「……余計なお世話だ」
僕は、出された缶を一つ掴んで一気に煽って空けた。不覚にも質問を投げ掛けてしまったが、深く彼女と語り合う気はない。そのアピールだ。
「意外とイケる口?店での様子で弱いのかと思ってた」
「強くはないけどね。酒の席があまり好きじゃないから、いつも無茶な呑み方をして酔っぱらって帰るんだ」
僕は、早々と二本目に手を伸ばした。
「酒は嫌い?」
「一人酒なら好きかな。酒ってのは人の内面を容易く露見させちゃうからね。余程、気心知れたやつとじゃなきゃ呑みたくはない」
彼女は、微笑して言った。
「じゃあ、あたしは気心知れた仲?」
そんな彼女を、僕は鼻で笑ってやる。
「まさか……言っただろ?無茶な呑み方をするって時は、早く帰りたいアピールだよ」
二本目も、一気に飲み干した。700ミリリットルのアルコールによって張った腹、空気が口から洩れた。下品だと眉をしかめた彼女は、小さく缶を傾けて喉を鳴らす。さすがに、三本目まで一気呑みは辛く、僕もペースを落とし、口を湿らせる程度にしておいた。しばらく僕らの間に流れたのは無言という黒い空気だ。
というのも、彼女に僕をここまで連れ込んだ理由を訊いて良いのかを判断しかねていたからだ。ただの気紛れなら良し、タダで酒呑めてラッキーくらいでいればいい。しかし、相手は一日で、変わり者の代名詞的な存在になった原明日香だ。
何もない訳がない。勿論、僕だって男なのだから、セックスを期待しなかったと言えば嘘になるのだが(期待しない奴なんかいないだろう)、そんなのは部屋にあがった途端に催した通常の女性の部屋との不一致のせいで、霧散してしまっている。缶の残りが半分になった時、僕はこう切り出した。
「……そろそろ、帰ってもいいかな?」
今日知り合ったのだから当然だけど、彼女が本気で意外そうにしている顔を初めて見た。
「あれ?普通、こういう時って男の子からきてくれるものじゃないのかな?」
やっぱりだ。
なんとなくは思っていたが彼女は、僕が抱きにくるのを待っていたようだ。なのに、僕から、帰る、なんて言われたものだから、感嘆の吐息を漏らすような表情をしているのだろう。今まで彼女と恋人関係にあった男性は、きっと僕みたいな変わり者じゃないんだ。羊の皮を被った狼、僕は皮を脱ぐと餌が狩れず、すぐに死んでしまうだけの狼、例えるならこんな感じか。
「残念だけど、僕にその気はないよ」
彼女は、小さな瞳を細めて言う。
「勿体ないよ。あたしみたいな可愛い娘とやるチャンスなのに」
「酒が入ってる、恋人でもない。そしてこの空気でするセックスはレイプと変わらない。レイプは殺人だ。僕は人殺しにはなりたくない。だからしない。まだ理由が必要かな?」
こんなのは彼女を傷付けない為の詭弁だ。この居ずまいの彼女に手を出したら本当に戻ってくることが出来なくなりそうだから、そんな気がするなんて理由は伏せた。(レイプが殺人だとは本当に思っている)
彼女は、ポカン、としたまま僕を仰いでいた。やがて、頬を弛緩させる。
「うん、あなたを誤解してたみたい。ごめんなさい。じゃあ、本題に入るね」
ああ、日付変わってしまった……少し遅かったか……