「何が見えてたの?」
「別に何も……狭いなぁ、って思ってただけだよ」
彼女は小さく笑うと指を唇に当てる。
「なにそれ、やっぱり君は面白いね」
綺麗な横顔だった。しかし、こんなに透き通る笑顔なのに、どこか歪んでいる。先入観もあるのだろうが、彼女に対しての怒りまでも僕の中から流れていく。そんな見えない感情の感触さえも感じられそうなリアルな違和感を振り払うように僕は頭を振った。
「それよりも、僕をここに呼んだ理由を教えてくれないかな?」
僕がそう口火を切ると、ぴたりと笑い声が止まった。
「理由なら言ったでしょ?夢中になれるものをやってみたくないって」
「それはわかってる。僕が言っているのはそんな抽象的なことじゃなく、具体的に説明しろってことだ」
こちらから切り出しても先に進もうとしない態度に、ついつい語尾が強くなってしまった。だが、彼女は意にも介さず、そうだねえ、と少し間延びした調子で一呼吸置いた。
「例えばだけど、君には夢ってある?」
「……ないよ」
僕の胸中は荒立った。ただの偶然だろうが、そのワードが彼女の口から飛び出すとは思わなかったからだ。
「人が一番夢中になれるのは夢だよ。それに向かって邁進することは素晴らしいことだ!なんて言いながらね」
「それはそうだろ、子供でもそう答える」
「だよね。あたしもそう教えられてきた。だけど、本当にそうなのかな?」
「個人にとって夢は叶えたいものだ。たとえ他を蹴落としてもね」
僕の言葉を聞いた彼女は、大きく頷いて言った。
「拍手したいほどに当たり前だよ、あなたは」
「……どういう意味だ?」
「そこから先に目を向けてない、考えることを捨ててるってこと」
立ち上がった彼女が街灯に照らされた。
人工的に作られた光だが、彼女の佇まいのせいだろうか、少し曲がって見える。
「夢っていうのは実に極端なんだよ。良くもなるし悪くもなる。誰かを蹴落とすなんて甘いものじゃない。最悪の場合は知らない誰かを不幸に叩き落とし、殺しちゃうことだってある」
そのまま彼女は背中を向けると、街頭から外れた。辺りが暗くなる時間、彼女の存在事態が僕には酷く邪に思えた。
「例えば、ベトナム戦争で使われた枯葉剤。あの影響で今も苦しんでいる子供が大勢いるのは知ってる?」
僕は真っ先に有名な双子を思い出し首肯した。
「枯葉剤の元を作った人にとっては、それも一つの夢の形だったのかもしれない。これが作れれば、きっと遠い未来で世の中の役に立つ、そんなことを思ってたかもしれないよね?真実は分からないけど、少なくとも未来でそんな風に使用されるなんて思ってないよ。好き好んでそんなものを作る人はいないはずだから」
彼女の口元が怪しく曲がった。小首を傾げて言う。
「ね?こうやって聞いてみたら、夢ってものは、とても不気味で、不安定なものだと思わない?」
小説ともども、わずか2週間くらいですが大変お世話になりました。これからも元気に執筆していきましょう!勿論、自分も頑張ります!
読んでくれたすべての皆様に感謝します!
ようやく話数追いついた……