今度こそダメかと思ったが、またもや盗賊のファルシオンは俺を刺し貫く事はなかった。
副官(ぽいLv39の男)の胸に短い槍のようなものが刺さっている。
槍だろうか?投擲用の短い槍なのか?
盗賊の鎧の防御力は無視ですか?
男はそのまま、どう。と倒れ伏した。
「ミシフ騎士団三番隊である!
全員拘束する。申し開きは騎士団本部にてじっくり聞いてやる。
武装解除し、神妙にせよ!
抵抗する者に我らは慈悲の心を持たない物と知れ!」
力強く、有無を言わさぬ威厳を携えた声が響いた。
馬上から聞こえるその声は、しかしながら、清らかで美しい女性のものであった。
戦闘用馬具を装備した馬に跨がり、旗槍を持つその姿は正に戦う女性騎士だった。
フルフェイスヘルムのバイザーは目の上まで上げられ、女性用プレートアーマー、ガントレット、タセット、グリーブ、ソルレット等々、フルアーマー装備だ。
その声よりも俺の声は大きく、そして何よりも、悲し気だったという。
俺の声に反しタマミの声はどんどん消え入り、やがて聞こえなくなった。
「タマミ!珠実ぃ!!」
涙を流しながら珠実を抱きしめ、叫び続けたが彼女はもう返事をしてくれなかった。
そのまま、俺も意識を失ってしまった。
俺達の周りには騎士団の燕尾旗が幾つも風になびき、盗賊どもの断末魔の悲鳴と怒号が響いた。
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目が覚めるとそこは留置所の様な所だった。
周り三面壁に囲まれ、正面には鉄格子だ。
一応、壁に鎖で支えられたベッドに寝かせられていた。
ベッドと言っても木の板に毛布一枚だ。
完全に盗賊の仲間だと思われてる?
ゲーム内で寝落ちとは・・・
一旦セーブしてベッドで寝よう。
ログアウトっと。
・・・ん?ログオフか?
あれ、イグジット?エンドゲーム?ああ、もー。
ゴーグル外して・・・頭には自分の髪の感触しかないぞ?
いや、もうええって。チョー勘弁してや!
何やねん、これ。ゲームクリアするまで返さへんぞ。って事かいな?
何処ぞのアニメちゃうねんぞ。大概にせえよ!
つ、つまり、やり直してタマミ助けるとかも出来ひん、って事か?
ってこれ、ホンマにゲームか?誰もそんな事言うてへんし、盗賊倒した時の感触は現実感無かったけども。鉄の様な血の臭いもやけにリアルやったけど。タマミの、消え入る息の、儚さも。
もう取り返しのつかない現実だってのか?
しばらくぼーっとしていると、供を連れた騎士が二名現れた。
「目が覚めたようだな」
騎士甲冑は脱いでいる。恐らく支給品であろう紅白のストライプ地のワンピース、裾は膝上まで、腰には革のベルト、革のニーハイブーツ、ワンピースとブーツの間は残念ながら、少し灰色のタイツ。
この世界のデザイナーは絶対領域を理解していない。まだまだ修行が足りん。
スタイルの良さがよくわかる装いに赤い髪を後頭部で纏め上げ、腰にはエストック、いや、パンツァーシュテッヒャーと言った方がイメージに合うか。
そして、美人である。昔、まだ幼かった頃の初恋の女性をそのまま成人させた様な、そんな面立ちだ。
涼しげな切れ長の目、左の目尻、つまり向かって右目のすぐ横の小さなホクロがなんかチャーミングだ。初恋と言ったのは初恋の女性にも同じ様なホクロが有ったからだろうか?
見間違ごう筈もない。あの時の女隊長だ。
しかし、一瞬で我に返り、
「あの子は?タマミは?」
と、詰め寄った。
女騎士は申し訳なさそうに伏し目になり、
「済まない、もう既に手の施しようが無かった」
と、謝罪した。
その真摯な態度に一気に冷静さを取り戻した俺は、
「こちらこそ責めるような言いかたでした。すみませんでした」
と言って、深々と頭を下げた。
とは言え、悔恨と不甲斐なさでどうにも嗚咽を止められなかった。
俺が落ち着くのを待って彼女は話を続けた。
「改めて自己紹介を。私の名前はファルステート・リヒテンフォルト。ミシフ騎士団副団長の一人で三番隊隊長をしている」
思わず鑑定してしまった。
(鑑定)
ファルステート・バン・リヒテンフォルト 女 19歳
聖騎士Lv4
装備 激情のエストック 革のニーハイブーツ
「
「それは、済まない。寝ている間にインテリジェンスカードの確認をさせて貰って分かっている」
(インテリ・・・何だって?鑑定の事か?)
それは、まあ、いいとして。
「つまり、嘘を言っていないか、確認した。と」
「気を悪くされないでほしい。これも決まりなんだ」
「いや・・・(俺も今勝手に鑑定したしね。おあいこです)」
いつの間にかお供の騎士は退室していた。
少しの沈黙の後、女騎士が表情を暗くしながら口を開いた。
「もう1つ、私は貴方に謝らなければならない」
「え?」
何を謝る。これ以上は特に謝る事なんてないよね?
「我々の到着がもう少し早ければ助かる命も有ったかも知れない」
「え?それはもう、しょうがない事でしょう?」
「いや、そうではない。そうではないんだ」
何か深い事情が有りそうだな。
「話して貰えますか?」
「ああ・・・」
そう言って彼女はゆっくりと話し始めた。
実は以前から盗賊調伏の依頼、要請は有ったらしい。
しかしながら、現団長は団員の損害を極度に嫌う人物で、それだけ聞けば良い上司に見えるが、要は自分の任期中に死人が出れば経歴に傷がつく。という事らしい。
それを恐れるあまり、出撃の判断に異様に時間が掛かった。という事だ。
そして、動かす隊も、普段から何かと衝突する事の多い彼女の隊のみになったそうだ。
幸い、俺が面倒なボスクラスの人物を倒し、ほぼ烏合の衆と化していた事もあって、損害も無く、とても感謝している。と言われてしまった。
話を聞き終わった俺は、
「話して下さってありがとうございます。
ですがそれはやはり、貴方の責任ではないでしょう?」
「有難う。そう言って貰って、私も少しだけ胸のつかえが取れた気がするよ」
「さて、そろそろ本題に入ってもいいだろうか?」
女騎士様の表情が厳しいものに変わった。
お仕事モードですね。
「はい」
「まずはそうですね。貴方は、その、少しこの国の者達とは違う印象を受けます。ご出身をお聞きしても?」
たったこれだけの会話で、俺はもう完全に彼女の事を信用し切っていた為、これまでの全てを話してしまっていた。