肌寒さが残るこの時期、僕は缶コーヒーのプルタブを空けた。少し汚れが目立つ灰皿だけが、この秋葉原の街で浮いてしまっている僕と同じように思えた。
目の前には、ミリタリーの専門店らしき店があるのだけれど、やはり巨大な看板には、デカデカとオリジナルキャラクターが描かれている。迷彩服とヘルメット姿で、手にした銃は黒い連射型。出てくる客の殆どが、リュックサックに銃のストラップを付けている。3階建てのビル全てに、そういった内容の用品しか置いていないのはすぐに分かった。用がない。
僕は、フェンスに囲まれた公園にでも入ろうかと腰をあげたが、どうやらここは入場時間を制限されているようだ。門が閉まっていた。
やっぱりこの街で僕と同じなのは、この路上に設置された灰皿だけのようだ。最近は喫煙者に風当たりも強く、時には睨まれ、小声で文句も言われ、厄介者扱いされる。それは、この灰皿自体も言われているのだろう。この街に干されている。
僕は、東京の空を見上げた。
星はでていない。限られた空間だけでしか見えないのだから当たり前なのかもしれないけど、いつだって空の狭さは一緒だ。高いビルが並ぶ度に満天の星空ってやつはどんどん遠ざかっていくんだ。まるで夢の跡のようだ。誰かが叶えた夢の裏側では必ず誰かが何かを諦めている。あの一際輝く星の周囲に瞬く小さな点は、いつだってどこかに落ちていく。まさしく僕じゃないか、と自嘲してしまった。
「あ、いた」
僕は声をした方へ目線をあげた。細いパンツにピンクのジャンバー姿の彼女がそこにいた。ずいぶん印象が変わって見えるのは、メイド姿ではないからだろう。長い黒髪をポニーテールにしていた。
「ああ、きたよ」
短い返事をしてやれば、彼女は二カッと笑って僕の前に立った。
「こないと思ってたよ。友達は大丈夫?」
「さあ?今頃は家で暴睡でもしてるんじゃないか?」
「ふーーん、そうなんだ。まあ、無事なら安心したよ」
彼女の声を聞きながら、僕は煙草に手を伸ばした。
「あ!煙草吸うならあたしにも一本頂戴」
「持っていないの?というより、煙草吸うんだ」
「ううん、吸わないよ。ちょっと興味があるだけ」
「なら、お薦めはしないな。吸わないなら吸わない方がいい」
昼間、彼女が言った台詞をそのまま返してやる。別にカクテルを取られた意趣返しではなく本心からだ。
「そう?なら、やめとこうかしら。ねえ隣、いい?」
僕は彼女のスペースを確保する為に場所をズレた。腰を下ろした彼女は、僕の真似でもしているのか、すぐに空を仰いだ。
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