【ToLOVEる外伝】リトと美柑の秘められた日常 ―禁断の果実を食む兄妹― 作:芝刈り山
その日の午後は、湿り気を帯びた熱気が校舎の隅々にまで停滞していた。体育館の裏手、日陰になった用務員室の周辺だけが、辛うじて外界の喧騒から切り離された静寂を保っている。林さんは古い扇風機の羽根を一枚ずつ丁寧に拭きながら、冷房の効いた室内で作業を進めていた。
「おじいちゃん、お疲れ様!」
元気な声と共に、美柑が用務員室に飛び込んできた。今日の彼女は、放課後の委員会活動を終えたばかりらしく、首筋には細かな汗の粒が真珠のように並んで光っている。
「おお、美柑ちゃん。今日も精が出るね。暑かっただろう」
「もう、サウナの中にいるみたいだったよ。ねえ、おじいちゃん。またシャワー借りてもいい? 汗を流さないと、気持ち悪くて帰れないんだもん」
美柑は屈託のない笑顔でそう言うと、いつもの着替えバッグを抱えてシャワー室へ向かった。林さんは「ああ、いいよ。タオルは新しいのを使っておくれ」と背中に声をかけ、再び作業に戻った。
しばらくして、シャワー室の奥から勢いよく水が床を叩く音が響き始めた。林さんは、その音を聞きながら、どこか落ち着かない気持ちで手を動かしていた。最近の美柑は、自分に対してあまりにも無防備すぎる。それが祖父を慕う孫のような純粋な信頼から来るものだと分かっていても、一人の男としての理性が、その信頼の重さに悲鳴を上げ始めていた。
「……おじいちゃーん! ちょっと来てくれる?」
不意に、シャワーの音に混じって美柑の呼ぶ声がした。林さんは手を止め、怪訝そうに聞き返す。
「どうしたんだい、美柑ちゃん。ボディソープが切れたかな」
「ううん、そうじゃないの。……背中、流してほしいなと思って。自分でやると、どうしても届かないんだもん」
林さんは一瞬、耳を疑った。自分の心臓がドクンと大きく脈打つのを感じる。
「……背中、かい? それは……わしが行くのかい?」
「そうだよ。お願い!」
その声には、一切の邪念も、恥じらいもなかった。彼女にとって、林さんは「おじいちゃん」のような存在であり、家族と同じ安心できる存在なのだ。しかし、林さんの方はそうはいかない。彼は深呼吸を一度し、自分の着ているTシャツと短パンの裾を整えると、震える手でシャワー室の引き戸に手をかけた。
「……失礼するよ」
戸を開けると、一気に立ち込める熱い湯気と、石鹸の甘い香りが林さんの顔を包み込んだ。
視界を覆う白い霧の向こう側に、一糸まとわぬ美柑のシルエットが浮かび上がっていた。
「あ、おじいちゃん! ありがとう。ほら、ここ、お願いね」
美柑はシャワーを浴びながら、林さんの方に背中を向けた。
林さんは足元のタイルを濡らさないよう、短パンの裾をさらにまくり上げ、彼女の背後に膝をついた。
目の前には、眩しいほどの白さを湛えた、美柑の小さな背中が広がっていた。
濡れて肌に張り付いた栗色の長い髪を、彼女は無造作に前へと束ねている。そのおかげで、うなじから肩、そして背骨の緩やかな曲線が、湯気の中で神聖なまでの美しさを持って晒されていた。
林さんは、泡立てたスポンジを手に取り、ゆっくりと彼女の肌に滑らせた。
「……痛くないかい?」
「うん、ちょうどいいよ。あぁ……気持ちいい……」
美柑は心地よさそうに目を細め、少しだけ背中を反らせた。その動作に合わせて、彼女の白く滑らかな肩甲骨が、薄い皮膚の下で繊細に動き、生き物のような躍動感を見せる。
