折角男子に転生したので思いっきり美少年BLを楽しむ 作:もしもボックスがあったら絶対これにする
ルビウスは努力家であった。
足りないものを工夫と修練で補ってきた。
魔力を腕に瞬間的に巡らせることで、本来なら膂力で圧倒的に劣るはずのメスのオーガとも対等以上に打ち合い、対軍魔法を重複運用できる精密さと魔力圧と、何より魔力量を備えていた。
魔国の領国では珍しく子息が彼一人で、女子を跡取りとすることが慣例のこの国にあって先代領主は彼に跡を継がせた。
普通家の中で守られるだけの男子では経験することのない重圧に耐え、期待に報い、実力としても荒くれ者の魔族軍を指揮する立場になれたことは、彼自身の誇りであった。
身持ちが固く、浮いた話ひとつない彼は『男を捨てた』とも揶揄されるが、そんなのお構いなしに研鑽を続けていた。必要になったら適当に嫁を迎えればいいのであるし、用を成せば誰でも良い。
普段から卑猥な視線に晒される男子は普通、女子に嫌悪感を持つ。ルビウスもそれは同じだが、家を残すには仕方ないと割り切れる程度には理性的であった。部下のいやらしい視線を感じながらも、努めて無視し、指揮に専念してきた。
彼が方面軍の指揮官の任についたのは二年前のことである。一年前から侵攻計画を練り始め、近々実行に移すところであった。
それは男を都市から収奪するためであった。特に男不足が深刻化していたわけでもないが、就任当初から『きっと男に甘いから都市に攻め込まないだろう』と囁かれていた。作物を得るだけなら都市の周辺にある農村を攻めれば良いだけであるが、効率的に男を集めたいならやはり都市を攻めなければならない。しかし、世の女魔族のために他人種とはいえ同性を襲うのは気がひけるだろうというのが大方の見立てであった。
ルビウスがバクルクネス侵攻を決意したのは、女どもが心の中に抱いてる嘲りを打ち壊すためである。始めから己の実力と将軍に相応しい気概があることを認めさせるのは難しいが、早めにやっておかなければならないことであった。
こうして彼は、一抹の罪悪感を抱えながら強い使命感に後押しされ、心を無にして戦争に身を投じることにした。
「侵入者?人間が?ここまで?」
「あちこちで火の手が上がっています!ルビウス様、ご指示を!」
ゴールド級の冒険者たちが一斉に城に侵入したとして、城内は騒然となっていた。
彼らは明け方に外壁を駆け上がり、一気に城内に攻め入ったらしい。
外に軍が待ち構えているのかと思えば、影ひとつない。物資に火をつけて行軍を妨げよういうつもりなのか、はたまた冒険者だけで方面軍を壊滅させるつもりなのか。
とにかく、人の側が先制して魔族を攻めることがなかったため、意図が汲み取れないのが正直なところであった。
不毛な土地が広がり、男もおらず資源もないこの国に、人の国が戦争を起こしてまで手に入れたいものはないためだ。
「城内に入った侵襲者は物資を狙っているか、あるいはこの混乱自体を狙っているかだ。部隊長に兵の混乱をおさめさせて、集積所の守りを優先的に固めるように伝えろ」
『火はどうしますか』という守兵の問いかけにルビウスは端的に答える。
「城は岩作りだ。旗や柵が燃やされても構わない。倉庫が燃やされていないなら捨ておけ」
「はっ!」
配下の将兵が慌ただしく動き始めた。各将は城壁守備の指示を行うためルビウスがいた大広間から引き払い、彼のわずかな直属部隊の他にはルビウス一人となった。
周辺の地図にルビウスが目を落とす。
「しかし、珍しいこともあるものだな。今までこんなことはなかったのだろう?」
「はい。バクルクネスの領主は無能と名高く、いつも都市を取り囲めばすぐに男子を差し出していました」
「……。だから、バクルクネスはすぐに落とせると皆は呑気に構えていたのか……」
「事実、今まではそうでしたので」
