※この作品はR-18です。

女騎士ベアトリーチェ【完結】   作:ドン・ドナシアン

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004 女騎士の矜恃

 両腕は頭上へ引き上げられ、手首は鎖で固定されている。

 足先は床に触れているが、膝を外側へ引かれているため、体重を預けることはできない。

 二本の筆が左右から迫る。

 ふたりの女調教師が左右から、乳房の上の布に筆を差し込んできて、固く尖っている乳首を筆でくすぐってきた。

 

「うんっ」

 

 刺激に耐えられずに、ベアトリーチェは声をあげて、二本の棒にはリつけになっている身体をのたうたせてしまった。

 しかし、四肢をしっかりと引き延ばされているため、大きく動くことは不可能だ。左右のどちらに身体を捻っても、女の筆が襲ってくる。

 くるくると乳首の周りを筆で撫ぜられ、そこから拡がる刺激は、ベアトリーチェの拒絶の意思を嘲笑うかのように、脳天にまで響く甘美なうねりとなって、襲いかかってくる。

 

 あの媚薬のせいだ──。

 そうとしか考えられない。

 そのとき、乳首から離れていたひとりの筆が右から脇腹を撫であげてきた。

 

「くっ、ううっ」

 

 思わず腰を捩る。

 すると、今度は左から腋をくすぐられる。

 

「うあっ、いやっ」

 

 ついに悲鳴をあげて、今度は右に身体を捻る。

 すると、右の腋をくすぐられる。

 

「ひいいっ、あああっ」

 

 左右から腋の下を筆でいたぶられ、ベアトリーチェは少しでもくすぐったさから逃れようと、身体を左右にもがかせる。しかし、逃げ場などどこにもない。

 容赦なく腋の下をくすぐられ、重い感覚が下腹部の中心に響いてくる。

 

「ふふ、騎士さまは、筆責めがお気に入りみたいね」

 

「もっと、皆様にも、騎士さまの声を聞かせてあげたいわ」

 

 ふたりがやっと筆を離した。

 すでに、ベアトリーチェはかなりの疲労感でいっぱいだった。

 拘束された身体をぐったりと脱力させてしまう。

 すると、女調教師のひとりが近づき、顎に指を添えて顔の向きを固定する。

 

「動かないで。すぐ終わるから」

 

 頬の横に、なにかが押し当てられた。

 

「これは拡声具よ。喉で震えた息も、口から漏れた音も、そのまま皆さまに届けてくれるのよ」

 

 女はそう説明しながら、わざとゆっくりと手を離した。

 はっとした。

 ベアトリーチェ自身の息の音が、会場中に拡声されているのだ。

 観衆が一斉にざわめいた。

 

「ほら、聞こえるでしょう? 騎士さまの息の音よ」

 

「これからは、さっきみたいな騎士さまの恥ずかしい声も、会場の皆さんによく聞いてもらえるわよ」

 

 羞恥が、皮膚の内側を這いあがる。

 息づかいのひとつひとつまで、晒されている。いまみたいな、派手な喘ぎ声をあげようものなら、それが大きな音となって会場中に流れ響くということだ。

 もしかしたら、会場の外にまで……。

 ベアトリーチェは必死に口を閉じた。

 

「試してみましょうか」

 

 後ろから背中をすっと上から下に筆でゆっくりと撫でられる。

 

「んんっ」

 

 必死に口をつぐむ。

 だが、筆は腰の後ろに進み、お尻の亀裂に向かっている。

 目を瞑り、歯を喰いしばって、懸命に身体を固くする。

 すると、突然に前から、またもや乳房を乳首をくすぐられた。

 

「ひゃあっ、ああっ」

 

 後ろに備えていた分、前は完全に無防備だった。

 思わずあげてしまった甘い声を、歯を噛み締めて抑え込む。

 しかし、その声は乱れた息とともに、拡声具に拾われ即座に会場へ流れてしまっている。

 

「ふふ、油断しちゃだめよ、騎士さま。筆は二本あるのよ」

 

「そうね。前からも、後ろからもよ」

 

 すると、遅れてお尻に筆が襲いかかった──。

 

「はうんっ」

 

 またもや、悶え声をあげて身体を弾かせてしまう。

 すると、お尻の穴を執拗に刺激しながら、別の筆が股間の前の布の下に潜って、股間を掃くように動く。

 同時に、左右の乳首も一緒に──。

 いつの間にか、筆は四本に増えていた。

 

「ひあああっ、だめええっ」

 

 媚薬に苛まれている身体は、もう少しもベアトリーチェの意思に従わない。全身の性感を刺激され、身体の芯に愉悦が拡がっていく。

 もはや、逃げ道はない。

 甘い陶酔が全身を席巻していく、

 

