「………」
ここは何処か。冷たい風が吹き抜ける。
「………」
これは何だ。赤い液体に塗れてる。
「………」
ここは何処だ。知ってる顔が死んでいる。
「………」
これはなんだ。青溟剣が見つめてる。
「………」
これはきっと。悪い夢。何も思わず、思えない。
「………」
だけどきっと。未来の事。近いはず、遠くない。
「そっか……」
これが今の瞬光。
「瞬……光……」
誰かがワタシを呼んでいる。男の人が一人目の前にいる。
何も思わず、何も感じない。
青溟剣だけが、今の自分を支えてくれる。
五感も全て消し去って、心も全て捨てされば。
誰にも縋らない。一人の強さ。
「貴方は……誰…?」
・・・・・・*
「っ!?」
違和感と共に目が覚めた。全身の冷や汗で朝だと気づく。体を起こして外からやってくる光を見て自分が自分だということを認識した。
「今の…アキラ…?」
現実の瞬光はまだアキラを覚えている。記憶を探れば、まだみんなの事を覚えている。
瞬光は時折そんな夢を見る。青溟剣の悪夢のような。予知夢のような。未来を示唆した映像のような。
「顔…洗わないと…」
虚狩りになってからも、まだこの不安は拭えない。
・・・・・・*
金属と金属がぶつかる音。風を切り裂く一太刀。空気を裂く一閃。二人の剣士が自身の剣をぶつけ合う。傍から見れば完全な殺し合い。だが、互いの剣筋を見切っては、弾く。演舞にも似た立ち回り。振り方。今日も雲嶽山の『葉瞬光』は虚狩りの先輩である『星見 雅』に稽古をつけてもらっていた。
「踏み込みが甘いぞ!」
「ッはい!」
瞬光がどれだけ剣の速度を上げても雅の刀はそれ以上。元々居合を得意としていた雅の斬撃には瞬光もついて行くのが精一杯だった。しかし、青溟剣を解放すれば話は別。あの剣の力を解放すれば雅にだろうと瞬光は遅れを取らない。だが、今の瞬光は頑なに青溟剣を使わない。剣棺に目線を送っては何かを躊躇っている。
「あっ…!」
斬撃の最中、瞬光の剣が弾かれた。
「っしま───」
「隙ありだ」
踏み込んだ雅の一閃。瞬光の喉元を捉えた一太刀は既のところで止まった。あまりにも鋭い余韻に瞬光は尻もちをついて雅を見上げるしか無かった。
「ふむ……今日はここまでにしよう」
「え、待って雅先輩!ワタシはまだ───」
「ここまでだ瞬光。無理は良くない」
残心を終えて刀を納める雅は脇で見ていた儀玄に目配せ。察した儀玄も鼻で笑い頷いた。
「瞬光。雅殿の言う通りだ。まずは顔を洗ってこい。頭に血が上っているぞ」
「お師匠様まで……」
そう言って儀玄はへたり込んだ瞬光に手を差し伸べ立ち上げた。
「でも……」
「ほら。行けって」
「………はい」
軽く背中を押してやると不服そうな顔をしながら水場に歩き出した。その背中を見る儀玄の顔は師匠というにはあまりにも悲しそうな顔をしていた。雅もその表情から何かを察するように小さく息を吐く。
・・・・・・*
「それで、雅殿から見たあいつはどう見える?」
「鋒に迷いがある。人に剣を向けることにまだ抵抗があるのか、それとも力を使う事を恐れているのか。だな」
瞬光が去った後、刻んだメロンを嗜みながら二人は空を見上げている。
今日の稽古を頼んだのは儀玄の仕業。瞬光には日頃の特訓と伝えていたが、今日の儀玄には狙いがあった。最近瞬光の剣筋がブレていた事を気にしていたのだ。
「お前さんにもそう見えたか。私と稽古をしている時も何処か迷っている。見えるようになったから色々と考え込むようになってしまったのだろう」
「虚狩りとして…か?」
「あぁ、そうだろうさ。瞬光はどこまで行っても純粋だ。悪を悪と言い、正義を信じ込む。純粋だから、指し示す道が増えると自ずと答えを出せなくなってしまう」
「そこまで分かっていて、何故私と稽古をさせた?お前が本人に伝えれば良いであろう?」
「自分で気づいて、自分で乗り越えない事には意味は無い。アイツはまだ、自分が一本道にいると思っているだけだ」
刻んだメロンが最後の一つになった。
瞬光はきっともう答えに気付こうとしている。ただ先へ進むための一歩がまだ踏み込めていないだけなのだ。それを分かっていて師である儀玄はその一歩を踏み込む準備をさせていた。
「なら、私はただ刀を振るうだけだ……あむ」
「ぁ……」
「そうすれば、あの子に気づいて欲しい事に気づかせてやれるのだろう?」
「そうだな。よろしく頼むよ」