林さんの指先は、スポンジ越しに美柑の体温をダイレクトに感じていた。小学生らしい、きめ細かくて弾力のある、吸い付くような柔肌。
背中を洗う手の動きが、次第にゆっくりとなっていく。林さんは、自分の理性が、この湯気の中に溶け出していくような感覚を覚えた。
「おじいちゃん、脇のあたりもお願いね」
美柑がそう言って、両腕を上げた。
その無防備な仕草によって、彼女の脇から胸の横にかけてのラインが、無防備に開放された。
「……わかったよ。じっとしておくれ」
林さんは細心の注意を払いながら、スポンジを彼女の脇へと差し入れた。しかし、湯気で視界が悪くなっていたせいか、あるいは、あまりの近さに動揺していたせいか。
林さんの掌が、スポンジを介さず、直接彼女の脇から胸の横側に触れた。
「……っ!」
衝撃が林さんの指先から脳髄までを貫いた。
そこには、背中よりもさらに柔らかく、さらに熱い、未成熟な命の膨らみがあった。
ブラジャーという束縛を知らない彼女の胸は、掌のわずかな動きに合わせて、ぷるぷると、瑞々しい果実のように形を変える。
「あ……っ、おじいちゃん……」
美柑の口から、微かな吐息が漏れた。
彼女の身体がピクリと震え、林さんの親指が、偶然にも彼女の乳房の横側を強く押し込む形になった。指先に伝わる、驚くほど高い体温。まだ小さく、けれど確かな主張を持って存在しているその膨らみは、老人の枯れかけた情動を焼き焦がすには十分すぎる熱を持っていた。
(……なんてことだ。わしは、何に触れているんだ……)
林さんは、自分の指が彼女の胸の柔らかさに沈み込んでいく感覚に、眩暈を覚えた。
石鹸の泡にまみれた彼女の身体は、湯気の中で淫らに光を反射している。
背中から腰にかけてのくびれ。そして、その下にある、小学生らしいけれど女性としての輪郭を整え始めたお尻の曲線。
美柑は拒絶するどころか、より深く、林さんの掌に身を委ねるように、わずかに身体を後ろへと傾けた。
「……おじいちゃんの手、あったかいね」
彼女の潤んだ瞳が、肩越しに林さんを見つめる。
そこには、兄であるリトに向けるものと同じ、あるいはそれ以上の、深い信頼と甘えが混じり合っていた。だが、その純粋な瞳に見つめられれば見つめられるほど、林さんは自分の内側にある「黒い衝動」が、彼女の白さを汚してしまいそうな恐怖に駆られた。
「……よし、もういいよ。あとは自分で流せるだろう」
林さんは、爆発しそうな理性をなんとか繋ぎ止め、彼女から手を離した。
掌には、まだ彼女の胸の柔らかさと、あの熱い体温が、呪縛のように残り続けている。
「えー、もう終わり? もっと洗ってほしかったのにな」
美柑は不満げに口を尖らせながらも、再びシャワーを浴び始めた。
湯気が激しく舞い上がり、彼女の白い身体を隠していく。
林さんは、逃げるようにシャワー室を後にした。
用務員室に戻り、冷房の風に当たっても、身体の芯に残った熱は一向に引かなかった。
彼は自分の掌を見つめた。
そこには、さっきまで触れていた美柑の小さな背中の曲線と、脇から胸にかけての、あの柔らかく、命に満ちた感触が、克明に刻まれている。
(……美柑ちゃん。君は、本当に……わしを狂わせてしまうよ……)
林さんは、震える手で再び扇風機の掃除を始めたが、もはや心ここにあらずだった。
鼻腔に残る、彼女の石鹸の香りと、蒸気と共に立ち昇ってきた少女特有の匂い。
孫を愛でるような純真な心。
その美しく脆い境界線が、今日、また少しだけ、美柑という名の無垢な暴力によって、修復不可能なまでに削り取られてしまったことを、林さんは自覚せざるを得なかった。