【ネタバレ注意】【クリア後閲覧推奨】『都市伝説解体センター』無様エロ 作:みゆ_ハーメルン
ナブラ演算子ゲーム。
はじめプレイヤーに「1」「x」「x^2」の3枚の基底のカードが配られる。
山札には12種の演算子のカードがあり、各プレイヤーは7枚の手札を持つ。
手札によって演算子を追加するか演算し、さきに相手の基底をすべて消滅させた側の勝利だ。
オンラインで対戦する相手の基底は「2 sin x」。自分の基底は「x」「e^x」だ。
「sin x」を消滅させるには「lim sup」もしくは「lim inf」のカードが必要だ。だが、ここまでの手番から自分の手札に上極限、下極限がないことは相手も分かっている。しかも、自分の基底は脆弱だ。
自分の手番だ。相手は勝ちを確信しているだろう。
「1」「÷」「f^-1」「log」「x」の5枚を出し、「2 sin x」の係数体「2」を演算する。「sin x」に「1 / 2^x」の係数が付く。
メッセージを送る。
《次の手番で「lim」を使う。私の手持ちは1手では消滅できない。私の勝ち。》
《収束定理。さすがSAMEJIMAです。》
続けて相手のメッセージが表示される。全文英語だ。
《これであなたが本物のSAMEJIMAだと確信しました。
今の世界はソーシャルメディアに扇動された大衆の衆愚政治に支配されている。
彼らに代わり、我々、
あなたには我々の王になっていただきたい。》
《興味がない。》
女――如月歩はラップトップのモニターを閉じた。
フランチャイズチェーンの喫茶店のカウンター席だ。壁は全面ガラス張りで、外光が店内を照らしている。
繋いでいたプリペイド式携帯電話のコネクターを抜く。これを使い、喫茶店の無線LANで通信していた。ラップトップとともにトートバッグにしまう。
年齢は23歳。
大きく開いた襟元の、オーバーサイズのTシャツを着ている。
下衣も幅のあるワイドパンツだ。
顔は卵型の輪郭で、中性的な整った顔立ちをしている。ただ、細く
髪はやはり中性的な、モップトップのボブカットにしている。
首は細く、広い襟元に鋭い鎖骨が覗いている。
世界を
その主犯である歩はいまだ東京に留まっていた。
喫茶店を出て、日に照らされた大通りを歩く。
光に過敏な羞明のきらいがあり、歩は不快そうに目を細めた。
歩は暗号通貨が流出した「ハッピー777億円事件」で資産を築いていて、逃亡、潜伏資金には事欠かない。
暗号通貨は暗号化によって通貨に与信している。天才的なハッカーである歩は、その暗号を解読することができた。
「グレート・リセット」のために巨費を使っても、まだ資産の大半は残っていた。
道を行く歩の後目に、通行人たちの姿が映る。
(あの男。全身をブランド物で固めてるけど、長財布は安物。なのに紙幣を詰めてる。クレジットカード現金化をしてる。クレカはすでに限度額を超えて、借金してる)
(あの女。ストッキングが伝線してる。ワンピースを着るときに引っかけたらしい。けどストッキングは最後に履く。どこかで一度服を脱いだ。パパ活で売春してる)
(誰も彼も汚らわしい)
サヴァン症候群の歩は情報のわずかな断片から、その全体を再現する。
だが、その能力は歩にとってむしろ障害だった。潔癖症の人間が、電車の手すりや吊革に指紋を幻視して触れられなくなるように、歩は他人の言行に悪意や悪行を知覚してしまう。しかも、歩はサヴァン症候群によくあるように共感覚を併発していて、その悪性が鮮明に感じられた。
『創世記』によれば、神は腐敗した地上を浄化するために大洪水を起こした。
だが、その後もキリスト教徒たちは世界の終末を訴えつづけた。
だとすれば、大洪水は水槽の定期清掃のようなもので、とくに意味はなかったのかもしれない。
「グレート・リセット」で世界を
秋葉原駅の高架線下を潜る。
歩は電子機器を買いに秋葉原の電気街に来ていた。
中古店に入る。店頭には鏡張りのショーケースが置かれている。棚板に美少女フィギュアが陳列されている。電子機器の専門店だが、土地柄、オタクグッズも扱っているらしい。
店の奥に行こうとしたところで、通路を塞ぐ肥満体の男に、歩は足を止めた。
(うッ…! こいつは…!)