「あああっ、ふううっ」

 

 ベアトリーチェは四本の筆に翻弄され、溶けていくような官能の陶酔に、慎みを忘れてぶるぶると身体を震わせて全身を仰け反らせた。

 しかし、筆はまたもや引いていく。

 今度こそ、ベアトリーチェは完全に脱力していた。

 

「まあ……ほんの少し触っただけなのに。ものすごい、女の匂いがするわ」

 

 ひとりが陽気に声をあげる。

 

「もしかして、縛られているからかしら。この騎士さまは、縛られて苛められるのが大好きなのかも」

 

 もうひとりの女が応じる。

 

「ねえ、騎士さま、もしかして縛られるのが好きなの?」

 

 女たちの意地の悪い揶揄が続く。

 観衆の反応が、はっきりと大きくなる。

 胸の奥で、激しい拒絶が弾けた。

 

 違う──。

 そんなはずがあるものか──。

 これは──媚薬を使われているからだ──。

 

 事前に体内へ仕込まれ、意思とは無関係に身体を反応させられているのだ。

 そのせいで、少しの刺激でも異常に反応しているだけだ。

 せめて、反論しなければ──。

 

 そう口を開きかけた、その瞬間だった。

 お尻の穴を筆が激しく刺激したのだ。

 

「んふうううっ──」

 

 激しく短い声が、喉からこぼれ落ちた。

 意図せず漏れたその喘ぎ声が拡声具に拾われて、またもや会場中へ放送される。

 わっと大きな歓声があがるとともに、会場中のドミナをつけた客たちが身体を揺らして反応をさせた。

 

「あらあら、いまのは一番大きな声だったわ、騎士さま」

 

「あれが、王都の騎士さまの喘ぎ声なのね」

 

 女たちの声はどこまでも落ち着いている。

 

「でも、言葉より、身体の方の反応もすごかったわ」

 

「どうしても、身体が動いてしまうくらいに、この騎士さまは淫乱なのだわ」

 

「やっぱり、苛められるのが好きなのよ」

 

 ふたりが台上でころころと笑う。

 喉が強く締めつけられる。

 口惜しさで身体が震えた。

 

「ち、違う──」

 

 好きなわけではない──。縛られることを喜ぶなど、騎士として許されるはずがない──。

 改めて、そう叫ぼうとした。

 

「ふあああっ」

 

 これまでで一番大きな感覚が五体を駆け抜けていった。

 股間に垂れている布の下から襲った筆がクリトリスの周辺を刺激したのだ。

 筆は執拗に股間で動き続ける。

 自制しようとしてもできない甘美感が全身を支配する。

 

「まあ、騎士さまは、筆が好き? そんなに腰を動かしちゃって」

 

 女の笑い声──。

 慌てて腰をとめる。いつの間にか、ベアトリーチェは腰を筆に突き出すようにして、開脚した股間を前に出していたのだ。

 慌てて、腰を引く。

 晒してしまった醜態に、かっと羞恥で身体が熱くなる。

 

 筆が引いていく。

 すると、後ろ側の女がしゃがみ込んでいて、腰の後ろで結ばれている股間の布の紐を指で持つ感覚が襲う。

 

「な、なにをする──」

 

 びっくりして叫ぶ。

 

「ふふふ、騎士さまに試練よ。結び目を解いちゃったわ。いまは、紐を重ねてあるだけよ。動いたら布が落ちちゃうかもね」

 

「そんな小さな布でも、あるとないとじゃ、違うものね。首の紐も解いてあげるわね」

 

 腰の後ろに続いて、胸の上の布を留めている首の後ろの紐も解かれる感触が襲う。

 緩んで緊張を失った二枚の布が汗の重みでずずっとさがった。

 

「あっ、いや」

 

 ベアトリーチェは思わず叫ぶ。

 その声も会場に拡声される。

 

「あら、動いちゃだけよ。慎重に、慎重に」

 

「だって、いまは、ただ重ねてあるだけだから」

 

「大きく身をよじれば、すぐ落ちるわよ」

 

 愉しそうに告げられる女たちの説明が残酷に響く。

 思わず、脚を閉じようとして鎖が鳴った。すると、動きは阻まれただけでなく、身体が揺れたことで布がほんの少しまた下がった。

 

「あっ、だめ……」

 

 全身に緊張が走る。

 すると、観客たちのざわめきがさらに大きくなった。

 

「あと少しで布が落ちるわ」

 

「落ちたら、本格的に責めてほしいわね」

 

「女騎士が快楽に堕ちるところが見たいわ」

 