「あぁ、この刀に誓おう。だが、私はよく人にアドバイスするタイプではない。と同僚から言われているがな」
自信満々にそんな事を言う雅を見て儀玄は笑ってしまった。
「あぁ、そうだな。私達のようなヤツらは姿勢で見せるのが一番だ」
「課長!」
そうこうしてるうちに雅の同僚がやって来た。
「悠真、待たせたな」
「いえいえ、こっちも楽出来たので構いませんよ。帰りますか?」
「いや、もう少しこの辺を見て回ろう。あまりここまでは来ないからな。柳達へのお土産も買わないと」
「分かりました。なら行きましょうか。課長」
「二人の時は名前を呼んでくれ。悠真」
「そんなすぐには出来ませんよ」
お土産のメロンを持って同僚と手を繋いで帰る雅。それを見た儀玄も少し思うところがあった。
(やはり、これを解決してくれるのはアキラだけか…さてどうしたものか。また利用するという形にはなってしまいそうだな。今回も)
・・・・・・*
雅が帰った後、戻って来ない瞬光を探していた儀玄は影の方で蹲って不貞腐れている瞬光を見つけた。
「ここにいたか。瞬光」
「お師匠様………っ」
顔を合わせるなり直ぐに逸らして更に丸まった。久しぶりに見るそんな態度に儀玄はふっと頬を緩める。こんなになったのはいつぶりだろうか。懐かしさで逆に頭を撫でてやりたくなった。
「そう不貞腐れるな。今日は調子が悪かったのか?」
「別に……なんでもない…」
「全く。お前さんはいじけると直ぐに頑固になるな」
「いじけてないわっ!」
「ほぉら見ろ。怒ったな。やっぱりいじけてる」
「っ〜〜〜もうっ!」
尻尾を大きく振って瞬光は抗議する。まぁまぁと宥めるように頭を撫でながら儀玄は隣に座る。
「最近はよく剣がブレるな。何か悩み事か?」
「悩みって程じゃないよ。ただ…迷ってるだけ…」
「迷う?」
「前に青溟剣を使った時の感覚がまだ体が抜けてないの。あのワタシの体が全部消えるような感覚。またアレが来ると思うと怖くなっちゃって…」
「……そうか」
儀玄自身の予想通り迷いと恐怖が心にこびり付いていた。助言をしてやりたいが儀玄は青溟剣を使ったことが無い。知っているのは危険性。それを今更何度も気をつけろと言ったところで瞬光の悩みが解決する訳でもないことは知っていた。
そう。瞬光の悩みを解決出来るのは、瞬光自身か、もう一人の可能性のある人だけだった。
「自分で答えは出せそうか?」
「……分からないわ。感覚の問題じゃないし。ワタシ一人で決めなきゃいけないのは理解してるつもりだけど…」
「難しい答えなのは私も知っている。お前さんの事はよく分かっているつもりだ。その心を含めてな」
「でも…お師匠様は色んな事を一人でやってきたんだよね」
「ん?」
蹲る少女の顔は儀玄もよく知っている顔。
目先が真っ暗闇で何見えない。闇雲に走ろうにも出来ない。無闇矢鱈に歩こうにも足場がない。そんな表情。
「ワタシは自分の身を削ってでも、みんなの為に尽くす事は悪い事じゃないと思ってる。でも、そうなのだけど、ワタシは……」
剣棺を覗く瞬光の顔はとても明るいとは言えないし、かと言って暗いとも言えない。
神を失った宗教者の様に何かに縋ろうとしている。
「なんだ?言ってみろ」
「でも…あんまりにも幻想じみてるわ…」
「それでもいいじゃないか。お前はまだ若い。そのぐらい誰だって許してくれる」
「…………」
だが瞬光の顔は晴れないままだった。
「そんなに弱気じゃ折角出来た弟弟子に顔向け出来ないな」
「へ?」
儀玄がふと指を指す。その方向へ向くとアキラが来てきた。
「瞬光、師匠。ここに居たんだね」
「ア、アキラ!?今週は来れないんじゃ…!?」
「あぁ…その…たまたま仕事が早く終わったんだ。ラマニアンホロウの仕事だったから顔出しぐらいいいかな〜って」
「そんなっ…来るなら言ってくれれば迎えにっ……あぁぁぁ、ワタシ髪もボサボサでっ……」
慌てふためく瞬光と頬をかくアキラを他所に儀玄はやれやれと二人を笑いながら立ち上がりアキラの肩に手を乗せた。
「ま、後は若い衆で宜しくやってくれ。私は休む。じゃ」
「わかった。ありがとう師匠」
「あぁ、宜しくな。弟弟子」
ヒラヒラと手を振りその場を後にしようとしたが、突然思い出したように儀玄は振り向いた。
「あそうだ。瞬光。お前さんの次の修行まで休みだからな。私が呼ぶまでしっかり休息を取っておけよ」