男は肥満体だが、女性としてやや上背のある歩より身長が低い。
丸首のトレーナーにスウェットパンツを着ている。だらしない服装で、上下とも膨らんでいる。
「ぐふッ。ぐふふッ」
男はショーケースの美少女フィギュアを見ながら、太った顔をやに下げている。フィギュアはいずれも美少女の半裸や全裸を
普通でも避けたくなる人物だ。だが、歩はサヴァン症候群だ。歩は男の生活の履歴をすべて知覚してしまった。
(ぐッ…! ううッ…! 利手は右なのに、左の袖が擦りきれてる。左手を机に置いてパソコンを操作してる。インターネットポルノを見て、そのとき右手は…! 瞼が腫れて、今日もネットポルノを見ながら夜更かししてる。無職で不規則な生活習慣をしてる。毎日、食っちゃ寝してオナニーしてるだけ。今もポケットを右手に入れてる…!)
膨大な情報が脳内に流れこみ、歩は数歩、よろめいた。
(や、ヤバい… これ以上、この男を見てるとおかしくなる… はやく離れないと)
歩が姿勢を崩したことで、男が気づく。男の思考がほぼ直接、歩の脳内に流れこんでくる。
(ぶひッ! かわいい女の子ゲット! 思い出の女の子図鑑に登録しようっと。ぶひひ、今日はツイてるなァ。ボーイッシュ系も良いなァ。今晩のオナネタはこれで決まり! アキバまで来て良かったなァ。ポケモンGOならぬ女の子GO! 本当にポケモンみたいにゲットできたらいいのに。ぶひッ。仕方ないから目に焼きつけて、はやく帰ってオナニーしよっと。ぶひッ、ぶひひッ!)
(う… うわあああ!)
歩の意識は閃光とともに弾けた。
***
バルコニーに面した窓から青空を見晴るかす。
高層マンションの最上階で、広々としたリビングだ。
歩は媚声をあげた。片耳にスマートフォンを当てている。
「まもなく追加の女の子がくるそうです♡ 御主人様♡」
「ぶひィ! 遅いよ!」
肥満体の男は不満そうな声をあげる。
黒革張りのソファに大股開きで座っている。
「申しわけありません!♡ 私の不徳の致すところです!♡」
歩は股に両手を当て、深々と頭を下げた。
黒い布製のビキニを着ている。黒い正方形の布地を白いフリルの縁飾りがとり巻いている。
歩は撫肩ですらりとした体型だ。痩型だが、半裸になったことで女らしい体付きが露わになっている。乳房の膨らみは手のひらに収まるくらいで、その頂きを布地が覆っている。
腰は細く、股には半円形のエプロンドレスを付けている。履いているのは、やはり黒いビキニのショーツだ。
ボブカットの髪にはホワイトブリムのカチューシャを載せている。
中性的な美貌を台なしにするようなエロメイドのコスプレだ。
歩は部屋の片隅にいる女に声をかける。媚声から一転した冷ややかな声だ。
「栄子。女の子を急がせて」
女は顔をしかめる。
「チッ… 偉そうにして」
「言える立場? 仮釈放中でしょう」
歩に言われ、女――清水栄子は口をつぐんだ。
若い女で、美容整形したことが克明な、鼻梁の高い顔立ちをしている。
不服そうな栄子に歩は言いつのる。
「あとどのくらいで着く?」
「まあ、30分くらいじゃないの」栄子は険のある顔で言う。
「1分早く着くごとに1万円のボーナスを出す」
「えッ?」栄子は顔を輝かせる。即座にスマートフォンを取りだし、猛烈な勢いで電話する。「もしもし? 早く来て! ああもう、いいから早く来いって言ってんの!」
栄子はいわゆるパパ活をする女を斡旋する女衒をしている。守銭奴で金のためなら何でもする。
栄子に指示を下すと、歩はすでにいる女たちのほうを向いた。
「ほら。新しい女の子たちが着くまで、御主人様が退屈しないようにして」
「え… でも、何をしたらいいか…」
若い女のひとり――佐藤美桜が口元に手首を当てる。
ウェーブのかかったセミロングの髪で、気弱そうな垂れがちの目をしている。
歩は
「自分で考えて。私が指示すると、あなたは《やらされてる》感じを出すでしょう」
「そ、そんな…」
美桜は黒眼がちの目を潤ませた。
「あざみ、酷い… 前はあんなに優しかったのに。前のあざみはどこに行ったの…?」
