オーゾの町
皇都からの帰り道、ワープの中継地点としてオーゾの町に立ち寄った。
武器屋によって何かいい武器、または槍に合う武防具が無いか見ながら歩いていたら、とんでもない目に遭った。
町の広場
「・・・※※※!!!」
「!!@@@%%%」
「###§§§」
ブラヒム語では無いので、何と言っているのか分からないが、穏やかではない。怒号、罵声。耳障りの悪い声ばかりだ。
君子なんとやら、だ。
さっさと通り過ぎようとしたら、フィナが袖を引いた。
「お兄ちゃん、あれ」
「見るな。行くぞ」
「でも」
「俺の手は二本しか無い」
「ダメだよ。あれ、昨日の私だよ?」
「俺は慈善活動家じゃない!」
「お願いします。いっぱいお手伝いします。もうニンジン残したりしません」
「そういう問題じゃない!」
ひっく、ヒック。しゃくりあげている。
こっちが根を上げた。
「分かった。今、この場を助けるだけだ。その後は関わらない。それでいいか?」
これが限界だ。下手に駆け込み寺にはしたくない。
「うん」
「よし。じゃあお前は家に帰ってろ。絶対手を出すな?!」
後ろの壁にワープゲートを開く。
フィナが入ったのを確認してゲートを閉じる。
「ふう。さて・・・」
まずは現状把握だ。
広場の真ん中に二人、国だか、町だかの英雄を称えるでっかい銅像を背にして身を屈めてうずくまっている。
そこに罵声の嵐。まあ、これはいい。しかし、そこに石やらゴミなんかが大量に投げ込まれている。
二人とも、そこかしこ血だらけだ。
俺は基本的に平和な国の人間なんだ。
その光景を見るだけで涙が出そうになる。
だが今は感傷に浸っている場合じゃない。
どうするよ、俺。
周りの住民に見られない事を第一に、誰も傷つけずにこの場を脱出しなければならない。
脱出は、あの二人が背にしている後ろの銅像の土台部分を使ってワープすればいいだろう。ワープの入口だが、ここからでは誰かに見咎められる可能性もある。奴らの背後の建物の裏からワープし、戻ってくれば、まず見られる事は無い。
次に俺の顔バレ対策だが、民衆と二人の間に火の壁でも出すか?それだけでは横から顔を見られるかも知れない。
少なくとも、この国には天気予報が無いため、常時雨合羽を持ち歩いている。合羽を被り、フードをすれば顔をはっきりと認識はされないだろう。
後は体制とタイミングだ。聴衆の視界を遮る為には二人の近くに壁を現出させる必要がある。また、そうする事で二人の体を起こす事が出来れば、上手く聴衆から俺を隠す事にもなる。
よし、考えている間に裏手に回り込んだ。
キャラクター再設定で、経験値系を全部外し、腕力と敏捷のステータスを極振りにしておく。
行くぞ!
ファイアーウォール!
よし、上手くのけぞった。現出位置もちょうどだ。
オーバーホエルミング!
ワープ!
ワープゲートの位置も申し分無い。
すぐにゲートをくぐる。
上手く二人の真後ろに出た。
オーバーホエルミング中に話しかけてもどうせちゃんと聞こえやしない。
二人を両脇に抱えると、今来たゲートに戻った。
あとはオーバーホエルミングが続いている間に更にワープゲートを開き、キザマの家までワープする。
「はっ、はあ、はあ」
気分が悪い。最悪だ。なんで俺がこんな目にあわないといけないんだ。一体俺に何の得がある?ただ身バレのリスクを負っただけじゃないか。
・・・ああ、久し振りだな、この感覚。しまった、薬の準備をしておくんだった。
キャラクター再設定で、ステータスの極振りをやめ、MP回復速度を上げておく。
すぐに、
「フィナ!二階の空いてる部屋の雨戸を下ろして、そこに皆を集めろ」
そこまで言って一息ついた。
心配したレナと碧が、俺の両脇を支えて二階まで連れて行ってくれた。
二階空き部屋にて。
二人は部屋の入口近くに正座し、入口すぐ前にはレナが霊剣山姥切国広の柄に手を掛けて身構えている。俺は窓の前に胡座をかき、両脇をフィナ、碧が座る。二人の応急処置は済んでいる。
「まず最初に言っておく。今から話す事は非常に秘匿性の高い事柄が多い。その為、お互い信用出来ないうちは、名前も訊かなければ名乗りもしない。いいな」
極度に緊張した様子の恐らく歳上の女性と、そうでもなさそうな歳下の女性。
「はい。この度は危ない所を助けて頂き、ありがとうございました」
「礼ならそこのダークエルフの娘に言ってくれ。俺は君達二人を助ける事には反対だった」
