彼女が部屋に戻り、カーテンを閉めた。まさか、彼女はわざとこの状況を見せていたのではないか。胸がざわつく。もしもその通りならそれはなんの為なのか、どういう意図でしていたのか、様々な情感を孕ませながら言った。
「……誰なんだ?会ってるというならどこに座ってた?」
彼女は僕の傍らを無言で通り過ぎ、冷蔵庫から新しい箱を取りだした。あまり気にしていないようにさえみえる。いや、僕の予感が合っているならば、気にする必要がなくなったという方が正いのかもしれない。テーブルに置いた箱には、ビールが六缶入っていた。
「今日は一人用の席に座ってたよ」
あいつだ。確かに一人いた。顔をはっきりとは覚えてないが、間違いないだろう。あの板で顔を隠し、鼻から上だけで彼女を見ている現場を想像しかけ、あまりの悍ましさに僕は首を横に振った。
そして、僕にとって良くない事態も起こされてしまった。
ストーカーは、高い確率で、対象を自分が守っている、守ってやらなければならない、という勘違いを自分の中で大きくしている傾向がある。そんな人間に『彼女と二人きりで、彼女の部屋で酒を呑み、彼女に僕の背中から双眼鏡を持った腕を支え』られている光景を見られてしまったのだ。あいつがどうそれを捉えているかなんていうのは、思慮を巡らせる必要も無い。最悪だ、頭を抱えた僕に彼女はクスクスと笑った。
「これであたしと一緒の立場になっちゃたね」
僕はどうやら彼女に嵌められてしまったようだ。こんな事ならやってしまえば良かった。今となっては僕の中にある僅かな矜持のせいでそんなことは出来ない。終電もない時刻、僕は固いフローリングの床で一夜を明かすことになった。
※※※ ※※※
翌日、僕は赤羽駅前にあるバイト先の居酒屋にいた。仕事の時間前30分、僕は早い時間に章一を呼び出していた。気だるそうに煙草をふかしていた章一は、僕の話しを聞いて叫んだ。
「なんだそりゃ!ストーカー!?いや、そんなことよりも!お前、何をしてんだよ!」
「何がって……何が?」
いやいや、と章一は首を振った。
「女の部屋で一晩過ごして何もしないなんて、お前馬鹿じゃねえの!いや、お前馬鹿なんじゃねえか!?」
「馬鹿馬鹿言い過ぎだろ。それに、君もあの部屋を見たら、絶対にそんな気分じゃなくなるよ」
「いや、なくならないだろ!うわ、マジで信じられねえ!」
大袈裟に足をバタつかせていた章一が落ち着きを取り戻すのを待つかと、煙草に火を点けた。
「いや、何を煙草で一息ついてんだ!俺は友達としてお前が心配だよ」
危ない……途中までもう一作のつもりで書いてたw
もしかしたら名残がるかもなので、どなたか発見したら教えてくださいw