章一は怪しくにんまり、と口角を上げると僕の肩を叩いてきた。鬱陶しく思いその手を払えば、今度は腕を首に回してくる。
こういう時の章一の言葉は毎回のように良くない内容だ。面白そうに喉を小刻みに鳴らす。
「……なあ、渉よお、興味あるだろ?」
「やっぱりか……悪いけど全く興味がないね」
「そんな事言わずにさ、行ってみようぜ」
「嫌だね」
章一は先程の態度と変わり、さもつまらなそうに眉を寄せた。これはいつもの事だから気にする訳にもいかない。僕は、ロッカーに入れていたダウンジャケット着る。わざとチラシは持ったままにしていたからグシャグシャになった。
「大体、僕を誘う時点で君の計画は破綻してるよ。そんな所に喜び勇んで同行する人間に見える?もし、見えるならそれは勘違いだ」
「気を悪くしちまったか?それは悪かったな。だからさ……」
そこまで言った章一に被せる。
「大方、一人で行くのが嫌だから道連れにしてやろうって魂胆だろ?」
どうやら正解のようだ。章一は一気に小さくなり、気まずそうに煙草に火を点ける。
煙草のペースが早くなるのは癖なのだろうか、そんな関係のないことを考えていると、章一は表情を、さっと変えた。まるで捨てられかけの犬みたいだ。
「頼むって!こんなとこに付き合ってくれそうな奴はお前くらいしかいないんだよ!」
「無理だね。お金もある訳じゃない。大体なんだよこれ」
僕はなんとなく手に持っていたチラシを章一へ突きつけた。首を傾げる彼にも分かるように裏面の白紙を見ながらチラシの右下を指差してやる。
そこに書いてあるのは、別料金でメイドがライブをしてくれるという謳い文句が書かれた特別メニューのことだ。目立つようにとの配慮からかカラフルなギザギザに縁取られている。しかも2000円も掛かるというのだから馬鹿らしいことこの上ない。
それも魅力の一つだ、と主張する章一に言う。
「こんなものに金を使うなら、煙草や酒に回した方がマシだね」
「お金では買えない思い出ってのがあるだろ?そう割り切ってさ!なんなら俺が支払いをしても良い!」
どうしてここまで食い下がってくるのだろうか。普通ここまで拒否されたら諦めてくれると考えていた僕は、外れてしまった推測を残念に感じながら返す。
「一体どうしたの?今日はいつにもまして食らいついてくるじゃないか」
「それだけ行きたいってことだよ!なあ、頼むよ、今回だけで良いから」
章一がまるで拝むように両手を合わせた。
サブタイトルとかないよ……