初めてのキスは驚くほどに優しかった。
「ん……ふ……ぁ、んぅ……」
もっと乱暴で、荒々しくて、身勝手な欲望を満たすものだと思ってたそれは。
ただひたすらに優しく、暖かく、砂糖を溶かしきった飾り飴のように甘かった。
重なった唇が形をなぞるように波打って、上唇に軽く吸い付かれて、口の端から垂れそうなよだれをリップ音と共に舐め取られる。
「はぁ、ふ……はぁ、ふ……んむ」
酸素は充分に回っているはずなのにどこか息苦しく、湿度の伴う吐息がこぼれる。柊が顔を近づけてくると、顔が勝手に上向いて唇を差し出した。
重なる温もりはとろりと神経に溶けていって、逆上せたようなふわふわとした感覚が思考をさらっていく。
「ん、ぁ……? ふ、ちゅ……れ……はふ、ん」
開いたままの唇にぬらりと何かが差し込まれて、それが柊の舌だと理解するのに時間を要した。ふらつく思考を追い付かせようとしている間に、口の中の粘膜が捕らえられて一つの生き物のように絡め取られた。
「れ……ふ、ふぁ……ちゅく、れろ……は、ふ……こく……」
狭い口内を占領する粘膜は動くたびに内頬や上顎に当たって温い酸素を吐き出させる。分泌する自分の唾液に柊のものが交ざり合って、糖度を増したそれは今まで口にしたどんなものよりも甘い飲み物。
飲めと言われてる訳でもなく、拒否も許されている甘い粘液を喉は勝手に身体の内側へと送っていった。
ぬちゃりとした水音が頭の中からダイレクトに鼓膜に響く。勝手の分からない私を急かすことなく、味わう方法を教えるように一つになった粘膜の動きは緩慢で、吐息を吐き出すたびに全身の輪郭が薄く伸びていく。
「はふ……んむぅ……ちゅ、れろ……ちゅぴ、ふ……」
少しずつ唇の重なりあう時間が長くなっていくと、今度は柊の方に招かれた。好きに動いていいぞと言われてる気がして、戸惑いながらも口腔を探索する。
何かに触れれば反射的に舌を引いてしまって、だけどそれを微笑ましいように触れてくるもう一つの舌が優しく導いてくれる。
「れろ……ちゅぴぴ、は、ふっ……ちろ、ちゅる、れ……ぇ……」
支えるために回していた手は無意識に大きな背中を撫でていて、まるで目の前の存在を確かめるよう。流れる唾液は柊の方で交ざりあい、私のじゃない喉が鳴ると心臓が一際強く跳ねた。
「ぁ……あふっ……っ、んぇ……へふ、ぁ……」
不意に舌を挟まれて身体が強張った。けれど、直ぐに筋肉はほどけていって、なすがままに食べられていく。
はしたなく舌を伸ばして、間の抜けた吐息が熱をもってこぼれた。柊の温もりを感じる舌は唇で食まれながら、粘膜に触れられたり、吸いつかれたりして味われていく。
口を閉じれない呼吸のしずらい体勢なのに、胸に抱くのは熱湯にも似た幸福感と渇きを満たす多幸感。不思議なのは、それを何の抵抗もなく受け入れていることだった。
とんとん、と私を支える手が背中を小突く。柊に味われることに夢中で何を示しているのか分からない。こてりと首を傾げればもう一度小突かれて、一拍の間を置いて胸の窮屈さが解放された。
ブラを外されたことを他人事のように思っていると、舌が自由になってそっと口づけが落とされる。
「脱がすぞ?」
急かさない、進む権利を私に委ねる声はじんわりと鼓膜に染みて、形の分からない喜びが肌に伝わっていく。
「……下着、可愛くないかも」
「なら今度は神室が可愛いって思うやつを着けてきてくれ」
僅かに口にできた強がりを優しく融かして、自然と予約された次の機会が最後の抵抗を無為にしてきた。
二回目があることに喜びを感じている心をかき集めていれば、服が捲りあげられて、ホックを外されたブラが一緒に持っていかれる。
胸に引っ掛かることも、伸ばした髪に手間取ることもなく引き抜かれて、肌に感じる微かな外気が擽ったかった。
「……何よ。想像より貧相だった?」
