※この作品はR-18です。

【ネタバレ注意】【クリア後閲覧推奨】『都市伝説解体センター』無様エロ   作:みゆ_ハーメルン

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第1話

 ナブラ演算子ゲーム。

 はじめプレイヤーに「1」「x」「x^2」の3枚の基底のカードが配られる。

 山札には12種の演算子のカードがあり、各プレイヤーは7枚の手札を持つ。

 手札によって演算子を追加するか演算し、さきに相手の基底をすべて消滅させた側の勝利だ。

 

 オンラインで対戦する相手の基底は「2 sin x」。自分の基底は「x」「e^x」だ。

 「sin x」を消滅させるには「lim sup」もしくは「lim inf」のカードが必要だ。だが、ここまでの手番から自分の手札に上極限、下極限がないことは相手も分かっている。しかも、自分の基底は脆弱だ。

 自分の手番だ。相手は勝ちを確信しているだろう。

 「1」「÷」「f^-1」「log」「x」の5枚を出し、「2 sin x」の係数体「2」を演算する。「sin x」に「1 / 2^x」の係数が付く。

 

 メッセージを送る。

《次の手番で「lim」を使う。私の手持ちは1手では消滅できない。私の勝ち。》

《収束定理。さすがSAMEJIMAです。》

 続けて相手のメッセージが表示される。全文英語だ。

《これであなたが本物のSAMEJIMAだと確信しました。

 今の世界はソーシャルメディアに扇動された大衆の衆愚政治に支配されている。

 彼らに代わり、我々、暗号(クリプト)無政府主義者(・アナキスト)が世界を統治しなければならない。

 あなたには我々の王になっていただきたい。》

 

《興味がない。》

 女――如月歩はラップトップのモニターを閉じた。

 フランチャイズチェーンの喫茶店のカウンター席だ。壁は全面ガラス張りで、外光が店内を照らしている。

 繋いでいたプリペイド式携帯電話のコネクターを抜く。これを使い、喫茶店の無線LANで通信していた。ラップトップとともにトートバッグにしまう。

 

 年齢は23歳。

 大きく開いた襟元の、オーバーサイズのTシャツを着ている。

 下衣も幅のあるワイドパンツだ。

 顔は卵型の輪郭で、中性的な整った顔立ちをしている。ただ、細く眇(すが)められた目が、剣呑な印象を与えている。

 髪はやはり中性的な、モップトップのボブカットにしている。

 首は細く、広い襟元に鋭い鎖骨が覗いている。

 

 世界を混沌(カオス)に陥れた、国際的なサイバーテロである「グレート・リセット」から数ヶ月。

 その主犯である歩はいまだ東京に留まっていた。

 

 喫茶店を出て、日に照らされた大通りを歩く。

 光に過敏な羞明のきらいがあり、歩は不快そうに目を細めた。

 歩は暗号通貨が流出した「ハッピー777億円事件」で資産を築いていて、逃亡、潜伏資金には事欠かない。

 暗号通貨は暗号化によって通貨に与信している。天才的なハッカーである歩は、その暗号を解読することができた。

 「グレート・リセット」のために巨費を使っても、まだ資産の大半は残っていた。

 

 道を行く歩の後目に、通行人たちの姿が映る。

(あの男。全身をブランド物で固めてるけど、長財布は安物。なのに紙幣を詰めてる。クレジットカード現金化をしてる。クレカはすでに限度額を超えて、借金してる)

(あの女。ストッキングが伝線してる。ワンピースを着るときに引っかけたらしい。けどストッキングは最後に履く。どこかで一度服を脱いだ。パパ活で売春してる)

(誰も彼も汚らわしい)

 

 サヴァン症候群の歩は情報のわずかな断片から、その全体を再現する。

 だが、その能力は歩にとってむしろ障害だった。潔癖症の人間が、電車の手すりや吊革に指紋を幻視して触れられなくなるように、歩は他人の言行に悪意や悪行を知覚してしまう。しかも、歩はサヴァン症候群によくあるように共感覚を併発していて、その悪性が鮮明に感じられた。

 

 『創世記』によれば、神は腐敗した地上を浄化するために大洪水を起こした。

 だが、その後もキリスト教徒たちは世界の終末を訴えつづけた。

 だとすれば、大洪水は水槽の定期清掃のようなもので、とくに意味はなかったのかもしれない。

 「グレート・リセット」で世界を混沌(カオス)の渦に沈めてから数ヶ月が経ち、歩はそうした徒労感を覚えていた。

 

 秋葉原駅の高架線下を潜る。

 歩は電子機器を買いに秋葉原の電気街に来ていた。

 

 中古店に入る。店頭には鏡張りのショーケースが置かれている。棚板に美少女フィギュアが陳列されている。電子機器の専門店だが、土地柄、オタクグッズも扱っているらしい。

 店の奥に行こうとしたところで、通路を塞ぐ肥満体の男に、歩は足を止めた。

(うッ…! こいつは…!)