歳上女性はフィナに向き直り、もう一度礼を述べた。
「それから、助けた事が迷惑だったのなら謝罪するし、あの場所へ送り届ける。言ってくれ」
「滅相も御座いません。本当に助かりました」
「分かった。では話を始めようか・・・あの場所でのあの状況、何があったのか、説明してくれるか?」
「はい。ですが、説明するには私達の個人情報もある程度、お話しする必要があるかと思います。ご容赦頂けますか?」
「いいでしょう」
「私達はオーゾの町に住んでおり、主に日雇いの仕事をして暮らしています。日々の暮らしは厳しく、生きていくだけで精一杯な状態でした」
「そんな中、二人で歩いていた所を、一人の男性が肩が触れたとか、薄汚れた服で等と仰って私達を罵倒されたんです」
「普通、その位なら、あそこまでの騒ぎにはならないのではないか?」
「はい。あの方が酔っていらした、という事もあるのでしょうが、私の種族がいけなかったんです」
その先を言っていいものかどうか逡巡していたので、
「続けて」
背中を押してやった。
「私が熊人族であったが為、被差別民として、扱われる事となってしまったんです」
なんだそれ。
「この子はただの猫人族なのに、私に巻き込まれてしまって」
「待て」
2回確認した。間違い無い。
「この話は以上だ。早々にここから立ち去れ」
「え?」「兄様?」「お兄ちゃん!」
ティナ・ティファニー ♀ 23歳 熊人族
村人Lv15
装備 なし
ミー ♀ 14歳 虎人族
村人Lv15
装備 なし
そうだ。この子は猫人族なんかじゃない。
しかし、嘘を付いて何のメリットがあるんだ?
いや、希少種と判れば売り飛ばされたりするのか?
「お待ち下さい!私が何かお気に障る事を申しましたでしょうか?であれば、私のみを処断下さい。どうか、この子だけは」
「この期に及んで、嘘をつく者を信用出来るか」
「私は嘘なんて何も!」
「先程、この子は猫人族だと言ったな?」
「はい。そうです」
「本当か?」
ミーに向かって問い質した。
「たぶん。みんな、そう言うから・・・」
「え?」
微妙に互いの認識にズレがある様だ。
「この子は猫人族ではない。
「ええ?!」
ティナは絶句している。どうやら、本当に知らなかった様だ。
「どうやら、本当にそう思っていた様だな。君も自分の事、本当に知らなかったのか?」
「はい」「うん」
「そうか、判った。続けて」
「はい。ありがとうございます。それで、私は見た目からして他の獣人とは違いますので、あの様に苛められるんです」
フィナは二人の気持ちが痛い程分かるんだろう。グジグジ泣いている。
ヤメロ。俺だって泣きたいのを我慢しているんだぞ!
「ああいうことはよくあるのか?」
「そんなに珍しい事ではありません」
「余所へ移動しようとは思わないのか?」
「仕事が有って安宿のある町はここだけです」
「安いのか?」
「宿と言うか、低所得者或いは被差別民の為の宿泊施設が在るんです」
「そんなものが在るのか」
「政府から補助金が出ますから」
プロパガンダか・・・散々搾り取っておいて政治宣伝。民衆は自分達より下の層の存在の解体を望む筈は無い。被差別民は少数派だ。クーデターでも起こさない限り、国の構造は変わらない。
・・・吐き気がするが、それで助かる命もあるか・・・
「それで、この状況を甘受していたのか」
「はい」
ここから抜け出すにはどうすればいいんだろう。為政者が簡単に抜け出せる仕組みにしている筈は無い。
抗うだけの力を手に入れるしか無いのか。
「色々キツイ言い方をして済まなかった。君達二人はもう一度、ここに居たいかどうか、考えてくれ。俺達は俺達で君達を受け入れていいものか考える」
「はい。ありがとうございます。ありがとうございます」
いや、まだ決まった訳ではないからね?
「良かったね。私はフィナ。よろしくね?」
「本当に良かったですね。ようこそ、我が家へ。私はレナ。よろしくお願いします」
「私は碧と申します。分からない事が有ったら、何でも聞いて下さいね」
「皆さんありがとうございます。ティナです。どうか、何でも申し付けて下さい」
「ミーです。よろしくお願いいたします」
五人全員涙を浮かべている。
ティナとフィナは号泣している。
あの、皆さん?まだ決まった訳では無いですよ。
そう思いながら俺も涙が止められなかった。