「えぇ!?なんで!?」
「いい機会だ。少し頭を冷やしてこい。ココ最近詰めすぎだ」
「だってそれは師匠がワタシにいっぱいお仕事持ってくるから───」
「じゃ〜たのんだぞアキラ〜」
「ちょっと師匠〜〜!」
やたらと早足でその場を後にした儀玄の背中を二人は唖然としながら見送るしか出来なかった。
「ちょうど明日もお休みになったし、今日は僕の家に来るかい?」
「え、いいの?」
「あぁ、今日はリンも居ないし、二人でゆっくりしよう」
二人で、という単語を聞いた途端に瞬光の顔はみるみる明るくなり嬉しそうに尻尾を振りながら大きく頷いた。
「うんっ!お泊まり道具用意してくるわね!」
「あぁ、待ってるよ」
瞬光は鼻歌交じりのスキップで自室へ戻って行く。アキラは車の助手席を片付けに行きながら自分のスマホを起動させた。そこには儀玄が送ってきたメッセージがある。
【すまないが、瞬光を慰めてやってくれ】
と、この一文だけ。相変わらず人に頼るのが下手だなとアキラはため息を吐く。それは儀玄に向けてか、瞬光に向けてか。師であるものから引き継いだものがそんな不器用さでは無くていいのに。とアキラは誰もいない場所で肩を竦めた。
・・・・・・*
「お邪魔しま〜す」
実に何週間ぶりのビデオ屋。雲嶽山の虚狩りになってからというもの仕事仕事でお互いに時間が余り取れなかった。任務で度々会うことがあったが、こうして本当の二人きりになるのは実に三週間ぶりのこと。
「何か飲むかい?お茶も煎れられるよ」
「なら、お茶がいいわ」
「分かった。座って待っていてくれ」
「うん」
言われて瞬光はソファに深く座り込む。柔らかな感触と体を傾けて楽な体勢になる幸福。背もたれに頭を乗せてふと天井を仰ぐ。今日の稽古は全く歯が立たなかった。踏み込んでも踏み込んでも、遠のいていく雅をただ目で追うしか無かった。それもこれも、自分の甘さが自分を弱くしている。
『ここまでだ瞬光。無理は良くない』
情けをかけられたような表情だった。一端の剣士としては恥ずかしいし、耐えられない。まるで勝負にならないと言われてしまったかのように。少し瞳が滲んできた。自分の覚悟の無さと言ったことを歪めてしまった事。自分が未熟だと言うことに嫌気がさしてきた。
「………はぁ」
「瞬光、どうかしたかい?」
「うん…ちょっとね」
煎れられた湯呑みを受け取ってその温度を手で感じる。その温かさにあてられて、不思議と口が動いてしまった。
「今日は雅先輩にコテンパンにされちゃった…」
「雅さんと手合わせをしていたのかい?」
「そうよ。修行の一環でね。……でも全然歯が立たなかった。その上お情けまでかけてもらって。本当に、まだ自分が未熟だって思い知らされちゃった…」
「それでも、相手はあの雅さんだ。あの人の実力は折り紙つきだから、そんな人を相手にできる瞬光だって十分強いじゃないか」
瞬光は湯呑みを撫でながら小さく「ありがとう」と呟いた。
「でも、ワタシは、また青溟剣を躊躇ったの」
「……」
「最近…夢を見るの」
「夢?」
「青溟剣の夢。あの剣を握ると皆が血まみれで倒れていく。エーテリアスじゃない。色んな人達が。でも、それより怖いのがその夢でワタシの心は少しも動じなかった事なの」
「……瞬光」
瞬光は湯呑みを置いてアキラの方へ体を傾けた。
「やっぱりワタシ、普通じゃないんだ」
「…………」
縋り付く瞬光を宥めるだけのアキラ。パタパタと尻尾は揺れているものの顔を合わせてはくれない。滑らかな髪を撫でては手で弄ぶ。流れるスキンシップの時間。こうも簡単になる瞬光はアキラの前だけだ。
「ワタシはワタシの全部を知ってると思ってた。青溟剣の事も、自分の事も。でも、ワタシはワタシでしかなかった。『あの子』には成れないの」
『あの子』。あの『白い瞬光』の事だろう。あの『白い瞬光』の全てを飲み込んだ今の瞬光は一つの人格だけ。時々だが、あの『白い瞬光』が消えてから、彼女のように成りなかったと呟く事があった。
「ワタシ達は似ているはずだったのにやっぱり真反対だったわ」
どうも瞬光の気分が落ち込んでいる事を察したアキラはとにかく聞き手にまわる事にした。だが、宥める手は止めない。吐き出させるように促す手はそのままに。
「近過ぎるほどに似ていたのに、同じ道は歩めなかった」
「でもそれは、君が全てを背負い込む覚悟が出来たからだろう?」