 観客たちがグラスを傾けながら交わす会話が耳に入ってくる。

 息も、動きも、封じられていた。

 声を出せば晒され、動けば布が落ちる。

 逃げ場は、完全に断たれていた。

 胸の奥に、静かな絶望が広がる。

 誇りを守ろうとする意思だけが、必死に踏みとどまっている。

 

「じゃあ、頑張ろうか、騎士さま」

 

「布が落ちたら、本格的な責めの開始よ」

 

 女ふたりの筆が再び同時に腋に近づいてくる。

 

「くっ」

 

 喉奥で押し殺した声とともに、ベアトリーチェは奥歯を噛み締めた。

 ほんの少しでも身体をよじれば、腰の布は落ちるのだ。

 動けば終わる──その事実が、全身を縫い止める。

 

 だから、これは戦いだ──。

 自分にそう言い聞かせる。

 

「んぐうっ」

 

 筆が左右の腋を襲い、必死で身体を引き締める。

 くすぐったさはもうなく、いつの間にか、筆の刺激は官能そのものに変化していた。

 痛烈なまでの愉悦の戦慄──。

 

「くっ、くっ、くく……」

 

 しかし、布が落ちれば、退廃した客たちの視線の前で、すべてを晒すことになる。

 嬲られるのは身体だけではない。

 騎士としての尊厳そのものだ。

 胸の奥に冷たい恐怖が張り付く。

 眼を瞑り、必死に歯を喰いしばって刺激に耐える──。

 

「ふふ、頑張るのね。さすがは騎士さま。でも、油断しちゃだめよ。筆は二本だけじゃないって、教えたでしょう?」

 

 女の声が前から落ちてくる。

 眼を開ける。

 俯いていたため気づかなかったが、左右から迫っていたはずの気配は、いつの間にか前方のひとつに集約されている。

 

 もうひとりは、どこに──?

 そう思った瞬間、背後に回った気配を悟った。

 

 筆が後ろからクリトリスの周辺を襲い、同時にアナルをくすぐっては、さらに濡れそぼっている亀裂をさすり回してくる。

 

「ひうっ、ひっ」

 

 喉の奥で弾けた声を必死に噛み殺す。

 全身が強張り、肩から指先まで緊張が張り詰めた。

 

「遠慮なく、昇りつめていいのよ、騎士さま」

 

 しゃがみ込んで後ろから股間を襲っている女がくすくすと笑った。

 

「だ、誰が──、あ、ああっ、や、やめろお──」

 

 叫んだ。

 クリトリスを襲う筆の動きが一転して激しくなったのだ。

 右に左に、上に下にと、筆先でなく柄に近い部分で強く揺すられる。

 一気に、快感が爆発した。

 衝撃が股間から脳天に貫き、ベアトリーチェは女の本能で腰を揺らし、太腿を痙攣させ、全身をのけ反らせる。

 

 ぱらり。

 ぱらり。

 

 すると、軽い音を立てて、二枚の布が床へ落ちた。

 

「わああっ──」

 

 観客たちの歓声が弾ける。

 筆が引いていく。

 中断された快感の焦燥感とともに、ベアトリーチェは、底のない絶望に襲われてしまった。

 

 守り切れなかった。

 自分の矜恃より先に、身体が負けたのだ。

 でも、それでも──。

 

「結局は、気高い騎士さまも、ただの女だということね」

 

「では、騎士さまとしての調教は終わり……。これからは、ただの女が一匹の雌になるまでの演目ね」

 

 女たちが笑う。

 二枚の布は床に落ちている。

 汗まみれで真っ赤に充血した裸身は、いまや隠すものもなく、大勢の観客たちに晒されていた。

 恥辱の証である股間の蜜は、左右の太腿に伝うだけでなく、開脚させられている股間からぽたぽたと床に落ちて、水音を響かせた。

 

「……わ、わたしは騎士だ。最後まで矜恃を貫いてみせる……。無様な姿は晒したが、心は堕ちてない──」

 

 しかし、だからこそ、はっきりと口にした。

 言葉にして、ベアトリーチェ自身を鼓舞させなければ、渦を巻いて五体を震わせている地獄のような官能に押し潰されそうだったのだ。

 すると女たちは一瞬きょとんとし、顔を見合わせる。

 次の瞬間、愉快そうに笑い声が弾けた。

 

「すごいわね。長くやっているけど、ここまで恥を晒しても意地を張る子は初めてよ」

 

「あたし、好きになりそう」

 

 軽やかな声音。

 ここでは、矜恃すら戯れとして消費される。

 それでも、胸の奥の一点だけは、まだ折れていなかった。

 ベアトリーチェは、ただ前を見据え続けた。

 

「いいでしょう。では、騎士さまと、あたしたちの勝負といこうかしら」

 

「くずみたいなあたしたちだけど、だからこそ、騎士さまのような気高い方を心の底から屈服させてみたいわ」

 

