※この作品はR-18です。

よう実のヒロインを好き勝手に抱く話   作:ぼっちプレイヤー

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橘茜 2

 

 「柊くんって、もしかしてすごい悪い人ですか?」

 

 「気づきましたか。大分遅かったですけど」

 

 「悪びれる気が全くない!?ふ、不純異性交遊は校則で禁止されてますし犯罪ですよ!」

 

 「問題は表面化しなければ問題にはならないんです。つまり、バレなきゃなんの問題もありませんね」

 

 「問題を抱えていることを堂々と言わないでください!」

 

 話があると俺の部屋で呼び出しを食らった直後のことである。

 季節は12月。ペーパーシャッフルなる特別試験を終えて迎えた冬休みに、橘先輩からありがたいお説教を頂戴していた。

 内容は最近隠せなくなってきた女関係のことだ。元々隠しているわけではないので、数が増え、人目につくようになったおかげで少しずつそういった話題が大きくなりつつある。

 

 当然先輩の耳にも入るわけで。俺は全く悪いと思ってなく。二年間抱いた恋心を派手に散らした橘先輩からすれば放っておくことができず、元来のお節介も重なってぷりぷりと可愛らしく憤りの表情を見せているというわけだ。

 何よりも橘先輩はわざとではないとはいえ弄ばれた側で、俺は現在進行形で弄ぶ側である。先輩として、或いは友人として説教の一つや二つしたくもなるだろう。

 

 「は、波瑠加さんに悪いとは思わないんですかっ?」

 

 「別に隠してるわけじゃないので。俺には勿体ない器の大きい女の子ですよ」

 

 「他の女の子だって傷ついてますよっ?」

 

 「傷つきながらも一緒にいてくれるので、出来るだけ手離したくないですね」

 

 「……………」

 

 絶句。絶句である。自分の見えていた世界と違いすぎて拒絶反応が出てしまっているのだろう。こればっかりは性格や育った環境によってしまうため、俺から納得してもらおうとはしない。世間一般からずれているのに、それを受け入れてもらおうというのは傲慢なのだ。無理なものは無理。それで終わってしまっても仕方ない。 

 橘先輩との時間がなくなるのは少しばかり惜しいけども。

 

 「~~~~……っっ 他の子たちは合意してるんですね!?」

 

 「それは間違いなく。無理強いしたり未練がましく追わないのが主義の一つなんで」

 

 「なんでそういうところは誠実っぽいんですかあ……」

 

 だってダサいし。常識的には浮気しまくりの救いようのない男なのだから、俺だってされても仕方ないし離れていって当然である。

 一線を越える時は女の子側から踏み出させるのも、そうした方が離れる時の後腐れが少なくなるからだ。あくまでもマシになるだけで完全にスッキリするわけじゃないが。

 

 「う~~~~~~~~………………………」

 

 頭を抱えて、数秒間たっぷりと唸り、橘先輩は諦めたように絞りだす。

 

 「分かり、ました……表立って何か起こってるわけでもないですし、本人たちが納得してるなら、無関係な私が口を挟むのはお門違いです。今回は、今回だけは……!ここまでにしてあげます」

 

 めちゃくちゃに不承不承ながらも橘先輩は怒りの矛先を収めた。

 なんだか意外だ。委員長気質というか、真面目ちゃんな性格だから盲目的に非難してくるものだと思って身構えていたのに。

 

 「だって柊くんは悪いだけの人じゃないって知ってますもん。良くも悪くも自分に正直ですし、それを隠しませんし。本人が納得していて、周りに迷惑をかけていないなら目を瞑ってあげます」

 

 困ったように眉を寄せて憤りを吐き出すように肩を落とす。寛大な心を持った先輩で助かります。

 

 「ただし!もし学校から何か言われても庇ったりしませんからね。校則は校則ですから。破ってる自覚があるならちゃんと罰は受けてくださいね」

 

 「分かりましたか?」と腰に両手を当ててぷりぷりとした表情のまま、ずいっと顔を近づけてくる。可愛い瞳と小柄な体躯に見合う童顔は怒っていても愛らしいもので、つい撫でてしまいそうだった。

