昼前、ウコムの冒険者ギルド
みんなの分の魔結晶を買って帰ろうとした時、声を掛けられた。
「失礼ですが、そちらはフィーア様ではありませんか?」
声を掛けてきたのは、中年のおじさんだった。
身なりは良く、物腰も柔らかいが、どこか警戒を要する人物に思える。隙だらけだし、弱そうだが、何とも言えない威圧感がある。
何より、フィーアが俺の陰に身を隠した。
「何か御用でしょうか?」
「これは失礼を。私、オーゾで生活環境問題の研究をしております、クツカムと申します」
研究というワードが引っ掛かった。
「それで?」
「そちら様はフィーア様の保護者様。という事で間違い御座いませんでしょうか?」
何か“様”の多いおっさんだなぁ。
「なら?」
「私、そちらのフィーア様の所有権を持つ者なのですが、その方を返して頂けませんでしょうか?」
「これは異なことを。ウコムの村長殿なら分からなくも無いが、所有者ですか?この子は奴隷では無い筈ですが?」
「言い方が悪かったでしょうか?彼女は我が研究機関の被験者なのです」
「そうでしたか。で、それと彼女の所有権とどの様な関係が?」
「物分かりの悪い坊やですね。そいつには莫大な金が掛かっているのですよ。今日までの養育費ならくれてやるからさっさと返せって言っているんですよ」
「どこかでインテリジェンスカードの確認でもしましょうか?あなたにフィーアの所有権が有るのか、フィーアに誰かの所有物である事の記載があるのか、私に盗賊の烙印があるのか、一目瞭然でしょう?」
「そ、そんなものは必要ない!ヌマーフィーア!さっさとこっちへくるんだ!」
「誰のカードにも明記が無ければ、あとはこの子の意志次第だ。フィーア、どうしたい?(俺を信じろ!)」
あのフィーアが震えている。
このやろう、フィーアを怯えさせやがって!
俺は静かに頷き、フィーアの手を握りしめた。
フィーアも深く頷いて俺にしがみついた。
ここで初めておっさんを鑑定した。
クツカム 男 48歳
研究者Lv78
装備 **** **** ****
ちょっと待て。この際、研究者ってのはいい。
その装備は何だ?文字化けしてるぞ?翻訳不能だってのか?
「どうしても返さんと言うならこっちにも考えが有る!」
「だから、インテリジェンスカードをチェックすれば」
「決闘だ!決闘しろ。それで白黒つけようじゃないか!」
「断る」
人の言う事を途中で遮りやがったので、こっちも即答してやった。
おっさんクツカムは顔を真っ赤にして、
「な、貴様、プライドというものが無いのか?!」
「何それ。美味しいの?」
ムッキィー!!
わっはっは、怒った怒った。
ま、このまま立ち去ってもいいが、後々、色々と因縁を付けて粘着されても面倒だしな。どうするか?
訳の分からない装備ってのは気になる。
ん?さっき、おっさんのレベル・・・
レベル99になっている。
バカなのか?いやまあ、知らないよな?
まだ何か喚いている。
「いいのか、あんた。あんまり強そうには見えないが?」
「小僧、今更泣いて謝っても許してやらんぞ?」
「あんたこそ。途中で剣は止められないよ?」
「ムッキィー!もう許さん。今ここで死ぬがいい!」
「フィーア、いいのか?本当に殺す事になるが?」
上目遣いでコクリと頷いた。
「死ぬ前に言っておく、私が勝ったらフィーアを返して貰う。逆も然りだ!」
「温い。俺が勝ったら今後一切フィーアに関わる事を認めない。あと、これは1対1、俺とあんただけの勝負だ。交代も追加も無しだ。今ここでケリを付ける。いいな」
「いいだろう、そこの広場でやるぞ」
その広場なら見物人もいるだろう。
広場にはワラワラと見物客が集まりだした。
「覚悟はいいか、小僧!」
「どっからでも掛かってこいや!」
ヤツが手元で何かリモコンを操作する。
俺は経験値系を全部外し、デュランダル、アクセ二を出し、あとは敏捷に全振りした。
ヤツはまっすぐこちらへ向かってダッシュした。
ダッシュなんてもんじゃない。
ああ、あれだ、加速装置だ。
多少、フェイントでも掛ければいいものを、まっすぐ来るもんだからよく見えた。
左足を退いて躱す。
俺の左を勢いよくおっさんが通り過ぎる。
十分余裕を持って躱したつもりだったが、左肩に強烈な痛みが走った。
すれ違いざまに切られた。
だがこっちもヤラレっぱなしでは無い。
こちらはヤツの左手を切り落としていた。
デュランダルあ~んど、ボーナスアクセ様々だ。
しかし、このおっさん、全く痛がっていない。
血も出ていなさそうだ。
「なぁあんた。この辺で止めにしないか?」
「兄様ぁ!」「お兄ちゃん!」
「怖じ気づいたか?小僧。尤も、こちらはここで止めるつもりなど無いがな」
「兄様!」「お兄ちゃん!」
大丈夫だよ。妹達よ。
美少女妹二人の見ている所でお兄ちゃんが負ける訳ありません。
と、ヤツの切られた左手側から新たな腕が生えてきた。
ああ、狡くない?
今度は両手人差し指から、バチバチと音が鳴り始めた。
オイオイ、まさか、電気ショックじゃあ、無いよ、ね?
ビシャ!ゴウ!!冗談じゃない!
咄嗟に避けたが、右腕が痺れて動かない!
ああ、もう。しょうがない!
オーバーホエルミング!
すぐ背後に回り、背中から袈裟懸けに振り下ろした。
一瞬、おっさんの動きが止まったが、直ぐに動き出した。後から聞いた話だが、あれが身代わりのミサンガの効果らしい。
再び動き出したおっさんは更にスピードを増した。
俺はどんどん切り刻まれていく。
くそっ、これ以上速くは動けないぞ!
「もう止めて!何でも言う事」
フィーアが絶叫し、止めさせようとするのを紅が口を押さえて必死に制止する。
二人とも涙を流しながら見守っている。
ヤバいヤバい、オーバーホエルミングが切れる!
ええい、ちゃんと発動してくれよ?!
エクストリームドロップデス!!!
おっさんが事切れた。
「ゴメンな、フィーア。手加減する余裕が無かった」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!ごめんなさい。ごめんなさい!」
「兄様!直ぐに手当てします。動かないで!」
「ありがとう、紅。ありがとう、フィーア。ありがとう、ありがとう・・・」
周りにはもう、誰も居なくなっていた。
俺はかろうじてワープを念じる事が出来た。