 ふたりがその場で腰に身につけていた下着を脱ぐ。

 呆気にとられているベアトリーチェの前で、ふたりは台の上から、それぞれにディルドを手に取った。

 ただのディルドではない。

 両端が男根の形をしている双頭のディルドというものだろう。

 

 ふたりが客たちに見せつけるように、その半分を自分たちの股間に埋め込んでいく。

 大歓声があがり、ふたりは股間からディルドを生やした姿で客たちの手を振った。

 

「でも、騎士さま。さっきはあんな強気なことを言っていたのに、ほら……お股は蜜でびしょびしょ」

 

「愉しみだわ。騎士さまは、どんな声で啼くのかしら。ちゃんと聞かせてね」

 

 軽やかな冗談のように告げながら、ふたりは拘束具の調整を始めた。

 足首を繋ぐ枷が上方の棒へと引き上げられた。

 

「うわっ──」

 

 ベアトリーチェの両脚は、自然と横へ開いていく。

 いやでも、身体は厠で用を足すときのような、股間を下に沈めた惨めな格好で固定されてしまう。

 恥ずかしくも濡れまみれた果唇とアナルは、隠しようもなく剥き出しだ。

 屈辱的な自分の姿に、胸の奥が強く締めつけられる。

 

「ちょっと、高いわね。少し下げようか、お姉ちゃん」

 

「そうね。握り拳三つ分くらい……。はい。そっちは、どう?」

 

「大丈夫。下からも合わせられるから。後ろは突きあげるくらいが丁度いいよ」

 

 ふたりは、まるで日常作業のように淡々と話し合い、枷の高さを微調整していく。

 身体全体が、わずかに下へ沈んだ。

 観客席からは、くすくすとした笑いと、楽しげなざわめきが広がっていく。

 

「さあ、騎士さま。では、勝負といきましょうか」

 

 ひとりが宣言する。

 

「股間に埋めているのは、あたしたちも同じよ。どっちが先に果てるかね」

 

「でも、騎士さまは強情そうだから、ふたり掛かりでいくわ」

 

「もし、あたしたちが先に果てたら──騎士さまの勝ち。名誉ある勝利、ってやつね」

 

「あたしたちみたいな、くず女に負けないでね」

 

 ふたりが朗らかに笑う。

 ベアトリーチェは惨めな体勢のまま歯を喰いしばる。

 逃げられない。

 拒否もできない。

 

 だけど──。

 これは、矜恃との戦いだ──。

 心の奥で静かに呟く。

 

「じゃあ、こっちからいくわね」

 

 すると、前方の女が近づいてきて、宙吊りになっているベアトリーチェの股間に、ディルドの尖端がぴたりと当てられたのがわかった。

 

「くっ、んん──」

 

 声にならない声が喉元で跳ねた。

 ディルドが膣の中にずぶずぶと埋められていく。

 ベアトリーチェ自身の愛液を潤滑油にして、ゆっくりとディルドが沈められていった。

 全身に走る緊張を、必死に飲み込む。

 

「ほら。逃げないでね、騎士さま。勝負なんだから」

 

 耳元で柔らかく囁かれ、女が上下に腰を動かし始める。

 媚薬の効果と十分過ぎる前戯によって、異物感はなかった。その代わりに、峻烈な戦慄をベアトリーチェに送り込んでくる。

 緩やかな出し入れを繰り返しながら、ディルドは入口から深層部を軽やかに律動する。

 

「くっ、あっ、ああっ」

 

 呼吸が乱れそうになる。

 耐えようとしても、口からは甘美な声が噴きこぼれる。

 それが増幅されて、会場中に拡声される、

 観客席では、愉快そうな笑いと拍手が広がっていた。

 この余興を心から楽しんでいるのだ。

 

 ──でも、これは戦いだ。

 ベアトリーチェは、再び自分に言い聞かせた。

 

 すると、抽送の速度が一気にあがった。

 肉が溶けていくような五体を席巻する

 眼も眩むほどの快感が全身を支配する。

 

「あっ、ああっ、だ、だめえっ、あああ──」

 

 身体が真下に沈んでいる。

 だから、突きあげられるたびに、一番深いところをディルドの尖端が抉り続ける。

 峻烈な快感が身体の芯に襲ってきた。

 

「んんんんっ」

 

 そして、ついに耐えようのない衝撃に貫かれて、ベアトリーチェは絶頂を極めてしまった。

 宙吊りの身体を激しく痙攣させ、身体をのけ反らして果てたベアトリーチェの姿に、会場から大歓声があがった。

 

「一回戦は、あたしの勝ちね」

 

