※この作品はR-18です。

女騎士ベアトリーチェ【完結】   作:ドン・ドナシアン

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006 女騎士の躾け (2)

 女の子たちが、歓声をあげながらベアトリーチェが閉じ込められている小さな檻の周りに集まってきた。

 

 檻はいつの間にか、屋根部分もしっかりと閉じ直されている。

 中は身じろぎの余地も少なく、ベアトリーチェは跪いて両腕を首の後ろに固定されたまま丸くなった姿勢でいるしかなかった。

 さすがに、一糸まとわない裸をここまで凝視されるのは、同性とはいえ羞恥が込みあがる。

 

「やっぱり綺麗……鍛えてる身体って、こんなに違うんだね」

 

「運がいいよね、あたしたち。こんな素敵なベアトさまがペットになってくれて」

 

「でも、さすがは王都の元騎士さまよね。姿勢が崩れてないもの」

 

 一方で、檻の周りに集まった女の子たちは、その姿を少しでも近くで見ようとするかのように鉄格子に顔を近づけて覗き込んでくる。

 悪びれた調子はどこにもない。

 羞恥に耐えられなくなり、ベアトリーチェは顔を俯かせて、視線を下げる。

 

 裸身をじろじろと凝視される恥ずかしさだけでなく、女の子たちが、当たり前のように「元騎士」と称したことに、胸の奥がざわめいたのだ。

 女の子たちが無邪気そうであるだけ、彼女たちを叱る気持ちにはなれない。

 

 よく考えれば、昨夜の性宴のときの醜態から、禄に身体も拭いてないのだ。臭気もするだろう。

 気後れの気持ちが重なり、いつの間にか身体全体を檻の中で後退りさせていた。お尻に鉄格子の冷たい感触が襲う。

 

「肌も真っ白ね。どうやったら、こんなに綺麗になるのかなあ。ちゃんと世話してあげないとね」

 

 そのとき、後ろ側にいた少女の手が、鉄格子越しに、ベアトリーチェの尻たぶに触れてきた。

 

『バウっ』

 

 思わず零れた声に、ベアトリーチェ自身も驚く。

 

「あっ、ごめん……。でも、もうペット語なの?」

 

 手はすぐに引っ込められた。

 すると、前側にいるリタが口を開く。

 

「駄目よ。まだペット用の脱力具もつけていないんだから。触ったり世話をするのは、ペット用の躾け具を全部つけてからにするのが決まりでしょう」

 

「でも、もうお口具つけちゃったの? どうして?」

 

 ひとりの少女が、頬を膨らませている。

 

「そうだよ。最初の工程は、みんなでって話だったのに」

 

「抜け駆けなしって、前に決めたよね。みんな楽しみにしてたんだから」

 

 女の子たちは不満げに、リタを睨んでいる。

 ベアトリーチェは、そのやり取りをただ静かに見つめるしかなかった。

 

「ごめんごめん。でも、ほかの躾け具は手伝ってね」

 

 リタは軽く手を振り、明るく返している。

 その言葉に、女の子たちは「もう」と言い合いながらも、彼女が足元に置いた袋へと一斉に手を伸ばし始めた。

 

「これね。危ない動きをしないようにするやつ」

 

「安心して動けるようにするためのだから、怖くないよ」

 

 袋の中から取り出されたのは、黒色の金属製らしい輪っかだった。

 白い文字と幾何学的な魔道紋様が表面に刻まれているので魔道具とはわかる。形は、腕輪やチョーカーのように見えた。

 女の子たちは競うようにそれを手に取り、鉄格子の間から腕を伸ばす。

 

「とりあえず、いまの拘束の上に重ねる?」

 

「そうね、そっちが安全だね。嵌めたら力抜けるから、それから、いまの拘束は外そうか」

 

 女の子たちが不穏なことを話しているのが聞こえる。

 すると、きゃあきゃあと叫びながら、女の子たちが鉄格子の周りについた。鉄格子の幅は、女の子たちの細い腕を通すくらいはあり、四方向から一斉に輪っかを持つ手が檻の中に入ってきた。

 さすがに、狭い鉄格子内では逃げ場などなく、避けられない。

 

「うまく動けなくなるけど、ペットになったから、しなくちゃいけないの。我慢してね、ベアト」

 

