僕はいつまで経っても童貞を卒業できないと思う 作:アロワナさん
そんな純恋を怒らせた話も覚えている。たまたま僕の方がテストの点が高くて、嬉しくてめちゃくちゃ煽り倒してしまったあの日の記憶。目を真っ赤にして、たぶん涙も浮かべながら酷いとか僕に対して怒鳴った。やってはいけないことはやったらダメなんだとその時肝に銘じたはずだった。蓋を開けばどうだろうか。今の僕と純恋の関係性が答え合わせだろう。僕は自分が思うほどできた人間じゃなかったんだ。
「声が響いているけど大丈夫なの?」
「どうせ誰も来ないから大丈夫」
僕と純恋はとある立体駐車場の非常階段にいた。コンクリートの壁で囲まれたこの空間にはおそらく僕ら以外いない。純恋いわく、いつも空車が目立つこの駐車場は問題がないらしい。ちなみに倫理的な話とは全く別。なぜならこれから起こることは倫理的には大問題だ。
「その、また、よろしくお願いします」
「お行儀は良くてもこんなにぷっくりと……恥ずかしくないの?」
純恋の手が僕のズボン越しの股間に重なる。そして、ぬいぐるみを掴むような強さでちんちんごと握り込んでいく。いや違う。親指の付け根で的確にちんちんに圧力をかけている。ぬいぐるみよりも丁寧にそして大胆に。
「ちんちんはドピュドピュしたいよね、どこに出したい? ティッシュがいい?」
反対の手では僕の肩を掴み、耳元で悪魔のようなセリフを囁く。ドピュドピュしたいのはもちろん、でもティッシュに出すのは一人でもできる。
「あ、あの……ティッシュよりも……んっ!」
僕の口答えに呼応するように純恋がちんちんを強く握るせいで大きな声が出てしまった。しかもその声はコンクリートの壁を反響する。自分の声が届くたびにここは安全ではないことを僕の脳に刻み込まれる。ちんちんも少し大人しくなる。でも純恋は肝の座り方が違った。小さくなりそうになるちんちんを無理矢理にでも元気づけるようにズボンの上からこすり始めた。
気持ちがいい、ただただ気持ちがいい。精巣の中も慌て付ためていている。気持ちよさを純粋に味わいたい。それなのに。
「ちんちんが気持ちいいからって無様な声を出したら大変なことになっちゃうよ」
純恋は僕が忘れたがっている現実をわざと教えてくれる。この状況を、僕が葛藤しているこの様相を、誰よりも近い所で、最高の特等席で楽しんでいた。
「んんっ……、んんんっ!」
純恋は自身の発言が矛盾していることに気づいている。大変なことになるのは僕だけではない。純恋もだ。普段の純恋よりも呼吸が色づいている。息が言葉に聞こえるぐらい荒くなっている。それでも僕が我慢できることを信頼して純恋は触り続ける。僕は、僕なんかが純恋を裏切ることなんてできない。
僕の口元が緩むたびに開かないように顔に力を入れる。それでもわずかな隙間からは声ではない色が漏れ出す。色は純恋をゆっくりと狂わせる。手は止まるわけがなかった。
しごいて、しごいて、まだしごく。パンツの中がぐちょぐちょで濡れ布巾を押してられているかのような感覚がする。おそらくズボンも浸水してしまっている。
我慢も限界に近い。最後までしたい。
「もうイッちゃう?」
僕らの関係はほつれかけた糸で繋がっている。いつちぎれてもおかしくない。なぜだかわからないが、僕はともかく、純恋もその糸はほどかないような気がしている。もし、関係が終わるなら。
ガチャン! バンッ!