「ワタシ、そんな幻想じみた事を考えていたのね。客観的に自分を見れてなかったわ」
「それでも、君は僕を助けてくれた。自分を受け入れられた。それは間違いじゃないし、事実だ」
照れ隠しなのか余計に顔を埋める瞬光。その挙動には照れ隠しと否定の意思が込められていた。やがて、背中を撫でていたアキラの手に尻尾が絡んできた。これは甘えたの合図。二人きりにしかやってこない秘密の時間。
「教えて欲しいんだ瞬光。君の今の気持ちを」
「っ…」
潤んだ瞳がこちらを覗く。アキラの思った通りに泣いていた。分かっていたかのようにその零れる雫を指で掬いあげる。
「僕だって自信があるわけじゃない。君よりも強くない。でも、君が苦しい思いをしてるなら僕は支えになりたい。誰よりも、一番の支えに」
「でも…それはいけないわアキラ…あなたをそんな風に求めてしまったら…」
「いいんだ。君の事なら僕は分かっていると思ってた。でも、そんな風に一人で恐怖と戦う必要はない」
ゆっくりと二人は視線を合わせた。
「ワタシが…もしワタシが、変わり果てたワタシになっても…?」
「あぁ、僕は変わらない。いや、僕らは変わらないよ。瞬光。僕が君の帰る場所になる」
どちらからともなく。交わった視線は合わさった唇となる。
・・・・・・*
ベッドが軋むと同時に、瞬光から声が漏れる。恥ずかしそうに口元を隠して視線を逸らす。この流れも段々とお決まりになりつつあった。
「瞬光、顔隠さないで」
「や…だ…っ…恥ずかし……んぅ」
両腕を剥がして顕になった顔へキスを落とす。意地っぽい瞬光の態度にアキラは少し違和感を覚える。だが迎え入れる舌は素直に絡んでくる。絡んだん指も離さない。柔らかな温度はいつもの素直な瞬光だ。
「やだ…今日はっ…しない…っ…」
「どうして?」
「今日は…そういう気分じゃないわ…」
いやいや言いながらも絡めた手は離さない。潤んだ瞳は治らない。合意の常套句だ。かと言って、無理矢理に自分のペースに持っていくのは悪い気がしてならない。だから、アキラは抱き寄せるだけで頭を撫でる。
「本当にしなくていいのかい?」
「ん……でも…」
擦り寄せてくる体は熱いままで、熱っぽい吐息がずっと瞬光から漏れてくる。絡んだ手とは逆の腕が既にアキラに巻きついている。
素直に孤独が怖いと嘆く事も、素直に今を忘れたくないと刻む事も、素直に好きだと伝える単純な事も、今の瞬光には少し難しい。今日の雅の顔が忘れられないからだ。あんな風に言われたのは儀玄以外では初めての事。
「今…アキラに全部をあげたら、本当に一人になれなくなってしまうわ。ずっと寂しいって思ってずっとアキラを求めてしまうもの…」
「それの何がダメなんだい?」
今この温もりに溺れたら、御しきれないこの未熟な心はもっと未熟なままで、まるで小さい子供のようになってしまう。アキラとの時間も大切だが、貰った称号に恥じぬ生き方をするのもまた瞬光なりの心構えだった。安寧の孤独の中で静かな終わりを告げることなんて出来なくなってしまう。
「ずっと、アキラと居たいって思ってしまうもの…」
「それは…君にとって悪いことなのかい?」
今日は閉ざしたままでいたい。そういう気分になる前に、今はダメな自分を晒け出す前に、今はこのままでいたい。温もりの海よりも、孤独な船の上で自分の嘆いていたい。そんな気分だからだ。
「僕だって、瞬光とシたいんだけどな」
スリ、とアキラの指が瞬光の頬を撫でる。振り払おうにもその温かさが心地よくて涙目を向けるしか出来ない。その瞳が訴えている事は、『優しくしてくれる?』の意思だけだった。
二人の間のある温度は瞬光を解かして、その弱さを晒け出させてしまう。自分の弱みを預けられる安心感と縛った心の鎖を解いてくれる温かさ。
「ぁ……」
とても自然な流れて瞬光が下になる。覆いかぶさってきたアキラを止められず、抗議する瞳ももう完全に普段の瞬光に戻ってしまった。恋人に求められる嬉しさを孕んだ女の瞳。ずっと身体が熱くて仕方ない。両足を擦り合わせて腰が勝手にくねるように動いてしまう。
「ん…っ…」
我慢が聞かなくなったアキラのキス。さっきの態度と打って変わって瞬光の腕はアキラを包み込んでいる。
「ちゅ…んっ……ちゅぅぅ…」
