21歳の春、僕は大学を辞め、赤羽駅の裏にある魚介類を主な食料品として扱う居酒屋でアルバイトに勤しんでいる。
将来の為と親を必死で説得したものの、本当の目的は一人暮らしがしたかったから、なんて短絡的な目的で入学したものだから、これといった明確な目的がない。だからこそ、僕にとって大学というものは簡易な牢獄のように感じた。
自由度は高校生の頃よりも増した分、次第に通う事が億劫になり、親にも黙って辞めてしまったんだ。
人間には間違いという事がある。まさに僕は典型的なタイプなのだろう。横道に逸れるレールもなく駄目人間一直線、電車が入りますので線の内側までお下がりください、そんな言葉が聞こえてくるみたいだ。
時計の長針が11時を指しているのを確認して、僕は小さく一息つき、厨房にいる店長へと声を掛けた。
「時間なのであがります」
生気を失った魚とそっくりな眼をした店長は、まな板に乗った魚の腹を包丁で開き、こちらを見ずに一度頷いたので、僕は一礼して前掛けとバンダナをはずした。従業員用の更衣室では既にバイトを終え、椅子に座っていた長谷川章一が煙草の煙を吐き出していた。狭い室内は薄い紫煙が充満しつつある。
短い茶髪にピアス、少し日焼けした顔に映える白い歯を見せながら章一は僕にいった。
「よお、お疲れさん」
「お疲れ様、窓開けるよ」
部屋の奥にある唯一の窓を一気に開くと、僕は煙草をポケットから取り出し、一本咥えて火を点けた。
「また、店長に怒られるとこだったよ。言ってただろ?吸う時は窓開けろって」
「ああ、そういやそうだっけ」
「そうだよ、全く……」
僕がちらりと見れば、章一は悪びれた様子も無く煙草をふかしている。すぐに諦念の溜息を吐いた僕は、律儀にも手を窓から出して、できるだけ、タールとニコチンが部屋に入らないように気を使う。章一は悪い奴ではないけど、ずぼらで困る。
早々と一本を吸い上げた章一は、立ち上がりながらA4用紙程のチラシを僕に差し出してきた。受け取り文面に眼を通す。それは、秋葉原にあるメイド喫茶を紹介する内容だった。一件一件が特徴的な内装をしているからだろうか、ざっと眺めただけだったのに、なんだか気力を持っていかれたような感覚がした。
「……これは?」
「見て分かるだろ?秋葉にあるメイド喫茶を案内するチラシだよ」
的外れな章一の返事を流した僕は、短くなった煙草の火を外壁に押し付ける。
「それで?そんなものを持ってきて何をするつもり?」
1000文字刻みのほうがいいのかな?
もうちょっと長いほうがいいか?悩むなあ……