※この作品はR-18です。

灰色創世Ⅰ(グレイジェネシス)ー禁忌の遺産を継ぐ者ー   作:絶撃@

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小さな命は、まだ世界の形を知らない

それでも、触れ合うぬくもりや優しい声に、少しずつ心を開いてゆく

守りたいと思う気持ちが、時に迷いを生み、時に希望を紡ぐ
少年と少女の間に生まれる静かな絆は、言葉にならない温もりで満ちている

灰色の世界で芽吹く、新しい日々のはじまりを、今はそっと見届ける




12 灰色の新生

灰色創世Ⅰ(グレイジェネシス)―禁忌の遺産を継ぐ者―

 

 

 

12

 

 

灰色の新生

 

 

 

 

 

 

泣きつかれて眠る猫夢の背中をさすりながら、タカヒロは猫夢の感情が零れ落ちる様を思い出していた

 

 

大脳の大半を失ってしまっていても、猫夢は・・・・・《猫》じゃない・・・

 

 

 

 

そこには・・・確かに《猫夢はいる》

 

 

 

 

「・・・それが・・・知りたかった・・・」

 

 

 

 

猫夢に人の心がまだほんのひとかけらでも残っているのなら・・・・

 

 

 

 

《・・・この子に・・・・僕の世界を見せるのは・・・・・・傲慢かもしれない・・・だけど・・・》

 

 

 

 

この子は・・・自分が置かれている状況もわからず、

 

何に恐怖しているのかすらわからずにこれからも怯えて生きていく事になる・・・

 

 

それはあまりにも不憫であった

 

 

 

 

《・・・そんな思いをさせるくらいなら・・・・・》

 

 

 

 

 

 

ふと、部屋に置かれた60L水槽に目を向ける

 

 

水槽で有機ナノマシンGratを増殖培養するというのはGraveの発案だけど・・・

 

 

 

 

《・・あまりにも都合がよすぎる・・・・Graveのやつ・・・》

 

 

 

 

Graveが大分以前から猫夢に目を付けていてこの展開を誘導していた可能性が高い

 

 

タカヒロは直前まで迷っていたのに、Graveは初めからそのつもりだったのだろう

 

 

 

 

 

《・・けれど・・・・僕は・・・》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・鈴璃・・今日はありがとう・・・呼び出しておいて済まないけど、今日はもう・・・」

 

 

 

タカヒロが何を考えているのか、鈴璃にはわからない・・・でも・・・

 

 

 

「・・・うん、もう・・・帰るね・・・何かあったら呼んでね・・・」

 

 

 

何かを察したように、鈴璃はお暇する

 

 

 

見送りは・・・なかった・・・

 

 

 

 

 

家を出た鈴璃が、道すがら時折こちらを振り返っては・・・小さな溜息をついているのがわかる

 

 

 

 

彼女をすっかり巻き込んでしまったと自覚する・・

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やる事は実に単純である

 

 

 

僕がGraveの提案に同意を返す・・・ただ、それだけだった

 

 

 

そしてそれは、鈴璃がまだこの部屋にいた時に・・・実行していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫夢の中でゆっくりと有機ナノマシンの・・・Gratの増殖が始まっていた

 

 

 

 

水槽から汲み出した水を冷蔵庫で冷やしておいた

 

 

たったそれだけの事で、鈴璃はその水を使ってデザートのゼリーを作ってくれる

 

 

 

 

それをこの子はおなか一杯になるまで美味しそうに食べていた

 

 

 

 

 

 

 

あとは・・・・待つだけだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は猫夢の髪を撫でながら、Graveから提示されるナノマシン増殖の様子をモニタリングして・・・

 

 

演算ログをビジョンとして頭の中で眺めていた

 

 

 

猫夢の頭の中に満たされた骨髄液の中を、有機ナノマシンGrat20基が自由に泳いでいるのが見える

 

 

そしてそれぞれが自身のコピーを毎分ごとに指数関数的に増殖しながらシナプスを形成し、疑似脳《NeoBrain》を構築する

 

 

 

それから僅か29分でGratは脳細胞と同等の数に達していた

 

 

 

 

この時点で人間の脳と同等の機能を達成していたが、その後も増殖を続け・・・・・・56分後

 

 

 

 

 

最終的には脳細胞の数の1628万倍の1400京という・・・

 

 

半世紀前の東京都に住んでいた都民全員を合わせたよりも多い基数に到達したところで増殖を停止

 

 

 

東京都と同等以上の頭脳が猫夢の中に宿る・・・

 

