コイケ夫人邸
客間のベッドに寝かされている、俺を中心にみんなが取り囲んでいる。
「兄様。エリクシールです。さっ、お飲み下さい」
レナに渡された薬を飲み込む。
こんな薬一つでほとんど全ての怪我、病気が治るなんて、やっぱり変な世界だよな~。
しかし、体に何かが駆け巡る様な感覚がした、と思えば。
「うそ。本当に痛く無い。左手、動く。動くよ。レナ。みんな~!!」
「兄様ぁ!私の、私の兄様!!」
「兄々ぃ!兄々ぃぃ~!!怖かったよ~~!!」
「お兄ちゃん!ごめんなさい。守るって言ったのに、ご免なさい!!」
「旦那様!!良かった!私に生きる力をくれた、私の愛する旦那様!!」
「主様!!すみません、済みません!私がハサミに気付いてさえ居れば・・・!」
「サアサア皆さん?今日はシンさんの生還記念日ですよ。シンさん、今日はもう、ノサヨ村に戻る力、残って無いでしょう?今日はここで、ご飯、食べて帰りなさいな?皆さん手伝って?」
いつもなら、一番張り切るミミが、俺から離れない。
よっぽど怖かったんだろう。
まあ、余り役に立たないので、ミミが参加しなくても大して変わらないが。
ずっと抱きついて、俺に頭を撫でられている。
「皆さん、ご心配、ご迷惑をお掛けして済みませんでした」
深々と頭を垂れる。
「本当よ、シンさん。向こうでどんな交渉をして来たのかは存じませんが、フィナちゃん、ミミちゃん、アイちゃんまでずっと泣いて話も出来ない程だったのよ?」
「レナが頑張ってくれましたので。幸い、以降に作成するキザマ刀の専売権と、この後に購入するエリクシール代、購入するまでの間、山姥切国広の貸与で済みました。作成する刀についても先方の意向に極力沿う様に。との事です」
「そう、そうなの?レナ。良く頑張ってくれましたね?」
漸く、肩の荷が下りたのだろう。
レナの目から大粒の涙がポロポロと流れ落ちた。
「姉様、ありがとうございます」
「ありがとうな、レナ。でも、みんな。本当に、本当にこんな俺の為に、自分の体まで差し出そうとしてくれて、ありがとう」
ホント言うと、それだけは止めて欲しいんだけど、これは平行線なので、今は言うまい。
みんな。俺も、コイケ夫人もみんな一緒に号泣した。
少し遅めの晩御飯。今日のシチューはちょっと酸っぱかった。
キザマ村にも、ノサヨ村にも、何も連絡出来ていない。
心配しているだろうか?ゴメンよ。ファリー。
今日はキザマ村にも、ワープしない方がいいだろう、と言う事で、コイケ夫人に教えて頂いた皇都の宿に泊まった。
翌朝、キザマ村。
村へは、皇都からキザマ村まで、借りた馬車でみんな一緒に帰った。
村長には昨日、温泉出来なかった事を詫び、しばらくはフィールドウォークサービスが出来ない事を了承して貰ったあと、ノサヨ村に戻った。
ノサヨ村ファリー宅。
当然。
怒られた。
泣かれた。
胎教にも良くない、とコスヤさんにも怒られた。
みんな、ご免なさい。
で、しばらくは左手に物を持つ事を禁止された。
俺に拒否権、発言権も無いそうだ。目に涙を一杯にしてじっと見つめられると、何も言えなくなる。ズルいよ、みんな。
みんなが出払う時はファリーの部屋にもう一台ベッドを置いて、二人とも、お互いに監視しあって余計な真似をしない様に、と厳命された。シュン。
する事が無いので、改めて昨日の経緯を話した。
「そう、そうだったの。言っておけば良かったね。ご免なさい」
「止めてくれよ。もう、女性の涙は勘弁な!」
「分かったわ。もう泣かないから、許して。でも、本当に心配したのよ?」
「ご免な」
こう言う時、ケータイもメールも無いのは不便だよね?
メール屋さんでも始めるかな?既に冒険者ギルドにそんなサービス無かったっけ?
雰囲気で、キスしたくなった。ガマン我慢。
その後3日間はちょっとした、お使いや、家の仕事を手伝う程度、
更にその後3日間はリハビリ。
こんだけ休めば、十分だろう。色々、返さないといけないモノがわんさと有る。
壱、エリクシール代。頑張って働かないと!ざっくり、あと百万は要るな。
弐、レナの刀、山姥切国広の代わり。当面は堀川国広かな?
参、キザマ刀の作成。アイお願い!
