俺は剣を構えて慎重に行こうとしているのに、隣のお姉さんは鼻歌混じりでまるでピクニックだ。
「ホントに軽いなぁ・・・」
「ミシフの迷宮の一層はコボルトだ。
まさに、THE 最弱モンスターだな。寝てても余裕」
「だからって緊張感無いなぁ」
「ゴメン。でもほんと、ワンパンだから。ね。
もうボス部屋までの道順も覚えてるから」
まあ、訓練に使っているぐらいなら、そうなっちゃうか。
やがて遠くに人影らしき塊が見えてきた。
あれが魔物、コボルトか。
大きさは人間の子供くらい、緑色の肌色。頭でっかち、斧剣を持っていて見るからに弱そうだな。
近づくと漸く気付いた様子で、こちらに向かって歩き始めた。
「おっそ」
「だから言ったでしょ」
斧剣を振りかぶる。
避けるまでもないが、少し左にずれ、鋼鉄の剣を振り下すと、コボルトは煙となって消えた。
「え?よっわ」
・・・訴えるような目でファリーを見るが本人は是非もなし。といった顔をして、両の手を広げながら話を逸らす。
「それはコボルトソルトね。ドロップアイテムはアイテムボックスに入れておけるし、探索者ギルドとかで売れるわよ」
何か落ちてたので拾い上げた。
《鑑定》
コボルトソルト
ふ~ん。ドロップアイテムか···。
「もしかしてこの先ずっとこうじゃない、よね」
「当たり前です!迷宮を甘く見ると死んじゃうよ!」
「だよな。一瞬焦ったわ~」
「階層を上がる度に魔物は多く強くなっていくから一人で迷宮に入る時は慎重にね」
「分かった」
「あ、これも渡しておかないと」
そう言って懐から黒く楕円球の形をしたガラスの球っぽいモノを2つ取り出した。いや、1つは青色か?
「何、これ。綺麗だね。アクセサリーか?」
「ううん、これは魔結晶と言って、魔物を倒す度に魔力を溜め込んでいくの。黒は10匹未満、そこからどんどん色が変わっていって、青は1000匹以上ね。売れるわよ。持っておくといいわ」
「2つ持ってたら2つに溜まっていくなんて事は」
「無いわね。考えたら分かるでしょ?それより、くっ付けたら1つになるわ。やってみたら?」
「こうか?おおっ、面っ白い。ちゃんと青いのが1つ出来た、でもこれ、ホントに黒いやつの分は」
「ちゃんと足されているわよ。赤と紫とか、色んなパターンで検証されているから。フフ。何か性格が出るわね~」
「放っとけ。君のは?」
「これよ」
「へえ、緑色だね。緑は?」
「緑は1万匹以上、10万匹未満」
「ふうん」
「色々ありがとう。君に出会えて本当に俺はラッキーだったな~」
「迷宮に入るなら皆知ってるわよ」
「君に教えて貰えて幸せだ。つってんの」
「調子に乗らない!」
そう言う彼女の頬は真っ赤だった。
またしばらくは歩き続けた。
角を曲がると次のコボルトだ。
「今度はオーバーホエルミング?やってみてよ」
「いいよ。んじゃ行っくよ~。オーバーホエルミング!」
何か、周りのモノが全て止まる。いや、極端に動きが遅くなった。
そもそも動きの遅いコボルトはほぼ止まっている。
あまり高揚感も無く倒してしまった。
「凄いのね。一瞬見失ったわ。後々も結構使えそうね」
この後、何体か倒してボス部屋へ向かった。
1階層ボスはコボルトケンプファーだった。特筆すべき事は何も無い。
そのまま2階層へと向かった。
「2階層では加えてスローラビットが現れるの、同時に2匹まで接敵するから気を付けて」
「ラジャ」
早速、ウサギとコボルトが一緒に出てきた。
「貴方はスローラビットを、私はコボルト」
「オケ」
スローラビットに向かってダッシュする。
ファリーはゆっくり歩きながら剣を抜く。
よく考えたら俺ファリーが戦っている所を見た事が無い。
あの時はすぐに気を失ってしまったので、その勇姿を見損ねてしまっていたのだ。
オーバーホエルミングでスローラビットをソッコー倒しておいて、彼女の戦い振りを見せて頂く事にした。
流石副団長にして三番隊隊長。
美しさすら感じさせるそれは、感嘆以外の言葉が出てこなかった。
コボルト相手とは言え、全く動かずにいたので思わず「危ない!」と叫びそうになった程だ。
コボルトの斧剣をギリギリかわすとエストックでスッとコボルトの首筋を斬っていた。
「おおっ凄い、流石隊長サマ、美しくさえあったな」
「やめてよ、もー。おだてても何も出ないんだからねっ」
照れるファリー、カワイイ。
スローラビットは兎の毛皮を落とした。
2階層ボスはラピッドラビットだ。
開始早々、やつは俺に向かって突進してきた。
ファリーなら普通に対応しただろうが、俺なら与し易い。と思ったかどうか?
こっちは遠慮無くオーバーホエルミングを使わせて貰う。効果時間内に後二回攻撃を入れた所でラピッドラビットは煙に変わった。
こいつは兎の肉をドロップした。
ファリーは胸の前で腕を組み、頷きながら、
「良く出来ました。偉い偉い~」
と褒めてくれた。
完全に子供扱い(弟か?)だな。これは。
「オーバーホエルミング使ったけどね」
「使えるモノは全て使うのよ。出し惜しみをして死ぬなんて愚か者のする事よ」
「(地雷踏んだか?)それでも、君が褒めてくれるのは、嬉しい」
ファリーはやや複雑な表情を浮かべたが、
「今日はこの辺にしましょうか?」
と、言って踵を返した。