「でも、あたしたちがみんなでお世話するし、守るからね」

 

「うん、それに、練習すれば、ちゃんと四つん這いで動けるようになるはずだから」

 

 女の子たちが言葉をかけながら、両方の足首、手首に金属環を装着していく。視界に入らないが、装着された瞬間に輪が閉じ、さらに狭まって肌に密着する感覚が襲った。

 金属とも布ともつかない感触が、いまある拘束の上に収まっていく。

 

「動きを止めるためじゃないの。危ないことができないようにするだけ」

 

「ペット用の装備なのよ」

 

 説明は淡々としていた。

 すると、正面の女の子がベアトリーチェの首に手を伸ばす。

 

「首のも付けるね。これは大事だから」

 

 彼女がチョーカー状の輪っかを鉄格子越しに首元に押しつけた。

 顎を引きかけたが、そのときには冷たい縁が触れていた。

 同じように首に輪が密着する。

 

「首環は、躾け用だから、ぴりっとするけど、ベアトがいい子だったら問題ないからね」

 

 横側の子が優しげな口調で声をかける。

 装着がすべて終わると、女の子たちは鉄格子から一歩ずつ離れた。

 その様子を確認してから、リタが檻の頭側の鉄格子を開いて開放した。

 

「ほら、出てきて、ベアト」

 

 リタがそう言いながら、首に掛けていた円盤に指を添えた瞬間だった。

 

 なんだ──?

 

 身体の内側から、力が抜け落ちていく感覚が一気に広がったのだ。

 新たに嵌められた四肢のブレスレットとアンクレット、チョーカーはそのままだが、それ以前にされていた足枷と腕杖付きの首輪は音を立ててその場に外れて堕ちた。

 だが、支えようとした四肢が思うように応えず、ベアトリーチェはその場に身体を崩し倒してしまった。

 

「無理しなくていいよ。その姿勢のほうが安全だから」

 

「力が入らないときは、支点を増やすのが一番なの」

 

「ゆっくり出てきてね」

 

 女の子たちの声を背に受けながら、ベアトリーチェは全身の脱力を自覚しながら、必死に檻の外へと這い進んだ。

 そして、上体が半分ほど外に出たところで立ち上がろうとする。

 

 次の瞬間、脚から力が抜けた。

 身体が支えを失い、前へと崩れていく。

 同時に、首元から激しい刺激が走った。

 

『キャウッ』

 

 衝撃に思考が白く弾ける。

 なにが起きたのか理解できないまま、恐怖だけが先に身体を貫いた。

 

『キャン』

 

 四つん這いに戻った瞬間、その刺激は止まった。

 理由も条件も理解できない。

 気づけば、口を大きく開け、はあはあと荒い呼吸を繰り返していた。

 ただ、悲鳴さえも、獣声──。情けなさに続いて、じわじわと恐怖のようなものも襲ってくる。

 

「ちょっと、リタ。まだ歩行訓練前なのよ──」

 

「そうよ。それに、まだ説明してなかったわ──」

 

 女の子たちの不満が、一斉にリタに向けられる。

 

「なによ──。当然でしょう。最初が肝心なんだから、ペットには身体で覚えてもらうしかないわ」

 

 リタはすました顔だ。

 

「なに言ってんのよ。ペットでも、ベアトは言葉はわかるわよ」

 

「そうよ──。ほら、ベアト。しっかり」

 

「大丈夫。落ち着いてね」

 

 左右から身体を支えられ、四つん這いの姿勢に保持されて、檻の外へと導かれる。

 

「首環は、獣をペット化するときの歩行訓練用なの。四つの手足のうち、三つ以上を床につけていないと、電流が流れるのよ」

 

「あと、歩くときは膝をつけちゃだめよ。膝をつくのはいいけど、膝をつけて歩くと電流が流れるわ。覚えれば問題ないから」

 

「うん、怖くないわ。あたしたちがちゃんと教えるから」

 

 女の子たちの口調は落ち着いていて、まるで子どもや犬にでも噛んで含んで教えるかのように優しくて丁寧だ。全身から力が抜けているのを自覚しながら、それがじわりと心を苛む。

 