ルビウスは、今から自分が略奪の指揮を取るのに、どこか矛盾した思いを感じた。無能と嘲られることになっても、死闘の末都市を攻略できなければ男子を手に入れられなくても仕方がないと弁明することも、心の片隅で考えていたからである。
無論、陛下の兵を使うのだから敗北はあってはならないのだが。
その時、ギィっと大広間の扉が重々しい音を立てて開いた。
「キミがルビウス将軍サマかな?」
その場にいた全員が目にしたのは、それはそれは美しい人であった。
肩口で短く切り揃えられた艶やかな金髪、透き通る青い瞳、すっきりとした目鼻立ち。そこまでなら深窓の令息にも見られるが、憂うような視線や静かに閉じられた口元の代わりに、悪戯っぽい微笑みや好奇心に満ちた視線が普通の男子にはない異質さを醸し出している。
「一人で……?他に女の冒険者は……?」
「ボクがここにくることは誰にも伝えてないから、まぁ一人だね。多分誰も来ないんじゃないかなぁ」
そっけなく答えた彼は、改めて名乗る。
「お初にお目にかかるね、ルビウス男史。ボクの名前はカイン。しがない一介の冒険者さ」
彼は自信に満ちた笑みを浮かべ、胸に手を当て丁寧にお辞儀をした。誰の助けを借りたわけでもない、自分の興味だけでこの場所に来たとでも言うような、雰囲気である。自信の強さを感じさせる立ち振る舞いであった。
女に頼らずに生きていくと言う気持ちは同じなのに、ルビウスのような固い決意や悲壮感は感じられない。『そのための努力なんて必要ないですよ』とでも言うような、飄々とした態度に感じたのである。
だからだろうか。志向は同じはずなのに、ルビウスはどうにも受け入れ難い感じがした。
「そうか。今際の際の言葉がそれになっても恨むなよ」
「あっ、将軍!」
ルビウスは瞬発的に足に魔力を込め、最大の力で地面を蹴る。並の剣士では捉えられない速さ。衛兵を置き去りにした速度のまま上から力一杯体躯に見合わぬ大剣を振り下ろす。いかに強い冒険者といえども人間ならばこの速さですぐさまーー
「死ぬと思った?」
「なっ、剣が!?」
カインは体を回して剣を躱したあと、回転の力を加えた裏拳で剣の腹を叩き、難なく剣を叩き割っていたのだ。
目にも止まらぬ早技。神速の領域といっても差し支えなかった。すぐさまルビウスが飛び退き、彼の前に守衛が立つ。
しかし、今の一瞬の攻防を見てルビウスよりも目の前の少年が強いらしいことを悟った彼らは互いに目を見合わせ、カタカタと甲冑の音を鳴らしていた。
「そんな力、どこでどうやって……」
今だに信じられないといった顔のルビウスが苦々しげに問いかける。
「うーん……」
カインは顎に手を当て顔をあげ、軽く考える素振りを見せた後、可愛らしくこてんと首を傾けてのうのうと言ってのけた。
「才能?」
「ふざけるなぁーー!!!!」
ルビウスの怒りが沸騰したように溢れ、彼の魔力が氾濫し城を軋ませる。近くにいた守衛は全員それに当てられて気絶し、地面に倒れ伏した。
カインはなお涼しい顔で受け止める。
「貴様だけは女の慰み物になってもなんとも思わない!オークの兵隊長にでもくれてやる!!」
「おー、こわいこわい。でもさぁ、そういう気位とプライドが高い方がいいよねぇ〜〜。……折り甲斐があるから」
ルビウスがさらに後ろに飛び退き、高速詠唱で彼一人に対軍魔法を放とうとしたところ、視界の中にカインがいないことに気づいた。
「こっちこっち」
後ろを思わずばっと振り向いたところ、喉を掴まれ持ち上げられ、詠唱が中断された。喉を圧迫されて呼吸が苦しくなる。
「ぐっ、ふっ……!」
「ちょっと寝ててもらうよ。大丈夫、ルビウス君には可愛い首輪をつけてあげるから。きっと気にいると思うなぁ」
視界が遠くなる中、ルビウスは必死にもがくがカインはびくともせず、彼の意識は深い闇の中に沈んでいった。