※この作品はR-18です。

ワルキューレの迷宮騎行   作:葵翠

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第五章 黄昏
060 油断


アイダ迷宮32階層。

 

 

 中間部屋で少し休憩して探索を再開した。

 

 すぐにボス待機部屋まで来た。

 

「よし、ここのボスを倒したら今日は終了にしようか?」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「それでは行きます。プロテクション。ゴー!」

 

 ボス、マザーリザード。

 

 こいつの特徴をちゃんと予習しておくべきだった。

 

 いつもの様に、パンダ、フィナの捕縛、あとはフルボッコするのみの筈だったのに・・・。

 

 俺はフォーメーション通り、8時の位置、アイは6時の位置に居た。

 

 一瞬、マザーリザードの動きが止まった様に見えた。

 が、何の変化も無い。

 

 いや、違う。

 

 アイもフィナも攻撃は続けているのに、中断出来なかったのか?

 否、そもそも、魔法陣出たか?

 

 アイの右後方にシザーリザードが現れた!

 どういう事だ?

 

 いやいや、そんな事より、アイは気付いていない!!

 

「アイィ!!」

 

 とっさに左手を伸ばして、アイとハサミの間に割り込んだ。

 アイの体の陰に出た為、気付くのが遅れたのだ!

 オーバードライブを念じる余裕も無かった。

 

 何とか間に合って俺の左手が、ハサミの前に差し込まれたが、代わりに、

 

 ブシャアーーー‼️

 

「グワァーーー!!」

 

 俺の体は宙を舞い、目の前に俺の左手が、普段見る事の無い向きから回転していた。

 

「あ、あ、アガガガ・・・」

「主様!」「兄様!」「兄々!」

 

 みんな、持ち場を離れてシンに駆け寄ろうとした。

 

 普段見せた事の無い形相、声で叫び、のたうち廻る俺の姿は恐ろしかっただろう。

 

「ギギギギギギ!!」

「嫌、いやぁ!!兄様、兄様ぁ!」

「兄々!にぃにぃぃ。あぁ~ん!」

 

 パニック寸前のパーティーを抑えたのは、フィナだった。

 

「テテ!その位置から動かないで!」

「レナ!お兄ちゃんの手当てを。早く!」

「ミミ!呆けてないで。白虎でボスを徹底的に!」

「アイ!そのハサミを引っ張ってテテの所まで誘導!」

 

「とにかくボスを倒して!急いでぇ!!」

 

 全員、ボロボロに泣きながら、必死に動く。

 

「全員、各個、最大威力のスキル!MP尽きるまで!お願いぃ!!」

 

「紫電一閃!」

「ハニーフラッシュ!シールドバッシュ!靠!」

「白虎嵬変!オーバーロード!オーバーキル!猛虎硬山!」

「レヴァンティン!シュベルトフォルム!フルスラッシュブースト!」

 

・・・・・・・・・

 

 全滅した様だ。

 

「アイさん、ドロップ品の回収を。ミミ、泣くのはあと。お兄ちゃんの腕を持ってきて!!レナ、お兄ちゃんの腕をくっ付けて手当て!ちゃんと付かなくてもいいから。あと漸次回復を。テテさん、お兄ちゃんを担いで。動けますか?」

 

「はい!」

 

「33階層に登ってから迷宮を脱出します。全員、付いてきて!」

 

 

 迷宮の外に出た。

 

「ミミ、村に戻って馬車を引っ張ってきて」

 

「フィナちゃん、私たちの馬車はノサヨ村!」

 

「ミミちゃん!村長の家にも馬車があるから、それ借りて!」

 

「分かった!オーバーロード!」

 

 ミミの姿はあっと言う間に見えなくなった。

 

「フィナちゃん、どうするの?」

 

「分かりません、だから、コイケおば様の所へ行きます。すみません、今は考える時間も惜しいので」

 

「ううん、いいのよ。良く持ちこたえてくれたわ。ありがとう」

 

「姉様ぁ、兄様の血が止まりません~!」

 