 ディルドが引かれていく。

 ねっとりとした愛液にまみれたディルドが糸を引いて、ベアトリーチェの股間から離れていくのが、視線に映る。

 ベアトリーチェは歯噛みした。

 

「違う──」

 

 思わず叫んでいた。

 

「違う? なにが?」

 

 女はきょとんとなっている。

 その女をベアトリーチェは睨みつけた。

 だが、視界は自分の涙で歪んでいる。

 

「ま、負けてない──。わたしは、いかなかった──。むしろ、途中でやめたお前の負けだ──」

 

 やけくそだった。

 誰の目にも、ベアトリーチェの無様な姿は、絶頂した証拠として映っただろう。でも、言葉だけは認めたくなかった。

 言葉で認めなければ、まだ負けてない──。

 それは、蟷螂の斧のようなベアトリーチェの最後の意地だった。

 

 すると、爆笑が起こった。

 横で待っているもうひとりの女だ。

 ベアトリーチェの言葉に唖然となっている前側の女の肩を愉快そうに叩く、

 

「さすがは、騎士さまよ。あたしたちのようなくずと違う。負けてないそうよ、お姉ちゃん」

 

「ふふ、そうみたいね。じゃあ、次はふたり掛かりでいこうか。ぐうの音も出ないように、激しく昇天させようよ」

 

 女たちが笑いながら、前後に体勢を取り直す。

 

「次は後ろからいくわよ、騎士さま。ちゃんと潤滑油を塗っているから、騎士さまのお尻を傷つけることはないわ」

 

 アナルにディルドの尖端が当たり、一気にお尻の中に打ち入れられてきた。

 

「おおおっ」

 

 ベアトリーチェは衝撃のなかで声をあげていた。

 ディルドとはいえ、排泄の場所で性交をさせられる。しかも、これだけの観衆の目の前で──。

 騎士として、その情けなさと惨めさは拭い難かった。

 だが、生々しい声をベアトリーチェは放ってしまっていた。

 衝撃は苦痛とも愉悦ともわからない、異様な感覚だった。

 

「後ろだけに気を取られちゃだめよ、騎士さま。前からもくるわ。これは勝負だもの」

 

 再び前からディルドを貫かれる。

 

「ひおおおっ」

 

 衝撃が走る。

 前後からディルドを受け、言葉にならない声が口から迸る。

 

「あ、ああっ、あああっ」

 

 声など我慢するのは不可能だった。

 前から突かれ、後ろを引かれる──。

 すると、後ろが入ってきて、前が離れていく。

 

 震えがとまらなくなる。

 もう狂いそうだ。

 理性を失ってしまうのではないかという恐怖がベアトリーチェを覆う。

 

「んぐううっ」

 

 ベアトリーチェは咆哮した。

 前後にディルドを同時に貫かれ、ついに二度目の絶頂をベアトリーチェは晒してしまう。

 

「ふふふ、今度こそ、負けね、騎士さま?」

 

「さすがに、これはいってないとは言えないものね」

 

 ふたりが前後からベアトリーチェの裸身を抱き締めるように抱えながら笑う。

 ベアトリーチェは、砕けそうな疲労感に耐えながら、最後の力を振り絞るように、首を横に振る。

 

「い、い、いって……ない──。わ、わたしは──いってない──」

 

 ありったけの力を込めて叫ぶ。

 大歓声が会場に轟いた。

 

「じゃあ、勝負再開ね」

 

「今度こそ、負けを認めてもらうわ」

 

 律動が始まる。

 前が貫き、後ろが引く──。後ろが出ると、前が引く──。

 一番気持ちのいい場所が連続して尖端で擦られ、呼吸を邪魔される。

 あっという間に、三度目まで押しあげられ、ベアトリーチェは身体を震わせて果てた。

 

「今度はどう?」

 

「まだ認めないの? でも、認めないと、終わらないわよ」

 

「死んじゃうかも」

 

 ディルドを貫かせながら、女たちがくすくすと笑う。

 

「いって……ない──。いかな……かった──」

 

 ベアトリーチェは、喉の奥から絞り出すように、懸命に言った。

 言葉は掠れ、もはや声と呼べるものではなかったが、それでも否定だけは形を保っていた。

 

 それを合図にしたかのように、観客席から大きな喝采が巻き起こる。

 女たちは、愉しそうに笑い、律動を再開した。

 

 

 

 

 

 七回までは、数を追えた。

 

 だが、それから先は、わからなかった。

 

 絶頂しても、女たちはベアトリーチェを休ませなかった。

 呼吸を整える間も与えられず、次の刺激が重ねられ、意識を引き戻されては、また突き落とされる。

 時間の感覚は失われ、ただ身体だけが、絶頂の反応を繰り返させられていった。

 