純恋の手が止まる。見つめ合っていた僕らの表情は冷凍保存されたかのように固まる。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン。
ここは人気が少ないだけで人が入ってこないわけではない。僕らは来ないという可能性に賭けていただけの話である。確実なんてなにもない。それでもなぜか今日見たカラスが黒いのだから、明日のカラスも黒い。そのレベルの信憑性があった。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン。
階段の揺れが自分たちの足元にまで伝わる。でもそれ以上に足は震えている。むしろ僕と純恋が階段を揺らしているまである。
救いがないわけではない。普段ならちんちんは露出している。見た目から終わりだ。今日はどうだろうか、ズボン越しに触られているだけである。ここにいること以外に不審な要素はないと言えばない。そのことは純恋も理解している……はずだった。
ドン、ドン、ドン、ドン。
「何をッ!」
息に言葉を紛れさせた声にならない声で純恋に驚きを伝えた。
おかしい、イカれている、タガが外れている。どの言葉も今の純恋にとってはふさわしい。それを表すかのように僕のちんちんはカゴの中から飛び出した。
純恋の口角が先程よりも上がっている。火竜のごとく吐く息は眼鏡を曇らせ、僕を嘲笑う瞳を隠す。
ドン、ドン、ドン、ドン。
くちゅ、くちゅ、くちゅ。
「んんんん!」
潤滑油は飽和状態で滑らかに艶やかな音が純恋の手から鳴る。
絶対に声を出したらいけないと僕は両手で口を塞ぐ。唯一空いている鼻からは興奮した獣と変わらない息遣いが出る。
目の前のコンクリートの割れ目が3つの方向に広がっている。少し上には最上階である6階という表記が書かれたパネルがある。
音が近づく、音がうるさくなる、音が混ざり合う。
「んんんッ!」
僕が
だから気持ち悪いぐらい気持ちよかった。
灰色のキャンバスには精子が黒く垂れ、足元には小さな水たまりができている。純恋の手の中でだらんとしたちんちんは大役を果たした。
純恋の瞳がようやく見えた。赤みを帯びた白目に、わずかな涙が浮かんでいる。僕の顔にかかる息は熱風だった。
僕は純恋の頭に手を回し、震えている唇を塞いだ。空いている手でスカートをめくりあげ、洪水を起こしているパンツに触れる。
「んんん! んん! んんん!」
僕の指がパンツに隠れた秘部を撫でるたびに純恋の腰が跳ね上がる。興奮が息となり僕の顔を押し返そうとする。それならばと手を引き寄せる。重ねた唇を縫い付けるようにして、色がはみ出るのを無理やり我慢させる。
「んんん! んんんんん! んんんんんん!」
抵抗するような眼は最初だけだった。今はまぶたを閉じて快楽に身を委ねている。股に力が入らなくなり始め、僕もかがむ必要がでてきた。
今日の純恋はちょっとどこかおかしかった。僕もおかしかった。鼓膜を震わせるのは純恋から漏れ出す色、水が絡まる色、そして純恋の膝が地面につく音。
「んんんんん! んんッ!」
純恋の背中がはずみ、水たまりに新しい水が供給された。
「バカ」
「ごめん」
「さすがにやりすぎ」
「ほんとごめん」
離れた唇は唾液の橋を渡るようにもう一度くっつく。
「許す」
「許さないで」
「許す」
「……ありがとう」
唇は再び重なる。
電球の紐を下げると暗闇となる。ドアの隙間からは廊下の光がわずかに差し込んでいる。
「許して」
指は秘部の奥、膣に伸びる。ほんの少しだけ指が入り、そして出す。ゆっくりゆっくり指が動く。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
謝るたびに純恋の手は敏感な部分をあえて刺激する。
くちゅ、くちゅちゅ、くちゅちゅちゅ。
布団が上下に跳ねる。つま先が少し伸びる。
「許して、許して、許して……んんんッ!」
体中に電撃が走る。イッた。目尻から涙がこぼれ、愛液は太ももから敷布団まで垂れている。数秒が数分と錯覚するような長さの痙攣が終わり、秘部から引き上げた指を目の前で広げた。
愛液は人差し指と中指の第二関節へ橋をかけ、そして鼻の上に垂れ落ちた。
「つめたっ」
声を出した瞬間、リビングから笑い声が聞こえたような気がした。