※この作品はR-18です。

天才魔導師の彼女は、他人の精液で魔力を満たしている   作:おるかー

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第一話 二人の日常

 鉄と脂、そして魔物が焼け焦げた特有の刺激臭が、地下深くの洞窟に充満している。

 大陸中央「迷宮都市ガルガンチュア」にある巨大迷宮。その地下二十層が俺達の戦場だ。

 

 世界最大の迷宮で、命を懸けた冒険をするのが俺達冒険者。今日もそんな冒険が幕を開ける。

 されどそんな理念に反するような、どこかダウナーな声が聞こえてきた。

 

「……グレイ、揺らさないで。気持ち悪い」

 

 俺の背後から、不機嫌を極めたような声が鼓膜を叩く。

 その声の主は、俺の背中に特注のハーネスで固定された一人の少女だった。

 

 身長146cm、体重39kg。

 装備を含めても米袋より軽いその少女こそが、この理不尽な世界で気の抜けたことを言う俺の相棒だ。

 

「無茶を言うな。オークロードの突進だぞ」

「うえー。揺れるー。グレイー」

 

 俺はその声を無視し、身の丈ほどもあるタワーシールドに体重を預け、前方からの衝撃を殺す。

 すると次の瞬間、鈍い重低音と共に、衝撃波が全身の骨を軋ませた。

 普通の人間なら内臓が破裂する威力だが、俺の鍛え上げられた肉体と、何より「守らねばならない」という強迫観念が、その場に両足を縫い付けていた。

 

 視界の先には、数十匹のオークの群れ。

 興奮した豚の吐息と、腐った肉のような体臭が鼻をつく。

 

「……はぁ。臭い。生理的に無理」

「ルナ。文句ばかりだな」

「本音を言ってるだけじゃん。でもまあ、準備おっけー」

 

 そう背中の少女――ルナが、けだるげに呟いた。

 俺の肩越しに、華奢な腕が伸びる。

 その指先は戦場には不釣り合いなほど白く、血管が透けて見えるほど細い少女のものだ。

 

「……グレイ、ちょっと我慢してね。一秒で終わらせる」

「了解した。……衝撃に備える!」

 

 俺は叫びと共に盾を構え直し、地面に両足を食い込ませる。

 直後、ルナの周囲の空気が歪んだ。

 

 ルナに詠唱などない。

 彼女にとって魔法とは、祈りや技術ではなく、単なる排泄に近い生理現象だ。

 体内に蓄積された膨大な魔力を、蛇口をひねるように垂れ流すだけ。

 

「……消えて」

 

 ルナが指をパチンと弾く。

 

 瞬間、世界が白に染まった。

 爆発音すらない。

 ただ、圧倒的な熱量と質量を持った魔力の奔流が、前方扇状の空間を削除した。

 オークたちの肉体が、鎧が、武器が、断末魔を上げる暇もなく原子レベルで分解され、ジュワッというタンパク質の焦げる音だけを残して消滅する。

 

 数秒後。

 そこには、赤熱してドロドロに溶けた岩肌と、直線のトンネルだけが残されていた。

 

「……んー。こんなもん?」

 

 ルナは興味なさそうにあくびをし、俺の首筋に頬を擦り寄せてくる。

 俺は無言で盾を下ろした。

 

「……ああ、見事だ。全滅を確認。ただやりすぎだルナ。魔石も消し飛ばすところだったぞ」

「うー。気を付けるよー」

 

 俺の説教が届いているのか届いていないのか、そんなルナの適当な返事が聞こえる。

 俺はため息をついて振り返ると、ルナの首元を確認した。

 

 するとルナの喉仏の下、チョーカーにはめ込まれたクリスタルが視界に入った。ダンジョンに入った時は澄んだ青色だったクリスタルが、今は濁った黄色に変色している。

 それに顔を顰めながらも、俺は落ちていたオークロード達の魔石を回収する作業に入った。

 

「……ねえグレイ。お腹空いた」

「了解。街に戻ったら飯にしよう」

「違う。そっちじゃない。……魔(・)力(・)のほう」

 