歩は細く溜息をついた。歩は生理的に溜息をつくことはないが、美桜を威圧するためにあえてした。
「あなたみたいな他責的な人間は自分で判断できないんだから、他人の言うことに従っていればいい。インターネットにスティグマが刻まれて、就職も実家に出戻りもできないんだから、居場所を与えてあげたことに感謝して」
ビキニの下着で叱責するさまは異様だが、歩は動じなかった。
美桜はソファに座る男のほうに、おずおずと寄った。
「あ、あの… SNSにハメ撮りをしたいんですが、おチンポを貸していただけないでしょうか…?♡」
「ぶひッ、ぶひひッ。ばッ、バカ女はしょうがないな!」
男は機嫌良さそうに笑う。
美桜はバニースーツを着ている。体に着けているのはハイレグのレオタードで、乳房の上半分は露わになっている。頭にはウサギ耳のカチューシャを被っている。
他の女たちも猥褻なコスプレをしている。
女たちはいずれも、玉を並べたような乳房をした巨乳だ。いわゆるパパ活女子だけでなく、グラビアアイドルやセクシー女優のようなセミプロも、金に飽かせて雇っている。
淫猥な若い女に囲まれ、男は愉快そうだ。
男に並んで座る女――インフルエンサーのリナが言う。
「どうせなら、制限時間を決めてPV数を競わせたりしたら?」
鼻筋が通り、切長の目をした美女だ。ロングヘアをハーフアップでまとめている。
メイド服を模した、胸元が露出した、セクシーランジェリーを着ている。フリルの縁飾りが全体に付いていて少女趣味だ。怜悧な美貌のため、なおさら不格好に見える。
「ぶひッ! それ採用! でも、どうせなら自分でやろうかな。ぶひひッ!」
男は女たちを呼ぶ。
「おい、お前ら来い!」
男の命令のもと、室内にいる女たちが集合する。
数人の女が男の頭に巨乳を押しつける。柔らかい乳肉が男の顔で撓む。
残る女たちは男の足元に屈みこみ、男の陰茎を露出させると、そこに向けて一斉に舌を伸ばす。鯉の池に餌を投げいれたような眺めだ。
男はスマートフォンでその様子を撮影しようとする。歩がスマートフォンを受けとり、代わって撮影する。
しばらくしたあと、歩がスマートフォンを見ながら朗読する。
「《羨ま死刑》《誰かこいつの家を特定しろ。凸する》、《下品すぎ。こんなので喜ぶとか感性が幼稚なんだよ》。5分でもう1000回以上リポストされています♡ コスプレが利いたのかと♡」
「ぶひッ、ぶひひッ。ま、負犬どもがなんか言ってるよ。ぶひ!」
男は小鼻を膨らませ、低い笑声をあげた。
「おい、お前も来い!」
歩に言う。
「ぶひッ! たまらん!」
女たちの舌技を受けて、不気味な声をあげる。
歩がいそいそと男の股間に屈みこもうとするのを制する。
「ぶひッ。そうじゃない! お前はそこで土下座してろ!」
「はい!♡」
歩はフローリングの床に正座し、額を着ける。
男は歩のボブカットの頭を踏みつけにしつつ、女たちに奉仕させつづけた。
「おい、リナ! お前が代わりにSNSのコメントを読め!」
「はいはい…」
リナは気怠げに言い、スマートフォンを持つ。
小声で咳きこむ。
「タバコをやめたのに、喉が全然良くならないんだから」
「ぶひッ! 女がタバコを吸うなんて生意気だよ! 僕の前では許さないからね!」
「それはもう何度も聞いたから…」
リナがSNSのコメントを読みあげる。
「ぶひひッ! 負犬どもの嫉妬を浴びながらするセックスは最高だよ!」
男は歩の頭をぐりぐりと強く踏みつけにする。
頭でその圧力を感じつつ、歩は陰裂から愛液を滲ませた。
男は鈍才で、天才的なハッカーである歩の能力は理解できない。だが、動物的な本能で、自分が歩の能力に依存していることは察していた。その劣等感のため、しばしば歩を無意味に虐げていた。
滲みでた愛液がビキニのショーツに黒い染みをつくる。
(御主人様が喜んでる…!♡ 御主人様に喜びを与えてくれるSNSを破壊しようなんて、どうして私はあんなに愚かだったんだろう…!♡ 御主人様とインターネットは、まるでアダムとエデンの楽園!♡ ヘスペリデスの園!♡)
男の笑声を頭上に浴びつつ、歩は恍惚とした。