執務室の重厚な扉の前に、天津風は立っていた。
手には、先日の演習報告書を纏めたバインダー。いつものように「全く、私がいないとダメなんだから」という小言を胸に、扉のノブに手をかける。
だが、部屋の中から漏れ聞こえてくるのは、耳を疑うような甘ったるい嬌声と、激しく肉がぶつかり合う卑俗な音だった。
「……提督? 演習の報告、持ってきたんだけ……ど……」
返事はない。ただ、潮の香りと、それ以上に濃厚な、オスの獣のような臭気が廊下にまで漂い出している。不吉な予感に胸を騒がせながら、彼女は僅かに開いていた隙間から中を覗き込んだ。
「…………ッ!?」
天津風の喉が、引き攣った音を立てる。
執務机の上で、あの自分勝手で最速を自負する島風が、無様に背中を反らせて鳴いていた。
しかも、その短いセーラー服を捲り上げ、提督に抱えられながら、後ろから猛烈な勢いで突き上げられている。
「島、風……? な、なによ、それ……」
天津風は混乱した。
彼女にとって島風は、生意気で手のかかる、けれどその速さと能力だけは認めざるを得ない大切な妹分のような存在だ。それが、よりにもよって自分が密かに想いを寄せていた提督に、まるで牝犬のように扱われている。
だが、驚愕はそれだけでは終わらなかった。
提督の激しいピストンに合わせて揺れる、島風の股間。
そこには、自分たち「艦娘」には決して備わっていないはずの、未熟ながらも凛と反り立った「男の証」が、提督の腹に叩きつけられながら白濁した液体を撒き散らしていたのだ。
「え……? うそ、……ついてる……? 島風、あんた……男の子、だったの……!?」
頭の中が真っ白になる。
建造ドックから現れた新顔が島風だと聞いた時、その容姿から何の疑いも持っていなかった。
しかし、目の前で繰り広げられているのは、提督という圧倒的な「オス」に屈服し、自らを「女の子」だと泣きながら認める少年の姿。
島風の窄まりからは提督の放った大量の種が溢れ出し、彼女が知る「誇り高い駆逐艦」の面影はどこにもない。
「あ、……ぁ、あ……」
バインダーが指先から滑り落ち、乾いた音を立てて床に転がる。
その音に、事後の余韻に浸っていた二人の視線がゆっくりと扉の方へと向けられた。
天津風は腰を抜かしたようにその場にへたり込み、震える指先を、愛液と精液に塗れた島風と、その主犯である提督へと向けた。
「ずる……ズルいわよ、あなたたちっ!」
天津風の叫びは、静まり返った執務室に鋭く響き渡った。
✳ おまえは何を言ってるんだ
その声は怒りに震え、同時に、泣き出しそうなほどの羨望に満ちている。
自分を差し置いて、あんな生意気な「男の子」に、提督の特別な熱を注ぎ込んでいることへの憤りか。
あるいは、自分がずっと守り可愛がってきた「妹分」が、自分より先に女としての、いや、提督の所有物としての悦楽を知ってしまったことへの嫉妬か。
彼女自身、その感情の正体がどこにあるのか分からない。ただ胸の奥が焼けるように熱い。
「なによそれ……島風が男の子だったなんて、聞いてないわよ! なのに、提督も……! なんでそんな、メスみたいに蕩けきった顔させてるのよっ!」
天津風はへたり込んだまま、執務机の上で提督の腕の中に収まる島風を睨みつけた。
島風は、自身の内側にまだ残っている提督の熱い余韻に身を委ね、ぼうっとした表情で天津風を見つめ返している。
「あ……天津風……。……ひ、ふふ。……いいよ、これ……。すっごく、重くて……島風、動けなくなっちゃった……」
島風は精液に汚れた太ももを隠そうともせず、むしろ見せつけるように少しだけ足を広げ、恍惚とした笑みを浮かべた。その姿は、先ほどまでの「男の子」の意地など微塵も感じさせず、ただ愛された悦びに浸る「牝」そのものだった。
その退廃的な光景が、天津風の理性を限界まで削り取る。