 男は肥満体だが、女性としてやや上背のある歩より身長が低い。

 丸首のトレーナーにスウェットパンツを着ている。だらしない服装で、上下とも膨らんでいる。

「ぐふッ。ぐふふッ」

 男はショーケースの美少女フィギュアを見ながら、太った顔をやに下げている。フィギュアはいずれも美少女の半裸や全裸を模(かたど)ったものだ。

 

 普通でも避けたくなる人物だ。だが、歩はサヴァン症候群だ。歩は男の生活の履歴をすべて知覚してしまった。

(ぐッ…! ううッ…! 利手は右なのに、左の袖が擦りきれてる。左手を机に置いてパソコンを操作してる。インターネットポルノを見て、そのとき右手は…! 瞼が腫れて、今日もネットポルノを見ながら夜更かししてる。無職で不規則な生活習慣をしてる。毎日、食っちゃ寝してオナニーしてるだけ。今もポケットを右手に入れてる…!)

 膨大な情報が脳内に流れこみ、歩は数歩、よろめいた。

(や、ヤバい… これ以上、この男を見てるとおかしくなる… はやく離れないと)

 

 歩が姿勢を崩したことで、男が気づく。男の思考がほぼ直接、歩の脳内に流れこんでくる。

(ぶひッ! かわいい女の子ゲット! 思い出の女の子図鑑に登録しようっと。ぶひひ、今日はツイてるなァ。ボーイッシュ系も良いなァ。今晩のオナネタはこれで決まり! アキバまで来て良かったなァ。ポケモンGOならぬ女の子GO! 本当にポケモンみたいにゲットできたらいいのに。ぶひッ。仕方ないから目に焼きつけて、はやく帰ってオナニーしよっと。ぶひッ、ぶひひッ!)

 

(う… うわあああ!)

 歩の意識は閃光とともに弾けた。

 

  ***

 

 バルコニーに面した窓から青空を見晴るかす。

 高層マンションの最上階で、広々としたリビングだ。

 

 歩は媚声をあげた。片耳にスマートフォンを当てている。

「まもなく追加の女の子がくるそうです♡ 御主人様♡」

 

「ぶひィ! 遅いよ!」

 肥満体の男は不満そうな声をあげる。

 黒革張りのソファに大股開きで座っている。

 

「申しわけありません!♡ 私の不徳の致すところです!♡」

 歩は股に両手を当て、深々と頭を下げた。

 

 黒い布製のビキニを着ている。黒い正方形の布地を白いフリルの縁飾りがとり巻いている。

 歩は撫肩ですらりとした体型だ。痩型だが、半裸になったことで女らしい体付きが露わになっている。乳房の膨らみは手のひらに収まるくらいで、その頂きを布地が覆っている。

 腰は細く、股には半円形のエプロンドレスを付けている。履いているのは、やはり黒いビキニのショーツだ。

 ボブカットの髪にはホワイトブリムのカチューシャを載せている。

 中性的な美貌を台なしにするようなエロメイドのコスプレだ。

 

 歩は部屋の片隅にいる女に声をかける。媚声から一転した冷ややかな声だ。

「栄子。女の子を急がせて」

 女は顔をしかめる。

「チッ… 偉そうにして」

「言える立場? 仮釈放中でしょう」

 歩に言われ、女――清水栄子は口をつぐんだ。

 若い女で、美容整形したことが克明な、鼻梁の高い顔立ちをしている。

 不服そうな栄子に歩は言いつのる。

「あとどのくらいで着く?」

「まあ、30分くらいじゃないの」栄子は険のある顔で言う。

「1分早く着くごとに1万円のボーナスを出す」

「えッ?」栄子は顔を輝かせる。即座にスマートフォンを取りだし、猛烈な勢いで電話する。「もしもし? 早く来て! ああもう、いいから早く来いって言ってんの!」

 栄子はいわゆるパパ活をする女を斡旋する女衒をしている。守銭奴で金のためなら何でもする。

 

 栄子に指示を下すと、歩はすでにいる女たちのほうを向いた。

「ほら。新しい女の子たちが着くまで、御主人様が退屈しないようにして」

「え… でも、何をしたらいいか…」

 若い女のひとり――佐藤美桜が口元に手首を当てる。

 ウェーブのかかったセミロングの髪で、気弱そうな垂れがちの目をしている。

 歩は眇目(すがめ)で美桜を見た。

「自分で考えて。私が指示すると、あなたは《やらされてる》感じを出すでしょう」

「そ、そんな…」

 美桜は黒眼がちの目を潤ませた。

「あざみ、酷い… 前はあんなに優しかったのに。前のあざみはどこに行ったの…?」

 歩は細く溜息をついた。歩は生理的に溜息をつくことはないが、美桜を威圧するためにあえてした。

「あなたみたいな他責的な人間は自分で判断できないんだから、他人の言うことに従っていればいい。インターネットにスティグマが刻まれて、就職も実家に出戻りもできないんだから、居場所を与えてあげたことに感謝して」