舌がまた入ってきた。今度は互いに絡ませて、吸い合って、抱き合って。瞬光は受け入れてしまった。求めいけない温もりを。これを一度味わってしまったらもう抜け出せない。そうして閉ざした瞬光の胸の奥までアキラの温もりで満ち満ちてしまう。
アキラがくれた温もりで、その優しさという強さで、見えている。瞬光の瞳。青溟剣で五感を失っても、迷いがあるならそれを悪用せんとする元に誑かされても、アキラは瞬光のを手引いて導いてくれた。
「あっ……!」
アキラの手が瞬光の服の中に入ってきた。彼は痛くしない。だからもう抵抗はしない。服の中をまさぐられる感触はまだ慣れない。見下ろされながら自分の胸を揉まれるのもまだ慣れない。まるで支配されているようで身体が悦んでしまう。
「ふ……ぁ……ゃ…っ…んっ…!」
胸の頂点を人差し指で弄られてしまう。こねくり回し弄ばれる。瞬光の大きな胸を触っている時のアキラの顔は実に嬉しそうで男らしい。肉欲に囚われていると言うのだろうか。
「んぁっ!」
胸に集中していたら、今度は下半身から刺激がやってきた。いつの間にか擦り合わせていた両足にアキラの片足が入っていた。膝で少しづつ押し付けられながら、胸の突起をひたすらこね回す。そうすると瞬光の秘裂が濡れ始めてきた。
「音、聞こえる?分かりやすいぐらい濡れてきたね」
「ちょ…っと、やだぁ…恥ずかしいわ…アキラ…」
粘着質な水音が部屋に響く。見つめ合いながら秘裂の刺激を受けると勝手に愛液が溢れてくる。吐息混じりの喘ぎ声がアキラの耳に良く届いてしまう。熱っぽい吐息が二人の間を行き来する中、恥ずかしくても顔を隠せない瞬光はひたすらにアキラを見つめてしまう。
その蕩けた瞳にあてられて、アキラも限界に達した息子を晒け出す。
「っ!………アキラ…の…今日はなんかおっきく見える…」
「そう、かもね。仕事が多くて最近1人でする余裕もなかったから…」
「辛くない?張り詰めていて…痛そう…」
瞬光が優しく裏筋を撫であげるとアキラは軽く苦悶の声を出す。
「っう!」
「ひゃっ…ご、ごめんなさい…痛かった…?」
「いいや、違うんだ。あんまりにも気持ち良かったから……つい…」
「そ、そうなのね…なら…よかった…」
力強く脈打つイチモツが瞬光には有り得ないほどに魅力的に見える。コレが自分の腟に入ったらどれだけ満たされるのだろうか。そう考えると体が勝手に四つん這いになり、自身の腟を見せびらかすように拡げていた。
「瞬光…!?」
「ソレ…凄い気持ち良さそう…早くアキラの…っ…欲しいっ…」
あまりにも妖艶な表情に光景。息を飲むとはこの事だ。綺麗な肌のお尻を掴むと瞬光は小さく声を漏らした。そして、そのまま入口に当てがい、アキラは瞬光の腟へ入っていく。
「は、ぁ、ぁぁぁぁぁぁぁ………っ」
「っうぅ…!」
凄まじい密着感と愛液が零れる音。粘着質な擦れる音と共にアキラは瞬光の最奥へ辿り着く。子宮の入口に少し当てるだけでまるで射精を促す様に腟が締め付けてくる。雌のシリオンとして男性の種子を欲しがるのは当然の事。ましてや、アキラのものはもっと欲しいに決まっている。
「ァ…アキラぁぁ…っ!ナカ…ッ凄いぃ…!」
夢中で腰を振り瞬光を自分の下に閉じ込める。バックの体位だと瞬光の奥まで良く届く。
「瞬光っ…ほんとにコレ、好きだよねっ…!」
「すきっ…!すきぃ…っ!これされてると、アキラのものだってわかるっ…からァ…っ!」
柔らかく揺れる瞬光の体、お尻に胸、鷲掴みにしても手に余るほどの大きさで手に吸い付くような感触で、気づけばアキラも夢中で腰を振ってしまう。
「っ…!」
背中から抱き寄せて、瞬光の匂いを嗅ぐ。光に当たった優しい香り。いつまでも取り込んでいると狂ってしまいそうになる大切な人のソレはアキラにも欠かせないものになりつつあった。
「アキ、ラぁ…、ひぃっ…らめぇ……!」
表情も腟も体もグズグズに蕩けた瞬光の締めつけにアキラも既に限界だった。
「しゅんっ…こぅっ…!」
「ひゃぁっ…!そんなっ…おっ…おくっ、らめぇぇ……!」
瞬光の愛嬌と共にアキラの速度も増していく。
「わ、ワタシっもうイ、クッ……っっっ〜〜〜〜〜〜〜ー〜!!!!」
「っ…!」
一際強い瞬光の締めつけと、最後の一突きが重なってアキラは白濁を奥に流し込む。
ピッタリと奥まで押し付けて一滴も残すこと無く子宮へ入れてゆく。
「ぁ……んふふっ…いっぱい射精たね…アキラ」
愛おしそうに下腹部を撫でる瞬光をみて、収まったはずのアキラが再び上を向いた。
