彼女の自宅は秋葉原駅を起点に昭和通りを歩き、徒歩で15分程だろう。ガード下を真っ直ぐに進み、老舗が並ぶ一画や、小さな公園を通り、浅草橋駅に到着する。その側にある細長い鉄筋コンクリート造りのアパートの一室だった。リビングは洋室で僕の部屋よりも広く、 郵便局や銀行、餃子の専門店、極めつけにはコンビニまである。
景色も同じ二階という場所にある僕の部屋より良く、途中で神田川が大きな隅田川に合流している光景までビルの間隙からうっすらと見えるのだ。ワンルームなので、きっと変わらないだろうけれど、家賃を聞くのは止めておいた。
そんな雑多な風景とは対極に、彼女の部屋は至ってシンプルだった。シングルベッドと本棚、テレビにテーブル、キッチンには、冷蔵庫、シンクにはコップが一つだけ。
久しぶりの女性の部屋だというのに、こんなにも平然としているのは、男としてどうなのだろうか。
「適当に座ってて」
彼女の声に、軽く頷いた僕は、テーブルの下にあった座布団を敷いて腰を落ち着かせた。
冷蔵庫からビールを出す彼女を待つ間に、どこか一つでも女の子らしい所を見付けてやろうかと見回してみたが、そんなものは全く無い。それどころか、本棚にあった数冊に僕は意識を奪われてしまう。
「興味あるの?」
テーブルに六缶パックと、つまみを置き本棚から視線の先にあった数冊を取り出してきた。ダニエル・キイスというアメリカ人の作家らしい。24人のビリー・ミリガン、百変化する彼女と見事に一致するようなタイトルに僕は苦笑した。
「解離性同一性障害、つまりは多重人格障害者の話しだよ。実話ってとこがお薦めだね」
彼女はそう言って差し出してきたが、僕はそれを押し返した。
「いや、遠慮しておくよ。僕には合わないだろうし」
「じゃあ、これは?結構有名だけど、アルジャーノンに花束を」
数十年前にそんなドラマがあった気がする。同じ作者だったのかと、ぼんやりと思う。どうやら、障害を抱えた人物を題材にした小説を書いている人物のようだ。
「そういう本が好きのか?」
「ううん、好きって訳じゃないけど、自分が体験出来ないことだから読んでみてるだけだよ」
彼女は本をテーブルの下へ押しやる。
他にも、著者はバラバラだが、なんらかの障害や病気を抱える人を題材にした作品が多いと彼女は言った。
「一番のオスススメは何?」
「未成年って小説かな。少し古いけれど、青春真っ只中な少年少女が描かれた作品なんだ」
「……憧れてる青春ってやつか」
「悪い?別にその通りになりたいって訳でもないからね」
言いながら、彼女は缶を開ける。
「あなたは、普段何してるの?」
「居酒屋でバイトして、家でネット」
「カビが生えそうな生活だね」
第2章はじまるよ