 口から泡を吹き、失禁もしたような気がする。

 それでも、ベアトリーチェは、達したと認めなかった。

 

 やがて、頭の奥が白く染まり、思考がほどけていった。

 

 それでも、最後まで否定の言葉だけは、口の奥に残っていた。

 

 遠ざかる意識のなかで、ベアトリーチェは鳴り響く喝采に引き込まれていく。

 拍手と歓声は止むことなく続き、その音だけを最後に、ベアトリーチェの意識は、完全に闇へ沈んでいった。

 

 ただ、最後まで残った唯一の矜恃だけは、誰にも奪われることなく、胸の奥に留まり続けていた。

 

 


 

 

 ベアトリーチェは、再び、男たちに囲まれながら、夜宴会場の地下廊下を歩かされていた。

 来たときと同じ拘束だった。足首には鎖付きの枷、両手は手錠で首環の後ろに接続され、首環から伸びる鎖を、男が前から引いている。

 

 もっとも、拘束されていなくても、いまのベアトリーチェには逃げ出すことは無理だった。全身は綿のように疲労し、こうして自らの足で歩くだけでも、体力の限界を振り絞っている。

 

 胸と股間には、あの小さな白布が垂れ下がっている。

 だが、布も肌も汗で重く濡れ、股間のあたりは、ベアトリーチェ自身の愛液でべっとりと汚れていた。歩くたびに、布が太腿に貼りつく感触が生々しく残る。

 

 失神する前後の記憶は、完全に途切れている。

 あの台の上から、どうやって降ろされたのか──拘束を解かれ、布を整え直したのが誰だったのか──。思い出そうとしても、頭の奥は白いだけで、なにも浮かばない。

 

 ただひとつ、はっきりしているのは、覚醒した瞬間だった。

 会場の出入口の直前で、頭の後ろの鎖を強く引かれ、引きずり出されるようにしていた。台の下ではなく、観客の視線が残るテーブルの並ぶ場所だった。

 

「しっかり歩けよ。それとも、肩を貸してやろうか?」

 

「う、うるさい──。わ、わたしには触るな──」

 

 ベアトリーチェは罵倒で返した。

 

 五人ほどの男に囲まれて廊下を進んでいるが、この中に、来るときに連行していた黒衣の男はいない。兵も入れ替わっている。

 

 彼らは、ベアトリーチェの裸身に好色な視線を向けながらも、どこか距離を保っていた。近づきすぎない。いま声を掛けたが、ベアトリーチェが拒絶すれば、無理に触ろうとしない。その微かな怯えが、違和感として胸に引っかかる。

 

「くっ」

 

 転びそうになり、ベアトリーチェは足を踏ん張る。

 脚には力が入らない。腰が抜けそうになり、しゃがみ込みたい衝動が込みあがってくる。

 

 それでも、歩いた。

 騎士の矜恃にかけて、鎖に引かれるままではなく、自分の足で進もうとした。

 

 やがて、広い部屋に連れてこられた。

 最初に連れて来られ、服を脱がされた、あのなにも置かれていない大きな部屋だ。部屋の奥には、厚手のカーテンが垂れ下がっている。最初にエルネスタの前で服を脱いだ場所だと気づく。

 

「ベアトリーチェを連れてきました」

 

 連行してきた男のひとりが、鎖を持ったまま声を掛けた。

 

「ベアトリーチェだけを入れてちょうだい。ほかの者は部屋の外で待機よ」

 

 すぐに、カーテンの向こうから女の声が返ってきた。

 首環から鎖が離され、ベアトリーチェはカーテンの境目へ押し出される。

 男たちが後ろに退いていく気配を感じながら、カーテンの内側へと足を踏み入れた。

 

 カーテンの内側は、静まり返っていた。

 最初に視界へ入ったのは椅子に座っている女だ。

 高背の椅子にひとりの女が脚を組んで座っていて、黒いドミナを着けたまま、背もたれに身を預けている。

 だが、組まれている脚の上側は、素足だった。

 白い足指の周りが、しっとりと濡れているのが、はっきりと見える。

 その視線は、もうひとりの女に向けられていた。ドミナの奥なので明確には見てとれないが、椅子の女の眼には、もうひとりの女に対する柔らかい感情がある気がした。

 

 もうひとりの女は、椅子の女の足元にいる。

 床に膝をつき、頭を垂れた姿勢で座っていて、荒い息を吐き、肩が上下していた。

 また、襟元は崩れ、胸元が半分ほど露出している。両手は、不自然なほどきっちりと背中で組まれたままだ。

 

 ──庇護院の院長エルネスタ。

 

