翌朝。
村長への挨拶もそこそこに、紅の家へと向かった。
碧さんが迎えに来てくれたからだ。
「朝早くに申し訳ありません。待たせてはいけないと思い」
「いえいえ、私は暇人ですから」
「それでは村長、シン様を紅の所へお連れします」
紅の居る家までの道すがら、少し話を聞いた。
あの日、この村も盗賊達の襲撃に遭ったそうだ。
第一陣で兄と、両親は目の前で殺され、自身は2階の物置に匿われていた為、助かったが、呆然と村の中を宛もなく彷徨っているところを、第二陣の奴らに捕まったらしい。
リアルにそんな話を聞いた事が無かったので、不覚にも涙が零れ落ちてしまった。
あと一日早くこの世界に来ていたら或いは。などとおこがましい事を考えると、また申し訳なく感じてしまい、更に涙が零れてしまった。
いや、今は紅さんだ。
何とか元気になって欲しい。
とは言っても、一体俺に何が出来るって言うんだ。
まずは会って貰わないと、どうにもならない。
と、言っている間に着いた。紅さんの家だ。
両親と兄と四人暮らしで、碧さんは隣の家に住んでいた。碧とは従姉妹になるらしく、幼い頃からよく面倒を見てくれていたとの事だ。
紅には「
普段、碧さんは隣の家に居るので、紅はそのまま碧さんが面倒をみる。という事になったらしい。
「紅~来たよ~一昨日の剣士様が来てくれたわよ~少しぐらい顔を出さない?」
「碧さん、無理に部屋から連れ出すのはダメです。朝晩食べて、良く眠れれば良くなるかも知れませんので」
まるで比べられるものでは無いが、そっとしておいてほしい、誰とも話したくない気持ちは、少しは分かるつもりだ。
まだまだ時間が掛かりそうだ。
「一旦、村長様の所へ戻ります。また明日、いや、しばらくはこちらに滞在しようかと思います。先に宿かな。この村に宿はありますか?」
「そんな。そんな事までして頂く訳には。あの、私の家に泊まって下さい。私は紅の家に泊まりますから遠慮は要りませんし」
「ええ、と。じゃ、やっぱり村長様の所かな。その旨一応、ご連絡しておきたいし」
「ありがとうございます。では私も一緒に参ります」
「はい、では案内宜しくお願いします」
ワープを使えばすぐだが、めったやたらに使っちゃダメだと言うファリーの言い付けを守る、俺っていい子。
まずは村長宅で碧さんの家に泊めて貰う事を報告し、家に帰りがてら、少し遠回りしつつ、軽く村を案内して貰った。
夕食は碧さんの手料理だ。そんなに豪勢なものは出てこなかったが、とても美味しかった。日本食に飢えていたせいもあったのかも知れない。味噌汁、漬物、醤油、ご飯と、涙が出そうだ。
三回目の起床。
最初は騎士団本部の牢屋。最悪だった。
二回目はファリーの部屋。最高でした。
そして今回三回目。畳に和布団。これもいい。
隣に誰か居てくれれば・・・げふんゲフン。
取り敢えず、どうしようか・・・。まずは紅さんの部屋の外から様子を窺うも反応無し。
朝から碧さんの手料理、ほぼ昨晩と変わり無し。質素なのか、困窮しているのか?
手料理を頂けるだけで幸せだ。
納豆があれば申し分無いのですが・・・。
「あの、碧さん」
「はい、何でしょう?」
「少し、この辺を見て廻ります。ウコムとの間の迷宮にもちょっと入ってみようかと思います。昼には一度戻ってきます。いきなり深い階層には行かないようにしますから、ご心配無く」
「え、そんなちょっと散歩してくる。みたいなっ」
「大丈夫。一階層で死ぬ様なら、紅さんを助ける事なんて出来ませんて」
危なそうなら経験値系削ってデュランダル出せばいいんだし。
心配する碧さんを振り切り、
「行ってきま~す」
出来るだけ余裕を見せて、落ち着かせて歩き出した。
実際、アイダの迷宮一階層も全然、余裕だった。
こちらでは一階層にスローラビットが出た。
兎の皮も兎の肉も売れるらしいし、肉なら持って帰って食べても美味いらしい。
狩り場だ。動きも遅いので楽勝だ。今のうちに通常装備に慣れておこう。ボーナス装備も武器も無しだ。
削って削って、経験値系10×10、結晶化16倍にした。
レベルが上がれば、また考える。
武器は鋼鉄の剣、防具は革の鎧、革の手甲、革のブーツだ。
取り敢えず、第1階層はヨユーなので、早く2、3階層に上がってしまってレベル上げしたい。
あれ、俺、なんで、レベル上げしたいんだっけ?
