にしながら冷徹な瞳でタブレットを眺めている少女がいた。

 

「⋯⋯あはっ、凛ちゃん。ちゃんとお家で私の帰りを首を長くして待ってるんだね。偉いよ」

 

 聞き覚えのある、けれど凛が知るものより数段低く支配的な響きを持った声。 その指先は、かつて凛を学校で悶えさせていた時と同じ、無慈悲なほど正確なリズムでタブレット上の「感度スライダー」を動かしている。

 

 そこへ部屋のドアが開いて二人の女性が入ってきた。静香と麗奈だ。彼女たちは凛を追い詰めたあの時の傲慢な態度はどこへやら、恭しくその少女の前で頭を下げた。

 

「お疲れ様です、奈緒様。⋯⋯今回の『凛ちゃん』の件、シナリオ通り完璧でしたね」

 

 静香が心酔しきった表情で奈緒に報告する。

 

「ああ、お疲れ様。静香と麗奈もいい悪役を演じてくれたよ。⋯⋯特に麗奈、あんなに手荒くして凛ちゃんが本当に壊れちゃわないか、モニター越しにヒヤヒヤしたんだから」

 

「⋯⋯滅相もございません。奈緒様のご指示通り、彼女のプライドを折り、快楽の種を植え付けることに専念いたしました。すべては奈緒様が『仕上げ』をなさるための土壌作りです」

 

 麗奈は畏まって答える。 そう、あの日マンションに奈緒が突入してきたことも、弁護士の親というブラフもすべては奈緒が描いた自作自演の救出劇に過ぎなかった。

 

 奈緒は最初から凛を王子様にするつもりなどなかった。 自分なしでは呼吸も、絶頂もできないほどに精神を破壊し、自分という「絶対的な救済」に依存する「完成された奴隷」に仕立て上げること。それが彼女の真の目的だったのだ。

 

「これで凛ちゃんは、一生私の鎖から逃げられない。⋯⋯あんなに純粋に私に感謝して、私に犯されることを幸せだって泣くんだもん。可愛いよね」

 

 奈緒は手元のタブレットで、自宅のベッドで項垂れる凛のライブ映像を眺めながらうっとりと目を細めた。画面の中の凛は奈緒が与えた『Property of Nao』のチョーカーを指で愛おしそうになぞりながら、虚空を見つめて絶頂の余韻に震えている。

 

 その光景を見守っていた麗奈が、ずっと疑問に感じていたことを口にした。

 

「⋯⋯奈緒様。一つお聞きしても? 彼女は最後まで貴女のこと案じておりました。心の底から奈緒様を愛しているようでしたが⋯⋯。あそこまでしなくても、彼女となら普通に愛し合えたのでは?」

 

 麗奈にとって凛への調教はあくまで仕事であり、感情のない嗜虐だった。だが奈緒が仕組んだこの遠回りな計画――凛を地獄に突き落とし自分を「唯一の光」として再定義させる手法――には、生理的な嫌悪感を通り越した、ある種の狂気を感じていた。

 

 奈緒はタブレットから視線を外さず淡々とした、けれど氷のように冷たい声で返した。

 

「そんな愛、いつまで続くか分からないじゃない。普通の『好き』なんて、ちょっとしたすれ違いや、もっと素敵な誰かが現れただけで簡単に壊れちゃう。不確かなものに私の人生を預けるなんて、そんな無責任なことできないよ」

 

「⋯⋯」

 

「でも、今の凛ちゃんはどう? 静香たちの暴力から救ってくれた、世界で唯一の味方。自分の汚い部分を知っても愛してくれる、たった一人の神様。⋯⋯脳にそう刻み込まれた愛は、死ぬまで解けない。私は『凛ちゃんの意志』なんて信じてないの。私が信じているのは、私が凛ちゃんの精神に書き込んだ『設定』だけだよ。設定された感情には、裏切りも、心変わりというバグも存在しないんだから」

 

 屈託のない、少女のような笑顔で言い放つ奈緒。その言葉を聞いた瞬間、麗奈の背筋に冷たいものが走った。自分たちも大概だと自覚していたが、目の前の少女の闇は深さが違った。好いた相手の感情すら「設定」と呼び、確実な支配のために相手の人生を一度粉々に破壊することも厭わない。

 

(⋯⋯この子は、最初から人間を人間として見ていないんだ。自分を満足させるための、精巧なドールとしか⋯⋯)

 

 意外にも常識的な感性を有している麗奈は、奈緒の底知れないイカれ具合に内心で激しい戦慄を覚えていた。静香が心酔するこの「主」は清廉潔白な少女の皮を被った、最も慈悲のない捕食者なのだと。

 

「さて、凛ちゃんの『調整』も終わったことだし⋯⋯次のおもちゃは誰にしようかな?」

 

 奈緒は足元の女の頭を無造作に踏みつけると、その重みを楽しむように冷酷な微笑みを浮かべた。彼女の指先が次のターゲットの候補者たちが並ぶリストを軽やかにスクロールしていく。

 

 リストには、ネットワークの網にかかった「玩具候補」たちがところ狭しと並んでいた。窓の外に広がる街の灯りすべてが、彼女にとっては自分専用の「玩具箱」に過ぎなかった。

 

「あ、この子⋯⋯凛ちゃんに少し似てる。きっと、壊しがいがあるよね」

 

 奈緒の愉悦に満ちた笑い声が、静寂に包まれたリビングに響き渡る。その画面の向こうでは何も知らない新しい「獲物」の運命が、神の指先ひとつで確定されようとしていた。

 

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