 

 「はぁ……柊くんに感じていた既視感が分かりました。南雲くんに似てるんですね」

 

 「あれと同じにされるのは普通に傷つくんですけど」

 

 俺の女の子へ向ける好意は本物である。嘘で愛してるとか絶対言わないし、女の子をアクセサリーとか自分を飾るステータスとも思ってない。

 普通に女の子の人肌とか安心感とかが好きで、そこに俺への感情が乗っているのがわかると、どうしても眼を惹かれてしまうだけである。

 俺は至って大真面目に、俺を好きな女の子が大好きなのだ。

 

 「それに俺は独り相撲の自覚がないような寂しい男でもなければ、寂しがり屋で女の子を傷物にしてる自覚もあります。俺のことが好きな女の子に失礼ですよ」

 

 「なんでそこまで怒れるのに簡単に目移りしちゃうんですか?」

 

 「逆になんで1人しか好きになったらいけないんですか?」

 

 「えっ」

 

 マジレスすると一夫多妻が廃れたのは西洋文化を取り入れた外的要因だ。それは生物的本能を辿ったわけではなく、国が世界に対して体裁を保ちたかっただけに過ぎない。そして時代が進むにつれて一般化し始め、逆にそうでない人間を排斥するようになったのだ。

 もちろん、一夫一妻によるメリットがないわけではないが、それを説明するのが一人しか好きになってはいけない理由にはならないだろう。

 

 「つまり、一人にしか好意を向けないといけない理由に論理的な説明なんてないんですよ。逆説的に言えば、複数の人を好きになるのも別におかしなことじゃないんです」

 

 「な、なるほど……?」

 

 橘先輩が素直で影響を受けやすい性格なのは知っている。自信を持ってさも別に変なことじゃないっぽく説明すれば、この可愛らしい先輩は真面目に考えてくれるのだ。誤魔化すための適当だとも分からずに。

 

 「でも、傷つけてることには変わりありませんよね?」

 

 「…………先輩、少しお腹空きましたね。また試作品作ったので感想ください」

 

 「話の逸らし方が露骨すぎますよ!?」

 

 どうやら誤魔化すのに失敗したらしいので、少し強引な手段を取ることにした。おかしいな、普段は真面目に考えこんで流れるのに。

 

 「もう、卒業の前に私に対する扱いを改めさせる必要がありますね」

 

 不満を口にしながらも手伝ってくれるのか、隣に立ち勝手知ってる様子で食器棚から小皿を取り出す橘先輩。

 

 「変な接し方してるつもりはないですよ?」

 

 「その割りには扱いが雑じゃありません?」

 

 「敬う気持ちがないわけじゃないですけど……まあ、そういう態度を許してくれるところに甘えてるかもしれませんね」

 

 「むむむ、なんとも悩ましいこと言ってくれるじゃありませんか。私ってそんなに年上としての威厳みたいなのないんでしょうか」

 

 「諦めた方がいいですね」

 

 「即答!?」

 

 橘先輩は包容力とか母性とかそこら辺から年上っぽさを感じるが、威厳みたいな話になるとまあ、お察しである。

 

 「自分にない強さみたいなものに憧れるのは分かりますけど、橘先輩の強さというか年上としての良さは親しみやすさだと思いますしね」

 

 それこそ、堀北先輩はどう足掻いても橘先輩みたいにはなれないので、あまり考えすぎない方がいいんじゃないだろうか。 

 俺は割り切れるタイプの性格なため、ぶっちゃけるとあまり共感できないとこもある。

 

 「言いたいことは理解できますけど、しっくりこないのは贅沢な悩みなんですかねえ」

 

 「だからそのままがいいんじゃないですか?自然体を褒められる方が無理をしてるよりか遥かにいいですから。そういう橘先輩の姿の方がきっと魅力的ですよ」

 

 「そ、そういうのは周りの女の子に言うべきです。嬉しくないわけじゃないですけど……」

 