 また、支えられながら檻の外に出たベアトリーチェは、改めて、力の入らない自分の身体に愕然とした。脚だけで立てるような気はしなかった。

 脚だけでなく、二本の腕も加えて、やっと姿勢を保てる感じだ。

 体力もない──。数歩進むだけで息が切れることが、信じられない。

 

 そして、なによりも身体に触れられていることで、改めて内側にこもる熱を自覚してしまう。

 クリトリスも乳首も燃えあがるように熱い。全身は火照りきっており、局部や胸に無数の虫が這い回るかのような異様な感覚が襲っている。

 耐えがたい疼きに、自然にはあはあと荒々しく息をしていた。

 

「ねえ、どうしたのかしら、ベアトは? なんか苦しそうね」

 

 ベアトリーチェを横から支えている女の子のひとりが、不思議そうに首を傾げた。

 

「でも、舌を出しているベアトって、可愛いわ」

 

 女の子たちが一斉に明るい声をあげる。

 ベアトリーチェは、自分が口で息をしているだけでなく、舌まで出していたことに気づき、慌てて舌を口の中へ引っ込めた。

 その途端、呼吸が詰まる。

 胸が強く上下し、うまく息ができない。

 

「鼻呼吸を停止させているわ。だから、ベアトは口でしか息ができないの」

 

 リタが淡々と答えた。

 

「ええ、どうして。可哀想じゃない──?」

 

「少しでも早く、ペットとして馴致するためよ」

 

「ええ?」

 

「それに可愛いじゃない。一生懸命に口で息してるのが……。舌も出しちゃってね」

 

 リタが小さく笑った。

 はっとして気づく。

 また、無意識のうちに舌が外に出ていた。

 しかも、口元から垂れた唾液が床に落ていった。

 

『クゥ』

 

 思わず漏れた声は、獣のそれだった。

 

「ああ、大丈夫よ。汚しても」

 

「汚すのは、ペットの権利だからね」

 

 女の子たちは慌てる様子もなく、さっと布を取り出して床を拭う。

 その動きは手慣れていて、どこか嬉しそうでもあった。

 ベアトリーチェは、とにかく舌を引っ込める。

 だが、苦しさは増すばかりで、呼吸は荒くなる。

 追い詰められている感覚だけが、はっきりとあった。

 

「とりあえず、お手々とお足の保護袋つけようか」

 

「歩行訓練の前にしないと、いけないしね」

 

「いまは力が入りにくいと思うけど、保護具をしたら、四つ脚ならかなり楽になるはずよ」

 

 女の子たちは頷き合い、順番に近づいてくる。

 茶色の革製の袋が手首から通され、指先までを覆った。

 続いて、足にも同じものが被せられる。

 きゅっと締まる感触が手首と足首に密着する。

 

「歩くときに、手と足を怪我しないようにするためのものよ」

 

「膝当てはないから、膝をついて歩いたらだめってこと」

 

 説明とともに、女の子がまた離れる。

 確かに、四肢で体重を分けると、さっきより姿勢は保ちやすかった。

 ただ、床に触れる部分が丸みを帯びて、形を変えている。

 細かな踏ん張りは利かず、不安定さは残った。

 それでも、四つ脚であれば、立っていられる感じではある。

 

「これ、ずっと付けて生活することになるけど、魔道がかかっていて、内側は清潔に保てるからね」

 

 ひとりが、穏やかに言った。

 ずっと──?

 その言葉に、胸の奥が冷える。

 

 指は使えない。二本の脚で立つことはできない。

 常に四つ脚で歩くことを要求される……。

 そんなの、まるで、本物のペットのようじゃないか──。

 そう理解した瞬間、ベアトリーチェは改めて愕然とした。

 

「じゃあ、歩く練習しよっか」

 

「大丈夫だよ、ゆっくりでいいからね」

 

 穏やかな声が前後から掛かる。

 背中に手が添えられ、位置だけが確かめられた。

 

 前脚を出す。

 続いて後ろ脚が動く。

 一瞬の揺れのあと、体重は四点に分かれ、姿勢はだんだんと安定していく。

 

「ほら、できてる、できてる」

 

「そうそう、そのままよ」

 