「瞬光…今日は少し僕の方に付き合って欲しいかな」
「うんっ、ワタシももっとアキラを感じたいわ」
まだ夜は始まったばかり。二人の愛を重ねるにはもっと時間が必要だ。瞬光は絡めた手を愛おしそうに撫でると被さるアキラを迎え入れた。
・・・・・・*
そして後日、唐突に儀玄が瞬光を呼び出した。身支度を整えて駆けつけてみればまた雅が適当館へやって来ていた。
「雅先輩!?」
「あぁ、瞬光。ようやく来たな」
「急に呼び出してすまない。瞬光」
「どうしてまた…?」
「何、儀玄がまた稽古をつけて欲しいとな。前に会った時よりも強くなっていると聞いた。その言葉を信じてな」
少し唖然としてしまったが、雅の言葉に瞬光はしっかりと頷いた。雅も少し口角を上げると、二人は自然と歩を進める。
「この前とは違って、雰囲気が変わったな。瞬光」
「えぇ、前みたいに情けをかけられるような事はないわ。雅先輩」
定位置に着いて向かい合い二人は剣と刀を構える。
雅は低く姿勢を取り、柄に手をかけ、瞬光は真っ直ぐにその剣の鋒を雅に向ける。一瞬の静寂。端から見ている儀玄もその雰囲気に飲まれそうになる。
(良い眼だ。さて、どうなるかな…)
二人が同時に息を吐く。構えを解かず相手を見据えて───
「っ!」
「ッ!」
息を吸い込むと同時に踏み込んだ。
「せぇっ!」
「はっ!」
すれ違いざまに一撃、ついで振り向いて一撃。雅の突きを振り払い、瞬光の一撃を弾く。次いで瞬光の袈裟斬り。雅は即座に受け止める。一撃が重い。しっかりと斬る線を決めて攻撃してきている。迷いのない証拠。それは今の数度の斬撃の応酬で分かったこと。
(強いな。これ程とは…)
雅がつい口角を上げる。だが、瞬光は気を緩めていない。既に雅の後ろに『剣』を二本出現させていた。迫る二本の『剣』。このままでは確実に雅にその『剣』が刺さってしまう。
「っ…!?」
「させないわ、雅先輩!」
逃すまいと瞬光は再び力を入れて剣を押し込む。
雅は防御で両腕が塞がっている。余計な動きは取れない。だが、雅は焦ることは無かった。再び瞬光を目を合わせると小さく頬を緩めた。
「そうか。なら私も、だ」
「え?」
何かが弾けるような音と共に目の前にいたはずの雅が『消えた』。一瞬の事で何が起きたのか理解出来なかった瞬光は間抜けな声を出してしまった。
「え…消え…?───!?」
そして、後ろからやってくるおぞましい程に大きな殺気。反応するように後ろに振り返るとそこには既に斬りかかってきている雅が居た。
「ぐっ!」
劈く金属音。召喚した『剣』に防御させ、弾き飛ばされながらも何本か射出する。二転三転した体を立て直し剣棺を足場にして踏み込み反撃を試みる。先に射出した『剣』は既に弾かれ踏み込んだ瞬光も自身の剣の間合いに入った。
「はっ!」
横薙ぎの一閃。雅の腹部を捉えた一撃を見舞う。が、流石に雅には見え見えの攻撃だったようだ。しっかりと無尾が瞬光の剣を防いでいた。
「まだ甘いな」
「そうでもないわ」
「っ!」
瞬光に一瞬でも気を取られると四方から瞬光の『剣』が飛んでくる。雅は即座に瞬光を突き飛ばし、身を翻して『剣』を躱す。
真正面を叩き落とし。
真後ろを弾き飛ばし。
左右を一回転で吹き飛ばす。
雅の目は確かに『剣』の動きを一つ一つ捉えている。
「これで!」
瞬光は弾き飛ばされた『剣』を揃えて再び射出。帯びたしい数の『剣』が真正面から。だが、雅は顔色一つ変えることなく無尾を鞘に収めて低く体勢を取る。『剣』を正面に捉えて、その先の瞬光を目指す。
雅は冷たい冷気のような殺気を纏う。その殺気はしっかりと瞬光に向けられる。
「っ!?」
まだ何もされていないのに既に体を真っ二つにされたような感覚。だが、それは瞬光へ真っ直ぐ突っ込んでくる合図でもある。迎え撃つ準備が出来る。
瞬光はまた更に『剣』を増やして自身の防御へ回す。そして、正面の『剣』も増やし、雅を仕留める気で迎え撃つ。
「風が征く!」
号令と同時に飛んでくる瞬光の『剣』と手持ちの剣から二本の斬撃。視界を埋める程の『剣』を見ても雅の表情は何一つ変わらない。しっかりと瞬光を見据えている。
赤い瞳に蒼い炎が宿った瞬間、ついに鞘から無尾の刀身を晒け出す。
「破竹の如し───」
静かな声で地面がめり込む程に踏み込み、爆音と共に瞬光の『剣』の雨を払いながら瞬きよりも早く瞬光の元へ詰め寄った。気づけば既に無尾の間合い。首を捉えた一閃。瞬きよりも早い雅の閃は常人では捉えられない。
