「それはどういう意味だ?」
「そのままの意味だよ?この広い東京で一人なんて寂しいでしょ?」
これまでの会話の中で、何かしら裏があるのではないかと疑念を持つのは、当然じゃないか。僕は鼻を鳴らした。
「生憎だけど、僕は君みたいに一人って訳じゃないんだ。他を当たってくれないかな?」
僕は場の空気を濁すように煙草に火を点けると、彼女の脇を通り抜ける。
「その友達は、あなたを理解してくれてるの?」
「友達ってのは、理解されなきゃなれないのか?」
僕の皮肉な返答に彼女は首を縦に振った。
「理解されないと話しが出来ない、喧嘩も出来ない。それが絆ってやつなのかな?」
「……なんだか、君が僕を理解してるみたいな物言いだな」
彼女は、軽いステップを踏むような動作で僕の隣に並び微笑んだ。
「よく知ってるからね。あなたみたいな人」
彼女には、友達がいないのではないのだろうか。だとするならば、これは彼女自身のことなのだろう。彼女は僕を理解できるからこそ、僕はあれほどの苛立ちを感じてしまったのかもしれない。
同じドロップ・アウト組、行動と思考の違いこそあるが、道を外れてから他人というものに興味をもてなかった僕にとっては久しぶりに沸き上がった感情だったのは確かだ。
「だからって何故、僕なんだ?傷の舐め合いでもしたいのか?」
「どんだけ卑屈なの?言ったじゃない青春がしたいって!一人の世界は寂しいよね?素直な言葉が吐けなくなって誰とも仲良くできないから、知らぬ間に心が閉鎖的になっちゃうんだよ」
さばさばとした口調だった。このテンションの上がり下がりの激しさは生来のものなのだろうか。あたしにも言えるけどね、と彼女は蛇足を付け加えた。妙な感じをさせずに、ピタリと露悪的に自分を語れるのは、僕らみたいな人種の特権なのかもしれない。
彼女は腰に手を回して、僕の顔をわざわざ正面に回り込んで覗き込んだ。
「で、どうかな?友達になってくれる?きっとあたしなら、あなたを理解出来るし、あなたも、あたしを理解出来ると思うんだけど」
「君を理解したいとは思わないけどね」
「うん、じゃあ、これから理解してもらうからいいよ」
「……君は少し人の話を聞く努力をするべきだと思うよ」
「そうかもね。じゃあ、行こっか」
彼女は僕の手を取ると、なにやら悦に入った表情で歩き出した。そのまま引かれそうになった僕は、手にした煙草を落とし、足をとめて言った。
「ちょっと待って!行くってどこに!」
彼女は振り返り答えた。
「あたしの家だよ」
「はあ!?」
大声をあげてしまったが、彼女はやはり気にした素振りもなく事も無げにこう続けた。
「自己紹介がまだだったよね。あたしは、原明日香っていうの、よろしくね。で、君は?」
「……高槻渉だけど」
「うん、じゃあ、これからよろしくね。渉君」
秋葉原で迎えた初めての夜、僕はこの奇妙な女と共に過ごすことが何故か確定してしまっていた。その場に残された灰皿だけが、まるで僕達を見送るように怪しく銀色に光っているように見えたのは、きっと僕の勘違いだ。そう信じたい。
次回から第2章に入ります。
プロローグ終了って感じです