 呼吸が浅くなり、鼻からの通りが失われていることを身体が思い出す。

 口が開き、舌が前に落ちた。

 だが、媚薬の影響はますます拡大していく。

 ベアトリーチェにはどうしていいかわからない。

 

 四つ脚で進みながら、生汗でむね光る裸身を必死に振りたてる。気が狂うほどの疼きをなんとか沈めようと、歯を噛みしめようとした。

 しかし、その歯噛みさえも、歯に嵌まっている歯枷のために力が入らない。

 せめて、腰の芯にぐっと力を入れて耐えようとした。すると、思いもよらず、恥ずかしい感覚とともに、股間からじゅっと絞り出されて、内腿を濡らしたのがわかったのだ。

 はっとなる。

 自分はどれだけ発情しているのだ、と──。

 

「舌を出して息をするのが楽なんだね?」

 

「無理しなくていいよ」

 

 部屋の中をしばらくぐるぐると歩かされる。

 惨めで屈辱だった。

 汗がぽたぽたと床を汚していく。それも情けなかった。

 一方で、四つ足での移動は、すぐに当たり前の動作になった。

 

「うん、上手ね。さすがに、元騎士さま」

 

「ゆっくりでいいけどね」

 

 女の子たちがベアトリーチェについていきながら、懸命に賞賛してくれる。

 褒められたのが、むず痒いような気持ちになり、やるせない気持ちになった。

 

「じゃあ、一度、休憩しよう」

 

 女の子たちが歩行訓練の一時中断を宣言した。

 ほっとして、姿勢を保ったまま、息を吐く。

 引き結びたい唇は開ききり、激しい息が喘ぎ続いた。

 それはともかく、また違う異変が身体に襲ってきた。

 

 尿意だ──。

 

 確かに昨日から一度も尿を足していない。

 だが、歩行訓練の始まりに合わせて、膨らんできた尿意に、ベアトリーチェは戸惑ってしまった。

 

「あっ、忘れてた。ベアトに下布をつけてあげないと」

 

 ひとりが声をあげたかと思うと、リタの足元にある袋に手を突っ込み、袋から白くて小さな布が取り出したのがみえた。

 その子が持ってきたのは、薄く折り畳まれ、端には細い紐が通されていた真っ白で小さな布切れだった。

 そのまま、女の子はベアトリーチェの後ろ側に回って、屈み込んできた。

 さっきの小さな布切れが、どうやらベアトリーチェの股間に被せて、紐で腰の横で結んで留めるものだとわかった。

 慌てて脚を閉じる。

 いまのベアトリーチェの股間の状態は……。

 

「あら?」

 

 そのとき、その女の子が驚いたような声をあげた。

 

「えっ、どうしたの」

 

「なになに?」

 

 女の子たちが、ぞろぞろとベアトリーチェの後ろに集まってきた。

 自分の股間がいま、どんな惨めな状態になっているのか──想像はついた。

 胸の奥が一気に熱くなる。羞恥で息が詰まり、さらに四つ這いの脚をぎゅっと閉じる。

 

「すっごい濡れてる」

 

「でも、なんで?」

 

 後ろから素直な声が重なる。

 責めたてる調子はなく、ただ不思議がっているだけだった。

 

「ふふ。ベアトは、こうやって恥ずかしいことや、苛められるのが大好きなのよ。だから、みんなに見られて発情しているのよ」

 

 リタが、悪戯っぽく笑って言う。

 

『バウッ、バウッ』

 

 違う、と叫んだつもりだった。

 けれど口から出たのは、どうしようもなく情けない獣の声。

 

「えっ、どうしたの、ベアト?」

 

「もしかして恥ずかしいとか思ってるなら、心配ないよ。あたしたちだって、被虐訓練のときにはそうなるもの」

 

「そうね。この前の訓練のときは、あんたって、すごかったものね」

 

「な、なに言ってんのよ──。あれはあんたたちが、あたしばっかり集中攻撃するから……」

 

「マゾっ子ちゃん、言い訳いいから」

 

 ぱっと笑い声が広がる。

 自分が笑われているのではないとわかっていても、頬は焼けるように熱かった。

 少しでも、女の子たちの視線をずらそうと、四つ脚で腰の位置をずらそうとした。

 

「あっ、ごめん、ベアト──。あなたのこと、笑ったんじゃないの」

 