「主様、ご相談があるのですが・・・」
「ん?なんだい?」
「刀製造に関してなのですけど」
「あ、勝手に決めちゃってまずかった?」
「いえ、注文を承るのはいいのですが・・・材料が残り少ないんです」
「ああ、そうなのか・・・んじゃ、取りに行く?買いに行く?」
「あの・・・どちらもそう簡単には」
「え?」
「実は・・・足りないというのは、隕鉄なんです」
「隕鉄?あの、隕石の、隕鉄?」
「はい、流石は主様。隕鉄の存在までご存知とは」
「いや、偶々だよ」
「この隕鉄ですが、村に古くからあったモノで、代々それを使い続けてきたのですが、とうとうそれが」
「尽きてきた。と?」
「はい」
「う~ん。隕石か・・・流石に隕石が降ってくるのを待ってる訳にもいかないよな~」
「はい。迷宮ドロップ品でもあるので、ギルドに有る時もあるのですが、何せ、需要が有りませんので、売れないし誰も集めません」
「なるほど。でも誰も買わないなら、ずっと売れ残っているんじゃないの?」
「確かに、そうですが、店頭に並んでも、なぜかいつの間にか売れているんです」
「つまり、誰か集めてる?」
「かも知れません」
ファリーに聞いてみた。
「知らない?」
「人を○●みたいに言わないで」
「聞いてみただけだって。怒んなって」
「知ってるかもしんないけど」
「っっ、どっちやねん」
「コイケおば様んとこに出入りしてる、カナキさんって商人なんだけど。知ってる?」
「ああ、色々、都合付けて貰ったりしてるよ?」
「あの人がミシフのギルドで珍しい石を買ってるの、見た事あるわ。それがその隕鉄?かどうかは分からないけれど」
「そうか、それはありがとう。聞いてみるよ」
「ううん、いいのよ」
「皇都の商人ギルドへ行ってみようか?」
「はい、主様」
「誰か一緒に行く?」
「ハイハイハ~イ。ミミ行く~」
「あー分かった分かった」
カナキさん相手なら、ミミはちょうどいいかもな。
皇都商人ギルド
「カナキさん居る?」
なんか、なあなあになってきてないかな?
ちゃんと、礼儀正しくしないとな・・・。
「これはこれはいらっしゃい、シンさん」
「こんにちは、オジサン」
だから、礼儀正しく・・・
「今日はまた何用でしょうか?」
「はい、実は、ある素材を探しておりまして。隕鉄をお持ちでは御座いませんか?」
「シンさん、貴方様は一体、何処からそれを私に繋げたのですか?」
「まあまあ、カナキさんならご存知かな?と思いまして」
「実は、もう隠しても余り意味無いかも知れないですね。トモツ様ですよ」
「え?トモツ様?」
「はい、あの方、あの鉱物が綺麗だからって、私に蒐集しろってんですよ?」
「何かに使えるんですか?」
「イエイエ、買った石は箱に入れてたまに眺めるだけで、転売したりもしないから純粋にコレクター魂ですよ。近々行きますので、その時、一緒に如何です?」
「それは是非。製作する刀の注文も、そろそろ決まりましたかね?」
「ああ、そうですね。そろそろじゃないかな?あ、エリクシールはまだ待って下さいよ。そうそうすぐには出回りませんからね」
「そっちはこちらこそ、ですよ。そうそうすぐには工面出来ませんからね。ハハハ」
「そう言えば。以前オークションで出たエルフの魔法使いですが・・・80万でしたよ。奴隷とは言え、人の命が薬より安いなんて、どうなってんですかね~ハハ」
彼は、何とも言えない悲しそうな顔で笑った。
それらを売買する、自分に対する自虐の念もあったのかも知れない・・・。
「それでは、また」
「あ。今少しだけ、まだトモツ様に渡してない分が有りますけど、どうします?」
「是非」
ダマスカス鋼よりかなり安かった。
ノサヨ迷宮19階層。
リハビリである。
1週間迷宮に入らなかったのは、初めてではないだろうか。
余り長く入らないと、体が鈍る、という事もあるが、怖くなるのが怖い、という心配もあった。
今日は午前休みの日だったが、もう十分休んだので、みんなで迷宮に入った。
ここはトロール。
一度通った道。油断も恐れ過ぎも無い。
慎重に進む。
テテもなるだけ数の少ない所を選んでいる様な気がする。
いや、ボス部屋の逆を選んでいるのか?
本当にウチの娘たちは・・・。
「堀川国広はどうだ?」
「そうですね。どうしても刃長の違いが間合いの違いとなるので、最初は戸惑いますが、大丈夫。対応します」
「そうか、もう少し試して無理そうなら、ちゃんと言うんだぞ?」
「はい!」
それでも午前中にボスまで来た。
ここをキレイに倒してお昼にしよう。
ノサヨ村ファリー宅
お昼御飯を食べながら、フォーメーションについて話す。
「今はレナが霊剣を持ってないから俺が11時に入って・・・」
「それだと、旦那様、フィナちゃんの攻撃がサイドアタックにならない可能性が・・・」
「それに、魔法も使うお兄ちゃんのメリットが・・・」
「この際、しばらくの間は
「そうですね。それなら、レナ10時、フィナ2時、私6時、ってあれ?」
「うん、レナ。俺の聖剣、使うか?あれなら山姥切とさして間合いも変わらないだろう?」
「兄様は?」
「俺は脇差し堀川とワンドかな?俺も要、習熟訓練だな」
「昼からはレナちゃんが居残りの番ですよね?」
「ああ、だから、次は俺がレナの位置に入るよ」
当分はこんな感じで行く。
20階層はミミの好物がドロップするので隅々まで廻った。
回廊がマーブリーム、ボスがブラックダイヤツナだった。
次の日。
21階層はラブシュラブ、ボスはラフシュラブ。
22階層はクラムシェル、ボスはオイスターシェル。
その次の日
午前中、ミミが居残りの間に23階層は突破しておく。
階層にノンレムゴーレム、ボスがレムゴーレムだったので。
あまり縁起が良くないからね。
更に次の日
午後からテテが居残りだ。
正直、メインタンク不在が一番影響が大きい。
俺とミミで交互にタンクを行う。
が、俺がタンクをやるとどうしてもDPSが下がるのと、魔物に合わせた魔法攻撃が出来ないので、戦闘時間が伸びる。
ミミに任せる事にした。
ミミがメインタンクをする時は基本白虎なので、時々俺と交代して猫状態に戻って貰う。
うちの娘はみんな頑張りやさんばかりなので気を付けないとな~。