「ッ!」
「む?」
雅の無尾が止められた。首を捉えた一撃を瞬光はしっかりと反応して防いだ。防いだ無尾を弾き、瞬光は二、三度刃を交えて距離を取る。
「どうした?まだお前は剣を抜いていないぞ。瞬光」
「………」
不安がまだ顔に混じっている。
「私に情けをかけられるようなことは無いと言ったのはお前だ。なら、見せてみろ。お前の剣を」
雅は無尾の鋒を向ける。
「お前の答えを」
瞬光は目を閉じて深く深呼吸をする。
記憶の中で反芻した。アキラの言葉を思い出す。自分がどんなになっても、アキラは必ず瞬光の帰る場所になる。と。
「えぇ、勿論よ。雅先輩!」
瞬光は術法の札を切り、剣棺を召喚。棺が解放されると青溟剣が姿を現した。
今の瞬光に青溟剣と相見える事に恐怖は無い。
今の瞬光にその剣を使う事に躊躇いは無い。
アキラとの時間を思い出して、瞬光は決意を見せるべく青溟剣を握る。瞬間、瞬光の髪は白く染まり、足の刻印が色濃く染まる。
「本気で行くわ!雅先輩!」
「いいだろう。なら私も全力で答えよう」
無限の空に無限の剣。
蒼い炎に冷たい紅。
瞬光はその剣を全て束ねて青溟剣に収束させる。
雅は地面にクレーターが出来るほどに踏み込んで居合の構えをとる。
互いの一撃が触れ合った瞬間、辺りは更地になるのが目に見えている。だが、そんなことはどうでもいい。今この瞬間は剣士として、戦士として、虚狩りとして、この一瞬に全てをかける。
「青溟剣気、九天を裂く!」
「半尺消えてまた光る──!」
二人は同時に踏み込んだ。
その場から衝撃波を放つ程の踏み込みと、瞬間移動にも思える程の速度。
蒼天を裂く剣と次元を切り裂く刀。
二人の虚狩りが互いの全力をぶつけ合うその刹那───
「待て、お前さん達」
「え!?」
「っ!?」
・・・・・・*
時は少し前に遡る。
「やっぱり凄いねぇ。課長の動きに着いて行ってる。あんなの僕にも出来ないよ」
「僕もだ。そもそも戦う事すら出来ないからね」
傍から見れば完全な殺し合い。降り注ぐ剣の雨を当たり前のように瞬間移動並みの速さで避けながら斬り進む。それを脇で見ているアキラと悠真。
「それに、彼女の鋒が真っ直ぐに見えるね。この前はブレブレだったのに。何かあったのかな?相棒」
「その聞き方は分かっている時の聞き方だね。ここはノーコメントで」
「酷いなぁ相棒。僕と君の仲じゃないか。少しくらい打ち明けてくれてもいいじゃん」
「そうやって、自分に自信がないからって他の人の話を聞いて上辺だけなぞるのは感心しないな」
「う……」
図星のと言わんばかりに顔を歪める悠真にアキラの視線も少し鋭くなった。
「しょうがないじゃん。コッチは自信持てないんだからさ」
「そんな事言わなくても、十分に二人はお似合いだと思うけどな。僕は」
「そういう問題じゃないの。課長が良くても僕がダメなんだよ」
「だったら、君のせいだね。現実を見なよ。アンジェロ・ザウパー」
「アンジェロ・ザウパーって誰!?相棒、僕の名前忘れちゃったの!?」
「まさか、そんなことは無いよ。アンジェロ・ザウパー」
「だっかっらッ…誰それぇ!?相棒もしかして僕のこと嫌いになったの!?あんぱんをスパーキングしたいぐらい嫌いになった!?」
「冗談だよ。悠真。いつまでも煮え切らない態度を取っているからさ」
「相棒の冗談は分かりづらいんだってば…」
「アキラ」
「?」
悠真以外に名前を呼ばれ反応して振り向くとそこには儀玄が居た。さっきまで、瞬光と雅の所にいたはずなのだが音もなくこちらへ来ていた。
「師匠。いつの間に」
「いやすまない。お前さんと話したい事があってな。今いいか?」
そう言われ、悠真の方を向くと悠真はどうぞ、と儀玄の方へ手を差し出した。アキラはそれを見て儀玄へ向き直り頷いた。
「あぁ、構わないよ」
悠真と別れ、二人だけになる。雅と瞬光の様子が見れる高台へやってきた。
「また頼ってしまって悪かったな」
「いや、あれぐらいお安い御用さ。それに僕も殆ど瞬光に会えてなかったからタイミングが良かったよ」
「そうか…」
手すりに身を預けて風を感じている儀玄の顔は何か憂いがあるような表情だった。
「それで今回はなんて慰めてやったんだ?」
「別になんて事ないさ。ただ、いつも通りに頑張ろうって励まし合っただけだよ。特別な事なんて何も」