「うんうん、あたしたちも一緒だって言いたかっただけ」

 

 女の子たちが慌てたように、ベアトリーチェの腰を両側から持って、腰を固定してしまう。ますます、視線をかわせなくなり、ベアトリーチェは女体の疼きと焦燥感を膨らませてしまう。

 そして、だんだんと尿意が切迫するものになっていくことにも当惑した。

 

「……でも、ベアトって、すごいでしょう? だからいっぱい苛めてあげてね──。喜ぶから」

 

 そのとき、リタは肩をすくめ、ますます楽しそうに目を細める。

 

『バウッ、バウッ』

 

 さすがに黙っていられず、抗議の声を上げる。

 しかし、それが通じないことも、もう知っていた。

 

「ははは、ベアト、照れなくていいって。素直になってね」

 

 リタはお腹を押さえて笑っている。

 ベアトリーチェはただ、脚を閉じたまま俯くしかなかった。

 

「でもどうする?」

 

「このままじゃあ、装着できないよね」

 

 一方で、後ろでは、女の子たちが小声で話し合っているのが聞こえる。

 

「とりあえず、布で拭こうか」

 

 ひとりが布を取り、ベアトリーチェの後ろに回った。

 腰を落とし、股間に布を当てる。

 熱く売れきったベアトリーチェの股間に、強く布が擦られた。腰の芯まで灼けただれるような甘美感が、ベアトリーチェに襲いかかった。

 

『キャウウウウウ……』

 

 短く、押し殺した獣声が漏れる。

 身体がここまで過激に反応してしまうとは、夢にも思わなかった。

 自制できると思っていたのだ。

 しかも、刺激されたために、一気に尿意も拡大する。

 

「まあ、可愛い……」

 

「あたし、今日の当番でよかったあ」

 

 女の子たちは素直に声を弾ませる。

 笑いはあるが、嘲る調子はない。

 

「仕方ない……。とりあえずこのまま装着しようね」

 

 決まり、という調子で話が進む。

 白い布が股間からお尻にかけて当てられ、腰の横で紐が結ばれて、固定された。

 

「気持ち悪くなったら、すぐに言って」

 

「交換するからね」

 

「たくさん準備してあるよ」

 

 女の子たちが順番に優しく声をかける。

 

「……でも、もう丸い染みができてきたかも」

 

「うーん。じゃあ、合図決めとこうか」

 

 女の子が提案する。

 

「合図って?」

 

「三回続けて吠えるの──。そうしたら、ベアトがなにか困ってるって、わかるじゃない」

 

「一度やってみようか……。ベアト、三度続けて吠えて。それが困っているときの合図よ」

 

 ベアトリーチェの顔の前に五人が集まってきて、ベアトリーチェの顔に視線が集まる。

 しかし、吠えて合図を出すなど、ペットであることを認めるようであり、できるわけがない。

 ベアトリーチェは、口で荒い息をしたまま動かないでいた。

 

 その瞬間、口での呼吸が、突然に途切れた。

 混乱した──。

 吸おうとしても、息が入ってこないのだ。

 

『キャウ……キャウ……』

 

 情けない音が喉から洩れ、ひゅうひゅうと空鳴りがする。

 どうしても息ができない。

 

 身体が大きく揺れた。

 反射的に両手に喉を押さえようとして、首輪から電流が流れただけでなく、体勢を保てず身体が横倒しになる。

 

『キャキャウ……』

 

 電撃はすぐに収まったが、息はまだできない──。

 ベアトリーチェは横倒しのまま、身体を激しく痙攣させる。

 

「ベアト──」

 

「どうしたの──?」

 

 女の子たちが一斉に声を上げ、すぐに抱き起こす。

 両側から女の子たちがベアトリーチェを抱え、包み込むように強く抱き締められる

 それでも、呼吸は戻らない。

 ベアトリーチェは、苦悶のあまり激しく身体を震わせた。

 

「リタ──」

 

 ひとりがリタに大声を上げた。

 

「あっ、なにかしてるわ──。すぐにやめて──」

 

 別のひとりもリタに向かって叫んだ。

 

「えっ? リタが?」

 

「わっ、どうして、やめなさいよ──」

 

