「......福原は、君にとっての恋愛不純物ってやつがないってことか?」
「そうだね」
彼女は、ゆっくりとした口調で、そう答えた。重い言葉というのは、心に響くなんて言うけれど、僕はよっぽど、彼女の語り口の方が心に染みてくる。偉人の名言なんてのは、いつだってそこにあるだけで変化もない。目の前にいる人との方が分かり合えるのは、当たり前の事だ。
「ならさ......君の恋愛ってやつの不純物って一体なんなのかな?」
僕が、好奇心でこう問い掛ければ、彼女は、即座に返す。
「決まってるじゃない。セックスだよ」
耳を疑いたくなるほどの一言が飛び出した。これは、先日の僕に対する当て付けだろうか。あの夜のことを思い出せば、彼女にとっては、ただの交渉手段の一つという意味とも受け取れる。しかし、恋愛においてセックスは避けては通れない。
「セックスが不要?僕は、そう思わないけど......」
「そりゃ、男の挨拶は下半身から始まるからね。言ったでしょ?恋愛の始まりは一目惚れだけだってさ」
彼女は、右手の人指し指をぴんと立て、それを股間にあてがい指を折って見せた。下品な姿に、ついつい巧笑が漏れる。
「秋葉原には、そんなものが一杯溢れてるじゃない。アニメのキャラが描かれた薄いエロ本を見て、これは素晴らしい!これこそ究極の美だ!これが芸術だ!さっそく博物館に飾らなければ!ってなる人がいる?」
身ぶり手振りが大袈裟で、途中、吹き出しそうになった。そんな僕に彼女は続けて言った。
「男の子っていうのは、女の子から見ていると、本当に分かりやすいんだよ。横文字混じりの汚いセックスなんて、こっちは求めていないのにね」
僕への嫌味を込めた痛烈な一言のように感じた。思わず目を逸らした。
「アタシは国粋主義者って訳じゃないけど、ああいうジャンルってどうかと思うけどね。けど、それは仕方がないことなのかもしれない。人って心の奥では暴力的な嗜好が強くあるものだから」
「分かった。僕が悪かったから、その辺りで勘弁してくれ」
溜め息混じりの僕に、彼女は透き通った鏡のように、小さく笑んだ。見透かされている、そう印象付けられる冷たい唇だった。鏡の中のお姫様は、どこまでも皮肉屋だ。
「それで、それが福原って男に、どう繋がる?」
「分かんないかな?」
皮肉屋は、小首を傾げる。そんな姿に対する僕の返答は、西洋混じりのテレビで見た洒落たジョークだ。
「さてね......福原の股間が君に挨拶をしていない、とかかい?」
目を白黒させ、興味津々といった具合に、彼女が口を開く。
「......よく分かったね!その通りだよ!」