少し軋んでいるような音と共にエレベーターが四階に到着し、自動で開いた扉の先に広がっていた景色は、僕の平凡なイメージを大きく覆すことになった。
普通は、無機質な印象を受ける廊下が続き、等間隔で並んだ扉にテナント名が書かれた札が飾ってある、そんな光景を思い浮かべるものじゃないか。だけど、僕の目の前にある光景は、既にピンク一色だ。
そして、アニメのポスターが至るところに張ってある。意気揚々とエレベーターを降りた章一に、頭痛を携えながら僕も続いた。
もしも、短時間で帰りたい、と思った回数にギネス記録が存在するのなら、僕は高い確率で上位に食い込むことが出来るだろう。大仰なまでに、フリルを至るところにつけ、僕達を案内してくれた女の子と同じ
格好をした同年代程の女性が、酷く芝居がかった動作で頭を下げた。
「お帰りなさいませ、ご主人様。お二人で間違いはありませんか?」
接客業としては当然なのだろうが、こういった場で人数の確認をされるのは、なんだか気恥ずかしい。そもそも、主人が二人いるってとこに違和感がある。
章一が頷き、通された店内は、10代の可愛らしい少女が必死になって作りあげた、そんな感じだ。ビングのカーテンがそれに拍車をかける。
真っ直ぐに突っ切った奥にテーブル席が一台あり、もう一台は壁際だ。中央には固定された四つのスツールと中心にテーブル、入口から左手には、バーのような横長のテーブルがある。チラシで見た限りではカクテルがメニューにあるようだが、トム・クルーズが主演を務めた映画のようなお洒落なカクテルは出てこないだろう。あと、キザな台詞。
反対にも似たようなテーブルはあるが、こちらは顔に半透明の板がかかるような作りになっている。立ち上がれば丸見えなので、あまり意味があるとは思えない。恐らくは一人用だ。
客(ご主人様と呼ぶべきか?)の入りは少なく、中央に四人の団体、バー式テーブルに一人と、顔が隠れているようで見えている一人、合計六人だ。
章一は、ぐるりと店内を見回した。
「カウンター席とか座りたいんだけど……」
僕も同意見だった。二人しかいないという気まずさと、慣れない環境、なにより奥のテーブルに通されてしまった場合、帰る際には、店内を横切らなければいけない。異質な空間に切り取られたように佇む僕には願ってもない一言だ。誘っただけあって、章一も段々と恥ずかしくなっているのかもしれない。
「申し訳ありませんご主人様、あちらはVIP席となっておりまして、スタンプが溜まったご主人様しか座れないんです」
何故、こんなにも頻繁に夢を壊すような発言があるんだろう。今の一言で、彼女がメイドなんだと思えたのは、ご主人様、という一言だけだ。
そして、僕達が通されたのは、最奥のテーブル席、つまりは地獄の空間だ。
うん、やっぱり別のサイトで掲載してる分と合わせて一日2作品更新がちょうどいいねw