 一斉に抗議の声が飛ぶ。

 ベアトリーチェも、もがきながら顔を上げ、リタを見た。

 少し距離をとって立ったまま、リタは確かに首から提げている円盤に触れていた。

 そのリタの頬が、むっと膨らむ。

 

「な、なによ。あたしが飼育長なのよ。いまのは、命令への拒否よ──。当たり前の罰だわ。動物はそうやって覚えるの──」

 

「なに言ってんのよ。ベアトは、まだなにもできないのよ」

 

「そうよ。少しずつ覚えていけばいいの──。すぐに中止して」

 

 女子たちの強い抗議が重なる。

 リタは、渋々といった様子で唇を尖らせ、操作具に指を動かした。

 次の瞬間、制限されていた息が一気に戻る。

 ベアトリーチェは、反射のように激しく息を吸い込んだ。

 胸が大きく上下し、荒い呼吸が続く。

 尿意は、いよいよ切迫していた。

 

「うう……。苦しむベアトが、とても可愛かったのに」

 

 不満そうなリタの呟きが耳に入ってきた。

 

「そりゃあ、可愛かったけど……」

 

「でも、躾けはみんなで話し合いよ。それは守って」

 

「……わかったわよ。ごめんたっら……」

 

 リタは口を尖らせて言い、肩をすくめる。

 一方で、ベアトリーチェは、まだ荒い息を整えきれない。

 恐怖が胸の奥に残ったまま、相変わらずのただれるような疼きが身体を襲っていた。

 あまりもの出来事に、思考はまとまらなかった。

 そして、尿意はさらに切迫してきていた。

 

「ねえ、すごい汗だわ。一度、身体を洗ってあげる?」

 

「そうねえ……。ちょっと匂うものね?」

 

 女の子たちがひそひそと話し、ひとりがリタに顔を向けた。

 

「ねえ、飼育長様──。歩行訓練を再開する前に、ペットの身体を一度洗っていいでしょうか?」

 

 ちょっとお道化けた口調だ。

 

「うんっ、ではよろしい──。そのように実施するのじゃ」

 

 すると、リタもまた、わざとらしくお腹を突き出して答えた。

 全員がどっと笑い転げる。

 そして、五人は競うように部屋を飛び出していった。

 ベアトリーチェは、リタとふたりだけで残された。

 

「……ねえ、ベアト」

 

 リタが、ゆっくりと近づいてくる。

 その瞬間、ベアトリーチェの視界に、彼女の首からぶら下がった操作具が入った。

 

 身体がびくりと動く。

 気がつくと、四つん這いのまま、数歩だけ後退さっていた。

 

 はっとする。

 自分が、リタを怖がっている──?

 その事実に、ベアトリーチェ自身が驚いた。

 

 でも、ついさきほどまで、周囲にいた女の子たちはいない。

 いま、この場にいるのは、リタと自分だけだ。

 なにをされるかわからないという考えが、胸の奥を冷たく締めつけてしまう。

 

「……ごめんね、ベアト」

 

 リタはベアトリーチェの目の前で立ち止まり、少し視線を落とす。

 

「苦しませたかったわけじゃないの。でも……ベアトを少しでも早くペットにしてしまうのが、あたしの仕事だから……」

 

 しょんぼりした声音だった。

 けれど、ベアトリーチェはなにも返せない。

 喋れないからではない。

 仮に言葉があったとしても、なにを言えばいいのか、わからなかった。

 

 内腿は小刻みに震えている。

 尿意もある。

 だが、それ以上に、目の前のリタが怖かった。

 

「……だけど、飼育長として、ひとつだけ言っておくわね」

 

 そう言って、リタが顔だけをベアトリーチェの顔に寄せた。

 ベアトリーチェの肩が反射的に揺れる。

 リタの口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。

 

「ふふ……」

 

 ベアトリーチェは、強く脚を閉じたままリタを見つめ返す。

 震えを隠すつもりだった……。

 

「……ベアト。おしっこがしたいよね?」

 

 胸が跳ねた。

 気づかれていた?