「逆だ逆。想像してたよりも綺麗で見惚れてた」
目付きを柔らかくして不満を拐うような声色に、どうしようもなく顔が熱くなる。
「どうせ他の女にもいってんでしょ」
「本音だからな。他のやつにも言ってるけど、神室にだけお世辞で済ますことなんてねえよ」
精一杯の減らず口はまるごと包まれて額に落とされた口づけに跡形もなく溶かされてしまう。
見てきた全員に言っていることも本音であることも隠さない口振りに、こいつには口で勝てないことを悟った。
「んっ……」
お腹で感じる柊の手は握られていた時よりも固くて、大きくて、少しだけざらついていた。反射的に漏れでた声は恐怖でも、緊張でもなく、擽ったさに近い心地よさのせい。
指が一本ずつ肌に着地していって、手のひらまで触れればお腹を中心に滑っていく。
キスの時と同じ。急がず、急かさず、異物を受け入れる時間を与えて、馴染んできたのが分かったら敏感なところに自然ながらも優しく触れてくるのだ。
「っ……ふ、ぁ……ふっ……ぁふ、んっ……ぅ」
下乳を掬うように持ち上げられて、肌が沈まない強さで撫ぜられていく。指の形に、手のひらのサイズまで知覚できる触覚は薪をくべられたように熱を生み出していて、頬の朱みを自覚しながら吐息を漏らすことしかできない。
まともに喋るのも初めての男に触れられてるのに、快感を与えられていることも、それを許していることも嫌じゃなかった。むしろ、柊がやることの詳細を把握しようと感覚が鋭敏化しているような気さえしていた。
指を押し返す柔らかい乳房とは反対に突起が少しずつ硬度を上げているのが自覚できて、馬鹿正直な身体に全身が火照る。
「柊っ……まだ、恥ずいから……ん、む……」
指を沈ませながら突起の周りを滑る感覚に、無意識に出た甘さを孕んだ弱音は愚直に唇を差し出す。
重なった唇から差し込まれた舌を絡めとると、穏やかな黒い瞳が食べてみろ、と言っているみたいで真似するように粘膜を食む。
「はぷ……んっふ、んぅ、ふっ……んふぅ、れろ、ちゅくりゅ、んっ……こくり……」
技術のぎもないそれを柊は目を細めて受け入れてくれる。私から味わう唾液はカラメルを薄く伸ばしたような甘さで、いくらでも飲めてしまいそうな心地だった。
「ん……ぷは、はっ……あっ」
離れていく唇に名残惜しさを覚えていれば、ぴりっとした何かが昇って自分でも驚くような甘い声が漏れた。
電流の発生源に目をやると、胸の下半分を覆う手から伸びる人差し指が中央のさくらんぼに触れていて、ぴっと指先が掠めた。
「あっ……っは、は……ぁ、うっ、んっ……ふっ、ひぅっ……」
弾かれる度に出したことのない声が鳴って、痺れるような快感が全身に広がる。我慢しようとすれば返って熱のある吐息がこぼれてしまって、既に自己主張している突起も相まり、羞恥心に顔が熱かった。
「んぁっ……ひいらぎの手、おっき……ひんっ……ふ、ぁ、んんっ……はう」
マッサージに似た快感が唇と脊髄を直結させて、考えてもいないことが舌で滑る。
むにゅり、と圧迫されると指をより感じて肺の酸素が押し出されて、指圧がなくなれば胸が軽くなる代わりに小さな寂しさを覚えた。
「ひ……ゃ……はあうっ、んっ、くふっ……そこ、もっとっ……ひんっ!」
乳房の形を変えながら突起や乳輪を掠める擽ったさともどかしさに、堪え性のない本能は理性の羞恥心を超えてよがる声を上げさせる。
直後に昇った快楽は身を跳ねらせるほどで、甘さの中にある鋭さが頭をくらくらと揺らした。
「ひいらぎ……」
私のものか疑わしいくらいに幼く、溶けた声。何を求めたのか分からない声への答えは首に寄せられる唇で。
かぷり、と食べられた肌の一部が濡れた温もりに包まれる。歯は立てず、唇で挟むような甘噛みと、痛みを感じない引っ張られる感覚。