「レナ、今、主様は動かせそう?」

 

「無茶言わないで!絶対安静です!!」

 

「それでも皇都まで連れて行かないと!」

 

「馬車で皇都までは絶対ムリです!」

 

「ウコムの町の移動支援で皇都まで飛べば?」

 

「そうか、冒険者ギルドね?」

 

「お兄ちゃん、パーティー解除出来る?」

 

「う、うう・・・」

 かろうじて、パーティー解散した。

 

「血は?止まった?」

 

「そんな簡単に!?大体、何で兄様のミサンガ、まだ足に付いてるの?姉様?!」

 

「そんな、まさか。これでも致命的な負傷じゃないの?それとも実は失敗していた?」

 

「ちょっと待って下さい。身代わりのミサンガって計何個有るんですか?」

 

「テテさん?一体何を?」

 

 何かを察したアイがすぐに、

「5個よ?」

 

「え?私は旦那様に着けて頂きました。ミミのも見ました。」

 

「私もフィナちゃんも兄様に着けて貰ってます」

 

 そこでアイが辻褄の合わない事を言う。

「私は、テテは防御力が高いから一番あとだって・・・」

 

 この瞬間、四人の顔がみるみる青ざめていく。

「キャアーーー!!兄様!兄様ぁ!!嫌ぁ~」

「お兄ちゃぁあん!」

「そんな、それじゃあ私に着けて頂いたのが最後の・・・あ、ああ、私が、旦那様の、ミサンガを・・・」

 

 そこへ、馬車を曳いたミミが戻って来た。

 

「ありがとう、ミミちゃん。すぐに、兄様を乗せてウコムの町へ行くわ」

 

「ゆっくり、ゆっくりとね?」

 

 全員、乗り込んだ。すぐにウコムに向けて出発する。

 

 アイは馭者席、テテはクッションになる様に荷台でシンを抱き抱えている。

 レナは左腕にずっと漸次回復をかけている。

 フィナはずれない様に左手を抱えて固定している。

 ミミは右側でシンの体にすがりつき、泣きじゃくっている。

 

「兄々!ずぅっと一緒って言ったでしょぉ?目を覚まして?」

 

「ミ、ミミ。約束したろ?一緒だって。何処にも行かないよ?」

 

「兄様!」「お兄ちゃん!」「旦那様!」

「兄々!?兄々!うわ~ん!」

 

「お兄ちゃん。しっかりして。今からウコムの町まで行くよ?」

 

 

 

ウコム村

 

 

 冒険者ギルド

 

「お願いします。今すぐ皇都まで、何方か連れて行って下さいませんか?」

 

「今すぐ?五人なら銀貨10枚だな?嫌なら・・・」

 

 恐らく、相場の倍だ。足元を見られているのは判っているが、揉めている場合じゃない。主様から何かの時用にと言って預かっていた銀貨を10枚取り出し、

 

「はい、これ。フィナ。貴女は馬車で皇都まで来て」

「はい!」

 

 この慌て様、これならもっとぼったくれたのに。と内心、悔しがった親父はしょうがない。といった体でパーティー申請してくる。

 

「お兄ちゃん、お願い。この人のパーティー申請、受けて?」

 

 フィナは、オッサンと共にギルドの掛けカーペットに消えていく五人を、ずっと胸の前で手を握って見送った。

 

 

 

コイケ夫人邸

 

 

「おばちゃん。どうか兄々をタスケテ!?」

 

 夫人は、流石に全員、俺の血で血塗れの姿に驚いていたが、そこは元冒険者。察したのだろう。

 家に上げてくれた。

 

 事情を聞いた夫人は、

 

「それなら、カナキさんね。助けられるかどうかは分からないけれど、必ず力になってくれると思うわ」

 

「カナキさんなら、商人ギルドですよね?テテ、道覚えてるわね?行って、事情を話して連れて来て。ミミも一緒に行って。お願い!」

 

 アイがとにかく早口でまくし立てるので、

「「はい!」」

 ミミ、テテも急いで飛び出して行った。

 