 その事実に、ベアトリーチェは愕然とする。

 どうしていいかわからない。

 身体は、強張ったままだ。

 

「ベアトが最初に飲んだもの、覚えてる?」

 

 リタは淡々と続ける。

 

「……ペットの飼育管理用でもあるの……。健康のために、自然な排尿を促す効果があるのよ。だから、急な尿意に襲われたかもしれない、って思って」

 

 唖然となった。

 あの水には媚薬だけでなく、尿意を促す効果もあった──?

 

「……でもね、覚えておいて。粗相は罰よ」

 

 リタの声が、少しだけ低くなる。

 

「絶対に、そのまましちゃだめだからね」

 

 鋭い視線が、突き刺さる。

 ベアトリーチェは、反射的にまた一歩、後ろへ退いてしまった。

 

 そのときだった──。

 部屋の入口が開き、女の子たちが賑やかなこえをあげながら戻ってくる。

 湯の入った木桶をふたつ、清潔そうな布を抱えている。

 その姿を見た瞬間、ベアトリーチェはほっとした。

 

 怖さは消えない。

 尿意も消えない。

 

 それでも──ひとりではなくなったことに、心からの安堵を覚えていた。

 

「さあ、きれいにしよね」

 

「大人しくだよ、ベアト」

 

 女の子たちが、ふたつの木桶をベアトリーチェの左右に置いた。

 桶の中の湯に布が浸され、軽く絞られる音が重なる。

 そして、四つん這いで立っているベアトリーチェの身体を左右から、一斉に温かい布で拭き始める。

 

『キャウウウウ、キャウウ──』

 

 耐えられずに、口から犬の鳴き声だが、甲高い音が迸る。

 尖りきった乳首が円を描くように布で拭かれ、内腿が布で撫でられ、股間をごしごしと拭かれる。彼女たちの動作には、いやらしさなど皆無だ。

 しかし、媚薬により身体が溶けきっているベアトリーチェの身体は、勝手に身体を反応させてしまう。

 びくんびくんと身体を右に左にと跳ねさせながら、ベアトリーチェは犬声で声を切なく悶えさせる。

 そこに、またもや、クリトリスをほかの秘部ごとごしごしと拭かれた。

 

『キャヒィィ──キャウウぅぅ──』

 

 クリトリスに電撃でも流されたような甘美が衝撃に、ベアトリーチェの身体はびくんびくんと大きく揺れ、身体が弓なりに逸れる。

 疼ききった身体はそれ以上耐えることはできなかった。

 ベアトリーチェは、そのままぶるぶると震えて、絶頂してしまう。

 そして、緩んだ尿道からはげしくゆばりが迸り出す。

 

『キャウ……キャウ……』

 

 とっさに謝ろうとした。

 けれど、口から零れたのは、弱々しい犬の声だけだった。

 

 じょろじょろと、止められない音が床に広がる。

 ベアトリーチェは顔を伏せた。

 始まってしまった放尿は止めることなど不可能だ。

 ただ、垂れ流れるに任せるしかない。

 

 情けなさと悔悟で肩が震え、視界が滲む。

 遅れて、胸の奥からなにかが溢れてきた。

 

 周囲はしばらく無言だった。

 女の子たちも硬直したまま、動けずにいる。

 やがて、ひとりが我に返ったように息を吐く。

 

「ああ……大丈夫よ。失敗しちゃったね」

 

「うんうん。今度は、事前に教えてね。さっき教えたでしょう」

 

 別のひとりが、穏やかに続ける。

 

「三回、続けて吠えればいいの。そうしたら、困ってるってわかるから」

 

 放尿が止まる。

 しかし、ベアトリーチェは動けなかった。

 いつの間にか、ぼろぼろと涙をこぼしていて、四つん這いのまま肩を震わせて泣きじゃくってしまっていた。

 

 女の子たちは、なにも言わずに動き出す。

 布で床を拭き、湯を替え、音を立てないように後始末を始める。

 

 ベアトリーチェは、泣き止めないまま項垂れていた。

 肩を揺らし、嗚咽を堪えることもできない。嗚咽には獣の唸り声のような音が混じっている。

 

 すると、ひとりの女の子の手が、そっと頭に触れた。

 

「大丈夫よ……。びっくりしただけだから」

 

「ちゃんと、反省してるものね」

 

 ほかの女の子の手も重なる。

 撫でるように……落ち着かせるように……。

 