「そうか…羨ましいよ。お前さんが」
「僕がかい?」
「私はまだ瞬光との接し方に迷いがあってな。こうしてお前さんに頼れるのは本当によかったよ」
「あぁ、僕も師匠からそう言われるのなら光栄だよ。でも、師匠モはもう気を張らなくてもいいと思うんだ」
「どういう事だ?」
アキラは瞬光の方へ向く。
「瞬光はもう自分で物事を決められる。それに失敗した時、僕らが支えるんだ。青溟剣の力で揺らいでしまったとしても、僕らが居るなら瞬光はきっと僕らの元へ帰ってくる。だから、もう師匠は瞬光の背中を見てもいいと思うんだ」
そう語るアキラの瞳はとても強く、そして、優しい眼差しだった。儀玄はそんな二人を思い、頬を小さく緩めると同じく瞬光の方へ向いた。
「そうか。そうだな。私も、決めないとな」
儀玄がそう呟くと瞬光達の方から凄まじい衝撃波が飛んでくる。悠真もアキラ達の元へ吹き飛ばされてきた。
「うわぁぁ!!」
「ぐっ!……なんだい?今のは…?」
「派手にやっているみたいだな。ここら辺を更地にされても困るし、そろそろ止めるか」
「で、出来るのかい?あの二人の中に入るなんて…」
「私を誰だと思っている。師匠を信じろ」
青溟鳥が儀玄の元へやって来た。
「その台詞、本当は瞬光に言ってあげて欲しいな」
「分かっている。だから伝えるのさ。今からな」
そう言って、翼を広げて儀玄は飛び立った。
・・・・・・*
「そこまでだ、二人とも。周りを消し炭にしたいのか?」
「お、お師匠様!?」
「……儀玄?」
二人が剣を交える刹那、儀玄は二人の間に入りその手を止めたのだ。お陰で正気を取り戻した雅と瞬光の二人は周りを見渡すと一面がぐっちゃぐちゃになっている事に気がついた。
「あわわわ……これ…」
「やり過ぎたか…」
「たわけめ。後処理をするこっちの身にも……なれっ!」
「ふにゃ!」
「むっ」
瞬光を押し退け、雅を止める。
「ちょっと師匠!なんでワタシだけ押すのよ!」
「その様子なら、青溟剣の影響もないようだな」
「え?」
はっ、となり瞬光は自身の体を見た。あちこちを確かめるように触り立ち上がる。
「当然よ。ワタシはもう大丈夫なんだから」
「雅殿も付き合わせて悪かったな。ご覧の通り、弟子も大丈夫になったようだ」
「そうか。それなら良かった」
言って、雅は無尾を鞘へ収めた。
「課長!」
「瞬光!」
アキラと悠真が慌てた様子で走ってきた。
「課長、今のなんですか!?大丈夫なんですよね!?」
「あぁ、問題ない。この通りだ」
「瞬光も平気かい?怪我をしているようには見えないけれど…」
「うん、ワタシも大丈夫。ちょっと張り切り過ぎちゃったみたいだわ」
あはは、と頬を掻く瞬光と何故か誇らしげな雅。
「青溟剣を使ったのかい?」
「えぇ、でももう大丈夫。あの剣に呑まれることはもうないわ。だって、アキラがいるんだもの!」
眩しい程の笑顔を見せる瞬光。その笑顔にも言葉にも屈託はない。アキラだってそのつもりだ。自分の言葉に嘘はない。瞬光に向ける言葉はいつだって本当で真実だ。
「あぁ、僕がいる。だから安心して僕の所へ帰っておいで」
「うんっ!」
飛びつくように抱き着いて一回転。儀玄と雅達すら気にしない程に熱烈なハグ。儀玄もあまりにも瞬光がアキラに懐いている事に少し妬いてしまいそうだった。そんな自分の未熟さを鼻で笑い、それを隠すように二人へ咳払いをする。
「コホン。それじゃあお前さん達二人は適当館の片付けだ」
「えぇぇぇぇ!!??せっかく良い雰囲気だったのにぃ〜!」
「この有様を見ろ。半分はお前さんのせいだぞ」
「う……」
「まぁまぁ、僕も頑張るからさ」
「片付けの修行か?手伝うぞ?」
「客人にさせる訳には行かない。これは二人の修行だ」
「そうか、わかった」
「さぁ、アキラ、瞬光。頑張ってもらうぞ」
「は〜い…」
「あはは、わかったよ。師匠」
手を繋いで掃除用具を取りに歩く二人の背中を儀玄は名残惜しそうに見つめている。師匠というよりも一人の親のような表情。あんなに酷い目にあったのに二人はそれでも前に進んでいる。儀玄だって振り切った訳ではない。時折思い出しては悲しい思いをする時もある。だが、瞬光は違う。隣で支えてくれる人が出来たらしい。それはきっと『変わる事の無い』事実。
「よろしく頼むぞ。アキラ」
小さく呟いて。儀玄も二人の背中を追った。