 

 間も無く、カナキさんはやって来た。

 と言うか、ミミに担いで連れて来られた。

 ミミは、行きはテテを負ぶって、帰りは道も分かるのでオーバーロードを使いながら、帰ってきた。

 

 なのでテテが戻って来たのは少し、後になってからだ。

 

「一体、何がって、おわっ!?シンさん?」

 

「詳しい話はいずれ。何とかなりませんか?」

 アイは急いでこちらの用件を押し付ける。

 

 ほとんど、まともに事情を説明出来ていない様だ。

 とにかく、俺が、大怪我をして、重症とだけ、話したそうだ。

 

「私は専門家ではありませんので、正確な事は申せませんが、一度腕を切断されているのですよね?それを“手当て”で無理矢理くっ付けている、と。」

 

「はい、その通りです」

 

「ふむ・・・それだと、骨、筋肉は繋がっても、血管や神経は繋がっていないのではないでしょうか?」

 

「そんな!?」

 

「今、シンさんは意識はある様ですが、恐らく気絶した方がましな程、痛み、苦しいのだと思います」

 

「イヤ!いやいや!兄様?兄様ぁ!」

「兄々ぃ~!」

 

「そ、それでは、一体どうすれば?」

 

「うう~む。ここまでとなると・・・万金丹かエリクシールでないと・・・万金丹ではもしかしたら駄目かも・・・」

 

「緑豆は持っているが、万金丹は作れなかった・・・」

 傍に居るレナだけに聞こえる小さな声で告げた。

 

 それを聞いたレナはアイに首を振って見せた。

 

「エリクシールというものは、どうすれば手に入りますか?」

 

「そ、そんな簡単な話では。万金丹ですら、簡単には店頭には並びませんし、エリクシールに至ってはオークションでないと・・・あとは好事家に伝手があれば、交渉次第では或いは・・・」

 

「コウズカ・・・?その方と交誼は?」

 

「実は無いわけではないのですが・・・シンさんは覚えていらっしゃるかも・・・以前、シンさんとオークションを見に行った時、エリクシールを競り落とされた方なのですが、私、あの時、ちょっと意地悪をしまして、余り良い印象を持たれては・・・」

 

「その方には会えますか?今すぐ!」

 

「え?今すぐと言われましても・・・」

 

「オヂサン、お願いします!兄々をタスケテ!?」

 

「お、おじさん、ミミちゃんに頼まれると弱いなぁ・・・」

 

「私からもお願いします!」

 

「しかし、あの時、エリクシールは130万で競り落とされたんですよ。少なくともそれ以上は出さないと・・・」

 

「そ、そんな大金・・・」

 

「幾らなら出せますか?」

 

「納税用に置いていた、30万と合わせても、せいぜい、70万ぐらいしか」

 

「背に腹は代えられない。と仰るのでしたら、レナ様の打刀、差し出せますか?」

 

「はい!」

 即答するんじゃない!

 

「駄目だ!あれは村の・・・た、か、ら・・・」

 意識が・・・ぼうっとしてきた。

 

「では体は?」

 

「幾らでも。兄様の命と引き換えならば、メンバーの誰一人として拒む者などおりません!」

 

「絶対!駄目だ・・・」

 もう、ほとんど・・・。

 

「兄様は黙ってて!」

 

「足りない分は私が出します!」

 コイケ夫人が口を差し挟む。

 

「奥様!」

 

「確か、貴方が以前、フリッシュヒンメルを買いたいって人が居るって仰ってたわよね?どうせ、その方でしょ?なら、フリッシュヒンメルでも良いんじゃない?」

 

「確かにそうですが・・・」

 

「あ、あの、カナキ様、もしかして、その好事家というのは、以前キザマ刀をお買い上げ下さった方では?」

 

「それもそうです」

 

「何でそんな方に嫌がらせみたいな事を?」

 

「私だって、ずっと欲しかったんですよ」

 

