ストーカー改め、福原は信じられないといった具合で全身を震わせていた。歓喜なのか、狂喜なのか、どちらにしろ危険な状態に変わりはない。
「福原君、聞こえてる?」
彼女の問いかけに、ブツブツと何かを呟いていた。彼女は首を捻って福原の脇を通りすぎると、僕に手を差し出す。
「大丈夫?」
「大丈夫に見える?」
「ううん、見えない」
莞爾として笑う彼女の手をかりながら立ち上がった。なんとも情けない姿だ。
彼女は、福原へ振り返ると、今度は巧笑を浮かべた。
「福原君、これはあんまりじゃないかな?やりすぎだよ」
「こうさせたのは……そいつだ」
福原の行動には、さすがに参ってしまっているのか、彼女は困ったように目尻を下げていた。頭を両手で乱す様子は、どこか狂気を孕んでいるようで、薄気味悪さすらある。
「別に、襲われたりした訳じゃないよ。単純に互いが誤解してただけ」
彼女が同意を求めるように僕を見た。
何も言わずに黙って頷くが、それでも福原は納得をしていないようだ。
「ふざけるな!騙されてるんだ!そうだろ!」
「うーーん、どちらかと言うと騙したのは、あたしかな?ほら、見られてるの知ってて君の存在まで教えちゃったしね」
余裕があるのか、彼女は飄々とした態度で福原を指差した。なんだろう、僕はまるで人外同士の口喧嘩に巻き込まれたような不思議な感覚に陥っていた。当事者じゃないような、そんな第三者の視点で二人を眺めていると、次第に僕逹が現在置かれている状況が、傍目からどう映っているのかを知る事になった。
これだけ騒いだのだから、赤い回転灯が夜の街に目立ってしまうのは当然だろう。
彼女が僕の手を握り笑った。
「逃げよ」
そう聞こえた。彼女のもう一方の手には福原の腕が捕まれている。僕達は彼女に引かれ、夜の秋葉原駅方面へ一斉に駆け出す。誰かれ問わず、夜の街を全力疾走、ましてや 警察から逃げるなんて僕にとって初めての経験だった。
ドキドキと高鳴る心音と冷えた空気が殴られた顔に当たる感触が心地良く、腹にある鈍い痛みなんかどうでもよくなって、込み上げてくる面白さに堪えきれなくなった。
僕は青春時代にやれなかった事、悪さをして大人から逃げる、なんてやつを一人達成したような気になっていたんだと思う。やっぱり矢面に立ったのは、僕だったけど、福原から与えられた痛みで、僕は胸の深い場所にあった何かを外されたような、晴々とした気持ちだった。
いつだってなんだって初めてってのは、気持ちが良いものなんだ。