【ToLOVEる外伝】リトと美柑の秘められた日常 ―禁断の果実を食む兄妹― 作:芝刈り山
湯リトと美柑が湯気に消えた幼き日の境界線と最後に入浴した夜の記憶を辿る
給湯器が奏でる無機質なメロディが、静まり返ったリビングに響き渡った。
それはお湯が沸いたことを告げる、日常のありふれた合図。しかし、互いの「絆」を確認し合い、いつもの兄妹に戻ったはずの二人にとって、その音はどこか決定的な境界線を引く鐘のようにも聞こえた。
夕食を終えた後のリビングには、先ほどまでの熱情の名残と、それを覆い隠そうとする奇妙に浮遊した空気が漂っている。
ソファに深く沈み込み、まだリトの部屋で交わした濃密な時間の余韻に浸るリト。その隣で、美柑が膝を抱え、薄暗いリビングの隅を見つめるような瞳で静かに口を開いた。
「……ねえ、リト。私たち、いつまで一緒にお風呂に入っていたっけ?」
唐突な問いだった。しかし、その声は先ほどまでの湿り気を帯びた甘いものではなく、失われた無垢を慈しむような、どこか寂しげな響きを湛えていた。
「え……。あ、ああ。どうだったかな。……もう、ずいぶん昔のことだよな」
リトは動揺を隠すように、曖昧に言葉を返した。美柑は自分の膝に顎を乗せ、過去の断片を拾い集めるように続ける。
「ずっと小さかった頃は、それが当たり前だったのにね。お互いに背中を流し合って、おもちゃで遊んで……。でも、いつの頃からか、お互いの身体が少しずつ違うことに気づき始めて。……気づいたら、自然と別々に入るようになってた」
美柑にとって、それは「成長」という名の不可抗力によって、ぼんやりと上書きされてしまった淡い記録の一部に過ぎないのかもしれない。しかし、リトにとっては違った。リトの脳裏には、その「最後の日」の記憶が、昨日のことのように鮮明に、そしてあまりにも生々しい背徳の色を伴って焼き付いていた。
それは、外で激しい雨が降っていたある日の夕方だった。
まだ小学生だったリトと、さらに幼かった美柑。浴室には真っ白な石鹸の泡が溢れ、二人は無邪気に笑いながら、お互いの身体を洗いっこしていた。
「リト、泡がいっぱい! ほら、真っ白だよ!」
屈託のない笑顔を浮かべる美柑が、小さな掌に山盛りの泡を乗せて、リトの胸や腹に塗りつけてくる。リトも笑いながら、美柑の細い腕や脚に泡を広げていった。最初はただの遊びだった。だが、お互いの肌を滑る泡のぬめらかな感触が、二人の動きを次第に緩やかに、そして奇妙な熱を帯びた集中力を持ったものへと変えていった。
美柑の瑞々しい、陶器のような肌を、泡を介して撫でていくリトの指先。その手が、ふと、彼女の股間の合わせ目に触れた。
その瞬間、リトの幼い身体を未知の衝撃が駆け抜けた。
「……あ、リト。そこ、なんだか……くすぐったいよ」
美柑は嫌がる様子もなく、むしろ不思議そうに身体を揺らした。「変な感じがするけど……でも、なんだか気持ちいい」。美柑のその純粋な言葉が、リトの中に眠っていた「男」の輪郭を急速に形作らせた。リトの手は、磁石に吸い寄せられるように美柑の秘部を、泡の膜越しに優しく、そして執拗に撫で続けた。
一方で、美柑の手もまた、リトの股間にある「象徴」へと伸びていた。
「リト、ここも洗ってあげるね」
美柑は、リトの身体に起き始めていた変化のことなど何も知らなかった。ただ、自分がここを触ると、リトの顔が真っ赤になり、彼がこれまで見たこともない表情を浮かべるのが嬉しかった。美柑はもっと喜ぶ顔が見たくて、一生懸命にその小さく昂ぶり始めたリトの証を掌で包み、指先で上下に動かし続けた。
そして、その時は突然訪れた。
美柑の柔らかな指がリトの敏感な先端を強く掠めた瞬間、リトの腰がびくんと跳ね上がった。幼い彼には到底理解できない、脳内を真っ白に染め上げるような快感の奔流。リトはそこで、人生で初めての「精通」を経験したのだ。
浴室の白い泡の中に混じり、広がっていく、自分の身体から溢れ出した未知の熱い雫。
リトは、その瞬間に悟ってしまった。自分がもう「ただの子供」ではなくなってしまったこと。そして、このまま美柑と一緒に笑ってお風呂に入ることは、取り返しのつかない「罪」になってしまうことを。
「……リト、どうしたの? お顔、真っ赤だよ」
心配そうに覗き込む美柑の無垢な瞳が、リトには何よりも痛く、鋭い刃のように突き刺さった。
浴室を出た後、リトは美柑の目を一度も見ることができなかった。全身を支配する激しい羞恥と罪悪感。迎えに来た美柑に向かって、彼は震える声で言い放った。
「……美柑。明日から、お風呂は別々だ。……もう、一緒には入らないから」
「えっ……? なんで? 私、何か悪いことした……?」
驚き、瞬く間に瞳を潤ませる美柑。彼女は半泣きになりながら何度も理由を尋ねたが、リトは「もう大きいんだから当たり前だ」と強い口調で突っぱねるしかなかった。それ以来、二人の間には、見えないけれど強固な「壁」ができるようになったのだ。
「……あ、もう行かなきゃ。お湯、冷めちゃうね」
美柑はソファから立ち上がり、軽く伸びをすると、リトに背を向けて脱衣所へと歩き出した。その華奢な肩、揺れるスカートの裾、そして成長した少女としての確かな肉体の曲線。
リトは、浴室へと向かう彼女の背中を、言葉にできない複雑な想いで見つめていた。あの「最後の日」から数年。美柑の胸は膨らみ、リトはますます男としての厚みを増した。そして今、二人はかつて拒絶したはずの領域を越え、さらに深い禁忌の迷宮へと足を踏み入れている。
(今更……あの日みたいに『一緒に入ろう』なんて、言えるわけない。美柑は、今の俺をどう思っているんだろうな……)
リトはリビングのソファに深く身を沈め、ゆっくりと目を閉じた。
やがて聞こえてきたのは、脱衣所のドアが閉まる音。そして、壁を隔てた向こう側で、美柑が身体を流す「シャーッ」というシャワーの音。その規則正しい水の音は、リトにとって世界で最も甘美で、最も残酷な旋律となって鼓膜を揺らす。
リトは、泡の中で笑っていたあの日の幻影を追いかけながら、いつしか深い、泥のような微睡みの中に落ちていった。