「それであれば、今所持している物では無く、今後その刀鍛冶が作る武器を、優先して献上する、という事ではどうでしょうか?それなら、その方のリクエストなんかもある程度実現出来るかと思いますし」

 

「リクエスト?」

 

「剣種、大きさ、長さなどでも、スキル付与でも」

 

「おお、それは凄い!十分、交渉のカードとして使えますよ!」

 

「で、その方にはすぐに会えますか?」

 

「う~ん、どうでしょうか?その方のお住まいは存知上げておりますが、アポ無しで会えるかどうか・・・」

 

「お願いします。どうか、どうかその方にお取り次ぎをお願いします!」

 

「分かりました。私も男です。贔屓筋の危機とあらば、お力添え致しましょう!」

 

「では、すぐに」

 

「お待ち下さい。一旦、ギルドに寄りましょう。そこで冒険者に邸宅まで送って貰います。ですので、人選して下さい。そうですね。三人までで」

 

「分かりました。主様、主様を背負うテテ、回復の為のレナ。意思決定は貴女に任せます。しっかりね。レナ?」

 

「はい!姉様」

 

 テテは戻って来たところをトンボ返りだ。

 

 

 果たして、その方、豪商トモツ様邸まで来た。

 

「お帰り下さい。当家主はアポの無い方とはお会いになりません」

 

「お待ち下さい。前日、お譲りした、キザマ刀について、どうしてもお伝えしなければならない事が有りまして、取るものも取り敢えず、罷り越しました次第にございます」

 

「・・・しばらくお待ち下さい」

 

 本当にしばらく待ちました。

 

 漸く、トモツ様にお目通りが叶った。

 

「これはこれは、カナキ様、この前のオークション以来ですかな?」

 

 この人もオークション会場に来ていたのか?結構、根に持たれてないか?

 

「実は・・・。」

 

 

「なるほど、エリクシールを。確かに魅力的なお申し出ですね?」

 

「で、では?」

 

「しかし、まだ少し足りませんね」

 

「そんな、正直、キザマ刀の方が」

 

「いいえ、足りませんね。例えば、そちらのお嬢さん、一晩、私と付き合って頂けますか?」

 

 俺は即答した。

「お断り致します」

 

 即答したのに、レナは

「そんなモノで良ければ、幾らでも!」

 

「ほう。口だけではありませんかね?」

 

「なんなら、今ここで脱いで見せましょうか?」

 この娘は・・・!

 

「ダメだ。そんな事をする位なら一生、片腕でも構わない!」

 

「言うだけなら幾らでも言えますよね?」

 

「すみません、少し外に出ましょうか?」

 俺の言葉が信用出来ないってんならっ!

 

「な、何を?」

 

「この娘にそんな事をさせる位なら、私の腕を切断してお見せします!」

 

 レナの打刀を抜いて中庭に出た。

 そのまま、自分の左腕に剣をあて、未だに血の止まらない傷辺りから再び切り裂こうとした時、

 

「ま、待った、待った。それには及びません。あくまで覚悟を知りたかっただけです。今、そんな切羽詰まった探索をしている知り合いが居る訳では有りませんしね」

 

「それでは?」

 

「はい、お譲りします。但し、カナキさんには、次、エリクシールを入手したら、それを私に譲って下さい。それまで、レナ様の打刀はお預かりします。如何かな?」

 

「カナキさん!お願いします!後日、カナキさんがエリクシールを購入された際には、私達で費用、手数料、お礼金全て用意させて頂きますので!」

 

「カナキさん、お願いします!」

 テテも刀を握ったまま、ほとんど気を失いかけている俺を抱きながら、懇願する。

 

「私にも、キザマ刀、融通して下さいよ?」

 

 分かってますよ、カナキさん。

 

 レナは何度も何度もトモツ様にお礼を言い、テテは気を失っている俺を抱き抱えて豪商邸を後にした。

 

 ギルドお抱えの冒険者にはコイケ邸まで送って貰った。

 

 フィナはウコム村から馬車に乗ってコイケ邸まで来ていた。

 

 

 

 

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