昨日は、気付かなかったがUDXというビルの真下には交番があった。
今は警官が一人、入口の前に立っている。彼女は、ストーカー被害なんてものは、明確な証拠がなければ警察は動かないと言っていたからこそ、僕はまず最初に裏付けをすることにした。
手順は簡単だ。
彼女が働いている時間に店へ入り、あいつ(ストーカー)がいるかどうかを確認した後にビルの前で彼女の仕事が終わるのを待っておく。これなら、少なくとも彼女が被害に合うことはないだろう。
そして、ストーカー行為を開始したら、家までの尾行を許し、あいつが帰ったタイミングで自宅の正確な位置を割り出す。その後は、警察に通報するぞ、と脅してやれば、どうとでもなるだろう。あちらからアクションを起こしてくれれば、万万歳だ。なにもなくそのままなら、それはそれで良い。それで、今回の件は解決し、晴れて彼女と、おさらば、僕の日常に戻ることができる。
厚く暗い曇に覆われている秋葉原の街、僕は一雨くる前に彼女との待ち合わせ場所へ走った。秋葉原ドンキホーテを目印に道路を渡り、まっすぐ進んだ先にあるミリタリーショップ前の灰皿、そこに彼女がいる。
暇そうに足をぶらつかせていた彼女は、僕を見るなり手を振ってきた。
「遅いんじゃない?待ちくたびれたんだけど?」
「これでも急いできたんだよ。大体、赤羽からここまで時間がかかるのは分かってるだろ」
僕が煙草をくわえると、彼女は僕の口から煙草を引ったくり唇で挟んだ。催促するように右手が差し出された。
「昨日も言っただろ?吸わないなら吸わない方が良い」
「あたしをこんなに待たせたんだから、一本くらい目を瞑ってよ。ほら、早く」
彼女の指がワサワサと動き出す。僕の忠告は頓挫してしまったようだ。ライターの火を近づけながら言う。
「吸いながらじゃなければ火が点かないからな」
ジジジ、と煙草の草が燃える音がする。そして、数秒後、彼女は盛大に噎せた。涙で瞳を濡らしながら、まだ殆ど残っていた一本を灰皿に捨て、僕を見上げる。
「何よこれ……」
「だから言たじゃないか。勿体ない……」
彼女の隣に腰を下ろして、新しく煙草を出して火を点けた。薄く立ち上る紫煙を目で追いかけていた彼女に、僕から口を切る。
「それで、あいつは今日も来た?」
「うん、来たよ。本当、どこにそんなお金があるんだろうね」
「あいつが住んでいる場所は、高級な賃貸が並んでるからな。親の力が大きいんじゃないか」
僕は吐き捨てるように言った。彼女が不思議そうに首を傾げる。
「どうしてそんな事が分かるの?」
「今の時代、スマフォで調べることが出来るだろ」
「……なるほどね。一応は心配して調べてくれてるんだね」
彼女は前のめりになり、口元を両手で隠した。そして、くぐもった声で、うーーん、と唸る。今度は僕が疑問に思う番だった。
「何?どうしたの?」
「うん、なんていうか……」
彼女にしては歯切れが悪い。なんだか、いつまでも残響が残っているような心地悪さだ。憶測で何か口にすることは出来ず、僕は彼女が次に発する台詞を待った。
「あのさ、あたしは彼と友達になりたいなって思うんだよね」
僕は耳を疑い、自分でも聞いた事がないような頓狂な声をあげてしまった。
寒い寒い寒い寒い!いや、寒い!