「……ふざけないで。そんな顔、島風じゃないわ。それに提督……! 黙って見てないで、何か言いなさいよ! 艦娘の管理責任とか、規律とか……そんなの、どこへ行ったのよっ!」
天津風は立ち上がり、肩を激しく上下させながら二人に歩み寄る。
彼女の視線は提督の逞しい胸板と、その下でまだ熱を帯びているはずの「暴力的な質量」へと、吸い寄せられるように固定されていた。
島風を独占している提督への怒り。
けれど、その「教育」と称された蹂躙が、自分にも向けられるのではないかという、恐ろしくも甘美な想像が彼女の股間を熱く湿らせていく。
「……ずるい、ズルいわよ……。私だって、ずっと……っ」
その瞬間、天津風の脳内に溢れだした、存在しない記憶。
天津風の瞳が焦点の合わない不思議な輝きを帯びる。
彼女の脳内で、今この瞬間、現実を凌駕する真実が奔流となって溢れ出していた。
(……そうよ、島風。あんたのために、私はいつだって……。新しい連装砲くんの調整も、新型ボイラーのテストも……全部、全部、私がテストベッドとして泥を被って、あんたに最高の『速さ』を届けようって……)
脳裏に浮かぶのは、夕暮れのドック。汚れも気にせず整備に明け暮れる自分と、それを見て「天津風、ありがとっ!」と無邪気に笑う少年の島風。
姉弟のような、けれどそれ以上に深い、甘酸っぱい「初恋」の記憶。
(男の子だって分かってた……分かってて、私はあんたが立派な戦士になるのを支えて……。いつか、二人で……)
「……っ、そんな……! あんなに、あんなに純粋だった島風を……! 私の大切な島風を、提督、あんた……こんな、こんなドロドロの、メスにしちゃうなんて……っ!!」
天津風は顔を覆い、悲劇のヒロインさながらに絶叫した。
彼女の中では今、自分と島風の間に積み上げられてきた(実際には存在しない)十年越しの純愛が、提督という悪徳官僚の手によって無残に踏みにじられたことになっている。
一方、執務机の上では。
「……ねえ提督。天津風さん、何言ってるの? 島風、あんなに親切にされた記憶……ない、ですけど……」
提督の腕の中で事後の脱力感に浸っていた島風が、引き攣った顔で提督を仰ぎ見る。
その瞳には、先ほどまでの快楽の余韻よりも、「目の前の先輩が怖い」という本能的な拒絶反応が勝っていた。
提督もまた、精液に濡れた自身の腰を島風に繋いだまま、眉間に深い皺を寄せて天津風を凝視する。
彼女の言動は、もはや嫉妬や怒りの範疇を超え、何らかの精神汚染か、あるいはあまりのショックによる現実逃避の産物としか思えない。
「……提督、……島風、ちょっと……怖いです……。さっきの『わからせ』より、ずっと、……不気味、です……っ」
島風は提督の胸に顔を埋め、震える手で提督の腕をギュッと掴んだ。
天津風は自分の妄想の中で作り上げた「健気な自分」と「純真な弟分」の物語に酔い痴れ、さらに一歩、二人へと詰め寄る。
「……許さない。島風を汚した罪、その体で……私に、償いなさいよ……ッ!!」
天津風は何に対して怒り、何を求めているのかも混濁したまま、自身の胸元に手をかけ、ボタンを弾き飛ばした。
愛らしい胸がまろび出る。
ことの成り行きにあっけにとられる提督と島風。
「どきなさいよ!!! わたしはおねえちゃんよ!!!」
天津風はもはや誰にも止められない。
妄想と現実が混濁した瞳で叫ぶと、執務机に詰め寄り、提督の腕から無理やり島風を引き剥がそうとする。
「あ、……っ、天津風!? ちょっと、引っ張らないで……島風、まだ中が熱くて……っ!」
島風の困惑など耳に入らない。
天津風は、精液とローションで汚れた島風の身体を自らのスカーフで乱暴に、けれどどこか愛おしそうに拭い始めた。「清めなきゃ」と呟くその姿は、狂気と母性が入り混じった、直視しがたい凄絶な美しさを放っている。
「……でも、そうよね。提督も、男の子だもの。島風みたいな可愛い子が目の前にいたら、情熱をもて余しちゃうのは……お姉ちゃん、分かってあげられるわ」