 

 

そこからネットワークを形成し・・・猫夢専用疑似人格・・・Grave-Neが―――――――――――――――――

 

 

 

 

―――――――――ゆっくりと起動する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ眠っている猫夢の頭の中で、Grave-Neが・・・猫夢のシンプルな情動や感情を整理し言語化するプログラムを構築する

 

 

 

だが、あまりにもシンプル故、完全な言語化は不可能であった

 

 

 

猫夢の中で、極めて幼児性の高い知性と、

 

スーパーコンピューターのような高度な演算領域が同居するいびつな人格が形成されつつあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・・

 

 

 

 

猫夢は・・・目を覚ます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・目が覚めたかい? 猫夢?」

 

 

 

 

 

 

「・・・・みゅ?」

 

 

 

 

不思議そうな目で僕の顔を覗き込んでいる

 

 

 

 

「・・・やはり・・・難しいか・・・・」

 

 

 

 

 

 

演算領域を増やしても、言語化を実現するにはあまりにも脳を削られすぎている・・・

 

 

 

 

 

少しばかり落胆する僕を慰めるかのように、猫夢は僕におでこを擦り付ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・お・・・にい・・・・ちゃん・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・あ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みゅ?」

 

 

 

 

 

 

 

思わず、僕は猫夢を抱きしめていた

 

 

 

 

 

 

「みゅ――――??」

 

 

 

 

「・・少しだけ、喋れたね猫夢」

 

 

 

 

 

「みゃう?」

 

 

 

 

「・・なんかあんまり変わってないけど・・・まぁ・・・・いいか」

 

 

 

 

しっぽをふりふりしながら嬉しそうにはしゃぐ猫夢

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、お昼まだ食べてなかったね・・・ご飯にしようか」

 

 

 

「みゃう?」

 

 

 

 

猫夢を抱き上げながら、ダイニングへと向かう

 

 

 

 

 

《・・・・ゆっくりいこうね・・・猫夢・・》

 

 

 

 

 

 

 

・・・灰色の新生は・・・まだ、はじまったばかりだった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・《おにいちゃん》・・・か・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まぁ・・確かに・・・」

 

 

 

 

 

 

 

そう、呼ばせてみたい・・・とは思う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・まぁ、今はそれでいい・・・今は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

鈴璃が作り置きしてくれていたオムライスを、おなかいっぱいに食べて至福の時を満喫する猫夢

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・猫夢・・・」

 

 

 

 

 

タカヒロは猫夢をだっこする

 

 

 

 

 

「・・みゃー?」

 

 

 

 

猫夢は暖かさを感じる・・・それが心地よいと感じているが、それを言葉にする事ができない

 

 

 

タカヒロは猫夢の髪を優しく撫でる

 

 

 

「みゃうー?」

 

 

 

髪の毛ごしに、電流が走る

 

たとえようのないうれしさが・・・溢れてくる

 

 

 

「・・・みゃう☆」

 

 

 

うれしくて、タカヒロの胸におでこをすりつける

 

それが・・・猫夢の言葉にならない言葉だった

 

 

 

 

Grave-Neは、猫夢の言葉にならない言葉を――――――理解する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが―――――タカヒロに提示される

 

 

 

 

「そう・・か・・なるほどね・・」

 

 

 

 

タカヒロは考える

 

 

 

猫夢の言葉にならない言葉は僕に伝わる

 

でも、僕の言葉を猫夢に伝える手段が見あたらない

 

 

 

 

猫夢は感じている

 

 

 

 

いつもは

 

 

 

あったかい

 

こわくない

 

おなかすいたー

 

 

おしっこ

 

うんちー

 

 

 

ねんね

 

 

 

 

 

 

・・・・すき

 

 

 

 

 

だけでせかいができている

 

 

 

 

 

でも・・・

 

 

 

きょうはいつもとすこしだけ・・・ちがう

 

 

 

だっこが・・・

 

 

いつもよりあったかい

 

 

 

いつもより・・・ここちよい・・

 

 

 

 

 

いつもより・・・

 

 

 

 

 

ぬくもりが・・・とけて・・・なかにはいってくる・・・

 

 

 

 

 

 

「みゃう?」

 

 

 

 

 

 

いつもとちがうあさ・・・

 

 

 

 

 

 

いつもより・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やさしい・・・ねんね

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりの心地よさに・・・降り積もる雪のように・・・

 

 

 

 

猫夢はふんわりと眠りにつく・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸せそうな・・・笑みを浮かべて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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