六階に到着したエレベーターの扉が開くと、既に譜久原が待機していた。連絡した時に、ここまで迎えると言っていた通りだ。僕は、すぐさま彼女の前に右腕を差し出す。不服そうな声が肩越しに聞こえたけれど、構うことなく福原に言った。
「連絡した通りに来た。で、僕らはこれからどうしたら良い?」
福原は、少しだけ眉間を狭める。
「......その前に約束をしてほしい」
「......約束?」
反芻してみた。そう前置きを挟んでくるということは、やはり、聞く前に承諾できる事ではないだろう。けれど、僕の背後では、面白くなさそうなお姫様が暴れだそうとしているのが、手に取るように分かる。鼻息荒い彼女が、憮然と訊いた。
「そんな約束なんか、どうだって良いよ。アタシを待たせてる。そのことが問題なんだよ、福原君?」
これには、さすがの僕も福原に苦も、笑しか出ない。諦めたように、福原は溜め息を吐くも、しっかりと口にする。
「俺の部屋は、二人から見たら異常だと思う。けれど、話が終わるまでは、なにも聞かないでくれ」
福原の言葉に、僕と彼女は揃って頷いた。首肯せざる終えない状況で、そう約束をさせる意味を考えてみれば、背中から冷めた汗が吹き出すような悪寒を覚えた。
こいつはストーカーだ。
大体は、この一言で察してもらえるんじゃないだろうか。僕の警戒心の現れか、彼女を止める右腕が知らずの内に強張った。
脳裏を過った光景は、彼女の写真が壁一面に張られている。そんな、女性にとって、いや、あまり関係のない者にとっても不気味極まる異常な一室だ。思わず、唾を飲み込んでしまう。
どうする、まだ引き返すことも出来る。ここから先に、踏み込んでも良いものか。そんな僕の不安を無視して、鏡のように冷たく冴えた声で彼女が言う。
「うん、良いよ、約束する。だから、早くしてくれないかな?」
「......お前はどうする?」
瞠目したのは僕だけだ。かやの外に置かれた気分だった。彼女が口を開けば、まるで牛が突進するみたいに話しが進んでいく。今回の主軸は君じゃないよ、そう遠回しに非難されているみたいだ。僕は、右腕を下げてエレベーターから降りる。
「分かった。なにも聞かない」
福原が暗澹とした表情で振り返る。もしかしたら、ここで僕らが帰ってくれると期待を寄せていたのかもしれない。
福原、相手が悪すぎる、なんて胸中で呟きつつも、福原よりも、彼女について、爪の先ほどの浅いことかもしれないけど、理解が及んでいることが、ほんの僅かだけ嬉しかった。
いよいよ、彼女の毒牙に......いや、色気にやられているのかもしれない。