【ToLOVEる外伝】リトと美柑の秘められた日常 ―禁断の果実を食む兄妹― 作:芝刈り山
旅館の大浴場を満たしているのは、単なるお湯の熱だけではなかった。天井の高い空間に反響する、何十人もの女子たちの笑い声と、タイルの上で跳ねる水音。そして、空間を真っ白に埋め尽くす濃厚な湯気が、すべてを幻想的に、そしてどこか非日常的な風景へと変えていた。
美柑は、首までたっぷりとお湯に浸かり、浴槽の縁に頭を預けた。視界は真っ白な霧に包まれ、数メートル先にいる友人たちの姿も、淡いシルエットのようにしか見えない。
「極楽、極楽……。美柑、顔がとろけてるよ?」
隣にいた幸恵が、いたずらっぽく美柑の頬を突こうと指を伸ばしてきた。美柑はそれをひらりと避け、ふっと息をつく。
「そうかしら。少し、ぼーっとしていただけよ」
(本当は、思い出していただけなのに)
美柑の脳裏には、自宅の、あの少し狭くて、けれど清潔な香りのするお風呂場の光景が鮮明に浮かんでいた。リトと一緒に入るお風呂。それは結城家において、ある時期から当たり前のように、けれど特別な意味を持って行われてきた儀式のようなものだった。
家事を完璧にこなす美柑にとって、お風呂は一日の終わりをリトと共有する大切な場所。そこでは、背中を流し合ったり、学校であったことを報告し合ったりする。けれど、それだけでは終わらない。
(リトの大きな手……。石鹸を泡立てて、私の背中を洗ってくれる時の、あの少し不器用な感触)
美柑は湯船の中で、自分の肩を抱くように腕を交差させた。今、自分の肌を撫でているのはただの熱いお湯だが、記憶の中のリトの感触は、お湯よりもずっと熱く、美柑の心臓を強く打ち鳴らさせた。
「あーあ、修学旅行も楽しいけど、やっぱりおうちのお風呂が一番落ち着くよね」
真美が足をバタバタさせながら言った。
「そうね。私も……おうちのお風呂は、特別だと思うわ」
美柑の言葉は、友人たちのそれとは全く異なる意味を含んでいた。自宅の浴槽で、リトの膝の間に座り、背中を預ける時の安心感。リトの鼓動が背中越しに伝わってきて、自分の身体がリトの一部になったような感覚。
その記憶を辿るだけで、美柑の秘部は、湯船の熱とは別の、内側からの熱を帯び始めた。
(リト……今、何してるかな。一人でお風呂に入って、私のことを思い出してくれてるかしら)
そう思うと、美柑はいてもたってもいられなくなった。彼女は友人たちが「次は露天風呂に行こうよ」と盛り上がっているのを横目に、「私はもう少しここで温まっていくわ」と告げ、浴槽の隅、一段深くなっている場所へと体を沈めた。
湯気に隠れ、周囲の視線から遮断された特等席。美柑は水中へと手を伸ばした。
水中では、自分の肌が驚くほど滑らかに感じる。美柑は自分の太ももの内側を、指先でゆっくりとなぞった。リトがいつも、躊躇いがちに、けれど拒めない強さで触れてくる場所。
「んっ……」
美柑は唇を噛み締め、声を殺した。周囲にはまだたくさんの女子たちがいる。その喧騒の中に身を置きながら、独りでリトとの記憶に耽る。その背徳的な状況が、美柑の感度を静かに、けれど確実に引き上げていった。
彼女は目を閉じ、リトの声を思い出した。
「美柑、お湯加減はどうだ?」
「美柑の肌は、本当に白いな」
リトの少し照れたような、けれど愛情に満ちた声が耳元で再生される。美柑は水中で、自身の秘部の入り口にそっと指を添えた。
リトに教え込まれた場所。リトが一番喜んでくれる場所。
美柑は、リトとの混浴でいつも最後に行われる「可愛がり」を、自分の指で再現しようとした。水圧のせいで、指の動きはいつもより重く、鈍い。けれど、それが逆に、リトにじっくりと焦らされているような感覚を与えた。
(あ、あ……リト……。リトの指がいい……。もっと、強く、かき回して……)
美柑の呼吸が、少しずつ浅くなっていく。吐息が熱を帯び、湯気と混じり合って消えていく。周囲の女子たちの笑い声が、まるで遠い異世界の出来事のように聞こえた。今、この白い湯船の中に存在するのは、美柑と、彼女が作り出したリトの幻影だけだった。
水中での愛撫は、外からは決して分からない。美柑は平然とした表情を装いながら、水面下では激しく指を動かし続けた。
リトが注いでくれた白濁の熱。
リトが残してくれた、あの濃厚な匂い。
それらすべてが、今、この瞬間の美柑を突き動かしていた。
(大好き……リト。リトに、もっとめちゃくちゃにされたい……)
執着という名の熱が、美柑の理性を少しずつ溶かしていく。彼女は水中で、リトの指の感触を模索し、自分の最も敏感な場所を、リトがするように優しく、時に激しく弾いた。
身体の芯から、熱い震えが湧き上がってくる。指先が蜜を捉え、水中でヌルリとした感触が広がった。
「っ、ふ、はぁ……っ……!」
美柑の背中が弓なりに反り、足の指先がプールの底を掴むように丸まった。
その瞬間、身体の奥底から、ダムが決壊したような衝撃が突き抜けた。
静かな絶頂。
声を上げることも、激しく身悶えることもできない状況で、美柑はただ、全身の筋肉を硬直させ、その波が過ぎ去るのを待った。内側から溢れ出す熱い液体が、湯船のお湯と混ざり合い、美柑の意識を真っ白に塗りつぶした。
目を開けると、やはりそこは真っ白な湯気の世界だった。
「美柑ー? 大丈夫? のぼせちゃった?」
少し離れた場所から、幸恵が心配そうに声をかけてきた。
「……ええ。大丈夫よ。ちょっと、お湯が気持ちよくて、ぼーっとしていただけ」
美柑は乱れた呼吸を悟られないよう、ゆっくりと息を吐いた。身体はまだ心地よい脱力感に包まれ、水中に沈んだままの指先には、確かな余韻が残っている。
「本当に? 顔、真っ赤だよ? 先に出る?」
「ううん。まだ、いいわ。もう少しだけ、こうしていたいの」
美柑は浴槽の縁に腕を乗せ、そこに顎を載せた。身体から力が抜け、まるでお湯の中に溶けてしまいそうな感覚。
リトを想い、リトのいない場所で、リトの代わりに自分を慰めた。
その事実は、美柑にとって、修学旅行という退屈な行事を、特別な「愛の確認作業」へと変えていた。
(まだ、出たくない……)
美柑は、自分の身体を包み込む温かいお湯を、リトの抱擁のように感じながら、しばらくの間、そのまま動かずにいた。
湯船のあちこちでは、相変わらず女子たちが楽しそうに騒いでいる。誰も、この「完璧な結城美柑」が、今この瞬間、兄への淫らな想いで果てたばかりだとは気づいていない。
美柑は、わずかに潤んだ瞳で湯気の向こう側を見つめた。そこには何も見えないけれど、彼女の心には、はっきりとリトの笑顔が映っていた。
お湯はまだ温かく、美柑の火照った身体を優しく支え続けていた。彼女は露天風呂に向かう友人たちの背中を見送りながら、もうしばらく、この余韻に浸ることを決めた。