フィーアが馭者席に座った。
馭者席の真ん中、どっかと陣取ると動かない、俺達二人が多少話し辛そうにしても知らんぷりである。
「フィーアさん、話、聞かせて貰っても大丈夫かな?」
「はい」
「フィーアさんの・・・」
「フィーア」
「え?」
「ただのフィーア。さんは要らない」
「そっか。フィーア」
「君の住むウコムの町はどんな所なのかな?俺行った事無くて」
「・・・よく知らない」
俯くフィーアにファリーが助け船を出す。
「獣人と亜人、少し人間の町ね。村長は人間族よ。ちょっと他種族間で排他的だったりするから、町全体の事を知る人は多くは無いわ」
「成る程ね」
あまり、触れない方がいいのか。失敗したかな?
町なのに“村長”かい!みたいな突っ込みは入れない方がいいんだろうな~
「ファリーは村長を知っているのか?」
「知ってはいるけど、会った事は無いの。フィーアの身元引き受け人になってくれた方ってぐらい」
「ウコムの町には他にダークエルフ族の民は居ないのか?」
「シン。同種族だからといって、必ずしも仲がいい、とは限らないわ」
「そうか。俺の郷は単一種族だけの村だったんだ。よく知らずに不用意に立ち入った事を聞いて済まない。悪かった」
頭を下げた。
フィーアは驚いて両手を前に出してくるくる回しながら、
「ううん、いいの。別に気にしてないから」
と、気を使ってくれた。
「元々、盗賊の襲撃前から親も居なかったらしいの」
と言いつつ、ファリーが強引に話題を変えた。
「もう少しでお昼だけど、昼飯にしない?騎士団の受付の娘が作ってくれたサンドイッチ。美味しいよ」
「美味しいね?お兄ちゃん」
「あ、ああ。美味しいね。今度お礼をしないとね」
お兄ちゃんと呼ばれて少し動揺した。
俺に妹は居ない。呼ばれ慣れてないので、ちょっとびっくり、ちょっと嬉しい。
「うん」
「そうだな。そうしてやってくれ。多分、喜ぶ」
「お姉ちゃん、はい、あ~ん」
フィーアが手綱を持つファリーの口にサンドイッチを送る。馬車の手綱って、そこまでしっかり持ってないといけないものか?
「ん、さんきゅ。あ~ん。もぐもぐ」
「お兄ちゃんも、あ~ん」
「いや、俺は」
「あ~ん」
「じ、自分で」
「あ~ん」
「分かったよ。あ~ん」
にこっ。
しばらくすると町が見えてきた。ウコムの町だ。
「村長の家は町の中央付近、大きな家だ」
見えてきた。外に人が二人出てきた。
少し年配の男が手を振り、馬車を制止した。
「こちらです、騎士様。わざわざご足労、お疲れ様で御座います」
「何、これも仕事の内だ」
ファリーは馬上で騎士様モード。
俺とフィーアは馬車から降りた。
「左様ですか。本来なら何かしら歓待せねばならないところ、この後もご任務がお有りとか。あまり、お引き留めしてはならない。と申しつかっておりますが・・・」
「そこまで気を使わずとも良い」
そこで一旦言葉を切る。意地悪なやつだ。
「いえいえ、そのような」
村長は早く帰ってほしそうだ。
「時々様子を見にくる。あまり、心配を掛けないように」
「それはもう」
「それじゃ、フィーア。ここでな。また遊びにくるよ」
「絶対?」
「ああ、約束だ」
そう言って指切りをする。
「何、これ?」
「また会えますように。って俺の郷のおまじない」
「ふ~ん。約束だよ」
「では失礼する」
そう言ってファリーは俺が飛び乗るのも待たずに馬車を出した。
しばらくして手を振るフィーアが見えなくなってから、
「随分、あっけないのだな」
と言うと、
「あまり、不用意に深入りしない方がいい」
と、言われてしまった。
「しかし、」
その先を言う前に、
「恐らく、あまり、いい扱いはされない」
言葉少な目だ。
「分かっているなら、なんで、」
「何も出来ない。察してほしい」
「・・・ごめん」
手綱を強く握るファリーの手をそっと優しく握った。
その後、しばらく無言の時が流れたが、キザマの村が見えてくる頃には談笑するまでになっていた。
日は西に傾き始めていた。