 ビキニの下着で叱責するさまは異様だが、歩は動じなかった。

 

 美桜はソファに座る男のほうに、おずおずと寄った。

「あ、あの… SNSにハメ撮りをしたいんですが、おチンポを貸していただけないでしょうか…?♡」

「ぶひッ、ぶひひッ。ばッ、バカ女はしょうがないな!」

 男は機嫌良さそうに笑う。

 

 美桜はバニースーツを着ている。体に着けているのはハイレグのレオタードで、乳房の上半分は露わになっている。頭にはウサギ耳のカチューシャを被っている。

 他の女たちも猥褻なコスプレをしている。

 女たちはいずれも、玉を並べたような乳房をした巨乳だ。いわゆるパパ活女子だけでなく、グラビアアイドルやセクシー女優のようなセミプロも、金に飽かせて雇っている。

 

 淫猥な若い女に囲まれ、男は愉快そうだ。

 男に並んで座る女――インフルエンサーのリナが言う。

「どうせなら、制限時間を決めてPV数を競わせたりしたら?」

 鼻筋が通り、切長の目をした美女だ。ロングヘアをハーフアップでまとめている。

 メイド服を模した、胸元が露出した、セクシーランジェリーを着ている。フリルの縁飾りが全体に付いていて少女趣味だ。怜悧な美貌のため、なおさら不格好に見える。

 

「ぶひッ! それ採用! でも、どうせなら自分でやろうかな。ぶひひッ!」

 男は女たちを呼ぶ。

「おい、お前ら来い!」

 

 男の命令のもと、室内にいる女たちが集合する。

 数人の女が男の頭に巨乳を押しつける。柔らかい乳肉が男の顔で撓む。

 残る女たちは男の足元に屈みこみ、男の陰茎を露出させると、そこに向けて一斉に舌を伸ばす。鯉の池に餌を投げいれたような眺めだ。

 

 男はスマートフォンでその様子を撮影しようとする。歩がスマートフォンを受けとり、代わって撮影する。

 しばらくしたあと、歩がスマートフォンを見ながら朗読する。

「《羨ま死刑》《誰かこいつの家を特定しろ。凸する》、《下品すぎ。こんなので喜ぶとか感性が幼稚なんだよ》。5分でもう1000回以上リポストされています♡ コスプレが利いたのかと♡」

「ぶひッ、ぶひひッ。ま、負犬どもがなんか言ってるよ。ぶひ!」

 男は小鼻を膨らませ、低い笑声をあげた。

 

「おい、お前も来い!」

 歩に言う。

「ぶひッ! たまらん!」

 女たちの舌技を受けて、不気味な声をあげる。

 歩がいそいそと男の股間に屈みこもうとするのを制する。

「ぶひッ。そうじゃない! お前はそこで土下座してろ!」

「はい!♡」

 歩はフローリングの床に正座し、額を着ける。

 男は歩のボブカットの頭を踏みつけにしつつ、女たちに奉仕させつづけた。

「おい、リナ! お前が代わりにSNSのコメントを読め!」

「はいはい…」

 リナは気怠げに言い、スマートフォンを持つ。

 小声で咳きこむ。

「タバコをやめたのに、喉が全然良くならないんだから」

「ぶひッ! 女がタバコを吸うなんて生意気だよ! 僕の前では許さないからね!」

「それはもう何度も聞いたから…」

 リナがSNSのコメントを読みあげる。

「ぶひひッ! 負犬どもの嫉妬を浴びながらするセックスは最高だよ!」

 

 男は歩の頭をぐりぐりと強く踏みつけにする。

 頭でその圧力を感じつつ、歩は陰裂から愛液を滲ませた。

 男は鈍才で、天才的なハッカーである歩の能力は理解できない。だが、動物的な本能で、自分が歩の能力に依存していることは察していた。その劣等感のため、しばしば歩を無意味に虐げていた。

 滲みでた愛液がビキニのショーツに黒い染みをつくる。

(御主人様が喜んでる…!♡ 御主人様に喜びを与えてくれるSNSを破壊しようなんて、どうして私はあんなに愚かだったんだろう…!♡ 御主人様とインターネットは、まるでアダムとエデンの楽園!♡ ヘスペリデスの園!♡)

 男の笑声を頭上に浴びつつ、歩は恍惚とした。

 

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