薄れていた意識が戻ってくるにつれて五感が強まってくる。
最初に感じたのは皮膚で感じた床の硬さだ。
(…あれ、何してたんだっけ?)
床に横たわっているようだが、どうしてそうなったのかを思い出すことが出来ない。
起き上がろうとしたが腕は背中に回されていて動かす事が出来ない。
腕だけではない。脚も同様だった。
(えっ、どうして?)
身体の自由が効かない事を認識すると思考がハッキリした。
それと同時に目を見開いて自分の身体を確かめようとしたが、目隠しをされているようで視界は暗いままだった。
それだけでなく口にも何かされているようで上手く話す事が出来ない。
「お目覚めのようだ」
(誰!?)
聞こえてきたのは若く、軽薄な声だ。
「随分と暢気なもんだなぁ」
「全くだ。俺は兄貴に伝えてくるわ」
3人いたようで騒々しく話している。
扉が開く音がして1人が部屋を出て行ったようだけど、すぐに戻って来たようで足音が一つ増えている。
「目が覚めたって?」
「そうなんすよ。起き上がろうとしたんで間違いないっすよ」
「騒いだりしないのは中々なもんだ」
低く響く声の主は他の3人よりも歳上で立場も上なのだろう。指示をいろいろと出している。
「じゃあ始めていいっすか?」
「ああ、しくじるんじゃねえぞ」
「分かってますって。いつもどおりにやるだけっすよ」
4人の会話を聞いていると信じられない言葉が出て来た。
「娘を誘拐した。時間までに金を用意しろ」
淀みなくツラツラと話すのを聞くに初めてではない事が分かる。
しかし、電話で話していた男が焦り出したので何か予想外の事が起きたのかもしれない。
「おい、切るんじゃねえよババア、おい!」
「どうした、タツヤ?」
「それが…娘は今家にいるって」
「お前ら違う女を攫って来たんじゃねえだろうな」
「間違う訳ないじゃないですか!ほら、顔一緒じゃないですか!」
焦った男に目隠しを外され、急に開けた視界に目が眩む。
「馬鹿野郎。顔見られちまったじゃねえか」
騒々しい物音に目隠しを外した男が殴り飛ばされたのが分かる。
「お前ら、そいつの荷物に学生証が無いか探せ」
「「は、はい!」」
「ったく、少しは上手くやれるようになったと思ったらこれだよ」
筋骨隆々とした体躯の男が机に座り、煙草に火を点ける。
「アニキ、ありました!」
「貸せ」
差し出された生徒手帳をひったくるように取るとそれを凝視している。
「はあ〜、テメェら制裁は覚悟しとけよ。それで?お嬢ちゃん、何者だ?」
アニキと呼ばれる人が近付いてきて口枷を解く。
「明槻月夜とはどういう関係だ?」
「…双子」
「なるほどね。それで『娘は家にいる』か」
「アニキ、どうするんすか?」
「どうするもこうするもねえだろ。顔見られてんだ、返す訳にはいかねえ。親父に話すしかねえだろ」
そういって誰かと電話で話始める。
「タツヤたちがやらかしましてね。双子の片割れを拉致ってきたんですよ、どうします?」
他の3人が黙って様子を見守る中、自分は殺されるのではないかと思うと身体が震えてくる。
「ええ、分かりました。その通りに」
通話を終えると緊張した空気が室内に広がる。
「タツヤ、リュウジ、マサト。指持ってこいだってよ。それと天音月咲ちゃんか、運が無かったな。オヤジがお呼びだ」