彼女は不意に表情を和らげ、慈愛に満ちた微笑みを提督に向けた。
「いいわ、これからはわたしが二人の面倒を見るからね。……幸い、わたしにはちょうど『穴』が二つあるんだし。……提督、島風。二人で好きな方を使いなさいよね!」
天津風はそう言うと、自身の胸元を完全に開き、さらにはスカートを捲り上げた。
「島風、あんたはこっちの『お口』で、お姉ちゃんに甘えなさい。提督、あんたのその……暴力的なまでの情熱は、こっちの『下(しも)』で、私が全部受け止めてあげるわ……っ!」
彼女の股間は、自らの妄想に煽られ、すでに準備万端と言わぬばかりに淫らな蜜を滴らせている。
「さあ……お姉ちゃんが全部、綺麗にして、もっと気持ちよくしてあげるから……!」
✳ 薔薇の間に挟まる女、天津風。 薔薇か? これもうわかんねぇな。
「……提督、助けて……天津風、目が……目が本気です……っ」
島風は、自身の内側に残る提督の余韻も、先ほどまでの快楽の恍惚も、恐怖という冷水で一気に吹き飛ばされた。彼は震える手で提督の服の裾を掴み、文字通り「ひっつき虫」のようにしがみつく。
提督もまた、自身のモノを収めながら、一歩、また一歩と後退りした。
「……知らん……何それ……怖……」
あまりにも一方的で強固な「お姉ちゃん」という概念。
そして、二人同時に処理すると豪語する天津風の、理性のタガが外れた全開の肢体。
そこにあるのは情欲ではなく、もはや理解不能な深淵の恐怖だった。
「待って、どこへ行くの!? 二人とも、お姉ちゃんの愛を受け取りなさいよ! 島風、お口開けて! 提督、そこにあるのは飾りなの!?」
「ひ、ひぃっ! 天津風、落ち着いて! 島風、まだそこまでお姉ちゃんを求めてないから! 提督、逃げましょう、早く!!」
島風は、まだ足元がフラつくのも構わず、提督の手を引いて出口へと駆け出す。
提督も、戦場でも見せたことのないような俊敏な動きで、散らばった書類や自身の装備をひっ掴み、島風と共に執務室の扉へと滑り込んだ。
「……また明日な! 天津風、今日はもう寝ろ!」
「逃げ足だけは速いんだから……っ! 提督、おそーい!!」
バタンッ!! と、重厚な扉が閉まる音が響く。
……静まり返った執務室。
そこには、自身の「側」を二つとも惜しげもなく露出し、慈愛に満ちた(はずの)笑みを浮かべたままの天津風が、ポツンと一人残された。
「……あら? 照れちゃって、可愛いんだから……」
天津風は、誰もいない空間に向かって優しく語りかけ、トロンとした瞳で自分の胸を愛おしそうに抱きしめた。
「いいわよ、島風。提督。明日の朝ごはんは、お姉ちゃんが二人分、たっぷり『愛情』を込めて作ってあげるからね……」
彼女の脳内では、今もなお、三人で幸せに暮らす「存在しない家族」の食卓が、鮮やかに描き出されていた。
一方、廊下を全力で疾走する提督と、尻の穴から提督の種をこぼしながら必死に走る島風。
二人の間には、先ほどの「わからせ」とは全く別種の、奇妙な連帯感が生まれていた。
「……提督、……今日のことは、反省、します……。だから、あの天津風から、島風を守ってください……っ」
「……ああ、努力する……」
島風は涙目になりながら、提督の隣を一生懸命に並走する。
最速の駆逐艦が、初めて「遅いこと」よりも「怖いこと」を知った、そんな鎮守府の夜だった。
✳ その後、少し落ち着いた天津風は島風の気持ちも大事だと思い至る。
「男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきなのかも」と考える。
提督をメスにする方が健全かしら? 連装砲くんには棒が二つあるのよね……
無敵かこいつ。
今日も鎮守府はドッタンバッタン大騒ぎです。
これにて完結です。読んでくださった方ありがとうね。