 「可愛いものに可愛いというのが変ですか?別に好きじゃなくても可愛らしく思ったり素敵だと思ったりしますよ」 

 

 「…………………」

 

 おや、どうやら言い過ぎてしまったらしい。横を見てみれば顔を真っ赤にしたまま橘先輩が微動だにしない。小さな桃色の唇は何か言いたげにもにょもにょと波打っている。

 

 「そうやって女の子を弄ぶんですね」

 

 「俺は本心を言ってるだけですけどね」

 

 「余計に質が悪いです……本気になってしまったらどうするんですか」 

 

 赤らんだ頬で羞恥心にぶれる瞳がちらちらと行き先を見失っている。最近は慣れてきたかと思ったがそうでもないみたいだ。

 

 「それはもうウェルカムですよ。本気な分だけ返しますから」

 

 「口説くならもう少しときめかせてください。今の柊くんが言っても最悪です」

 

 「でも今じゃなかったらちゃんと俺のこと好きになってるか分からないじゃないですか。失恋にかこつけるのは普通に虚しいだけですし」 

 

 あの時に口説いておけば橘先輩のチョロさも相まって簡単に抱けたとは思うが、間違いなく前の男がちらつくに決まってる。お互いに集中できないとなると、至福の時間であってもあまり魅力を感じない。

 

 「俺は橘先輩に怒られてもいいくらいには尊敬してますし、年上の女性として魅力的に見えてますよ」

 

 でなければわざわざこんな時間作ったりしないし、それこそ波瑠加たちとイチャイチャしている。

 問題は言ったところで俺の気持ちはころころと移り変わることだろうか。どれだけ本気で好きだと思っても、主観でしかない感情を信じてもらうのはそう簡単なことではない。

 

 「……そんなの、私だって同じですよ」

 

 後はフォークを揃えるだけと手を動かしていると、横から聞き逃してしまいそうな呟きが漏れた。

 

 「怒ったのも、ほんとは半分くらい羨ましいのもあったんです。周りの女の子を傷つけていることは勿論許せませんけど、私にはそういうこと、しないんだなって」

 

 苺のショートケーキを前に、前髪に隠れた瞳がちらりと覗くように見上げてくる。

 不安そうな可愛らしい瞳には、どこか艶やかな熱が帯びていた。

 

 「本当に、魅力的だと思ってくれてますか……?」

 

 「勿論。ただ、信じてほしいとは思ってません。俺の手癖の悪さは俺が一番理解してますから。だから、どうすれば信じてもらえるのか、橘先輩が教えてください」

 

 身体ごと向き合い、眼を逸らさず、照明を反射する瞳を見据えた。

 時計の針が聞こえるほどの静寂が空間を支配して、世界から切り離されたような錯覚に陥りながらじっと先輩を見つめる。

 

 やがて裾を握りしめた橘先輩が眼を瞑り、真っ赤な顔を上向かせると桃色の唇をほんのりと突き出した。

 そっと両肩に手を添えて、羞恥心に震える唇に優しく重ねる。

 

 「ん」

 

 初めてだろう感触に橘先輩は眼を見開いて、俺を見つけると委ねるように瞼を降ろした。

 短くもなく、長くもなく、重なる形を覚えるように温もりを交換する。

 

 先輩の身体から緊張が抜けていくのを感じてゆっくりと顔を離した。

 

 「……ふっ、ぁ」

 

 止めていた酸素を吐き出す吐息と名残惜しさを隠せない声。切なさと嬉しさの入り交じった表情の先輩の頬に手を添えた。

 

 「ケーキはまた今度にしましょうか?」

 

 続きを促しながらも選択肢を提示して逃げ道を用意する。先に進むのは簡単だが、簡単だからこそ橘先輩自身に選んでほしい。選んでくれた時間にこそ、特別な意味が生まれるのだ。

 宝石のようにきらきらと輝く瞳が熱に浮かされたように見つめてきていて、俺の手に華奢でしなやかな手が確かめるように添えられる。

 

 ゆっくりと一度だけ瞬きをした瞳が、熱を帯びながら小さく頷いた。

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