 その光景に、ベアトリーチェは言葉を失った。

 一瞬、状況を理解できず、ただ立ち尽くす。

 次の瞬間、椅子に座っていた女が、ゆっくりと手を上げ、ドミナを外した。

 露わになった顔を見た途端、胸が強く跳ねる。

 

「……マルティナ殿?」

 

 思わず漏れた声に、椅子に座っていた女は、わずかに口元を緩めた。

 

「ふふ、ちょっと待ってね、ベアトリーチェ……。エルネスタ、もう立っていいわ。腕も自由にして」

 

 命じられ、エルネスタは大きく息を吐いた。

 ゆっくりと立ち上がり、背中に回されていた両手を解く。乱れた襟を整え、胸元を隠すと、ほどなく、いつもの無表情に戻った。

 

「……神殿の敬虔な巫女ともあろうものが、あんな破廉恥な夜宴に参加しているというのか」

 

 最初の驚きから少し立ち直ったベアトリーチェは、マルティナを睨みつける。

 

「当然でしょう。だって、わたしが主催者だもの」

 

「主催者?」

 

 言葉の意味が頭に伝わるのに、少しの時間が必要だった。

 だが、それが浸透するとともに、ふつふつと怒りが沸いてくる。

 あの舞台も、観客も、あの馬鹿げた演目も──もしかして、すべてがこの女の意思によって組み上げられていたというのか──?

 

「話すことは多いわ、ベアトリーチェ……。でも、あなたも、素敵な演目への出演で疲れているんじゃないの? 遠慮なく座っていいのよ。まだ拘束を解くわけにはいかないけど」

 

 マルティナは脚を組み替え、濡れた素足を床に下ろしたまま静かに続ける。

 

「な、なにが素敵な演目だ──。ふざけるな──」

 

 ベアトリーチェは吐き捨てた。

 しかし、全身はすでに疲労困憊だ。膝の奥がかすかに震え、足裏が床を探すように揺らいでしまう。

 それでも、意地にかけて、両手を頭の後ろに置く格好のまま、その場に立ち続けた。

 すると、マルティナの視線が、ベアトリーチェの脚元へ静かに降りていく。

 

「……無理はしなくていいのよ。震えているじゃない」

 

 穏やかな声音だった。

 

「も、問題ない──」

 

 ベアトリーチェは吐き捨てた。

 声だけは強かったが、身体は正直だった。全身は限界まで疲弊しており、脚には力が入らない。膝が小さく震え、その揺れを止めようと奥歯を噛み締める。

 それでも座らなかった。倒れなかった。騎士の矜恃だけを支えに、必死に立ち続ける。

 

 その様子を、マルティナは逃さず見ていた。濡れた素足を床につけたまま、椅子に腰掛け、視線だけを静かに向けている。

 

「それよりも、主催者というのはどういうことだ。もしかして、わたしを嵌めたのか──」

 

 怒りを押し殺すことなく、ベアトリーチェは言い切った。

 マルティナはくすりと笑う。

 

「そういうことになるのかしら。あの例会も、最近、見応えのあるものが減ってきていたのよ。だから、なにか愉快なものはないかしらって探していたの。王都から気位の高い女騎士を呼ぶのはどうかと思いついたというだけの話よ。本当によかったわ。あちこちに手を回した価値は、十分にあったもの」

 

「冗談じゃない。こんなことをして、どうなるかわかっているだろうな」

 

「どうなるの?」

 

 マルティナは肩をすくめる。

 

「開き直るのか──」

 

 ベアトリーチェは怒鳴った。

 しかし、マルティナの顔から余裕のようなものは消えない。

 

「わたしが罠に嵌めたなんて証拠はないわよ。あなたは潜入任務を受けて、この町に来た。そこで不手際があって捕まり、見世物にされた。それだけの話じゃない。帰ったら、そう報告すればいいわ。わたしが首謀者だと書いてもいいけど……信じる人はいないでしょうね。それくらいの影響力はあるのよ」

 

 穏やかな声音だった。

 だからこそ、ベアトリーチェの胸の奥で、なにかが軋んだ。

 

「王都の騎士を監禁して陵辱したんだ。ただで済むと思うな」

 

「まあ、怖いことを言うのね。でも、一体なにをしたというの? 法に触れることなんて、なにもないわ。退廃的な夜宴なんて、どこにだってあるでしょう。もし法に触れる部分があるなら、具体的に教えてちょうだい」

 

「わたしを監禁して、あの見世物に出させただろう」

 

「それが、あなたの任務だったんでしょう?」

 

 マルティナは即座に言い切った。

 

「任務だと──?」

 

「ええ、潜入任務。なにが行われているのかを見極め、騒ぎを起こさずに王都へ報告する。立派な任務よ。自分の矜恃を犠牲にして情報を得るなんて、騎士の鑑じゃない。どうぞ報告してよ。アルバの町が退廃で汚れているなんて評判、わたしは少しも困らないもの」