 ルナの声が、少しだけ熱を帯びる。

 魔力の枯渇は、彼女にとって激しい飢餓感と、身体の芯が疼くような倦怠感をもたらす。早めに解決せねばならぬことだ。

 

「……あと一発撃ったら、ガス欠になる。……今日はもう帰ろう」

「分かっている。今日は強力な魔法を連発しすぎたな」

「あうー。不覚ー」

「はぁ。しっかり捕まってろ」

 

 そう返事をし、魔石を拾い終えた俺は、ルナの太腿を支え直して来た道を戻り始めた。

 背中に感じる体温は、魔法の反動のせいか、平熱よりも少し高い。

 その熱が、俺の背中を通して心臓にまで伝播し、重苦しい現実を突きつけてくる。

 

 ルナの放つ圧倒的な破壊力を維持するための魔力の存在。

 これからそれを、補(・)充(・)せねばならぬのだ。

 

 

 ◇

 

 

 迷宮都市の中央広場にある巨大な施設――冒険者ギルド。

 

 迷宮を探索する冒険者達を管理する巨大な施設扉を押し開けると、喧騒と酒の匂いが押し寄せてきた。

 俺たちが足を踏み入れた瞬間、ホールが一瞬だけ静まり返り、すぐに爆発的な歓声に変わる。

 

「おい見ろ! 『銀灰』のお帰りだ!」

「よおグレイさん達。今日はどんな大暴れだ? ぜひ奢ってくれよ」

「うわっ。すげぇ魔石の量だ……あれだけで金貨何枚になるんだ?」

 

 浴びせられるのは賞賛の嵐。冒険者の中でも上位のA級に位置する俺達には、尊敬の眼差しが贈られる。

 ただそんな称賛ももう慣れたもので、俺達は無表情のまま換金カウンターへと直行する。

 

 背中のルナはフードを深く被り、周囲の視線を遮断するように俺の肩に顔を埋めている。

 ルナは人混みが嫌いだ。

 自分に向けられる羨望――そして欲望や嫉妬の視線を、肌に張り付く汚れのように感じているからだ。

 

「買取をお願いする」

「今日も大量ですね。しかもA級魔石じゃないですか! さすがは銀灰のお二人です」

「当たり前のことをしたまでだ」

「ぶい」

 

 受付の鑑定士の女性がくれる称賛の言葉には、ルナも顔をあげてニヤリと笑っていた。

 ジャラジャラとすべての魔石をカウンターに乗せ、鑑定士は大急ぎで計算を始める。

 そんな中、俺の耳は歓声の裏側に潜むノイズを拾ってしまった。

 

 カウンターの隅。

 昼間から安酒をあおっている、古参の冒険者たちの会話。

 

「……へっ、英雄気取りが。いい気なもんだぜ」

「違いねえ。あのチビ女、そんな英雄じゃねえだろ……肉便器のくせに」

 

 その言葉に心臓が冷たく脈打つ。

 俺は魔石を数えるふりをして、奥歯を噛み締めた。

 

「マジかよ? あんなにガード堅そうなのに」

「バァカ、知らねえのか? あのチビ女、誰彼構わず股開くんだよ。この前も路地裏で、三人に輪姦(まわ)されてるの見たぜ」

「うへぇ、マゾヒストかよ。あのデカブツ男も、よく平気な顔して寝取られてるな」

「穴兄弟が街中に百人はいるって話だ。……俺も今度、声かけてみるか? まんこ貸してくれってよ」

 

 下卑た笑い声。

 粘つくような視線が、俺の背中の膨らみに突き刺さる。

 

 それを事実無根の噂話として罰を与えられたらよかった。

 だが、反論はできない。

 

「……グレイ」

 

 耳元で、ルナが囁いた。

 あいつらの声が届いているはずなのに、その声は平坦で感情の色がない。

 

「……あいつらの声、うるさい。殺していい?」

「ダメだ。街中での魔法は禁止されている」

「……チェッ。つまんない。あいつらは絶対なし。誘ってきたら殺す」

 

 そして小さく吐き捨てる。

 

「衛兵にしょっぴかれないようにな」

「ん、わかってる。……早く帰ろグレイ。ここ臭いが濃すぎて吐きそう」

 

