【ToLOVEる外伝】リトと美柑の秘められた日常 ―禁断の果実を食む兄妹― 作:芝刈り山
クローゼットの扉の隙間から、細い一条の光が闇を切り裂いていた。
リトはその暗闇の奥で、息を殺し、彫像のように固まっていた。右手には、チェストから抜き取ったばかりの「白」――美柑の白い綿パンツを握りしめたまま。指先に伝わる布地の感触は、驚くほど滑らかで、それでいてひんやりとしていた。
すぐ外側では、取り込んだばかりの洗濯物がベッドに放り出される「バサッ」という柔らかな音がし、続いて「ふぅ」と小さく息をつく美柑の気配がした。
(どうする……。どうすればいい……)
リトの心臓は、薄いクローゼットの壁を突き破らんばかりに激しく鼓動していた。もし今、この扉を開けて「ごめん、隠れていたんだ」と告白したところで、右手に握られた「証拠」がすべてを台無しにする。妹の下着を盗み出し、その匂いを貪ろうとしていた変態の兄。そんなレッテルを一度でも貼られれば、結城家の穏やかな日常は、この瞬間に永遠の終わりを迎えるだろう。
しかし、破滅への恐怖と隣り合わせの極限状態で、リトの五感は異常なまでに研ぎ澄らされていた。
「ちょっと蒸し暑いし……。サッパリしてから夕飯の準備にしよ」
美柑の独り言が、すぐ耳元で囁かれたかのように生々しく響く。
カサリ、と布が擦れる音がした。美柑が、今穿いているスカートのウエストに手をかけたのだ。リトは目を見開いた。隙間から見えるのは、ベッドの端に腰掛けようとする美柑の、まだ幼さの残る細い膝から下。
次の瞬間、短いスカートがスルスルと足元へ向かって滑り落ちた。
露わになったのは、夕闇に溶け出すような、白く柔らかな太もも。余計な肉ない、しかし驚くほど瑞々しい少女の肌。そして、その付け根に食い込む「白い綿パンツ」の無垢なサイドライン。
(見ちゃいけない……。でも……っ!)
リトは瞬きすることさえ忘れ、その光景を網膜に焼き付けた。
美柑は立ち上がると、両手の親指をパンツのゴムの部分に引っ掛けた。鏡を見るわけでもなく、誰の視線も意識していない、完全な無防備。美柑の小さな指がゆっくりと下方向へ力を加えると、白い綿の布地が、彼女の丸みを帯びた尻のラインをなぞりながら、じわじわと引き下げられていく。
「ん……っ」
美柑がわずかに腰を浮かせ、パンツを脚から引き抜く。リトの目の前で、まさに「今、脱ぎ捨てられたばかりの白」が、床へと静かに落ちた。
パンツを脱ぎ去った美柑の股間は、リトの角度からは直接は見えなかった。しかし、その周囲の空気が一変したのを肌で感じた。一瞬だけ、彼女の聖域が解放された瞬間の、あの甘く濃厚な、そしてどこか切ない「命の匂い」が、クローゼットの隙間を通ってリトの鼻腔を直撃したのだ。
リトは手に持ったパンツを、顔に押し当てたいという衝動を必死に抑えた。代わりに、彼は目隠しをされているかのような暗闇の中で、自分の手に残る布の感触と、目の前で繰り広げられる無垢な脱衣の光景を、脳内で一つに重ね合わせた。
(美柑が……今、俺のすぐ前で裸になってる……)
美柑は洗濯物の中から選んだ、新しく清潔な白い綿パンツを手に取った。彼女はそれを広げると、片足ずつ通していく。シュッ、という布が肌を滑る微かな音。膝、太もも、そして再びあの柔らかな尻を包み込むように、白が引き上げられていく。
最後にウエストのゴムが「パチン」と小気味よい音を立てて、彼女の華奢な腰に密着した。
リトは、その音を聞いた瞬間、全身の力が抜けるような、それでいて下腹部が焼き切れるような、かつてない高揚感の極致に達した。見つかるかもしれないという極限の恐怖と、絶対に見てはいけない「妹の着替え」を盗み見るという究極の背徳。その二つが混ざり合い、リトの理性を完全に粉砕していた。
美柑は着替えを終えると、脱ぎ捨てたパンツとスカートを器用にまとめ、部屋を後にした。トントントン、と階段を下りていく足音が遠ざかり、再び静寂が部屋を包み込む。
リトは数分間、暗闇の中で激しい呼吸を整え続けた。
手に持ったパンツは、自分の体温で温かくなり、握りしめたせいで少しシワが寄っていた。
(……これ以上は、ダメだ。……これ以上、踏み込んだら、本当に戻れなくなる)
リトは慎重にクローゼットの扉を開け、外へ出た。夕闇の中、手に持ったパンツはあまりにも白く、純粋だった。リトはそれを丁寧に、元の形になるように指でシワを伸ばした。そして、チェストの引き出しを開け、もともとあった場所へと、一枚のズレもなく元に戻した。
「……ふぅ」
リトの手には、もう何もない。美柑の匂いも、布の感触も、今はただの記憶の中にしかない。リトは一度だけ部屋を見渡し、美柑がさっきまで座っていたベッドの微かな窪みを見つめた。そこにはまだ、彼女の体温が残っているような気がした。
リトは音を立てないようにドアを開け、廊下へと滑り出した。リビングからは、美柑が野菜を切る軽快な包丁の音が聞こえてくる。あまりにもありふれた、平和な音。
リトは自分の部屋へと戻る階段を一段ずつ、噛みしめるように上がっていった。
手ぶらのリト。しかし、その網膜には、今しがた見た「脱ぎ捨てられる白」と、クローゼットの暗闇の匂いが、どんな宝物よりも重く、深く刻み込まれていた。
彼は自室のベッドに倒れ込み、何も持っていない自分の手のひらをじっと見つめた。夕闇が本格的に部屋を支配し始める中、リトは静かに目を閉じ、再びあのクローゼットの暗闇へと意識を沈めていった。