福原は、更に俯くと、はっきりと首を横に振った。やっぱりだ。誰かを好きになるのは、自分を捨てることとよく似ている。自身よりも大切な人間をつくるのだから当然だ。
そうなると、一つの疑問が浮上する。
「なら、どうして彼女をつけ回すんだ?好きでもない女の尻を追うなんて時間の無駄だろう?」
「ああ......その通りだと思うよ」
ようやく口を開いた福原は、胸の位置を強く握った。雨で張り付いたシャツが音をたてる。
「俺はさ、明日香ちゃんを好きになろうとしたんだ」
「......好きになろうとした?」
オウム返した僕を福原が見上げる。
「そう......好きになる努力をしたんだ」
自嘲気味に福原の口角が上がる。僕が抱いた印象は、不気味だとか、気持ちが悪いとかじゃなく、寂漠だった。まるで、雨から流れる冷たい空気が、胸を過ぎていくようだった。ベッドのスプリングを軋ませ、僕は腰を下ろしてから言った。
「人を好きになるのに努力が必要なのか?」
「ああ、少なくとも、俺はな」
福原の乾いた笑みを見ることに、耐えきる自信がなくなった僕は、彼から目を離すように横を向いた。さざ波たつ心情のように雨脚が強まっている。風鈴の音色のような弱々しい声音で言う。
「それは、間違いだろ。人を好きになるのは感情の働きだ。理屈じゃない」
「そうかもな。けど、俺にとっての恋愛感情は、歪んだものなんだよ」
白目だけが冴えていき、福原の目から色が抜けていく。
正面に座ったまま動こうともしない福原の言動の異質さに、僕は喉を鳴らした。彼女のベッドでも聞いた、ギシリ、という小さなバネの音が無ければ、逃げ出していたかもしれない。
「具体的には?」
「......あまり、人に話すようなことじゃないだろ」
僕は一歩踏み込んだ。やはり、福原はどこか寂しさを孕ませた目付きだったが、鋭く目尻があがった。
負けじと腹に力をいれ、泰然と返す。
「僕だって君の性癖なんて聞きたくない。ただ、彼女の為に質問しているんだ」
福原が曇った空みたいな暗く粘りのある濁った双眸をあげ、低く笑う。
「なんだ?お前、明日香ちゃんが好きなのか?」
瞬間、僕は自分の発言を後悔した。あの言い方なら、そうとられても仕方がないだろう。いや、実際、そうなのだろうか。誤魔化すように僕は軽く睨みつける。
「話を逸らさないでくれよ。今は僕が質問しているんだ」
肩をすくね、天井を見上げる。どこか、言葉を慎重に選んでいるようだったが、あまり時間はない。こうしている間に彼女がいつシャワーを終えるか分からないからだ。なぜだか、僕は彼女に福原との会話を聞かれたないし、見られたくなかった。
こっちは久しぶりすぎてやばい・・・・・・
ちょっと文章に違和感がある気がする・・・・・・
一人称は本当に難しいな