 ルナは、自分に向けられる侮蔑の言葉など、道端の石ころほどにも気にしていない。

 ただ臭い、うるさいという生理的な不快感だけがある。

 

「ああ、帰ろう」

 

 俺は換金された金貨袋を受け取り、逃げるように、それでいて堂々と胸を張ってギルドを後にした。

 背中で揺れるルナは、あくびを嚙み殺して俺の首元に顔を埋めた。

 

 

 ◇

 

 

 迷宮都市にある高級定宿『ヤモリの尻尾』、最上階。

 ドアを閉め、防音の結界が張られた瞬間、張り詰めていた糸が切れた。

 

「……んあー、疲れたぁー……」

 

 ルナが俺の背中から滑り落ち、そのままベッドへとダイブする。

 身に着けていたブカブカのローブがめくれ上がり、シーツの上に無防備な肢体が投げ出される。

 

「……グレイ、靴脱がせて。あと服も」

「自分でやれと言っても聞かないんだろうな」

「当たり前じゃん。世界を救った(ような気がする)大魔導師様だよ? 指一本動かすのも億劫なの」

 

 ふふ、とルナが冗談交じりに力なく笑う。

 俺は苦笑しながら、ルナの投げ出された足元に跪いた。小さなブーツを脱がせ、泥で汚れた足を布で拭う。

 ルナはされるがまま、天井を見上げてぼんやりとしている。そして呟く。

 

「……今日のご飯、なに?」

「ゼリー飲料と、宿屋の肉スープだ。噛まなくてもいいようによく煮込んでくれと頼んである」

「ん、有能。……愛してるよ、グレイ」

「はいはい」

 

 その言葉を適当にあしらいながら、ルナの身に着けている魔導士のローブを脱がそうとする。

 

 ――カチャリ。

 

 その時だ。俺の手がルナの首元にふれて、金属的な音を奏でる。

 俺の指先が、ルナ首元――チョーカーのクリスタルに触れていた。

 

「……あ」

 

 その一言で、部屋の空気が凍りついた。

 

 俺の視線が、彼女の喉元に吸い寄せられる。

 クリスタルの色は、先ほど見たときの黄色ではない。

 警告色のような、毒々しいまでの赤色が、薄暗い部屋の中で点滅していた。

 

 限界突破。

 帰りの移動と、結界の維持で、残存魔力を使い果たしたのだ。

 

「……やばー。明日まで持つかと思ったけど。んぅ」

 

 ルナの呼吸が、急に荒くなる。

 さっきまでの安らかな表情が崩れ、頬に異常な紅潮が差す。

 瞳孔が開き、アメジスト色の瞳の奥に、妖艶なピンク色の光が灯り始めた。

 

 それはルナの体質。魔力欠乏による、禁断症状。

 肉体が、脳髄が、外部からの魔力を求めて悲鳴を上げている。

 

「……グレイ、だめ……これ、深い……」

 

 ルナが自分の胸を掻きむしりながら、息を荒げて涙目で俺を見上げていた。

 その瞳には、理性と本能が混ざり合った、どろりとした懇願が浮かんでいる。

 

「……熱い、の……。身体が、乾いて……割れちゃう……!」

 

 彼女の内股が、無意識に擦り合わされる。

 

 俺は拳を握りしめ、数秒だけ躊躇し――そして、即座に決断した。

 俺には魔力がない。

 俺のモノでは、彼女の乾きを癒やすことも、この発作を止めることもできない。

 俺ができることは、一つだけ。

 

「……待ってろ。すぐに魔力を見繕ってくる」

 

 俺は踵を返し、ドアノブに手をかけた。

 背後から、ルナの甘く、濡れた声が追いかけてくる。

 

「……はやくぅ……グレイ、だれでもいい……。……おっきくて、たくさん出る人……つれてきてぇ……ッ!♡」

 

 理性が溶け落ちた、雌の響き。

 俺は唇を噛み切りそうなほど強く閉じ、ドアを開けて廊下へと飛び出した。

 

 今夜もまた、俺たちの長くて淫靡な夜が始まる。

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