 

 微笑みは崩れなかった。

 ベアトリーチェは歯を噛みしめる。怒りで身体が震えたが、それ以上に、マルティナの言葉に論理の綻びがないことに気づいてしまった。

 囚われたと訴えるのは、自分だけだ。

 任務として潜入し、失敗した。その結果、見世物にされた。

 アルバ側が否定すれば、不当な監禁を示す証拠など、どこにも残っていない。

 脚の震えが、また強くなった。

 それを見て、マルティナは静かに息を吐く。

 

「……立派よ、ベアトリーチェ。その意地も、矜恃も。でもね」

 

 言葉を切り、視線をまっすぐ向ける。

 

「ここは、あなたの戦場じゃないの」

 

 その一言が重く落ちた。

 

「くっ……」

 

 ベアトリーチェは、もはや呻くことしかできなかった。

 

「……もっとも、まだ帰すわけにいかないけどね」

 

 マルティナが微笑む。

 

「えっ、どういうことよ、マルティナ」

 

 声をあげたのは、マルティナの横で無表情のまま立っていたエルネスタだった。

 しかし、その顔には、一転して、マルティナへの抗議の色がある。

 

「だって、さっきの演目での、この娘の矜恃──素晴らしかったわ。あれだけ無様を晒しながら、言葉だけは否定する──。あんなに盛りあがったことはないわ。是非とも、次も出演してもらわないと……」

 

「マルティナ──」

 

 エルネスタが怒鳴る。

 

「大声で喚かないでよ、エルネスタ……。この騎士さまが、屈服するまでのことよ。次は調教師を男で準備するわ。それで堕ちなかったら、もうちょっと趣向を凝らしましょう。大丈夫よ。ベアトリーチェが完全に堕ちたと確信したとき……ちゃんと開放するから」

 

 マルティナが微笑んだまま、ベアトリーチェを見つめる。

 その眼差しは柔らかかったが──それは、落ちていく者の姿を最後まで楽しもうとする、退廃の甘い毒のようでもあった。

 

「……もっとも、そのときには、ベアトリーチェは解放を望まないかもしれないけどね。でも大丈夫よ。そのときは歓迎するわ。一緒に愉しく遊びましょう」

 

 マルティナはそう言うと、大袈裟に両手を拡げた。

 祝宴へ招く主人の仕草だった。そこに躊躇はなく、退廃を当然のものとして受け入れている余裕だけがあった。

 

「いい加減にしなさい、マルティナ。もう馬鹿げたことに、他人を巻き込むのはやめなさい」

 

 エルネスタが声を張り上げる。

 すると、マルティナが肩を竦めた。

 

「エルネスタには命じておくわ。次の例会の日まで、庇護院でベアトリーチェを保護しなさい。院で世話するペットとしてよ。これは……命令」

 

「くっ……」

 

 エルネスタの顔が強く歪む。

 その瞬間、ベアトリーチェは理解した。

 隷属の首環──。それを着けている限り、主人の命令には逆らえない。

 つまりは──。

 

「エルネスタ、これは遊戯よ。いつものね」

 

「……遊戯……ね」

 

 エルネスタは短く息を吐いた。

 

「冗談じゃない。そんなものは受け入れられない。すぐにわたしを解放しろ」

 

 ベアトリーチェは叫んだ。

 

「残念だけど、あなたには拒否権はないわ……。さあ、連れて行きなさい、エルネスタ。すでに外には院へ向かう馬車が待っている。院に着くまで、絶対にベアトリーチェを逃がさないこと。これも命令ね」

 

「……仕方ありません。行きますよ、ベアト……。あなたを逃がすことは……いまは不可能です」

 

 エルネスタはそう告げ、ベアトリーチェの側へ歩み寄る。

 退出を促すように腰へ手を掛けたその顔は真っ赤で、怒りが隠しようもなく浮かんでいた。

 

「そうそう、忘れていたわ、エルネスタ」

 

 マルティナが呼び止める。

 

「なにかしら?」

 

 エルネスタがマルティナに振り返った。

 

「演目の前に、あなたに無礼を働いた男がいたそうね。処分しておいたわ。二度とあなたに会うことはないでしょう」

 

「どうでもいいことですね。私をそんな境遇に落としたのは、あなた自身ではありませんか……。では、ごきげんよう……、ご主人様」

 

 エルネスタはそう言い捨て、こちらに向き直るとカーテンへ手を掛けた。

 その直前にベアトリーチェの視界に映ったマルティナの顔は、唇を強く噛み、泣き出しそうに歪んでいた。

 

 それが、最後だった。

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