※この作品はR-18です。

【ToLOVEる外伝】リトと美柑の秘められた日常 ―禁断の果実を食む兄妹―   作:芝刈り山

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忘れ物確認で晒された自分のパンツに動揺しつつも勇気を出して挙手する美柑

修学旅行二日目の朝。京都の空気は少しひんやりとしていたが、旅館の中庭には、まだ眠そうに目を擦る児童たちの元気な姿が集まっていた。

 

「さあ、みんな! 朝のラジオ体操を始めるぞ!」

 

担任の教師たちが声を張り上げ、スピーカーから聞き慣れた音楽が流れ出す。美柑は幸恵と真美の間に立ち、手足を伸ばした。小学生らしい健康的な朝の風景だが、美柑の体は昨夜の激しい自慰の余韻で、どこか重だるい。

 

(リト……おはよ……)

 

心の中で兄に挨拶をしながら、美柑はいつものように完璧なフォームで体操をこなした。隣で幸恵が「あー、まだ眠いよー」と欠伸をしている。そんな子供らしい無邪気な様子を横目に、美柑は自分のカバンの中にある「リトの匂い」に思いを馳せていた。

 

体操が終わり、全員が整列すると、学年主任の植松が前に出た。眼鏡の奥の鋭い瞳が、整列した児童たちをゆっくりと見渡す。その視線が、一瞬だけ美柑のところで止まったような気がして、彼女は背筋に小さな震えを感じた。

 

「二日目の日程に入る前に、いくつか連絡がある。まずは忘れ物についてだ」

 

植松の声は事務的で、厳格そのものだった。

 

「昨日の入浴後、脱衣所にいくつか落とし物があった。自分の持ち物には必ず名前を書くようにと、出発前に何度も念を押したはずだが、守られていない者がいるようだ」

 

植松はまず、一足の黒い靴下を取り出した。

 

「これに心当たりのある者は?」

 

「あ、俺のだ! すみません!」

 

一人の男子が勢いよく手を挙げ、周囲から「またかよー」「しっかりしろよー」と笑い声が上がる。植松は軽くため息をつき、「気を引き締めて残りの二日間を過ごすように」と、教師らしい毅然とした態度で叱責した。

 

(リトも、よく靴下片方なくすのよね……)

 

美柑は微笑ましい光景だと思いながら、どこか他人事のように眺めていた。自分はしっかり者。家事も完璧。そんな凡ミスとは無縁だという自負があったからだ。

 

しかし、次に植松がカバンから取り出したものを見た瞬間、美柑の心臓は、まるで氷水をかけられたかのように凍りついた。

 

「次は、これだ」

 

植松の手元で、真っ白な布地が広げられた。それは、どこにでもある子供用の綿パンツだった。だが、美柑には分かった。その形、その質感、そして何より――。

 

(……私の。……嘘。なんで……?)

 

一気に血の気が引いていく。昨夜、養護教諭の三村に身体を洗ってもらい、高揚感の中で急いで着替えたあの瞬間。確かに、脱いだはずのパンツを籠の中に残してきた記憶が、鮮明に、残酷に蘇る。

 

植松は、その「白」が全員によく見えるように、両手で端を掴み、胸の高さで堂々と広げてみせた。

 

「これも、名前が書いていない。女子の脱衣所にあったものだ」

 

中庭が、一瞬の静寂の後にざわめき出した。

 

「え、パンツ!?」「名前書いてないって、恥ずかしい……」「誰の? 誰のパンツ?」

 

幸恵と真美も「うわ、こんなの自分のだって誰も言えないよね……」と小声で話し合っている。美柑は、羞恥のあまり顔を上げることができなかった。地面の砂利が、妙に鮮明に見える。

 

(どうしよう……。あれは、絶対に私の。でも、ここで名乗り出るなんて……)

 

六年生全員の前で、自分の下着が晒されている。しかも、いつも「完璧」で通っている自分が、名前を書き忘れるという初歩的なミスを犯し、それを忘れてきたという事実。それは小学生の美柑にとって、この世の終わりにも等しい辱めだった。

 

植松は、ざわつく子供たちを制するように、静かに、けれど逃げ場のない声で言った。

 

「非常にデリケートな落とし物だ。ここで名乗り出るのが恥ずかしい、という気持ちも分かる。だが、放置しておくわけにもいかない。修学旅行の約束を破り、名前を書かなかった報いではあるが……」

 

植松は一度言葉を切り、眼鏡を押し上げた。

 

「一度だけ、チャンスをやる。今から全員、目を閉じなさい。下を向いて、決して目を開けてはいかん」

 

子供たちが互いに顔を見合わせながら、ゆっくりと目を閉じていく。美柑も、震えるまぶたを閉じた。世界が真っ暗になり、代わりに聴覚が研ぎ澄らされる。風の音、遠くを走る車の音、そして、植松の低い声。

 

「いいか。自分のだと思う者は、黙って、そっと手を挙げなさい。誰にも見えないように私が確認する。正直に名乗り出る勇気を持つことが、これからの君たちの成長に繋がるはずだ」

 

植松の言葉は、まるで慈悲深い救済のように美柑の耳に届いた。

 

(みんなに、迷惑をかけちゃいけない……。責任を、取らなきゃ……)

 

リトにいつも「しっかりしてるな」と褒められる美柑。結城家の看板を背負い、リトの妹として恥ずかしくない行動をしなければならないという、彼女なりの矜持。その健気な責任感が、羞恥心を僅かに上回った。

 

美柑は、鉛のように重い右手を、誰にも悟られないように、胸の高さまで、そっと、小さく挙げた。

 

「……よろしい。正直な者がいて安心した」

 

植松の声が、わずかに優しくなったような気がした。

 

「全員、目を開けていいぞ。該当者は、朝食の前の自由時間に私の部屋まで取りに来るように。以上、解散だ」

 

目を開けると、いつもの中庭の風景に戻っていた。誰も、美柑が手を挙げたことなど気づいていない。幸恵たちが「結局誰だったんだろうね」と不思議そうにしているのを、美柑は生返事でやり過ごした。

 

心臓の鼓動が、まだうるさく鳴り響いている。

 

自分の大切な「白」が、あの厳格な植松先生の手元にある。

 

(……行かなきゃ)

 

美柑は、朝食の準備で賑わい始めた友人たちの輪から一人離れ、植松の部屋がある教師用フロアへと、ゆっくりと歩き出した。

 

廊下の突き当たりにある、植松の部屋のドア。

 

美柑は一度深く息を吸い込み、小さくて細い指先を丸めて、その木製のドアをノックした。

 

「……失礼します。結城、です」

 

その声は、自分でも驚くほど震えていた。

 

部屋の中から、「入りなさい」という植松の低い声が聞こえてきた。

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