同時に、育てられた果実が具合を確かめるようにかりっ、と引っ掛かれた。
「はっ……! あっ、あっ……は、ぅ……んぁっ……!っは、あっ……はひっ」
かりかり、かりかり、と一定の間隔で固い先端を弾かれる。快楽よりも心地よさの方が勝つそれは熱っぽい吐息と共に身体を痺れさせて、断続的に声を溢れさせた。
口内の温度を感じる首の一部は時折ちう、と吸いつかれて身体に巡る熱を加速させる。
身体を支えられなくなった私は柊に押されるように倒されて、だけどベッドは軋むことなくシーツに皺を作るだけだった。
柊の一部になるんじゃないかと思うほど食べられていた首が最後にぢゅっ、と熱を残されて解放される。熱さが段々と薄くなっていく感覚がどうしようもなく寂しかった。
跡になっているかも分からないそこを触れて確かめていると、いつの間にか服を脱いだ柊が優しい目で手を伸ばしてくる。
胸の真ん中で育ちきったさくらんぼが収穫されるのを、私はただ眺めていた。
「ーーーーっ!」
きゅっ、と摘ままれた瞬間、頭が真っ白に弾けた。その原因が快楽のせいだと気づくのに時間がかかって、自分の視点が逆さまになっているのにも理解が遅れた。
ぽふっと空気を追い出す感覚に腰が浮いていたことに気づいて、シーツを握りしめたまま荒い吐息を吐き出していく。
「んあぁぁっっ……! ひんっ!?ひっくっ、あふぁっ、はっ……あふぁあっ!」
こりこり、きゅっきゅっ、くりくり、ぎゅっ……
「んはあぁぁぁっ! はふっ、ぁっ、ひぐっ!?っは、ひやっ……!ひいぃんっ……!!」
摘ままれて、持ち上げられて、表面だけを擦るように扱かれる。強いわけじゃない快感は、柊に与えられているだけで知らない何かを流し込まれているようだった。
漏れでる喘ぎ声を我慢するのは簡単で。快楽にぼやける柊の顔を見つけると、耐える選択肢はどこかに消えてしまった。
快楽を与えられる時間を長引かせたくて、身体を使ってどうにか逃がそうとするけれど、一定のリズムで生まれる快感は強くなっていくばかり。
顔は右往左往して、太腿を閉じるように擦り合わせて、腰が小刻みに空に浮く。
「はっ、ひいぃぃっ……!ひいらぎ……っ」
閉じきった下腹部から熱の予感を覚えて、隠せない不安に許した男を呼んでしまう。びりびりと痺れる視界に本能で唇を薄く開けば、蓋をするように重ねてくれた。
「んちゅる、んふっ……れろ、ちゅくくく、むふ……んんんっ!」
口の中が粘膜と唾液でどろどろに溶けていく。夢中になる余裕すらない私はただなすがままに受け入れて、胸に感じる手に快楽の頂点へと導かれていく。
まるで私を知り尽くした愛撫は一番欲しいタイミングで、快楽の火種を弾けさせた。
「んむ~~~~~~っっ!!」
ぎゅぅっ、と全身が力む感覚。そして溢れでる熱。特に繋がった唇と、触れられている胸と、一際薪をくべられた下腹部はそこだけ違うところから送られてきているのかと思うほどに、熱の濃度が別物だった。
硬直は一瞬。だけど、その一瞬は生きてきたなかで一番長かった。
「ぷはぁっ…………はっ……はっ……はぁぁっ……」
全身が一気に脱力感に包まれて薄くなった酸素を、幸福の吐息と共に取り込む。肌に霧を吹き掛けられたような水気を覚えて、今はそれすらも心地いい。
いつもはある息を整えれば訪れる虚しさがなくて、代わりに胸を満たす幸福感しか考えられない。
「ん」
だって、唇を差し出せば、暖かな温もりが重ねられて頭を撫でる手が褒めるように髪を梳いてくれる。一人じゃないって、教えてくれる。
少しの間身を寄せあって余韻に浸る。引いていく熱の代わりに体温を充電すると、分かりきったようなタイミングで柊が身体を起こした。
私を愛でた手が伸びるのは、秘所を隠すパンツタイプのズボン。
「腰、上げてくれ」
変わらない声色を染み込ませるように咀嚼して、私はこくりと頷いた。