 そのときだった──。

 顔の前に影が落ちた。

 視線を上げるとリタが立っていた。

 円盤状の操作具を、しっかりと握っている。

 

「ベアト…………さっき言ったでしょう。粗相はだめ。だから……罰ね……」

 

 低く、はっきりとした声。

 ベアトリーチェの身体が、強張る。

 恐怖が、はっきりと形を持って胸に迫る。

 

「……しばらく、息を止めるわ。苦しいけど、それで躾を身体で覚えなさい」

 

 リタの指が動く。

 ベアトリーチェの身体は恐怖で強張った。

 

「待ってよ。だめ──。まだ訓練の途中なの」

 

「なにもできないのが当たり前なの──」

 

 だが、女の子たちが一斉に動いた。

 ベアトリーチェを庇うように、リタとのあいだに次々に身体を入れる。

 

「いまは、だめよ──」

 

「……あんなに泣いて反省してたんだから」

 

「そうよ。次はできるわ──」

 

「できなくても、覚えればいいの。最初からできるペットはいないの」

 

 女の子たちが必死な口調でベアトリーチェを庇ってくれる。

 ベアトリーチェは、呆然とそれを見ていた。

 

「なによ──。いまのは普通に懲罰でしょう」

 

 リタが不満げに言い返す。

 

「罰だけじゃだめよ。ちゃんと教えなきゃ」

 

「そうよそうよ」

 

 言葉が重なり、場が張りつめる。

 ベアトリーチェは、どうしていいかわからず、抱き寄せてくれている女の子のひとりに、無意識に身体を寄せてしまっている。

 

「でも、それで躾けが遅れたら、あんたたちのせいだからね。マルティナ様にはそう報告するわよ」

 

「……そのときは、あたしが罰を受けるわ。だから、今回は見逃してあげて」

 

 庇っていた子のひとりが、はっきりと言った。

 ベアトリーチェは、はっとして顔を上げる。

 なにがあろうと、ベアトリーチェのために、ほかの女の子が罰せられるようなことは、あってはならない。

 決心して、口を開く。

 

『バウ、バウ、バウ』

 

 三回──。

 教えられた通りの合図だった。

 場が静まり返る。

 

『バウ、バウ、バウ』

 

 もう一度同じように啼いた。

 教わったのは、これだけなのだ。

 そして、みんなに深く頭を下げる。

 

「まあ……ベアト、おりこうさんね」

 

 少しの間があり、女の子がベアトリーチェに抱きついた。

 

「うんうん。反省してるの、ちゃんと伝わったよ」

 

 別の女の子も歓声をあげて、横から抱き締める。

 

「ねっ、懲罰なしでいいでしょう、リタ?」

 

 ひとりがリタに迫る。

 

「……まあ、躾を覚えてくれるならいいんだけど……。」

 

 リタが渋々という感じで、円盤の操作具から手を離す。

 ほっとした。

 

「わあっ、よかった。でも、次は気をつけようね、ベアト」

 

 リタと最後まで争っていた子がしゃがみ込んで、ベアトリーチェの首に抱きつく。

 

「……もう、わかったわよ──」

 

 リタが大きく息を吐く。

 

「そんな憎まれ口ばかり、言わないのよ、リタ。あなたの役目はみんなわかってるから」

 

 女の子たちは今度は、立ちあがってリタを、代わる代わるに抱きしめる仕草をした。

 見ていると、明らかにだんだんとリタの様子が柔らかくなっていくのがわかる。

 五人目の抱擁が終わるときには、リタはすっかりと上機嫌になっていた。

 基本的に、みんな仲がいいのだと思った。

 

「まあいいか──、ねえ。あたしもベアトの身体拭きに加わるね」

 

 リタが明るく言い、女の子たちの輪に加わる。

 その言葉に場の緊張がほどける。

 女の子たちは愉しそうにリタを加えて、再び布を手に取って、ベアトリーチェの周りにしゃがむ。

 

 女の子たちの手が、次々に背中や肩に触れる。

 相変わらず、口を開けないと息ができないし、自然に舌が出てくる。身体の疼きもなくならない。

 

 しかし、ベアトリーチェは、女の子たちの操る布の温もりに包まれ、強張っていた身体から少しずつ力が抜けていくのを感じた。

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