ああ、タマミや、紅を助けられるぐらいにはなりたいんだった。
その他は、特にどーでもいいのか。ま、他に出来る事も無いしな~。
と、言っていたら、ちょっとした小部屋に来た。
部屋の奥に扉は無いので、まだボス部屋の前ではない。
ひとまず帰るかな?迷宮の中は今何時か全然分からん。
ワープで紅の家の裏に戻ってきた。
辺りは多分、正午前?太陽はほぼ真上だった。
「う~ん、碧さんの作ってくれるご飯は美味しいな~」
ご満悦である。
飯、味噌汁、漬物。これだけで幸せな気分になる。
「ただの味噌汁ですよ。シン様は持ち上げ過ぎです」
「私の郷の者に食べさせたい。皆分かってくれる筈です。決して私の事を嘘つきだなんて言わないですよ」
「す、すみません、決してその様な意味では・・・ハウアウ」
「冗談ですよ。すみません、意地悪してしまいました」
「ほ、良かった。ひどいです。シン様」
「ははは、すみません・・・。紅さん、降りてきませんね。少しずつ、何か話が出来ればいいのですが」
「すみません、あの子・・・」
「いえ、焦らずゆっくりいきましょう」
「はい」
「ところで碧さん、私のパーティー編成に加わって頂けませんか?」
「え、私は戦闘はちょっと・・・」
「一緒に戦って欲しいという訳ではありません。パーティーに入っているだけでメンバー全員のステータス補正が受けられるので、是非。という事なんです。実際には家に居てくださっていいんです」
「入るだけでいいのでしたら」
「今、パーティー編成の画面が浮かび上がりましたよね。心の中でハイと念じて下さい。・・・ハイ。OKです」
昼ご飯も食べ終えたので、また迷宮に行く事にする。
「それではまた迷宮に行ってきます。紅の事、宜しくお願いします。ああ、そだ。兎の肉って調理出来ますか?迷宮で手に入れたんですけど」
「出来ます。っていえ、それはシン様のものであって・・・」
「結果、私のお腹に入るなら同じ事です。では、行ってきます~」
そう言って無理矢理碧さんに兎の肉を渡して、家を飛び出した。
一階層はボスもクリアして二階層まで上がった。
二階層はニードルウッドだ。
ニードルウッドはブランチまたはリーフを落とした。
リーフを拾うだけで薬草採取士になれるのか。
夕飯は兎の肉のステーキだった。
「あの、碧さんのは?」
「私が頂く訳には」
「私が取ってきた物は食べられない?」
「違います!畏れ多くて・・・」
「一緒に、同じ物を食べましょう。別に奴隷って訳でもないんだし」
「本当に美味しいです。紅さんにも食べさせてあげて下さい。さっき取ってきた分も有りますから、後からでも」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
何度も礼を言って食べてくれた。美味しいって言ってた。
「あの、シン様」
「何でしょう?」
「お風呂を入れたんです。お入りになられませんか?」
「お風呂ですか?あれは確か貴族か大商人ぐらいしか入れない。と聞いたんですけど?」
「小さいですが、この家には有るんです。めったに入れたりはしないんですが」
「そうなんですね。せっかくですので入らせて頂こうかな」
「はい、是非」
小さい。と言っていたが、うちの家の風呂より大きい。
久しぶりの風呂だ。気持ちいい~。
湯船には頑張れば三人は入れる。
俺と碧さんと紅さんで・・・。ハーレムだ。天国だ。桃源郷だ。男のロマンだ。
・・・イカンイカン。鼻血が。いいだろう、妄想ぐらい。
等と妄想を膨らませていたら、
「お湯加減如何でしょうか?」
と、声が掛かった。
あれ?こういう時って窓の外から聞こえてくるものでは?
今、脱衣所の方から聞こえた気が・・・。
「はい、丁度いいって、おわぁ。あ、碧さん、何を?」
うっすい着物一枚羽織った碧さんが後ろに立っていた。
薄い碧色の着物で丈は短く、太股の上までしか無い。
そりゃそうだ。上衣なんだから。前を閉じていないので、ちょっと身体を捩ったら見えちゃいますよ!
「お背中、お流しいたします」
「だ、ダメですよ。そんな事しちゃあ」
「私ではお役に立てませんか?」
「あ、ズルい。断れないじゃないですか」
嬉しそうに笑ってはいるが、緊張もしている。一大決心して来たんだろう。恥をかかせる訳にはいかない。というのは言い訳だ。碧さんの魅力に抗う事が出来なかったんだ。でも何とか、踏みとどまるんだ。俺!
「ありがとうございます。でも、これ以上は駄目ですよ。夜、私の寝所に来るとか」
一瞬、碧さんがビクっと反応した。来るつもりでしたね?
「いやぁいい湯でした。ありがとうございました」
碧さんに背中を流して貰ったし、前も。そこは頑張って死守しました。
先に上がらせて貰い、寝間着に着替えながら、お湯を流す音に集中していた男の子がいましたとさ。